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符号化変調を用いた陸上移動無線通信に関する研究

氏名 正本 利行
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第251号
学位授与の日付 平成18年6月21日
学位論文題目 符号化変調を用いた陸上移動無線通信に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 荻原 春生
 副査 教授 島田 正治
 副査 教授 吉川 敏則
 副査 助教授 太刀川信一
 副査 助教授 中川 健治

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第1章 序論 p.1
 1.1 多値変調と符号化変調 p.1
 1.1.1 多レベル符号化変調 p.1
 1.1.2 トレリス符号化変調 p.2
 1.1.3 直列連接トレリス符号化変調(SCTCM) p.2
 1.2 陸上移動無線通信の技術課題 p.3
 1.3 陸上移動無線通信への符号化変調の適用と課題 p.3
 1.3.1 多レベル符号化変調に関する課題 p.3
 1.3.2 トレリス符号化変調に関する課題 p.4
 1.4 本研究の目的 p.5
 1.5 本論文の構成 p.5
 1.5.1 各章の関係 p.6

第2章 符号化変調と受信ダイバーシチによるフラットフェージング対策 p.8
 2.1 はじめに p.8
 2.2 ダイバーシチ・多レベル符号化併用システムのBER近似理論値 p.8
 2.2.1 近似理論値の算出方法 p.8
 2.2.2 仮想AGC,デインタリーバ通過後の非ガウス雑音の確立密度関数 p.10
 2.2.3 シミュレーション結果と誤り訂正能力配分の最適化 p.12
 2.3 まとめ p.14

第3章 等化復号一体化による周波数選択性フェージング対策 p.15
 3.1 はじめに p.15
 3.2 提案システム p.15
 3.2.1 判定帰還等化器の処理 p.18
 3.3 シミュレーション結果 p.22
 3.3.1 多レベル符号化変調の復号結果を等化器に帰還する効果 p.22
 3.3.2 時間ダイバーシチ効果 p.23
 3.3.3 正規化ドップラー周波数(fdTs)特性 p.24
 3.3.4 インパルス応答推定法の比較 p.24
 3.3.5 MLSEに用いる系列長の検討 p.26
 3.3.6 文献[12]のシステムとの比較 p.26
 3.4 多レベル符号の訂正能力配分最適化 p.28
 3.4.1 結合システムにおける補助ビットの判定方法 p.28
 3.4.2 結合システムとダイバーシチシステムの信号系列間距離による比較 p.29
 3.4.3 特性評価シミュレーション p.32
 3.5 結論 p.33

第4章 ターボ等化システムによる周波数選択性フェージング対策 p.35
 4.1 はじめに p.35
 4.2 ターボ等化システム p.36
 4.2.1 システム構成 p.36
 4.2.2 準静的周波数選択性レイリーフェージング通信路におけるビット誤り率(BER)特性 p.37
 4.2.3 誤り率増加の要因 p.37
 4.2.4 誤り伝播 p.39
 4.3 等価信号の平滑化システム(提案法) p.40
 4.3.1 提案システム p.40
 4.3.2 誤り伝搬の抑制効果 p.41
 4.3.3 重みの最適値 p.42
 4.3.4 準静的周波数選択性レイリーフェージング通信路における平滑化システムのBER特性 p.42
 4.4 Lindskogの送信ダイバーシチとターボ等化の併用 p.44
 4.4.1 システム構成 p.45
 4.4.2 Lindskogの送信ダイバーシチ:送信側の処理 p.45
 4.4.3 Lindskogの送信ダイバーシチ:受信側の処理 p.46
 4.4.4 送信ダイバーシチ併用の場合のSIC-EQ p.49
 4.4.5 符号化利得とダイバーシチ効果 p.50
 4.5 結論 p.51

第5章 ターボ等化システムの最適符号 p.52
 5.1 はじめに p.52
 5.2 干渉波数の増加とパスダイバーシチの増加 p.53
 5.2.1 送信ダイバーシチを併用しないターボ等化システム p.53
 5.2.2 送信ダイバーシチを併用するターボ等化システム p.54
 5.2.3 AWGN通信路における特性との比較 p.56
 5.3 SCTCMとビット誤り率の上界式 p.58
 5.3.1 SCTCMの構成 p.59
 5.3.2 ビット誤り率の上界式 p.59
 5.4 SCTCMの上界値の数値計算方法 p.60
 5.4.1 上界式に従った数値計算方法と問題点 p.60
 5.4.2 提案する数値計算方法 p.61
 5.5 SCTCMの低SNRでのインタリーバゲイン p.62
 5.5.1 インタリーバゲインの定義 p.62
 5.5.2 低SNRでのインタリーバゲインの解析 p.63
 5.5.3 外符号の最小出力重みに対して内符号でエラーイベントが形成されない場合の解析 p.64
 5.5.4 大きなインタリーバゲインを得るための指針 p.68
 5.6 符号検索 p.69
 5.6.1 符号検索方針 p.69
 5.6.2 符号検索結果 p.70
 5.6.3 文献[20]の符号との比較 p.70
 5.6.4 4章の構成での最適符号検索 p.73
 5.7 まとめ p.73

