波動場砕波帯から発生する飛来塩分の発生・輸送過程とその構造物到達過程に関する研究
氏名 山田 文則
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第424号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 波動場砕波帯から発生する飛来塩分の発生・輸送過程とその構造物到達過程に関する研究
論文審査委員
主査 助教授 細山田 得三
副査 助教授 陸 旻皎
副査 助教授 熊倉 俊郎
副査 助教授 下村 匠
副査 金沢大学助教授 斎藤 武久
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第1章 序論
1.1 研究の背景 p.1
1.2 研究の目的 p.2
1.3 既往研究 p.2
1.4 各章の構成 p.5
参考文献 p.7
第I部 飛来塩分の発生・輸送過程に関する数値モデルの開発とその現地観測
第2章 日本海沿岸における飛来塩分の輸送量に関する現地観測
2.1 背景 p.12
2.2 現地観測の場所および期間 p.13
2.3 現地観測の方法 p.14
2.4 観測点の配置 p.15
2.5 観測結果および考察 p.16
2.5.1 日本海沿岸における飛来塩分の輸送過程 p.16
2.5.2 各海岸における飛来塩分の輸送量 p.17
2.5.3 気象条件と飛来塩分の輸送量の関係 p.19
2.5.4 波浪条件と飛来塩分の輸送量の関係 p.20
2.6 まとめ p.20
第3章 飛来塩分の発生・輸送過程の計算モデル
3-1 概要 p.22
3-2 数値モデル全体の構成 p.22
3.3 波動場の計算 p.22
3.3.1 数値波動モデルの概要 p.22
3.3.2 基礎方程式 p.23
3.3.3 砕波モデル p.24
3.4 飛来塩分の発生過程 p.27
3.4.1 波動場における飛来塩分の発生過程について p.27
3.4.2 しぶき状の飛来塩分の発生過程のモデル化 p.28
3.4.3 海水面下に生成される気泡から発生する飛来塩分の発生過程のモデル化 p.30
3.5 飛来塩分の輸送過程の計算 p.32
3.5.1 基礎方程式 p.32
3.5.2 飛来塩分粒子の沈降速度の計算 p.32
3.5.3 底面と構造物の壁面での境界条件 p.33
3.5.4 空間における飛来塩分の濃度と輸送量の関係 p.33
3.6 風の場の計算 p.33
3.6.1 基礎方程式 p.33
3.6.2 風の場の乱流モデル p.33
第4章 飛来塩分の発生・輸送過程に関する数値解析とその検証
4.1 海岸構造物周辺で発生するしぶき状の飛来塩分の発生・輸送過程 p.35
4.1.1 計算条件および境界条件 p.35
4.1.2 計算結果および考察 p.36
4.2 実地形を対象とした飛来塩分の輸送過程の数値解析とその実証観測 p.38
4.2.1 計算条件および境界条件 p.38
4.2.2 飛来塩分の輸送量に関する実証観測 p.39
4.2.3 計算結果および考察 p.40
4.3 気象・海象条件が及ぼす飛来塩分の発生・輸送過程への感度解析 p.41
4.3.1 計算条件および境界条件 p.41
4.3.2 計算結果および考察 p.42
4.4 まとめ p.43
第I部 参考文献 p.45
第II部 構造物の壁面表面への飛来塩分の到達量に関する数値解析と現地観測
第5章 構造物の壁面表面に到達する塩分量に関する現地観測
5.1 背景 p.49
5.2 現地観測の期間および場所 p.49
5.3 観測方法および観測点の配置 p.50
5.4 観測結果および考察 p.52
5.4.1 気象条件の観測結果 p.52
5.4.2 構造物各部位に到達する塩分量 p.53
5.4.3 構造物への到達塩分量と風速の関係 p.54
5.4.4 構造物壁面への到達塩分量と通過塩分量の関係 p.54
