音像移動に着目した頭外音像定位精度の改善に関する研究
氏名 工藤 彰洋
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第394号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 音像移動に着目した頭外音像定位精度の改善に関する研究
論文審査委員
主査 教授 島田 正治
副査 教授 荻原 春生
副査 教授 吉川 敏則
副査 助教授 岩橋 政宏
副査 富山県立大学教授 平原 達也
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第1章 序論 p.3
1.1 次世代の通信伝送技術における課題 p.3
1.2 仮想音源生成技術 p.4
1.3 頭外音像定位技術の実現 p.8
1.4 頭外音像定位技術の実用化 p.10
1.5 本研究の目的 p.13
1.6 本論文の構成 p.14
第2章 動的な定位の手がかり p.17
2.1 動的な定位の手がかりの必要性 p.17
2.2 音源定位についての先行研究 p.17
2.3 仮想音源の定位についての先行研究 p.19
2.4 仮想音源の移動により定位精度が改善される理由 p.21
2.5 頭外音像定位における頭部回転と音像移動の実現 p.22
2.6 本章のまとめ p.24
第3章 移動音を生成するための伝達関数切替法の検討 p.25
3.1 本章の目的 p.25
3.2 伝達関数切替法 p.27
3.3 客観評価 p.35
3.4 主観評価 p.50
3.5 客観評価と主観評価試験の対応について p.61
3.6 本章のまとめ p.63
第4章 移動音の定位精度に関する先行研究の検証 p.65
4.1 本章の目的 p.65
4.2 検討対象となるHRTFと刺激音の条件 p.66
4.3 試験方法 p.66
4.4 試験結果 p.72
4.5 考察 p.72
4.6 本章のまとめ p.81
第5章 音像スウィング法による定位精度の改善 p.83
5.1 本章の目的 p.83
5.2 音像スウィング法の提案 p.84
5.3 試験方法 p.84
5.4 試験結果 p.86
5.5 考察 p.97
5.6 本章のまとめ p.106
第6章 2チャネルステレオ再生における音像スウィング法 p.107
6.1 本章の目的 p.107
6.2 ステレオ音像の生成方法 p.108
6.3 刺激音とステレオ音像の定位精度 p.109
6.4 音像スウィング法の2チャネルステレオ再生への拡張法 p.111
6.5 スウィング音像の前後定位試験 p.113
6.6 スウィング音像の音質評価試験 p.130
6.7 本章のまとめ p.140
第7章 結論 p.143
謝辞 p.147
参考文献 p.149
本研究に関する研究業績 p.161
付録 p.165
付録A 頭外音像定位の実現に関する補足 p.167
A.1 インパルス応答の測定方法 p.167
A.2 マイクロホンの設置位置 p.171
A.3 逆伝達関数の算出方法 p.171
付録B 伝達関数切替法の検討に関する補足 p.177
B.1 Fourier級数窓法における係数の導出について p.177
B.2 スペクトル歪幅σωを計算する際の問題点 p.179
B.3 受聴評価試験において、被験者に与える教示について p.181
付録C 第4章と第5章の受聴試験のために測定した特性の一覧 p.183
C.1 ラウドスピーカ伝達関数LSTF p.183
C.2 外耳道伝達関数ECTF p.184
C.3 頭部伝達関数HRTF p.186
付録D 単一仮想音源再生における音像スウィング法のパラメータの決定 p.193
D.1 目的 p.193
D.2 試験方法 p.193
D.3 試験結果 p.195
D.4 考察 p.197
D.5 まとめ p.201
近年の地上波ディジタルテレビ放送、DVD等において採用されている5.1チャネルサラウンド再生方式のスピーカ受聴やApple Computer社のiPodに代表される携帯型オーディオ再生機器によるヘッドホン受聴の普及に伴い、高臨場感サウンドを再生する技術の確立が急務となっている。頭外音像定位技術はヘッドホン受聴でありながら空間の所望の位置に音像を定位させる技術であり、高臨場感サウンド再生のために必須である。この技術を実現するために必要となる頭部伝達関数HRTF(Head-Related Transfer Function)は、従来からダミーヘッドのHRTFが用いられてきた。しかしながら、ダミーヘッドと受聴者との頭部
・外耳形状の違いによるHRTFの差が音像定位精度の劣化を引き起こすことが判ってきたため、この問題の解決が長年の課題となっていた。本論文においては、この問題の解決を最終目的として、以下の順に検討を進めた。
・第2章:動的な定位の手がかり
静止音よりも移動音の定位精度が優れているという研究報告に着目し、連続的に移動させた音像が定位の手がかりとなる可能性について、2つの先行研究の例を挙げて説明を行う。先行研究では、一定方向に移動する音像を提示することによって定位精度の改善を試みている。その結果、受聴者が音像の移動方向を知らなければ定位精度が改善しないことを報告している研究だけでなく、音像の移動方向を知らない場合であっても定位精度が改善することを報告している研究も存在することから、両者で定位精度改善のための条件が一致していないという問題を指摘した。
