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パルスイオンビームアブレーションの数値解析と応用に関する研究

氏名 矢澤 勝
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第389号
学位授与の日付 平成18年8月31日
学位論文題目 パルスイオンビームアブレーションの数値解析と応用に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 原田 信弘
 副査 教授 新原 皓一
 副査 助教授 江 偉華
 副査 助教授 末松 久幸
 副査 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 教授 堀岡 一彦

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第1章 序論 p.1
 1-1 アブレーションとは p.1
 1-2 イオンビームアブレーションの応用 p.3
 1-2-1 飛翔体加速 p.4
 1-2-2 薄膜作成 p.5
 1-3 本研究の目的 p.5
 1-4 本論文の構成 p.6
 参考文献 p.7

第2章 イオンビームアブレーション数値解析モデル p.8
 2-1 数値解析モデル p.8
 2-1-1 流体方程式 p.9
 2-1-2 熱伝導 p.11
 2-1-3 粘性 p.12
 2-1-4 イオンビームによるエネルギー流入 p.12
 2-1-5 状態方程式 p.17
 2-1-6 電離 p.17
 2-2 数値解析手法 p.18
 2-2-1 有限差分法 p.18
 2-2-2 境界条件 p.20
 2-2-3 CFL条件 p.20
 2-2-4 電離のデータベース p.21
 2-3 数値解析結果 p.21
 2-3-1 飛翔体とプラズマの振る舞い p.21
 2-3-2 飛翔体速度とアブレーション圧力 p.24
 2-3-3 プラズマ温度と加速効率 p.29
 2-4 まとめ p.31
 参考文献 p.32
第3章 数値解析モデルの高速化 p.34
 3-1 潜熱の影響 p.34
 3-1-1 潜熱 p.34
 3-1-2 潜熱を考慮した解析結果 p.35
 3-2 状態方程式の影響 p.42
 3-2-1 実在気体方程式 p.42
 3-2-2 実在気体状態方程式を考慮した解析結果 p.43
 3-3 ビーム波形の影響 p.50
 3-3-1 ビーム波形の近似 p.50
 3-3-2 ビーム波形を考慮した解析結果 p.51
 3-4 まとめ p.57
 参考文献 p.58

第4章 イオンビームアブレーション推進 p.59
 4-1 宇宙探査と推進方法 p.59
 4-2 イオンビームアブレーション推進の提案 p.60
 4-3 推進性能の評価 p.61
 4-3-1 推進性能の指標 p.61
 4-3-2 イオンビームアブレーション推進の推進性能 p.62
 4-4 制御性能 p.63
 4-4-1 ビームパワーの影響 p.64
 4-4-2 イオンビームエネルギーの影響 p.65
 4-4-3 パルス幅の影響 p.66
 4-4-4 加速電圧の影響 p.68
 4-5 推進性能の比較 p.69
 4-6 イオンビームアブレーションの優位性 p.71
 4-7 火星への航行 p.72
 4-7-1 解析方法 p.72
 4-7-2 航行時間と燃料消費 p.74
 4-7-3 イオンビームアブレーション推進の可能性 p.76
 4-8 まとめ p.76
 参考文献 p.77

第5章 イオンビームアブレーションによる薄膜作成 p.78
 5-1 IBEの研究背景と研究目的 p.78
 5-2 薄膜作成の数値解析方法 p.79
 5-2-1 イオンビーム照射角 p.80
 5-2-2 解析条件 p.81
 5-3 アブレーションプラズマの挙動 p.82
 5-3-1 イオンビーム照射角による影響 p.82
 5-3-2 プラズマの挙動と進展速度 p.83
 5-3-3 プラズマ膨張の材質による違いと薄膜構成 p.86
 5-4 まとめ p.91
 参考文献 p.92

