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希土類原子加熱法によるガラスへの非線形光学結晶ラインの書込みと光導波特性

氏名 井原 梨恵
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第416号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 希土類原子加熱法によるガラスへの非線形光学結晶ラインの書込みと光導波特性
論文審査委員
 主査 教授 小松 高行
 副査 教授 高田 雅介
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 助教授 内田 希
 副査 東北大学教授 藤原 巧

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第1章 序論
 1.1 研究の背景 p.2
 1.2 単結晶とガラスの抱える利点・問題点 p.2
 1.3 ガラスへの希土類原子加熱法の適応 p.3
 1.4 ガラスにおける結晶成長および結晶化 p.5
 1.5 本研究の目的 p.17
 1.6 本研究の概要 p.17
 参考文献 p.19

第2章 熱線吸収ガラスによる屈折率変化ドット形成
 2.1 緒言 p.21
 2.2 実験方法 p.21
 2.3 結果 レーザー照射による屈折率変化ドットのレーザー顕微鏡観察 p.24
 2.4 考察
 2.4.1 レーザービームの集光特性 p.25
 2.4.2 屈折率変化ドット径の形成 p.27
 2.5 まとめ p.30
 参考文献 p.31

第3章 レーザー照射による結晶ドットおよび電気炉による結晶成長のその場観察
 3.1 緒言 p.33
 3.2 希土類含有ビスマスホウ酸塩系ガラスからの析出結晶 p.33
 3.3 実験方法
 高温顕微鏡によるガラスの結晶成長のその場観察 p.34
 レーザー照射による結晶成長のその場観察 p.35
 3.4 結果および考察
 電気炉による結晶化とレーザー照射による結晶化の違い p.36
 結晶成長速度の見積もり p.37
 結晶成長速度と走査速度のマッチング p.39
 3.5 まとめ p.41
 参考文献 p.41

第4章 YAGレーザー照射による「直線」および「屈曲」を持つ結晶ラインの形成
 4.1 緒言 p.43
 4.2 実験目的 p.43
 4.3 実験方法 p.44
 4.4 結果および考察 p.47
 4.4.1 偏光顕微鏡を用いたYAGレーザー照射による直線結晶ライン形成と配向状態観察 p.47
 4.4.2 結晶ラインの偏光兼備ラマン測定 p.50
 4.4.3 屈曲前後のレタデーション変化 p.52
 4.5 レーザー照射による結晶ドットおよび結晶ラインの結晶成長機構 p.56
 4.6 まとめ p.60
 参考文献 p.60

第5章 曲線状ラインの書き込みと光導波察
 5.1 緒言 p.62
 5.2 実験方法 p.62
 結晶化ガラスを用いた結晶ラインの臨界曲げ角の算出 p.63
 5.3 実験結果および考察30°の屈曲を持つ結晶ラインの作製 p.65
 Y字分岐結晶ラインの作製 p.66
 5.4 まとめ p.68
 参考文献 p.68