第6章 ハードウェアデコーダ設計 p.74
 6.1 はじめに p.74
 6.2 多値数の高い変調方式を用いたターボTCMシステム p.75
 6.2.1 システム構成 p.75
 6.2.2 符号化ビット数 p.75
 6.3 簡易復号アルゴリズムの検討 p.76
 6.3.1 簡易復号アルゴリズム p.76
 6.3.2 Max-log MAPと簡易復号法の違い p.76
 6.3.3 計算量の比較 p.77
 6.3.4 簡易復号とMax-log MAPの特性比較 p.78
 6.4 簡易復号アルゴリズムの高速化 p.78
 6.4.1 計算量削減の基本アイディア p.79
 6.4.2 受信信号の硬判定結果を用いた候補信号点の決定 p.79
 6.4.3 ルックアップテーブルの作成方法 p.80
 6.4.4 ルックアップテーブルの格納方法 p.81
 6.4.5 ルックアップテーブルの作成例 p.81
 6.4.6 既存の計算量削減法との関係 p.82
 6.5 ハードウェア復号器全体の構成 p.83
 6.6 量子化ビット数の検討 p.84
 6.7 パスメトリック計算モジュール p.85
 6.8 設計結果 p.87
 6.8.1 回路規模 p.87
 6.8.2 BER特性 p.87
 6.8.3 復号速度 p.88
 6.8.4 消費電力 p.89
 6.9 SCTCMデコーダの設計 p.89
 6.9.1 PCTCM復号器との違い p.89
 6.9.2 設計回路 p.90
 6.10 まとめ p.91

第7章 結論 p.93

付録A ビット誤り率の理論式 p.95

付録B 平滑化システムの繰り返し回数の検討 p.98

付録C 平滑化システムにおける通信路推定誤差の影響 p.99

付録D 直列連接トレリス符号化変調(SCTCM)のエラーイベント p.101
 D.1 (3,1)8-(5,1,2)8符号の場合 p.101
 D.2 (13,15)8-(5,1,3)8符号の場合 p.101
 D.3 (13,15)8-(5,1,2)8符号の場合 p.103

付録E PCTCMのハードウェアデコーダ設計に関する検討 p.104
 E.1 並列遷移に対する事前値 p.104
 E.2 4-4状態となる理由 p.104

付録F 本研究に関する発表論文リスト p.106

 陸上移動無線通信においては,マルチパスフェージングと符号間干渉による特性の劣化が生じる.特に移動端末は送信電力の制約があるため,小さい電力で誤りの少ない通信の実現への期待が大きい.本論文では,無線通信の特性の改善技術として符号化変調に着目した.この符号化変調は,特性改善の他に周波数有効利用と高速化にも寄与するからである.この技術をベースとし,フェージングと符号間干渉の対策技術を組み合わせて,特性の改善を行った.

 本論文は7章で構成される.第1章は序論であり,第7章は結論となっている.第2章~第3章はベースとなる符号化変調として多レベル符号化変調を取り上げて検討を行っている.第4章~第6章はベースとなる符号化変調として直列連接トレリス符号化変調(SCTCM)を取り上げて検討を行っている.

 第2章では,多レベル符号化変調とフェージング対策技術であるダイバーシチを組み合わせたシステムにおける最適符号化を明らかにした.そのために,フェージング通信路におけるビット誤り率(BER)の近似理論値を求めた.この近似理論値はシミュレーション結果とよく一致しており,シミュレーションによる符号評価の代わりとして利用できることを示した.そこでこの近似理論値を用いて,長さ31のBCH符号を用い,符号化率63/93とした場合のBER=10-6における最適な誤り訂正能力配分をダイバーシチブランチ数2,3について求めた.その結果,レベル1,2,3に対してそれぞれ(3,2,1),(5,1,1)ビットの誤り訂正能力を与えた場合が最適であることを明らかにした.

 第3章では,多レベル符号化変調と符号間干渉対策技術である等化を組み合わせた新しい等化復号システムを提案した.提案システムは,インタリーバを使うことにより,多レベル符号化変調の復号結果を適応等化にフィードバックすることを可能にした.そのシステムにおいてはインタリーブによる時間ダイバーシチ効果と多レベル符号化変調の復号結果を適応等化にフィードバックする効果により優れたBER特性が得られることを示した.提案システムは誤り訂正後の信号をフィードバックすることにより,Eb/N0=22[dB]において,2桁以上BERを改善していることを示した.2ブランチ空間ダイバーシチシステムの特性評価式を用いて,干渉波数が1波の場合における提案システムにおける誤り訂正能力配分の最適化が行えることを示した.レベル1,2,3の誤り訂正能力がそれぞれ3,2,1ビットの割り当てが最適であった.