第6章 総括 p.93

謝辞 p.95

研究業績 p.97

 大強度パルスイオンビームを固体材料へ照射すると,固体材料は急激に加熱され,融解,蒸発,電離を経て,プラズマが生成される.この現象をイオンビームアブレーションと言い,電子ビームやレーザーと比べて高温高密度のプラズマを効率良く生成することが可能である.このイオンビームアブレーションは様々な分野への応用が期待されている.例えば,プラズマの膨張の反作用により固体材料を高速に飛翔させる飛翔体加速や,プラズマを基板上に高速高純度で推積させる薄膜作成などがこれまでに実証されてきた.しかし,これらの現象では数百nsという短時間にプラズマの生成や膨張,イオンビームとの相互作用が同時に進行するため,未だ明らかにされていない部分も多い.さらに,イオンビームアブレーションが可能な装置は国内外を見ても数えるほどしかなく,その装置の取扱いも容易ではないことから,産業応用への障害となっていた.そこで本論文では,イオンビームアブレーションの一連の現象を解く数値解析モデルを作成し,飛翔体加速について過去に行われた実験結果と比較検討を行い,その現象を明らかにした.さらに数値解析を用いてイオンビームアブレーションの産業応用として,アブレーション推進への利用と薄膜作成における薄膜構成の予測について提案した.
 第1章では,本論文の研究背景及び目的について記述した.
 第2章では,イオンビームアブレーションの一連の現象を解く数値解析モデルについて記述した.固体材料とその状態変化により生成するプラズマを一次元圧縮性流体近似とし,これにイオンビーム照射作用を加えた数値解析モデルを作成した.ここでは,イオンビーム波形は理想的に矩形波とし,状態方程式を理想気体,潜熱の影響は無視できるとした.この数値解析モデルを用いて,イオンビームアブレーションによる飛翔体加速について解析を行い,過去に行われた実験結果と比較検討を行った.飛翔体速度とアブレーション圧力の数値解析結果は実験結果と良く一致していたが,飛翔体内部での物理現象が実際の現象と大きく異なってしまうこと,低エネルギーのイオンビームにおいて十分な精度が得られないことが明らかになった.以上の結果から,本モデルにおいて潜熱,状態方程式,ビーム波形の詳細な検討が必要であると結論付けた.
 第3章では,前章で得られた本数値解析モデルの課題について検討した.低エネルギーのイオンビームにおいて,潜熱はアブレーション圧力,飛翔体速度に与える影響が非常に大きいことが示された.状態方程式に実在気体を用いることで飛翔体の振る舞いを正しく評価することができた.理想気体の状態方程式では,飛翔体速度が過大評価されることが確認された.実際のイオンビーム波形を放物波形で近似することで,より実験結果に近い結果が得られた.イオンビーム波形はプラズマの振る舞いに大きな影響を与え,矩形波形ではプラズマ温度を良く上昇させるが,放物波形では飛翔体にアブレーション圧力を効果的に供給することが明らかになった.潜熱,実在気体の状態方程式,イオンビーム波形を考慮した本数値解析モデルを用いて,幅広い範囲のイオンビームエネルギーにおけるイオンビームアブレーションの現象を明らかにすることができた.
 第4章では,イオンビームアブレーションにより生成したプラズマを宇宙用の推進剤として利用するイオンビームアブレーション推進を提案した.イオンビームのパルス幅,エネルギー,パワー,加速電圧を制御することで,イオンビームアブレーション推進は運動量結合係数が数十~数百mN/kW,比推力が数百~数千sの幅広い範囲の推進性能を得られることが数値解析により示された.地球から火星への航行について解析した結果から,イオンビームアブレーション推進は化学推進に比べて推進剤消費量を,イオンエンジンに比べて航行日数を改善できると結論付けた.
 第5章では,イオンビームアブレーションを用いた薄膜作成におけるプラズマの挙動について解析を行い,プラズマの飛翔速度と作成される薄膜の構成について検討した.様々な材料においてプラズマの最大イオン密度の部分で定義したプラズマ飛翔速度と進展位置は,過去に行われた高速度カメラによるプラズマ発光の観測結果と一致していた.複数の材料からなる面を持つターゲットにより作成される薄膜の構成を数値解析によって得られたプラズマ飛翔速度から見積もると実験結果と良く一致していた.本数値解析を用いることで,薄膜の構成を予測することや,複数の材料を同時に基板上へ推積させるように条件を決定することが可能となると結論付けた.
 第6章では,以上の研究によってイオンビームアブレーションのプラズマが明らかになり,イオンビームアブレーションの応用として具体的な提案を行うことで,イオンビームアブレーションが様々な分野へ応用されることに貢献することができたと結論付けた.

 本論文は、「パルスイオンビームアブレーションの数値解析と応用に関する研究」と題し,6章より構成されている。
 第1章「序論」では,大強度パルスイオンビーム照射によるアブレーション現象に関する従来の研究の概要を示し,本研究の目的を述べている。
 第2章では,イオンビームアブレーション現象を解明する数値解析モデルについて記述している。固体材料とアブレーションプラズマを一次元圧縮性流体近似し,イオンビーム照射によるエネルギー輸送を加えた数値解析モデルを初めて構築した。この解析モデルを用いて飛翔体加速について解析を行ない,実験結果と比較検討を行っている。飛翔体速度とアブレーション圧力の結果は実験結果と良く一致していたが,飛翔体内部での物理現象が実際と異なること,特に低エネルギーのイオンビームにおいて十分な解析精度が得られないことを示している。
 第3章では,本解析モデルの課題について検討している。低エネルギーのイオンビーム照射において潜熱を考慮する必要があり,アブレーション圧力と飛翔体速度に与える影響が非常に大きいことを明らかにした。飛翔体の振る舞いを正しく解析するために,実在気体の状態方程式を用いる必要があること,またイオンビーム波形を実際のように放物線近似することでより解析精度が向上することを示している。
 第4章では,アブレーションプラズマの応用として宇宙推進に利用するアブレーション推進を提案している。イオンビームのパルス幅,エネルギー,パワー,加速電圧を制御することで,イオンビームアブレーション推進は運動量結合係数が数十~数百mN/kW,比推力が数百~数千sの幅広い範囲の推進性能を得られることを数値解析で明らかにしている。地球から火星への航行について適用した結果から,アブレーション推進は化学推進に比べて推進剤消費量を,またイオンエンジンに比べて航行日数を大幅に改善できることを明らかにしている。
 第5章では,アブレーションプラズマを基板上に堆積させる薄膜作成におけるプラズマの挙動について解析を行っている。様々な材料においてプラズマの最大イオン密度の部分で定義したプラズマ飛翔速度と進展位置は,高速度カメラによるプラズマ発光の観測結果とよく一致している。複数の材料からなるターゲットのアブレーションで作成される薄膜の構成を数値解析によるプラズマ飛翔速度よって予測しており,予測結果は実験結果と良く一致している。本数値解析を用いることで,生成する薄膜の構成を予測することや,複数の材料を同時に基板上へ推積させるように薄膜作成条件を決定することが可能となることを初めて明らかにしている。
 第6章では,これまでの研究を総括し,イオンビームアブレーションのプラズマの挙動が明らかにされ,その応用として宇宙推進と薄膜作成などの具体的な提案を行うことで,イオンビームアブレーションの様々な分野への応用に大きく貢献することができたと結論付けている。
 以上のように、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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