自動車排ガス浄化用 Pd固溶ペロブスカイト触媒に関する研究
氏名 丹 功
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第252号
学位授与の日付 平成18年6月21日
学位論文題目 自動車排ガス浄化用 Pd固溶ペロブスカイト触媒に関する研究
論文審査委員
主査 教授 新原 晧一
副査 教授 松下 和正
副査 教授 植松 敬三
副査 教授 斎藤 秀俊
副査 助教授 末松 久幸
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第1章;序論 p.1
1. 自動車触媒
2. 研究対象と研究史
2-1. 自動車触媒の課題
2-2. ペロブスカイト触媒
2-2-1. 研究対象としてのぺロブスカイト触媒
2-2-2. ペロブスカイト触媒の研究史
3. 研究の目的
第2章;ペロブスカイトの構造安定性に与えるBサイト元素の影響 p.14
1. 緒言
2. 実験
2-1. Pd固溶ペロブスカイト触媒の調製
2-2. 触媒の高温耐久処理
2-2-1. 粉末触媒の酸化・還元耐久処理
2-2-2. モノリス触媒のエンジン耐久処理
2-3. モノリス触媒の活性測定
2-4. キャラクタリゼーション
2-4-1. 比表面積測定
2-4-2. 電界放射型走査電子顕微鏡観察
2-4-3. X線回折測定
2-4-4. 透過型電子顕微鏡観察
3. 結果
3-1. 粉末触媒のキャラクタリゼーション
3-1-1. 比表面積測定結果
3-1-2. 電界放射型走査電子顕微鏡のよる観察
3-1-3. X線回折測定結果
3-2. モノリス触媒のキャラクタリゼーション
3-2-1. 透過型電子顕微鏡による観察
3-3. モノリス触媒の活性測定結果
4. 考察
4-1. LaCoPdO3ペロブスカイト触媒
4-2. LaMnPdO3ペロブスカイト触媒
4-3. Pd/Al2O3触媒
4-4. LaFePdO3ペロブスカイト触媒
5. 結果
第3章;LaFePdO3ペロブスカイト触媒の構造 p.50
1. 緒言
2. 実験
2-1. Pd固溶ペロブスカイト触媒の調製
2-2. 触媒の雰囲気処理
2-2-1. 粉末触媒の酸化・還元雰囲気処理
2-3. キャラクタリゼーション
2-3-1. X線回折測定
2-3-2. X線光電子分光測定
2-3-3. X線吸収微細構造解析
2-3-4. 透過型電子顕微鏡による観察
3. 結果と考察
3-1. X線回折によるペロブスカイト触媒の測定結果
3-2. X線光電子分光装置によるPdの結合エネルギー測定結果
3-3. X線吸収微細構造解析による測定結果
3-4. 透過型電子顕微鏡による観察
4. 結論
第4章;エンジン排ガス耐久処理後のキャラクタリゼーション p.66
1. 緒言
2. 実験
2-1. Pd固溶ペロブスカイト触媒の調製
2-2. エンジン耐久処理
2-3. キャラクタリゼーション
2-3-1. X線吸収微細構造解析
2-3-2. 透過型電子顕微鏡による観察
2-4. モノリス触媒の活性測定
3. 結果
3-1. キャラクタリゼーション
3-1-1. X線吸収微細構造解析による測定結果
3-1-2. 透過型電子顕微鏡による観察
3-2. 活性測定結果
4. 考察
4-1. X線吸収微細構造解析によるPd粒径見積もり
4-2. 触媒活性
5. 結論
第5章;自動車排ガス浄化触媒への応用 p.82
1. 緒言
2. 実験
2-1. 触媒調製
2-1-1. セリウム系複合酸化物の調製
2-1-2. 実用触媒の調製
2-2. 耐久処理
2-2-1. モデルガス耐久処理
2-2-2. エンジン耐久処理
2-3. キャラクタリゼーション
2-3-1. セリウム系複合酸化物
2-3-2. モデル触媒,および実用触媒
2-4. 触媒の活性測定
2-4-1. モデル触媒
2-4-2. 実用触媒