5.4.5 長期の洗い流しを考慮した構造物壁面の表面塩分量 p.55
5.5 まとめ p.55
第6章 構造物の到達塩分量に関する経験式による予測計算
6.1 背景 p.56
6.2 計算方法および条件 p.56
6.2.1 計算モデルの全体構成 p.56
6.2.2 計算方法 p.57
6.3 結果および考察 p.58
6.3.1 構造物周辺における風速の計算結果 p.58
6.3.2 飛来塩分の輸送量の計算結果 p.59
6.3.3 構造物の壁面に到達する飛来塩分量の計算(経験式の誘導) p.62
6.3.4 飛来塩分の発生・輸送過程および構造物への到達塩分量の予測計算 p.63
6.4 まとめ p.65
第7章 構造物の壁面表面の飛来塩分の到達過程に関する検討
7.1 背景 p.66
7.2 現地観測 p.66
7.2.1 観測場所および期間 p.66
7.2.2 観測方法 p.66
7.3 数値解析 p.68
7.3.1 計算方法 p.68
7.3.2 計算条件および境界条件 p.69
7.4 結果および考察 p.70
7.4.1 観測結果 p.70
7.4.2 計算結果 p.71
7.5 まとめ p.73
第8章 構造物の各部位への到達塩分量とその表面塩分量に関する長期観測
8.1 背景 p.74
8.2 観測場所および観測期間 p.74
8.3 観測方法 p.75
8.4 観測点の配置 p.76
8.5 観測結果および考察 p.77
8.5.1 構造物の各部位の到達塩分量 p.77
8.5.2 気象条件と構造物壁面の到達塩分量 p.79
8.5.3 モルタル供試体に浸透した表面塩分量 p.80
8.5.4 構造物の各部位に到達する塩分量とモルタル供試体に浸透した塩分量の関係 p.81
8.6 まとめ p.82
第II部 参考文献 p.83
第III部 長期的な飛来塩分の発生・輸送過程の数値解析
第9章 波浪推算モデルを援用した飛来塩分の発生・輸送過程に関する数値解析とその現地観測
9.1 背景 p.86
9.2 現地観測 p.86
9.2.1 観測期間および場所 p.86
9.2.2 観測方法 p.87
9.2.3 観測結果および考察 p.87
9.3 数値解析 p.88
9.3.1 数値モデルの構成 p.88
9.3.2 数値計算の方法 p.89
9.3.3 計算および境界条件 p.90
9.3.4 計算結果および考察 p.91
9.4 まとめ p.96
第10章 実構造物を対象とした長期的な飛来塩分の発生・輸送過程の数値解析とその現地観測
10.1 背景 p.97
10.2 数値解析 p.97
10.2.1 数値モデルの構成 p.97
10.2.2 計算方法 p.97
10.2.3 計算条件および境界条件 p.98
10.3 現地観測 p.99
10.3.1 観測場所および期間 p.99
10.3.2 観測方法および観測点の配置 p.99
10.4 計算結果および考察 p.100
10.4.1 1週間単位の風速と波高 p.100
10.4.2 1週間単位の飛来塩分の通過量の長期解析 p.101
10.4.3 1ヶ月単位の観測結果との比較 p.101
10.5 まとめ p.102
第III部 参考文献 p.103
第IV部 飛来塩分の発生・輸送量の軽減対策
第11章 海岸構造物による飛来塩分の発生・輸送量の軽減対策に関する検討
11.1 背景 p.105
11.2 数値モデル全体の構成 p.105
11.3 計算条件および境界条件 p.105
11.3.1 3次元モデルによる飛来塩分の発生・輸送過程に関する計算 p.105
11.3.2 2次元モデルによる飛来塩分の発生・輸送過程の軽減対策 p.106
11.4 計算結果および考察 p.107
11.4.1 海岸構造物の位置と飛来塩分の輸送過程 p.107
11.4.2 海岸構造物の設置による飛来塩分の輸送量の軽減効果 p.107
