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温間プレス成形技術の高能率・高性能化と最適生産管理に関する研究

氏名 須貝 裕之
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第395号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 温間プレス成形技術の高能率・高性能化と最適生産管理に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 田辺 郁男
 副査 教授 久曽神 煌
 副査 教授 古口日出男
 副査 教授 鎌土 重晴
 副査 助教授 永澤 茂

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第1章 緒論 p.1
 1.1 緒言 p.1
 1.2 従来の研究 p.4
 1.3 本論文の構成 p.5
 参考文献 p.8

第2章 温間深絞りシミュレーションによる加工条件検討の能率化 p.10
 2.1 緒言 p.10
 2.2 温間深絞り試験 p.10
 2.2.1 試験方法 p.10
 2.2.2 破断形態と成形限界に関する考察 p.15
 2.3 温間深絞りシミュレーション p.19
 2.3.1 解析モデル p.19
 2.3.2 材料特性と成形限界を決めるための試験 p.21
 2.3.3 迅速解析方法 p.28
 2.3.4 解析結果と評価 p.33
 2.4 結言 p.36
 参考文献 p.37

第3章 直接水冷と誘導加熱を援用したマグネシウム合金温間成形法のFEMシミュレーションによる開発 p.39
 3.1 緒言 p.39
 3.2 温間成形の成形限界要因と成形性向上対策 p.39
 3.2.1 成形限界に関する考察 p.39
 3.2.2 成形性向上対策 p.41
 3.3 提案した方法のシミュレーションによる開発 p.43
 3.3.1 解析モデル p.43
 3.3.2 材料特性を決めるための試験 p.45
 3.3.3 擬似的熱-変形連成解析方法 p.46
 3.3.4 直接水冷の最適条件 p.53
 3.3.5 誘導加熱を併用した場合の効果と最適時間制御 p.60
 3.3.6 実際の装置による確認 p.65
 3.4 結言 p.71
 参考文献 p.72

第4章 シミュレーションと品質工学を組み合わせたプレス成形に対する最適生産管理 p.74
 4.1 緒言 p.74
 4.2 スプリングバック試験およびシミュレーション p.75
 4.2.1 スプリングバック試験 p.75
 4.2.2 解析モデル p.78
 4.3 品質工学による解析 p.80
 4.3.1 制御因子と誤差因子 p.80
 4.3.2 材料特性と潤滑特性を決めるための試験 p.83
 4.3.3 品質工学による解析条件の管理 p.89
 4.4 多様な生産条件における最適生産管理 p.95
 4.4.1 生産性を計算するための評価関数 p.95
 4.4.2 多様な生産条件ごとの最適加工条件 p.97
 4.5 結言 p.104
 参考文献 p.105

第5章 結論 p.106

謝辞 p.109

 温間プレス成形(周辺加熱深絞り法)は、材料に温度差を与えて加工を行う方法であり、冷間加工に比べて高い成形限界が得られるなどの利点をもち、ステンレス鋼を中心としてアルミニウムやチタンなどにその適用範囲を拡大してきた。近年では、実用金属中最も軽量で比強度が高く、リサイクル性に優れるマグネシウム合金に対しても、その適用が進められている。その反面、温間プレス成形は、加工条件や金型構造の複雑化により金型開発と最適加工条件の決定に多くの時間とコストを必要とする。加えてマグネシウム合金自体が開発途上の材料であるため、鉄やアルミニウムなどの一般的な材料に比べて材料特性のばらつきが大きく、成形限界や形状精度が安定しないなどの問題があり、プレス加工普及の障害となっている。

 本研究ではマグネシウム合金の温間プレス成形を対象として、FEMシミュレーションを用いて実機による試作や実験を行わずに計算機上で模擬成形を行い、金型開発や最適加工条件の短時間・低コストでの能率的な検討方法、金型一型あたりの成形限界や生産速度を向上させる高性能プレス加工技術の開発、材料のばらつきを考慮して生産性を最適管理する加工条件の計算方法について検討した。本論文の内容に関して、各章ごとに以下に説明する。

 第1章「緒論」では、研究の背景、目的、関連する従来の研究について説明し、温間プレス成形の開発にFEMシミュレーションを活用することの有効性について述べている。

 第2章「温間深絞りシミュレーションによる加工条件検討の能率化」では、FEMシミュレーションにより、温間プレス成形の最適加工条件を迅速に決定する方法の開発を目的とした。最初に、マグネシウム合金の温間深絞り成形試験を行い、成形限界と温間深絞り成形特有の破断形態について調べた。次に、FEMシミュレーションによる温間深絞り成形の解析を行った。ここでは解析に時間を要する熱と変形の連成解析を行わずに、ステップ状の温度分布にもとづく変形解析のみで迅速に解析を行う手法を提案した。本研究ではこの手法を、擬似熱-変形連成解析と呼ぶ。最後に、試験結果とシミュレーション結果を比較し、計算精度の評価を行った。その結果として、(1)温間深絞り成形の成形限界には、成形初期に材料が金型に沿って冷却されながら、変形する過程で発生する応力により破断する限界と、成形中期に金型に引き込まれる材料の伸び方向と縮み方向のひずみ比が限界を超えて破断する限界の2つがあること、(2)擬似熱-変形連成解析手法は、熱と変形の連成解析に比べて、解析時間を1/30に短縮できること、(3)擬似熱-変形連成解析手法による深絞りシミュレーション結果は、実際の深絞り成形と同様の傾向を示し、金型開発や最適加工条件を計算するツールとして有効であることをそれぞれ明らかにした。