3. 結果
3-1. セリウム系複合酸化物のキャラクタリゼーション
3-2. モデル触媒の応答性測定結果
3-3. モデル触媒の電界放射型走査電子顕微鏡観察結果
3-4. 実用触媒の触媒活性
3-5. 実用触媒の耐硫黄被毒性
4. 考察
4-1. セリウム系複合酸化物
4-2. 実用LaFePdO3ペロブスカイト触媒
4-2-1. 触媒活性
4-2-2. 耐硫黄被毒性
5. 結論
第6章;総括 p.112
付録 p.114
共同研究者一覧 p.116
謝辞 p.117
著者発表の論文リスト p.118
本研究は、自動車排ガス浄化触媒として使用課程中に、Pdが自ら再生する能動的な機能を有したPd固溶ペロブスカイト触媒に関する研究である。
自動車触媒は1970年代に実用化されてから四半世紀がたち改良が加えられながら広く用いられている。しかし1990年代からは、地球環境問題に関心はますます高まり世界規模で自動車排ガスの規制が更に強化されている。この要求に応えるためにはエンジンシステムの改善と同時に、排ガス浄化触媒の性能向上が必要不可欠である。ここで自動車触媒に使用される貴金属は白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)の3種であり、Rhは耐熱性に富むがPtとPdは高温かつ酸化・還元変動雰囲気で劣化が進む。特にPdはエンジン始動直後に多く排出されるHCを燃焼させる活性に優れるが、3種の貴金属の中では最も融点が低く高温で急激に劣化が進行する。このため従来技術では高い浄化性能と耐久性を確保するために、性能劣化分を見込んで多量のPdを使用していた。欧州での排ガス規制が開始された1992年から全世界の自動車用途でのPd需要は急激に増加し、1992年は年間15トンであったものが、1996年以降Ptの需要を大きく上回るようになり、1998年には150トンを超え、化学、歯科用、電子、宝飾といった他の需要に対し大きな影響を与え、自動車用途での使用量の大幅な削減が社会的な使命となっていた。そこで、筆者は先駆的研究において見出されたPd固溶ペロブスカイト(LaFe0.57Co0.38Pd0.05O3)触媒が酸化・還元雰囲気の変化に応じ、Pdがペロブスカイト結晶中に固溶・析出(自己再生)し、微細な状態を維持することに着眼した。本研究ではこの自己再生という新しいコンセプトを更に発展させ、グリーンケミストリーの考えに基づきCoを含まない組成で、高温、酸化・還元雰囲気における耐久性の向上とPd粒成長抑制による高い触媒活性の維持による自動車排ガス浄化触媒の工業的実現を目的とした。
第1章では今後の自動車触媒における課題とその全てを解決する技術として期待できるPd固溶ペロブスカイト触媒のコンセプト、およびその工業的実現のための課題について述べた。
第2章ではPdを固溶させたペロブスカイト結晶のBサイト元素が結晶構造安定性、Pd粒子径、触媒活性に及ぼす影響を実使用環境、ならびにそれを模擬した高温、酸化・還元雰囲気にて詳細に解析した。その結果、Pd粒成長抑制による活性維持には、ペロブスカイト酸化物マトリックス(母材)の結晶構造安定性が最も重要な特性であることを明らかにした。併せて、グリーンケミストリーの考えに基づきCo組成を含まないLaFe0.95Pd0.05O3が高い結晶構造安定性、触媒活性を有する事を見出した。
第3章ではPd粒成長が抑制されるメカニズムについて、実使用環境を模擬した高温、かつ酸化、還元の各雰囲気処理におけるペロブスカイトの構造を解析した。その結果、Pdが酸化雰囲気下ではペロブスカイト結晶のBサイトを占有し、還元雰囲気下では金属粒子として析出、再度酸化雰囲気処理によりBサイトに戻ることが明らかとなった。自動車排ガス浄化触媒は常に酸化・還元雰囲気変動下に曝されることから、この雰囲気変化に応じてPdの固溶・析出が可逆的に繰り返され、Pd粒成長を抑制、その結果飛躍的に高い触媒活性が維持されることがPdの自己再生メカニズムであることを解明した。