11.4.3 各粒径による飛来塩分の輸送過程 p.108
11.5 まとめ p.108
第12章 防風壁を用いた飛来塩分の輸送過程の軽減効果に関する検討
12.1 背景 p.110
12.2 数値解析の方法 p.110
12.3 計算条件 p.110
12.4 計算結果および考察 p.111
12.5 まとめ p.111
第IV部 参考文献 p.112
第13章 総括
13.1 結論 p.114
13.2 今後の課題 p.115
謝辞 p.116
付録
1 図目次
2 表目次
3 式目次
近年,海岸近傍において空港,港湾施設,発電所施設および橋梁などの建設構造物が設置されるとともに,それらに与える塩害の影響が構造物の維持管理において問題となっている。たとえば,コンクリート構造物では,塩害により予定供用期間に達する前に構造物の要求性能に大きな影響を与えるような劣化が顕在化し,大規模な補修や建て替えを余儀なくされるケースが生じている。このような塩害は海水面から発生する海水滴に含まれる塩化物イオンが主な要因である。これが風や波の作用を受けることより,海水面から発生し,飛来塩分となって風に輸送され,構造物に付着する。その後,その塩化物イオンによって鋼材の酸化皮膜が破壊され,腐食が生じる。
飛来塩分は,気象・海象条件に依存して,その発生および輸送過程が変化する現象である。たとえば,台風の通り道となる沖縄地方,冬季に気象・海象条件が厳しくなる日本海沿岸では,海域における波動場から大粒の飛来塩分が発生し,強風によって海岸近傍に輸送される。そのため,このような地域ではほかの地域に比べ,構造物に到達する塩分量が大きく,それを効果的に制御するような塩害対策が必要となる。効果的な塩害対策としては,飛来塩分の発生・輸送過程および構造物への到達過程を数値解析によって把握し,それに応じた対策を提案することが有効的である。飛来塩分について従来の解析的研究では,飛来塩分を数値流体力学的に取り扱った輸送過程の計算が主に行われてきた。このモデルは地形に応じた飛来塩分の輸送過程を精度よく計算できるという長所を持つ反面,波動場からの飛来塩分の発生過程を考慮していないことが問題であった。また,塩害の要因となる各種構造物壁面への飛来塩分粒子の到達過程についても検討されてこなかった。
そこで,波動場から発生する飛来塩分の発生過程および構造物壁面の飛来塩分の到達過程を計算モデル化し,従来の飛来塩分の輸送過程の数値モデルと接続することにより,各過程を統合した数値モデルの開発を行い,実海岸における長期的な飛来塩分の各物理過程を再現することが本研究の主たる目的である。
本数値モデルは,波動場,飛来塩分の発生過程および輸送過程,構造物壁面への飛来塩分の到達過程および風の場の5つ各過程を統合したものである。波動場の計算は,砕波,遡上および越波を導入した修正ブシネスク方程式を用いた。海水面からの飛来塩分の発生は,波動場の砕波現象に応じた海水面の乱れの度合いに依存した計算を行い,海水面の乱れは波動場における砕波減衰係数で評価した。砕波から発生する飛来塩分はしぶき状であり,発生と同時に海水面上に舞い上がるため,計算では既往研究を参考に指数分布で与えた。飛来塩分の輸送過程は,従来の数値モデルと同様に飛来塩分を数値流体として扱い,移流・拡散方程式で計算を行った。風の場の計算は,NS方程式を解くことにより,定常な風の場の計算を行っており,乱流モデルにはk-ε乱流モデルを用いた。構造物壁面への飛来塩分の到達過程は,現地観測の結果から誘導した経験式を用いている。さらに,仮想構造物を対象とした数値解析を行い,飛来塩分の構造物への到達過程について理論的な考察を加えた。長期的な飛来塩分の発生・輸送過程の数値解析は,計算の入力条件となる気象・海象条件を1日または1週間単位として計算を繰り返す方法とした。これらの計算結果の検証とした実証観測は,冬季の日本海沿岸において飛来塩分の輸送量および構造物壁面の到達塩分量を対象に実施した。観測期間は2003年から2007年であり,観測場所は新潟県の中越・上越地方に位置する各海岸である。短期間の観測は10分~10時間程度あり、乾燥ガーゼ法で行った。長期間の観測は週単位または月単位であり、土研式で行った。
