酵素を固定化した導電性高分子によるバイオセンシングおよびエネルギー変換
氏名 桑原 敬司
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第402号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 酵素を固定化した導電性高分子によるバイオセンシングおよびエネルギー変換
論文審査委員
主査 助教授 下村 雅人
副査 教授 宮内信之助
副査 教授 森川 康
副査 教授 解良 芳夫
副査 助教授 木村 悟隆
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第1章 はじめに
1.1 背景 p.1
1.1.1 酵素電極 p.1
1.1.2 酵素電極の構造と働き p.3
1.2 酵素を固定化した導電性高分子修飾電極の概観と本研究の目的 p.6
1.3 本論文の概要 p.8
参考文献 p.11
第2章 酵素固定化導電性高分子修飾電極の作製およびキャラクタリゼーション
2.1 まえがき p.16
2.2 実験 p.18
2.2.1 試薬および装置 p.18
2.2.2 電解重合による導電性高分子修飾電極の作製 p.19
2.2.3 モノマーの酸化電位の測定 p.20
2.2.4 IRスペクトルの測定 p.20
2.2.5 導電率測定 p.21
2.2.6 UV-VIS-NIRスペクトルの測定 p.21
2.2.7 グルコースオキシダーゼの導電性高分子への固定化 p.21
2.2.8 グルコースオキシダーゼの固定化量の測定 p.22
2.2.9 固定化グルコースオキシダーゼの活性測定 p.23
2.3 結果および考察 p.24
2.3.1 電解重合による導電性高分子の合成 p.24
2.3.2 電解重合膜のキャラクタリゼーション p.28
2.3.3 固定化したグルコースオキシダーゼの評価 p.35
2.3 まとめ p.37
参考文献 p.38
第3章 酵素固定化導電性高分子修飾電極を利用するグルコース検出
3.1 まえがき p.41
3.2 実験 p.42
3.2.1 試薬および装置 p.42
3.2.2 酵素電極の電気化学的な評価 p.43
3.2.3 1-(2-カルボキシエチル)ピロールの合成 p.43
3.2.4 電解重合によるポリピロール誘導体修飾電極の作製と酵素固定 p.43
3.2.5 グルコース検出 p.44
3.3 結果および考察 p.45
3.3.1 電気化学的な手法による酵素電極の評価 p.45
3.3.2 酵素固定化電極を用いたグルコース検出 p.47
3.3.3 グルコース検出への共重合組成の影響 p.48
3.3.4 ポリピロール誘電体によって修飾した酵素電極を用いたグルコース検出 p.52
3.3.5 電子メディエターのグルコース検出への影響 p.53
3.3.6 グルコース検出に対する低電圧酸化物質の影響 p.56
3.3.7 導電性高分子修飾酵素固定化電極の安定性 p.58
3.3 まとめ p.59
参考文献 p.60
第4章 メディエター固定化電極の作製とグルコース検出
4.1 まえがき p.62
4.2 実験 p.63
4.2.1 試薬 p.63
4.2.2 メディエター固定化酵素電極の作製 p.64
4.2.3 メディエター固定化酵素電極を用いたグルコース検出 p.65
4.3 結果および考察 p.66
4.3.1 2,5-ジヒドロキシベンズアルデヒドの電子メディエターとしての性質 p.66
4.3.2 ジアミンを用いたメディエター固定化電極を用いるグルコース検出 p.67
4.3.3 ポリ-L-リジンを用いたメディエター固定化電極を用いるグルコース検出 p.70
4.4 まとめ p.73
参考文献 p.74
第5章 酵素固定化導電性高分子修飾電極を利用したバイオ燃料電池の作製と性能評価
5.1 まえがき p.77
5.2 実験 p.79
5.2.1 試薬および装置 p.79
5.2.2 電気化学的な電極性能の評価 p.79
5.2.3 発電性能の評価 p.80
5.3 グルコース燃料電池の発電原理 p.80
5.4 結果および考察 p.84
5.4.1 グルコース燃料電池の構成と発電性能 p.84