第4章では、このLaFe0.95Pd0.05O3ペロブスカイト触媒をエンジン排ガスにより耐久処理し、Pdの状態を解析した。その結果、900℃にて100時間耐久処理後もPdは1nm以下と非常に微細な粒子径を維持していることから、実使用環境下における自己再生機能と優れた耐熱性を有することを実証した。
第5章では、LaFe0.95Pd0.05O3ペロブスカイト触媒の実用触媒への応用を検討した。自動車触媒に要求される特性を念頭にセリア系複合酸化物とLaFe0.95Pd0.05O3の構成を検討し、触媒性能の向上による貴金属使用量の大幅な低減が可能であることを実証した。以上が今回の研究成果であるPd固溶ペロブスカイト触媒の各構成要素の概要である。本研究により自己再生というコンセプトが自動車排ガス浄化触媒として実現され、今後の新しい材料設計の指針を示すことができた。また、本研究で行った手法は、他の材料系の研究においても極めて重要かつ有効な手法と考える。今後、Pd以外の貴金属においても同様に応用と発展が期待できる。
本論文は、新しい構造と機能を持つ自動車排ガス浄化用の、自己再生型のPd固溶ペロブスカイト触媒に関する研究成果をまとめたもので、6章から構成されている。
第1章では、今後の自動車触媒における課題とそれを解決する技術としてPd固溶ペロブスカイト触媒のコンセプト、およびその工業化のための課題について述べている。
第2章では、Pdを固溶させたペロブスカイト結晶のBサイト元素が、結晶構造安定性、Pd粒子径、触媒活性に及ぼす影響を実使用環境、ならびにそれを模擬した高温、酸化・還元雰囲気にて詳細に解析している。その結果、Pd粒成長抑制による活性維持には、ペロブスカイト酸化物マトリックス(母材)の結晶構造安定性が最も重要な特性であることを明らかにしている。併せて、グリーンケミストリーの考えに基づきCo組成を含まないLaFe0.95Pd0.05O3が高い結晶構造安定性、触媒活性を有する事を明らかにしている。
第3章では、Pd粒成長が抑制されるメカニズムを解明するため、実使用環境を模擬した高温、かつ酸化、還元の各雰囲気処理におけるペロブスカイトの構造を解析している。その結果、Pdが酸化雰囲気下ではペロブスカイト結晶のBサイトを占有し、還元雰囲気下では金属粒子として析出、再度酸化雰囲気処理によりBサイトに戻ることを明らかにしている。自動車排ガス浄化触媒は常に酸化・還元雰囲気変動下に曝されることから、この雰囲気変化に応じてPdの固溶・析出が可逆的に繰り返されることによりPdの粒成長が抑制され、その結果飛躍的に高い触媒活性が維持されることを明らかにしている。
第4章では、このLaFe0.95Pd0.05O3ペロブスカイト触媒をエンジン排ガスにより耐久処理し、Pdの状態を解析している。その結果、900℃にて100時間耐久処理後もPdは1nm以下と非常に微細な粒子径を維持していることから、実使用環境下における自己再生機能と優れた耐熱性を有することの実証に成功している。
第5章では、LaFe0.95Pd0.05O3ペロブスカイト触媒を実用触媒として展開するために、自動車触媒に要求される特性を念頭にセリア系複合酸化物とLaFe0.95Pd0.05O3の構成を検討し、触媒性能の向上による貴金属使用量の大幅な低減が可能であることを実証している。
第6章では、本論文を総括し、本研究により自己再生という新しいコンセプトにより高性能で高耐久性の自動車排ガス浄化触媒が実現されたこと、またこの新しい材料設計コンセプトは今後の新しい材料設計の指針となりうるとを示している。以上のことから、本論文は材料工学、環境工学、触媒工学、自動車工学の分野に貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。