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下流に配置された物体の干渉による柱状物体の振動制御

氏名 加藤 直人
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第413号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 下流に配置された物体の干渉による柱状物体の振動制御
論文審査委員
 主査 教授 白樫 正高
 副査 教授 矢鍋 重夫
 副査 教授 増田 渉
 副査 教授 金子 覚
 副査 助教授 高橋 勉
 副査 助教授 山田 昇

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目次 p.i
主な記号 p.iv

第1章 序論 p.1
 1.1 背景 p.1
 1.2 従来の研究 p.6
 1.2.1 流れの中の円柱の振動 p.6
 (1)単独円柱(カルマン渦励振)
 (2)十字交差配置された下流円柱によるカルマン渦励振の抑制と縦渦励振
 1.2.2 流れの中の角柱の振動 p.16
 (1)単独角柱の振動
 (I)カルマン渦励振
 (II)流力弾性不安定振動(ギャロッピング)
 (2)十字交差配置された二角柱まわりの流れ
 1.3 本研究の目的 p.27
 1.4 第1章の参考文献 p.28

第2章 解析 p.30
 2.1 緒言 p.30
 2.2 次元解析 p.33
 2.2.1 振動を支配するパラメータ p.33
 2.2.2 現象に対応した簡単化 p.37
 2.3 振動論的考察 p.38
 2.3.1 現象のモデル化 p.38
 2.3.2 有効質量, 見かけの減衰係数の決定 p.41
 2.3.3 振動方程式の解と無次元パラメータ p.48
 2.4 渦励振の予測 p.51
 2.4.1 渦励振現象の非線形的特徴 p.51
 2.4.2 線形近似による予測 p.54
 2.4.3 同期現象を考慮した改良 p.63
 2.5 第2章の参考文献 p.65

第3章 実験装置および実験方法 p.66
 3.1 実験装置 p.66
 3.1.1 ウォータートンネル p.66
 3.1.2 風洞 p.69
 3.1.3 上流柱状物体(円柱および角柱) p.71
 3.1.4 下流物体(円柱および平板) p.74
 3.1.5 弾性支持装置 p.75
 3.1.6 計測機器 p.77
 3.2 実験方法 p.78
 3.2.1 主流速度の測定 p.78
 3.2.2 流れの可視化 p.80
 (1)色素流脈法(直接注入法、トレーサ法)
 (2)油膜法(壁面トレース法)
 (3)タフト法
 3.2.3 上流円柱表面圧力測定 p.85
 3.2.4 速度変動測定 p.87
 3.2.5 変動揚力測定 p.89
 3.2.6 上流物体の変位および振動数の測定 p.91
 3.3 第3章の参考文献 p.94

第4章 円柱/平板系の実験結果および考察 p.95
 4.1 固定された円柱/平板系の周りの流れ p.95
 4.1.1 流れの形態 p.95
 (1)染料注入法による可視化
 (2)壁面トレース法による可視化
 (3)時間平均表面圧力分布
 4.1.2 縦渦流出に対する平板幅および隙間比の影響 p.111
 4.1.3 縦渦流出と流速の関係 p.121
 4.1.4 流速に対する渦流出のスパン方向領域 p.131
 4.1.5 4.1のまとめ p.133
 4.2 円柱の振動に対する下流平板の影響 p.134
 4.2.1 振動と隙間比s/dの関係 p.134
 (1)カルマン渦励振の抑制
 (2)縦渦励振の発生
 4.2.2 振動と流速Uの関係 p.140
 4.2.3 4.2のまとめ p.152
 4.3 無次元数による一般的表現 p.153
 4.3.1 カルマン渦励振の抑制 p.153
 4.3.2 縦渦の励振力の評価 p.155
 4.3.3 縦渦励振の発生条件 p.157
 4.3.4 4.3のまとめ p.161
 4.4 第4章の参考文献 p.162