第6章 総括 p.69

投稿論文および本研究にかかわる研究発表一覧 p.73

付録 p.79

謝辞 p.81

 本研究では、"希土類原子加熱法"を用いてレーザー照射によりランダムなガラス構造の中に規則的周期構造を導入し、ガラスに非線形光学現象を付与することに主眼をおいている。また、現行のガラス光ファイバネットワークに対して、簡便・容易な接続性など、導入整合性に優れるガラスベースの光波制御素子の開発を行う。これまでの研究成果を発展させ、ガラスでありながら結晶固有の高い機能性を有するフォトニクス材料/素子を創製し、電気信号への変換を要しない線路内全光化情報通信システムの実現に寄与することを目的としている。本研究により、"希土類原子加熱法"を用いて作製した結晶ラインが光導波路として機能することを明らかにした。また、結晶ラインが電気光学効果(EO効果)を用いたアクティブな光波制御素子としての応用できる可能性を見出した。本研究により、学位論文の構成を以下に示す。
 まず、第一章において、研究の背景および目的を記している。また、単結晶とガラスの抱える利点や問題点など、光制御デバイスの現状について述べている。"希土類原子加熱法"の原理、利点を述べている。
 第二章では、熱線吸収ガラスにNd:YAGレーザーを照射し、屈折率変化ドットを作製した。
希土類イオン(Sm3+)を含有したガラスにYAGレーザーを集光照射することで、屈折率変化および結晶化といった構造変化がガラスへ誘起される。本章では、レーザー照射時の基礎的現象として、結晶化に至らない屈折率変化領域に着目した。対物レンズ(開口数)の違いによるドット径状の変化について調査している。
 第三章では、結晶化のモデルガラスとして、サマリウムを含有したビスマスホウ酸塩系ガラスを用いた。また、この系のガラスおよび結晶化ガラスの詳細な熱物性、第二高調波特性を調査した。本章では、レーザー照射によって形成する結晶の成長速度と走査速度の関係を検討した。配向性の高い結晶成長を実現するためにはレーザー強度と走査速度のバランスを取ることが必要である。これまで、経験から得てきた速度と強度の最適条件を物性パラメータから求め、照射条件の指針を求めた。その場観察には電気炉中とレーザー照射時のその場観察を行い電気炉中での結晶成長速度とレーザー照射による結晶成長速度を比較し、得られた結晶成長速度と走査速度のマッチングを試みた。結晶成長に理論的なアプローチを行い、どのような組成でも適応できるような一般化を試みた。
 第四章では、サマリウム含有ビスマスホウ酸塩ガラスにYAGレーザーを照射し直線・曲線など様々な形状をもつ結晶ラインを形成した。"希土類原子加熱法"を用いて作製した結晶ラインが光導波路として機能させるには屈曲や分岐の形成が必要となる。集光位置を走査することにより屈曲をもつ結晶ラインを作製し、屈曲の前後における結晶の成長方位の変化を偏光顕微ラマンを用いて調査した。本研究により初めて任意の形状をもつ結晶ラインの形成に成功した。
 第五章では、第四章で作製した結晶ラインが光導波路として機能するか λ=632.3 nmのHe-Neレーザーを用いて光の伝播試験を行った。本実験では光導波素子として「光の分岐・結合」の基本構造となるY字分岐を持つ結晶ライン作製した。Y字分岐結晶ラインの両端面に光学研磨を施し、He-Neレーザーを入射つることで光導波観察を行った結果、出射端面から明瞭な2つのビームスポットが確認された。本研究によりはじめて"希土類原子加熱法"を用いて作製した結晶ラインが光導波路として機能することを明らかにした。希土類原子加熱法"を使用することにより、任意の形状の結晶ラインの形成が可能であると同時に、光導波路として機能することを明らかにした。今後、非線形光学結晶からなる光導波路に電極を取り付けることにより、電気光学効果(EO効果)を用いたアクティブな光波制御素子としての応用が強く期待できる。
 第6章においては、各章の結論について総括している。

 本論文は、「希土類原子加熱法によるガラスへの非線形光学結晶ラインの書込みと光導波特性」と題し、6章より構成されている。
 第1章「序論」では、単結晶とガラスの抱える利点や問題点、光制御デバイスの現状、希土類原子加熱法の原理と利点を述べ、本研究の目的を明らかにしている。
 第2章「熱線吸収ガラスによる屈折率変化ドット形成」では、熱線吸収ガラスにNd:YAGレーザーを照射して屈折率変化ドットを形成し、対物レンズ(開口数)の違いによるドット径状の変化について明らかにしている。
 第3章「レーザー照射による結晶ドットおよび電気炉による結晶成長のその場観察」では、サマリウムを含有したビスマスホウ酸塩系ガラスを研究対象として選び、まず、結晶化ガラスの詳細な熱物性、第二高調波特性を明らかにしている。さらに、レーザー走査速度と誘起された結晶の成長速度との関係を調べ、配向性の高い結晶成長を実現するためのレーザー照射条件を明らかにしている。
 第4章「YAGレーザー照射による直線および曲線を持つ結晶ライン形成」では、サマリウム含有ビスマスホウ酸塩ガラスにYAGレーザーを照射し直線・曲線など様々な形状をもつ結晶ラインを世界で初めて形成することに成功している。また、屈曲の前後における結晶の成長方位の変化を偏光顕微ラマン散乱スペクトルから解析している。
 第5章「曲線状ラインの書き込みと光導波特性」では、Y字分岐を持つ高配向性の結晶ラインをサマリウム含有ビスマスホウ酸塩ガラスにレーザー照射で書込み、He-Neレーザー(波長:632.3 nm)を用いて光導波実験を行っている。分岐点で顕著な光散乱損失が観測されないことから、光導波路として機能することを明らかにしている。これらの結果から、光導波路に電極を取り付けることにより、アクティブな光波制御素子としての応用が期待できることを提案している。
 第6章「総括」では、各章の結論を総括している。
 本論文は以上のように、YAGレーザー照射によって自在な形状の非線形光学結晶ラインをガラス表面に書き込むことに世界で初めて成功し、次世代光導波路デバイス創製への道を拓いている。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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