5.4.2 諸因子の発電性能への影響 p.90
5.5 まとめ p.96
参考文献 p.97
第6章 カーボンペーパーを利用する酵素電極の作製とバイオ燃料電池への利用
6.1 まえがき p.100
6.2 実験 p.101
6.2.1 試薬および装置 p.101
6.2.2 酵素固定化電極の作製 p.102
6.2.3 固定化したグルコースオキシダーゼの量の評価 p.102
6.2.4 酵素固定化電極の電気化学的な評価 p.103
6.2.5 発電性能の評価 p.103
6.3 結果および考察 p.103
6.3.1 カーボンペーパーを利用した酵素電極の作製とバイオ燃料電池への利用 p.103
6.3.2 電解重合時の通過電荷量の出力への影響 p.108
6.3.3 酵素の固定化時間の出力への影響 p.110
6.3.4 電子メディエターの出力への影響 p.111
6.4 まとめ p.113
参考文献 p.113
第7章 バイオ燃料電池セルの試作
7.1 まえがき p.115
7.2 実験 p.116
7.2.1 試薬および装置 p.116
7.2.2 酵素固定化アノードの作製 p.116
7.2.3 カソードの作製 p.116
7.2.4 電極性能および発電性能の評価 p.117
7.3 結果および考察 p.118
7.3.1 セルの構成 p.118
7.3.2 発電性能 p.120
7.4 まとめ p.126
第8章 おわりに p.128
付録 p.134
公表論文等
1 学術論文 p.153
1.1 公表論文 p.153
1.2 参考論文 p.153
2 国際会議での口頭発表 p.154
3 学会等からの受賞 p.154
本論文は導電性高分子の共重合膜の表面に固定化した酸化還元酵素の基質特異性と電子移動反応を利用した分子認識およびエネルギー変換に関する研究成果をまとめたものであり,以下の全八章により構成されている.
第一章では,酵素電極のバイオセンサーおよびバイオ燃料電池への応用に関する背景を示し,本研究の目的と意義を述べた.そして,本章の最後に各章の構成内容について説明した.
第二章では,酵素電極の作製および構成要素であるポリチオフェン誘導体膜ならびに膜表面へ固定化したグルコースオキシダーゼ(GOx)の性質について述べた.まず,酵素固定化担体として利用したポリチオフェン誘導体の電解重合法による3-メチルチオフェンおよびチオフェン-3-酢酸からの合成について示した.次に,ポリチオフェン誘導体の共重合組成が制御可能であることを示し,組成の変化にともなって膜の導電性が変化することを示した.膜の性質の光学的な評価から,導電性の変化は膜中のモノマー成分の割合の変化による電子状態の変化に起因することを明らかにした.また,GOxの活性を保持しつつ膜表面に固定化可能であることを示し,固定化量や活性は膜の組成に強く影響されないことを明らかにした.
第三章では,第二章で作製した酵素電極のグルコースセンサーへの応用について述べ,酵素電極の性質と検出感度の関係について示した.まず,GOxを固定化した電極はグルコース濃度に応じた酸化電流を生じることを示した.次に,ポリチオフェン誘導体膜の組成を変化させることによって,グルコース検出により観察される電流の大きさが変化することを示した.酵素電極の性質と得られる電流の大きさに関して検討を行うことにより,酵素固定化担体の導電性の重要性を明らかにした.さらに,ポリピロール誘導体を構成要素とする酵素電極を用いて同様の検討を行うことによって,酵素固定化担体の導電性の重要性を実証した.
第四章では,GOxおよび電子メディエターをポリチオフェン誘導体膜上へ固定化した酵素電極によるグルコース検出について述べた.まず,メディエター固定化酵素電極の作製法について示した.そして,より長いアルキレン鎖を有するジアミンやポリリジンをメディエター固定のリンカーとして利用することによって,大きなグルコース検出電流が得られることを明らかにした.電流の増加は固定化した電子メディエターの電子伝達性能の向上によるものであり,長いアルキレン鎖は固定化メディエターの可動性を向上し,ポリリジンはメディエターの固定化に対して多くの結合点を与え,固定化量を増加することによって効果的なリンカーとして働いたことを説明した.