・第3章:移動音を生成するための伝達関数切替法の検討
一般に、音像の移動には位置を連続的に移動させる方法と、離散的に移動させる方法がある。頭外音像定位における音像の移動は、異なる音源位置から算出された伝達関数を逐次切替えることにより実現されるため、離散的に移動させる方式では、切替えの瞬間に生じる信号波形の不連続が問題となる。これまで、この信号波形の不連続を系統的に比較・検討した研究が存在しなかった。そこで、代表的な伝達関数切替法として、単純切替法、overlap-add法、fade-in・fade-out法を取り上げ、 客観評価と主観評価試験を行った。その結果、modified hamming窓を用いたoverlap-add法とfade-in・fade-out法が優れていることを明らかにした。
・第4章:移動音の定位に関する先行研究の検証
第2章で説明した先行研究間における定位精度改善のための条件の不一致について、どちらの条件が正しいのかを見出すため、検証実験を行った。受聴者に音像の移動方向を知らせないという条件で、一定方向に連続的に移動する音像の定位試験を行った結果、定位精度が改善する被験者(5名中3名)と、逆に、定位精度が劣化する被験者(5名中2名)も存在することが判った。よって、先行研究間の条件はどちらも正しいということを明らかにした。
・第5章:音像スウィング法による定位精度の改善
第4章で行った検証実験の結果を踏まえ、音像を離散的に移動させた場合における定位精度を検証することを目的として、水平面上の2地点間の定位を交互に切替える音像スウィング法を提案した。音像定位試験の結果から、ダミーヘッドから得た汎用のHRTFで前後誤判定率が増加する被験者については、スウィング角度を8°に設定することで前後誤判定率と定位誤差を改善できることを明らかにした。
・第6章:2チャネルステレオ再生における音像スウィング法
現在、広く普及している2チャネルステレオ再生に音像スウィング法を適用するため、ステレオ音像のスウィング方式が異なるTwist法とCompand法を提案した。音像定位試験の結果、ダミーヘッドから得た汎用のHRTFで前後誤判定率が著しく増加する被験者については、音像のスウィング角度を4°以上に設定することで前後誤判定率を改善できることを明らかにした。さらに、汎用のHRTFで定位精度が劣化しない被験者においても、音像のスウィング角度を4°以下に設定することで前後誤判定率を減少できる可能性を見出した。
本研究では、頭外音像定位の実用化を目指し、ダミーヘッドから得たHRTFを用いたことで生じる音像定位精度の劣化の問題を提起した。この問題を解決するために、静止音よりも移動音の定位精度が優れているという研究報告に着目し、連続的に移動する仮想音源を用いた音像定位試験を行った。その結果、仮想音源を移動することで定位精度が改善する被験者だけでなく改善しない被験者も存在することを明らかにした。次に、水平面上の2地点間を離散的に移動する音像スウィング法を提案した。単一の仮想音源と2チャネルステレオ再生の仮想音源による音像定位試験を行った結果、提案法は仮想音源の音像定位精度を改善する上で有効であることを明らかにした。
本論文は、「音像移動に着目した頭外音像定位精度の改善に関する研究」と題し、7章より構成されている。
第1章「序論」では、次世代の通信技術に高い付加価値を与える頭外音像定位技術について述べ、この技術に関する従来の研究の概要や問題点を示すとともに、本研究の目的を述べている。
第2章「動的な定位の手がかり」では、連続的に移動させた仮想音源が定位の手がかりとなる可能性について2つの先行研究の例を挙げて説明を行い、両者において音像定位精度を改善するための条件が一致しないという問題を指摘している。
第3章「移動音を生成するための伝達関数切替法」では、離散的に仮想音源を移動させる方式において伝達関数を切替える瞬間に生じる信号波形の不連続が問題となることを説明し、これを系統的に比較・検討することを目的として種々の伝達関数切替法を取り上げて客観評価と主観評価試験を行い、modified hamming窓を用いたoverlap-add法とfade-in・fade-out法が優れていることを明らかにしている。
第4章「移動音の定位精度に関する先行研究の検証」では、第2章で説明した先行研究間における音像定位精度を改善するための条件の不一致について、どちらの条件が正しいのかを見出すことを目的として検証を行い、仮想音源を移動させることで音像定位精度が改善する被験者だけでなく改善しない被験者も存在することから、先行研究間の条件はどちらも正しいことを明らかにしている。
第5章「音像スウィング法による定位精度の改善」では、水平面上の2地点間の定位を交互に切替える音像スウィング法を提案し、音像定位試験の結果から、スウィング角度を8°に設定することで音像定位精度を改善できることを明らかにしている。
第6章「2チャネルステレオ再生における音像スウィング法」では、広く普及している2チャネルステレオ再生に音像スウィング法を適用するため、ステレオ音像のスウィング方式が異なるTwist法とCompand法を提案し、音像定位試験の結果から、スウィング角度を4°に設定することで音像定位精度を改善できることを明らかにしている。
第7章「結論」では、各章で得た結果を総括し、提案法が頭外音像定位技術の発展に寄与することを結論付けている。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。