 第4章では,SCTCMと等化を組み合わせたターボ等化システムを周波数選択性フェージング通信路に適用した場合の問題点を明らかにし,その改善策を提案した.明らかにした問題点は,等化器としてソフト干渉キャンセル形等化器(SIC-EQ)用いた場合,誤り伝搬により大きな特性劣化が起こるということである.その対策として,等化信号の平滑化システムを提案した.これは1回前の繰り返し時点の等化信号と現在のSIC-EQ出力の加重和を現在の等化出力とするというものである.このように簡単な処理で誤り伝搬を抑えることができた.平滑化システムは,9波の干渉を受ける準静的周波数選択性レイリーフェージング通信路でBER=10-3において,従来のシステムよりも7.2[dB]の改善が得られ,BER=10-2において5.2[dB]の符号化利得が得られた.また,Lindskogの送信ダイバーシチとターボ等化との併用システムを提案し,その特性を明らかにした.この場合の符号化利得はBER=10-4で10.5[dB]であった.また,ダイバーシチ効果によりBER=10-4を実現するために必要なEb/N0が4.5[dB]改善された.

 第5章では,ターボ等化システムにおけるSCTCMの最適符号を明らかにした.そのため,まず,等化が理想的に働いた場合について考えた.この場合,干渉波数の増加はダイバーシチブランチの増加と同じ効果となる.ダイバーシチブランチが多くなった場合には,加法的白色ガウス(AWGN)通信路で良い特性が得られるものの中に最適符号が存在することを明らかにした.さらに,実際のターボ等化においても成り立つことを示した.そこでAWGN通信路において,良い特性が得られる符号を探索するためにAWGN通進路におけるSCTCMの上界値の数値計算方法を提案した.また,低SNRにおけるインタリーバゲインの解析を行った.その結果,SCTCMにおいて大きなインタリーバゲインを得るための指針を明らかにした.その指針が示す条件を満たす符号器に探索範囲を限定することで,十分に良い特性の符号の探索が行えることを示した.

 第6章では,SCTCMのハードウェアデコーダの設計を行った.SCTCMのデコーダ設計の前に多値数の高い変調方式を用いた並列連接トレリス符号化変調(PCTCM)のデコーダを設計した.PCTCMとSCTCMの基本復号アルゴリズムが同じで,PCTCMのほうがデコーダ構成が簡単となるためである.まず,多値数の高い変調方式を用いたPCTCMの高速復号法を提案した.提案法に基づいて256-QAM変調方式を用いたPCTCMのハードウェアデコーダを設計した.Altera HardCopy Stratix HC1S30を用いた場合,復号速度は繰り返し回数3回で,2.33[Mbps]であった.これは従来法の10倍の速度であった.これを修正することでQPSK変調方式を用いたSCTCMのデコーダを設計した,Altera Stratix EP1S10F780C5を用いた場合,復号速度は繰り返し回数3回で,294[Kbps]であった.

 本論文は「符号化変調を用いた陸上移動無線通信に関する研究」と題し、7章で構成されている.第1章は序論であり,研究の背景と目的を述べている。第7章は結論となっている.
 陸上移動無線通信においては,マルチパスフェージングと符号間干渉による特性の劣化が生じる.本論文では,無線通信の特性の改善技術として符号化変調をベースとし,フェージングと符号間干渉の対策技術を組み合わせて,特性改善を行っている.
 第2章では,多レベル符号化変調とフェージング対策技術であるダイバーシチを組み合わせたシステムにおける最適符号化を明らかにしている.導出した理論値を用いて,長さ31のBCH符号を用い,最適な誤り訂正能力配分を求め結果,レベル1,2,3に対して(3,2,1),ビットの誤り訂正能力を与えた場合が最適であることを明らかにしている.
 第3章では,インタリーバを使うことにより,多レベル符号化変調の復号結果を適応等化にフィードバックすることを可能にしたシステムを提案している。誤り訂正後の信号をフィードックすることにより,Eb/N0=22[dB]において,2桁以上ビット誤り率(BER)を改善している.
 第4章では,直列連接トレリス符号化変調(SCTCM)と等化を組み合わせたターボ等化システムを周波数選択性フェージング通信路に適用した場合に誤り伝搬により大きな特性劣化が起こるという問題を扱っている.その対策として,等化信号の平滑化システムを提案している.平滑化システムは,9波の干渉を受ける準静的周波数選択性レイリーフェージング通信路でBER=10-3において,従来のシステムよりも7.2[dB]の改善を得ている,
 第5章では,ターボ等化システムにおけるSCTCMの最適符号を明らかにしている.ダイバーシチブランチが多くなった場合には,加法的白色ガウス雑音(AWGN)通信路で良い特性が得られるものの中に最適符号が存在することを明らかにし、AWGN通信路において,良い特性が得られる符号を探索するためにAWGN通信路におけるSCTCMのBERの上界値の数値計算方法を提案している.
 第6章では,SCTCMのハードウェアデコーダの設計を行っている.SCTCMのデコーダ設計の前に並列連接トレリス符号化変調(PCTCM)のデコーダを設計し、復号速度として繰り返し回数3回で,2.33[Mbps]を実現している.これは従来法の10倍の速度である.これを修正することでQPSK変調方式を用いたSCTCMのデコーダを設計し、復号速度として繰り返し回数3回で,294[Kbps]を実現している.
 以上のように、本論文は、工学上および工業上貢献することが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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