第5章 角柱/平板系の実験結果および考察 p.163
 5.1 固定された角柱/平板系のまわりの流れ p.163
 5.1.1 流れ場の形態 p.163
 (1)壁面トレース法
 5.1.2 カルマン渦および縦渦の流出に対する下流平板の影響 p.173
 5.1.3 縦渦の流出周波数と流速の関係 p.174
 5.1.4 5.1のまとめ p.177
 5.2 角柱の振動に対する下流平板の影響 p.178
 5.2.1 単独角柱の振動 p.178
 5.2.2 振動と隙間比s/dの関係 p.179
 (1)カルマン渦励振の抑制
 (2)ギャロッピングの抑制
 (3)縦渦励振の発生
 5.2.3 振動と流速Uの関係 p.192
 5.2.4 5.2のまとめ p.200
 5.3 縦渦励振の発生条件と励振力の評価 p.201
 5.4 第5章の参考文献 p.206

第6章 結論 p.207

謝辞

 流れの中の柱状物体(特に円柱および角柱)の振動制御が可能ならば,学術的,工学的あるいは工業的に大変有意義である.
 一般に振動抑制法は振動体そのものあるいはその支持構造に変更を加えるものであり,工学者を目指す学生が振動の抑制を目視できる機会がない.また振動体に変更を加えるためには,機械の運転を停止しなければならない場合がほとんどである.さらには動的かつ能動的に振動を制御することは不可能である.振動する柱状物体への変更なしで,かつ振動を動的かつ能動的に制御できる技術が開発されれば,工学的貢献は計り知れない.
 十字交差配置された下流円柱は,円柱のカルマン渦励振の抑制に効果があると同時に,より振動振幅が大きい縦渦励振を誘導できるという点で,振動制御に適しているものと考えられる.縦渦とは主流に平行な回転軸を持つ渦である.柱状物体を流れの中に十字交差配置したときに,交差部付近からは形態の異なる二種の縦渦が周期的に流出することが知られている.この縦渦の流出周波数と上流円柱の固有振動数が一致すると,カルマン渦励振に類似したcross-flow振動が発生する.
 そこで本研究の目的は,柱状物体の振動に対する,下流に十字交差配置されたもう一つの物体の干渉効果を応用して,円柱あるいは角柱の振動を抑制あるいは積極的に誘導する方法を開発することにある.この方法は,振動物体および支持構造に変更を加える必要がなく,また既に振動している物体の下流からもう一つの物体を近づけて,非接触で,隙間のわずかな調整により振動制御(カルマン渦励振の抑制あるいは縦渦励振の誘導)ができる特長があり,上記を実現することが期待される.
 振動制御の目的に対しては,下流物体はより小さいことが望ましいので,流れに対する干渉が円柱より大きく単純な形状として帯状の平板が適当と考えられる.そこで本研究では,下流物体に幅wが,上流物体の代表長さd(円柱直径あるいは角柱の辺)以下の帯状平板を採用し,円柱あるいは角柱の下流に十字交差配置された平板による流れに対する干渉と上流柱状物体の振動制御特性を明らかにした.
 以下に本論文の概要を示す.

 第1章では,本研究の目的を上記のように定めるに至った背景,従来の研究についてまとめた.
 第2章では,実験結果を一般化するために必要な次元解析,振動論から導いた現象の力学的モデル,そのモデルに基づいた現象の支配的パラメータの導出,実際の渦励振現象を対象とした現象の予測方法について詳しく記した.
 第3章では,実験を行った風洞およびウォータートンネル等実験装置の説明と,行った実験の実施方法および条件について記した.
 第4章では,まず,固定された円柱の下流に十字交差配置された平板の,円柱近傍の流れに対する影響を調べるために可視化を行った.また縦渦流出に対する,隙間比s/dあるいは流速Uの影響を調べ,w/d = 0.50,0.63の場合にはtrailing vortex,necklace vortexの二種の縦渦が,w/d≧0.75の場合にはtrailing vortexが周期的に流出することがわかった.次に,弾性支持された円柱の振動挙動について,s/dを変化させた場合,Uを変化させた場合それぞれについて調べ,w/d = 0.50,0.63の場合には,二種の縦渦による縦渦励振を,w/d≧0.75の場合には,trailing vortexによる縦渦励振をそれぞれ観察した.下流に円柱を配置した場合に比べ,平板を配置した方がより遠方から振動制御が可能であることがわかった.また,同じ代表長さを持つ円柱と平板を比較すると,平板を用いた方がより広い縦渦励振領域を持つことがわかった.
 第5章では,角柱/平板系について調べた.まず,固定された角柱から流出する縦渦に対する下流平板の影響を調べた.その結果,角柱の側面近傍の流れは平板の影響を受け,隙間比s/dによって4種に変化することがわかった.また,角柱後流の速度変動周波数は,平板を無限遠から近づけていくと,あるs/dで不連続的に変化することがわかった.次に,弾性支持された角柱の下流に平板を十字交差配置し,その後流の時間的変化をタフト法によって可視化した結果,振動に同期して,縦渦が流出する様子が観察された.角柱には,渦励振とは振動メカニズムが異なるギャロッピングと呼ばれる振動が発生することがある.そこで渦励振,ギャロッピング双方について,s/dおよびUの影響を調べ,両者に対して,下流の十字交差配置された平板による抑制が可能であることがわかった.また,角柱にも縦渦励振を誘導することが可能であることがわかった.
 第6章で示す結論は以下の通りである.

