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乱流拡散方程式を用いた固体粒子浮遊流の解析とその底面境界条件の設定法に関する研究

氏名 菊地 卓郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第262号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 乱流拡散方程式を用いた固体粒子浮遊流の解析とその底面境界条件の設定法に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 細山田 得三
 副査 教授 大塚 悟
 副査 助教授 陸 旻皎
 副査 助教授 熊倉 俊郎
 副査 新潟大学教育研究院 自然科学系教授 西村 浩一

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第1章 序論 p.1
 1.1 研究の背景 p.1
 1.2 研究の目的 p.2
 1.3 本論文の構成 p.3

第2章 非ブーシネスクk-ε乱流モデル p.5
 2.1 基礎方程式 p.5
 2.2 固体粒子の濃度が十分に小さい場合 p.17

第3章 開水路浮遊砂流の解析 p.27
 3.1 数値計算概要 p.27
 3.2 単一粒径における解析値の実験値との比較 p.29
 3.3 粒径分布を考慮した解析値の実験値との比較 p.33
 3.4 モデル定数の検討 p.36
 3.5 まとめ p.38

第4章 低温風洞実験における吹雪流の解析 p.39
 4.1 実験概要 p.39
 4.2 数値計算概要 p.41
 4.3 解析値の実験値との比較 p.43
 4.4 まとめ p.50

第5章 南極みずほ基地における吹雪流の解析 p.51
 5.1 観測概要 p.51
 5.2 数値計算概 p.52
 5.3 解析値の観測値との比較 p.53
 5.4 まとめ p.55

第6章 粒子の連行係数の評価 p.57
 6.1 概要 p.57
 6.2 固体粒子の粒径の評価 p.60
 6.3 固体粒子の連行係数 p.63
 6.4 まとめ p.66

第7章 まとめ p.67
 7.1 結論 p.67
 7.2 今後の研究課題 p.68

参考文献 p.69

謝辞 p.75

 自然界において観測される固液・固気二相流の代表である浮遊砂流およびに吹雪流を固体粒子の輸送問題として捉え,本論文では乱流拡散方程式を用いた固体粒子浮遊流の解析と底面での境界条件の設定法の提案を目的として,固気・固液二相流の数値解析モデルの体系的な統一を図り,合理的な解析手法の開発を目指した.
 第1章では固液・固気二相流の取り扱いに対する相違点を整理し,それぞれの代表例である浮遊砂流と吹雪流の既往の研究について述べた.次に既往の研究では十分な検討がされていない点,不明な点から本研究の目的を示した.
 第2章では数値解析モデルである非ブーシネスク流体に対するk-ε乱流モデルの導入について,理論的な展開と具体的な基礎方程式を示した.
 第3章では典型的な固液二相流である開水路浮遊砂流について,数値解析を行った.本モデルは流速分布,濃度分布ともに精度よく一致し,浮遊砂流における浮遊砂の濃度の増加に伴い,乱流構造が変化し,抵抗が減少することによって,流速が大きくなるという浮遊砂流の特徴をよく再現することができた.
 実河川を想定し,様々な大きさの粒径が混在することを考え,粒径分布を考慮できるようにモデルを拡張し,単一粒径の場合と同様に高い精度で浮遊砂流の特性を説明できることを示した.粒径分布を考慮したモデルでは若干ではあるが,単一粒径の数値解析結果よりも濃度分布を精度よく再現することができた.また,粒径が大きくなると,砂粒子の沈降速度が大きくなり,砂粒子が底面付近を流れることとなるため,水深全域にわたる乱流構造の変化につながらないことが渦動粘性係数の評価によって分かった.さらに,浮遊流の濃度を規定するリチャードソン数に対するモデル定数の変化特性について,粒径が小さい場合は大きく変化するが,粒径が大きい場合には依存性が明確ではないことがわかり,粒径の違いによる乱流構造の変化を表すことを示唆していることが推定できた.
 第4章では低温風洞実験で観測された定常状態およびに発達過程にある小スケールの吹雪流,第5章では南極みずほ基地において観測された大スケールの吹雪流について数値計算を行った.吹雪流は第3章で示した浮遊砂流とは数多くの共通項があるが,周囲流体や輸送される固体粒子の違いや水面の存在の有無など両者の違いも存在する.これらの違いは物理的には,流体中での落下速度や相対比重が大きく異なることや水面の存在の有無による境界条件の設定の違いとなる.このような違いを考慮しながら,計算を行った.小スケール,大スケールの吹雪流ともに風速分布は壁面から離れるにしたがって増加するという平板上の乱流境界層の特性を再現していることが確かめられた.また,飛雪流量分布は底面直上から急速に減少する傾向を示した.これは雪粒子の密度が空気の密度よりはるかに大きいため,底面より離れた領域まで浮遊を維持することが難しいためである.これらの結果から,空気流のスケールが大きく異なる吹雪流に対して風速分布,飛雪流量分布を説明できることが確認できた.
 第6章では固液・固気二相流の数値解析において,乱流拡散方程式を用いた場合に重要な底面の濃度の境界条件の設定の際に合理的と考えられる固体粒子の連行係数に関して考察を行った.雪粒子の複雑な粒子形状の取り扱いについて,雪粒子に働く抗力と重力,浮力の釣り合いの式を用いて,雪粒子の重量と密度から粒径を計算する方法を示した.その方法を用いて,低温風洞実験およびに南極みずほ基地におけるGarciaのパラメータと雪の連行係数の関係を求めた.得られた結果を従来のSPCによって測定された雪粒子の直径を用いた雪の連行係数と比較し,従来のGarciaのパラメータ算出法よりもGarciaの経験式により近い値となることが分かった.開水路浮遊砂流の砂の連行係数との比較によって,低温風洞実験で得られた雪の連行係数は砂の連行係数と同様にGarciaの経験式に近い関数形であることが推定された.一方,南極みずほ基地における雪の連行係数は2オーダー程度小さくなることがわかった.これは吹雪流における雪の連行係数は空気流のスケールによって違う可能性,あるいは南極みずほ基地での観測は十分な雪の供給がなかったために連行係数が過小評価された可能性が考えられる.以上のように浮遊砂流と吹雪流の底面における濃度の境界条件の相違について,明らかにすることができた.
 第7章では結論をとりまとめ,今後の課題を示した.