第五章では,第二章で作製したポリチオフェン誘導体を構成要素とする酵素電極のグルコース燃料電池のアノードとしての利用について述べた.まず,酵素電極をアノードとする燃料電池の構成について示し,それに基づいて構成した燃料電池がグルコースを燃料とし,出力を示すことを明らかにした.また,電池の出力特性がグルコースおよび電子メディエターの濃度に大きく影響されたことから,反応物の拡散速度が重要であることを示した.さらに,酵素反応生成物の濃度に関しても出力特性に影響することを確認したが,本研究で行った測定時間の範囲内ではほぼ影響がないことを生成速度と出力特性の関係から説明した.また,カソード反応についての検討の必要性についても示した.
第六章では,カーボンペーパーを電極担体として利用し,ポリチオフェン誘導体による電極修飾の効果と重合量が電極性能に与える影響について示した.まず,カーボンペーパーを利用した酵素電極の性能評価から,酵素電極の構成要素としてポリチオフェン誘導体を利用することの有用性を実証した.また,ポリチオフェン誘導体の重合量を増加させることにより,得られるグルコース酸化電流が増加することを明らかにした.これは電極面積の増加によるものであり,固定化酵素量およびメディエターの反応量が酵素電極の性能向上にとって重要な因子であることを説明した.さらに,使用する電子メディエターの酸化還元電位と出力特性の関係についても示した.
第七章では,電池セルの構成の重要性と新たに明らかとなった酵素電極に求められる性能について述べた.まず,ポリチオフェン誘導体を利用した酵素電極および気体の酸素の還元が可能な白金触媒電極を利用したグルコース燃料電池の試作について示した.試作したセルの発電性能の評価により,電池セルの構成を検討することによりグルコース燃料電池の出力が向上することを明らかにした.また,触媒性能を維持した状態でのプロトン伝導性の付与や酵素電極用の電池セルの構成を検討することが,酵素電極を利用したバイオ燃料電池の高出力化への鍵であることを示した.
第八章では,本論文の研究で得られた成果についてまとめ,今後期待される展望について述べた.
本論文は、「酵素を固定化した導電性高分子によるバイオセンシングおよびエネルギー変換」と題し、8章から構成されている。
第一章では、酵素電極のバイオセンサーおよびバイオ燃料電池への応用に関する背景ならびに本研究の目的と意義を述べ、最後に各章の構成内容について説明している。
第二章では、酵素電極の構成要素である導電性高分子膜と膜表面に共有結合させたグルコースオキシダーゼ(GOx)の性質を論じており、3-メチルチオフェンとチオフェン-3-酢酸の電解共重合体膜の導電特性およびGOxの固定化量と活性について詳細に検討している。
第三章では、酵素電極のグルコースセンサーへの応用について論じ、酵素電極の性質と検出感度との関係を示した。まず、第二章で述べた酵素電極がグルコース濃度に応じた酸化電流を生じることを実証し、さらに、ポリピロール誘導体を構成要素とする酵素電極を用いた実験結果に基づき、酵素固定化担体の導電性の重要性を論じている。
第四章では、GOxおよび電子メディエーターをポリチオフェン誘導体膜上へ固定化した酵素電極によるグルコース検出について述べ、より長鎖のジアミンやポリリジンをメディエーター固定のリンカーとすることによって大きな検出電流が得られることを明らかにした。
第五章では、第二章で述べた酵素電極のグルコース燃料電池のアノードとしての利用について論じている。まず、酵素電極をアノードとする燃料電池の構成について述べ、この燃料電池がグルコースを燃料として出力を与えることを示している。
第六章では、カーボンペーパーとポリチオフェン誘導体の複合物を利用した酵素電極の性能評価から酵素電極の構成要素としてポリチオフェン誘導体を利用することの有用性を示し、併せて使用する電子メディエーターの酸化還元電位と出力特性の関係についても示した。
第七章では、電池セルの構成の重要性と酵素電極に求められる性能について述べている。まず、ポリチオフェン誘導体を利用した酵素電極と気体酸素の還元が可能な白金触媒電極を利用したグルコース燃料電池の試作について述べ、酵素電極を利用したバイオ燃料電池の高出力化のための指針を示した。
第八章では、本論文の研究で得られた成果についてまとめ、本研究で開発された技術の意義について論じるとともに今後の工学的展望を述べている。
以上のとおり、本研究では導電性高分子を用いた新規な酵素電極の開発とバイオセンサーおよびバイオ燃料電池への適用に成功している。よって、本論文は工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。