 本研究により,十字交差配置された下流平板によって,カルマン渦励振とギャロッピングの両者の振動を抑制することが可能であることが示された.また円柱および角柱の両者に対して下流平板により縦渦励振を誘導することが可能であることが示された.振動制御のためには,円柱よりも平板を下流物体として採用した方がより効果的である.このことは,さらに形状を工夫することで,より小さい物体で振動制御が実現できる可能性を示している.
 この方法は,振動物体および支持構造に変更を加える必要がなく,また既に振動している物体の下流からもう一つの物体を近づけて,非接触で,隙間のわずかな調整により振動制御(カルマン渦励振の抑制あるいは縦渦励振の誘導)ができる特長があり,振動の抑制のみでなく,発電等の為に積極的に振動を誘導する新しい技術となることが期待される.

 本論文は「下流に配置された物体の干渉による柱状物体の振動制御」と題し,6章から構成されており,その目的は,下流物体の干渉効果を応用して,流れの中の円柱あるいは正方形断面柱(角柱)のcross-flow振動を制御する方法を開発することである.下流物体として,幅wが円柱直径あるいは角柱の一辺d以下の帯状平板を採用し,これを下流に十字交差配置することにより円柱,角柱の振動制御が可能であることを実験により明らかにしている.
 第1章「序論」では,流れの中の柱状物体の振動について概説し,研究の意義と目的を述べている.
 第2章「解析」では,次元解析と力学的モデルの導入により,現象の支配的パラメータを導出している.
 第3章「実験装置及び実験方法」では,風洞およびウォータートンネル等の実験装置,実験の方法,および実験条件について説明している.
 第4章「円柱/平板系の実験結果および考察」では,固定された円柱の下流に隙間sをあけて平板が十字交差配置されている系の近傍の流れ,および,上流円柱が弾性支持されている場合の円柱の振動挙動について調べ,次のような結果を得ている.w/d = 0.50,0.63の場合には,0 < s/d < 0.3でtrailing vortexの,0.3 < s/d < 0.6でnecklace vortexの周期的流出による渦励振が発生する.w/d = 0.75, 1.0の場合には, 0 < s/d < 0.3でtrailing vortexによる励振のみが観察される.下流物体としては,平板の方が円柱よりもカルマン渦励振の抑制および縦渦励振の誘導に有効である.
 第5章「角柱/平板系の実験結果および考察」では,十字交差配置の角柱/平板系についての実験結果から,次のような結果を得ている.交差部付近のカルマン渦流出周波数fv0は,下流平板を近づけると次第に小さくなり,s/d =1.6付近でカルマン渦流出が消滅する.これに替わり,0.6 < s/d < 1.6で低い周波数の縦渦が周期的に流出する.下流の平板は角柱のカルマン渦励振とギャロッピングの両者に対して抑制効果があり,また,縦渦励振を誘導することが可能である.
 第6章「結論」では以上により得られた成果を次の通りに要約して述べている.本研究により,十字交差配置された下流平板によって,その発生メカニズムが全く異なるカルマン渦励振とギャロッピングをともに抑制でき,また円柱および角柱の両者に対して下流平板により縦渦励振を誘導することが可能であることが示された.この方法は,振動物体あるいはその支持構造に変更を加える必要がなく,非接触で,隙間のわずかな調整により振動制御ができる特長があり,振動の抑制のみでなく,発電等を目的として振動を利用するための新しい技術となることが期待される.
 以上の内容より,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.

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