海水面から発生する飛来塩分の発生・輸送過程および構造物壁面への到達過程を統合した数値モデルの開発を行い,その結果について検証を行った。その結果,本計算モデルは波動場および大気中の風の場に応じた,飛来塩分の発生・輸送過程を計算できており,実証観測の結果を再現できていた。構造物への到達塩分量の観測結果から誘導した経験式を用いることで,構造物の各部位に到達する塩分量の予測計算を行うことができた。さらに,個別の海岸における週間単位の気象・海象条件を計算の入力条件とした飛来塩分の輸送過程の計算を行うことにより,1年間における各週単位の飛来塩分の輸送過程,および月単位の土研式の到達塩分量を予測できることが示された。
本論文は,「波動場砕波帯から発生する飛来塩分の発生・輸送過程とその構造物到達過程に関する研究」と題し,13章より構成されている.第1章「序論」では,本研究の背景と目的を述べている.
第2章「日本海沿岸における飛来塩分の輸送量に関する現地観測」では,日本海沿岸の飛来塩分の実態を把握するための現地観測を行い,気象および海象条件に依存した飛来塩分の分布特性を調べ,海象条件の導入の必要性を実証している.
第3章「飛来塩分の発生・輸送過程の計算モデル」では,海岸波動の計算モデルの砕波減衰係数に依存した飛来塩分の発生と輸送モデルについて考案し,その内容について説明している.
第4章「飛来塩分の発生・輸送過程に関する数値解析とその検証」では,前章で説明した飛来塩分の数値モデルについて現地実証試験による確認を行っている.
第5章「構造物の壁面表面に到達する塩分量に関する現地観測」では,新潟県上越地方での現地観測に基づいた構造物表面に到達する飛来塩分の特性について明らかにしている.
第6章「構造物の到達塩分量に関する経験式による予測計算」では,構造物周辺の飛来塩分量と構造物表面上の塩分量の相違を明らかにし,構造物に到達する塩分について予測手法を提案している.
第7章「構造物の壁面表面での飛来塩分の到達過程に関する検討」では,構造物の形状が飛来塩分の付着に与える影響を現地観測と数値計算によって評価する手法を考案している.
第8章「構造物の各部位への到達塩分量とその表面塩分量に関する長期観測」では,新潟県中越地区および上越地区での実際の橋梁において飛来塩分の短時間での付着特性を調べ,構造物の各部位に対する飛来塩分の付着量とその表面浸透塩分量について検討を行っている.
第9章「波浪推算モデルを援用した飛来塩分の発生・輸送過程に関する数値解析とその現地観測」では,長期的な風の変動を入力条件として日本海全域規模を対象とした波浪推算を行い,その結果を用いて飛来塩分の輸送量の評価法を提案し,現地実証試験と比較した.
第10章「実構造物を対象とした長期的な飛来塩分の発生・輸送過程の数値解析とその現地観測」では,前章で述べた長期的な飛来塩分の分布特性に対応し,実構造物への長期的な飛来塩分の付着特性について実測と数値計算に基づいて明らかにしている.
第11章「海岸構造物による飛来塩分の発生・輸送の軽減対策に関する検討」では,飛来塩分を海岸まで到達させないための海岸構造物の配置に関して検討をおこなっている.
第12章「防風壁を用いた飛来塩分の輸送過程の軽減効果に関する検討」では,飛来塩分の軽減対策としての防風壁の機能について定量的に評価をおこなっている.
第13章では本研究で得られた知見を最終的に取りまとめている.
本論文は,以上のように数値計算と現地観測を駆使し海岸における飛来塩分の動態把握と制御に関して新たな道を拓いており,工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.