 本論文は,「乱流拡散方程式を用いた固体粒子浮遊流の解析とその底面境界条件の設定法に関する研究」と題し,7章より構成されている.
 第1章では既往研究の問題点を整理し,本研究の目的を示した.
 第2章では数値解析モデルの検討を行った.非ブーシネスク流体に対するk-ε乱流モデルの導入について理論的な展開を検討し,具体的な基礎方程式を示した.
 第3章では典型的な固液二相流である開水路浮遊砂流について数値解析を行った結果を説明している.数値解析の結果,流速分布,濃度分布ともに既往の実験値とよく一致し,また,浮遊砂流における浮遊砂の濃度の増加に伴い乱流構造が変化し,抵抗が減少することによって流速が大きくなるという浮遊砂流の特徴をよく再現することができた.さらに実河川を想定し,様々な大きさの粒径が混在することを考え,粒径分布を考慮できるようにモデルを拡張し,粒径の違いによる底面付近の乱流構造の違いを評価した.
 第4章および第5章ではそれぞれ低温風洞実験で観測された定常状態や発達過程にある小スケールの吹雪流および南極みずほ基地において観測された大スケールの吹雪流について数値計算の結果を述べている.小スケール,大スケールの吹雪流ともに風速分布は壁面から離れるにしたがって増加するという平板上の乱流境界層の特性を再現していることが確かめられた.また,飛雪流量分布は底面直上から急速に減少する傾向を示すことを確認した.
 第6章では固液・固気二相流の数値解析における底面の濃度の境界条件の設定のための固体粒子の連行係数に関して考察を行った.雪粒子の複雑な粒子形状の取り扱いについて,雪粒子に働く抗力と重力,浮力の釣り合いの式を用いて雪粒子の重量と密度から粒径を計算する方法を示した.さらに低温風洞実験およびに南極みずほ基地におけるGarciaのパラメータと雪の連行係数の関係を考察し,従来のGarciaのパラメータ算出法よりもGarciaの経験式により近い値となることを見出した.開水路浮遊砂流の砂の連行係数との比較によって,低温風洞実験で得られた雪の連行係数は砂の連行係数と同様にGarciaの経験式に近い関数形であることを見出した.南極みずほ基地における雪の連行係数は風洞実験に比して2オーダー程度小さくなることを示した.以上のように浮遊砂流と吹雪流の底面における濃度の境界条件の相違について明らかにした.
 第7章では結論をとりまとめ,今後の課題を示した.
 よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.

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