第3章「直接水冷と誘導加熱を援用したマグネシウム合金温間成形法のFEMシミュレーションによる開発」では、従来の温間深絞り成形に対して成形限界を向上させた高性能プレス加工技術を、2章で開発した擬似熱-変形連成解析手法を用いて開発することを目的とした。最初に、2章で得られた温間深絞り成形における成形限界の考察をもとに、加工中の材料の破断危険部を直接水冷して効率的に強度を上げ、一方、変形抵抗となる部分を誘導加熱により局部的に加熱して抵抗を下げて、成形限界を向上させる新プレス加工技術を考案した。次に、擬似熱-変形連成解析手法を熱解析にも発展させた手法を用いて、本章で提案した新プレス加工技術の開発とその最適加工条件を求めた。最後に、実際に装置を製作して評価した。その結果として、(1)シミュレーションで開発を行うことにより、開発に要する費用と労力を削減し、成形限界を従来比30%向上させる最適加工条件を求めることができたこと、(2) 実際に新プレス加工装置を製作し、その最適加工条件で加工を行った結果、シミュレーションで精度よく推定できていることをそれぞれ明らかにした。

 第4章「シミュレーションと品質工学を組み合わせたプレス成形に対する最適生産管理」では、プレス成形時における成形品の形状精度を対象として、加工前にシミュレーションにより材料や加工条件のばらつきを考慮して、その生産性を最大限に高める加工条件を決定する方法の開発を目的とした。ここでは、加工条件にばらつきを積極的に取り入れて最適加工条件を求める品質工学で、シミュレーション条件を管理することにより、ばらつきを考慮した最適加工条件を計算する手法の提案と評価を行った。その結果として、(1)シミュレーションと品質工学により、設計段階ですべての加工条件の組み合わせにおける形状精度の平均値と標準偏差を計算でき、プレス成形実験の結果と比較した結果、精度良く推定できていること、(2)生産性計算モデル式を定義し、すべての加工条件における生産性を計算することにより、さまざまな優先条件ごとの最適加工条件を計算できることをそれぞれ明らかにした。

 第5章「結論」では、本研究で得られた結果をまとめ、温間プレス成形に対してFEMシミュレーションを活用することにより、最適加工条件決定の能率化と高性能な新プレス成形技術開発、そしてばらつきを考慮した最適生産管理に寄与できることを明らかにし、工業的に有効であることを確認した。

 本論文は、「温間プレス成形技術の高能率・高性能化と最適生産管理に関する研究」と題し、5章より構成されている。第1章「緒論」では、研究の背景、目的、関連する従来の研究について説明し、温間プレス成形の開発にFEMシミュレーションを活用することの有効性について述べている。第2章「温間深絞りシミュレーションによる加工条件検討の能率化」では、FEMシミュレーションにより温間プレス成形の最適加工条件を迅速に計算する方法として擬似熱-変形連成解析手法を開発し、その評価としてマグネシウム合金の温間深絞り成形試験を行った。その結果として、開発した解析手法は従来の熱と変形の連成解析に比べて解析時間を1/30に短縮できた。また、開発した解析手法による深絞りシミュレーション結果は、実際の深絞り試験と比べて定性的かつ定量的によくあっており、金型開発や最適加工条件を計算するツールとして有効であることも明らかにした。第3章「直接水冷と誘導加熱を援用したマグネシウム合金温間成型法のFEMシミュレーションによる開発」では、従来の温間深絞り成形に対して、第2章で開発した擬似熱-変形連成解析手法を用いて、加工中の材料の破断危険部を直接水冷して強度を上げ、変形抵抗となる部分を誘導加熱により局部的に加熱して抵抗を下げて、成型限界を向上させる新プレエス加工技術を考案し、実験によりその効果を評価した。その結果として、シミュレーションで開発を行うことにより、開発に要する費用と労力を削減しつつ、成形限界が従来比30%向上する最適加工条件を求めることができた。また、実機を用いて最適加工条件で加工を行った結果、シミュレーションにより示された成形限界で実際に加工ができることも明らかにした。第4章「シミュレーションと品質工学を組み合わせたプレス成形加工条件の最適生産管理」では、プレス成形時における成形品の形状精度を対象として、設計段階でシミュレーションにより材料や加工条件のばらつきを考慮して生産性を最大限に高める加工条件を決定する方法を開発、評価を行った。その結果として、シミュレーションと品質工学により、すべての加工条件の組み合わせにおける形状精度の平均値と標準偏差を計算でき、さらに実際のプレス成形実験の結果と比較して、本手法で実際の現象を精度よく推定できた。また、生産性計算モデル式を定義し、すべての加工条件における生産性を計算することにより、さまざまな優先条件ごとの最適加工条件を計算できることも明らかにした。第5章「結論」では、本研究で得られた結果をまとめ、温間プレス成形に対してFEMシミュレーションを活用することにより、最適加工条件決定の能率化と高性能な新プレス成形技術開発、そしてばらつきを考慮した最適生産管理を寄与できることを明らかにした。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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