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マルチドメインキチナーゼ群の立体構造解析

氏名 毛塚 雄一郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第257号
学位授与の日付 平成18年12月6日
学位論文題目 マルチドメインキチナーゼ群の立体構造解析
論文審査委員
 主査 教授 野中 孝昌
 副査 教授 曽田 邦嗣
 副査 教授 森川 康
 副査 教授 城所 俊一
 副査 助教授 岡田 宏文

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第1章 序論 p.1
 1-1 キチナーゼ p.1
 1-2 キチナーゼの分類 p.2
 1-3 キチナーゼの立体構造と反応機構 p.5
 1-3-1 GHファミリー18 p.5
 1-3-2 GHファミリー19 p.9
 1-3-3 キチナーゼに付随する補助的ドメイン p.12
 1-4 キチナーゼの全長構造 p.14
 1-5 研究目的 p.18
 1-5-1 Bacillus circulansキチナーゼD(ChiD) p.19
 1-5-2 Streptomyces griseusキチナーゼC(ChiC) p.24
 1-5-3 Oryza sativa(イネ)キチナーゼ(Cht2) p.28

第2章 ChiD活性ドメインの構造解析に関する実験と方法 p.31
 2-1 CatDChiD結晶の作製 p.31
 2-2 重原子置換体結晶の調製と回折強度データの収集 p.31
 2-3 回折強度データの処理と差のパターソン図の作製 p.31

第3章 ChiD活性ドメインの立体構造解析 p.33
 3-1 CatDChiD結晶化 p.33
 3-2 回折強度データの処理と重原子結合の確認 p.34
 3-3 CatDChiDのX線結晶学的研究のまとめ p.36

第4章 ChiCの構造解析に関する実験と方法 p.37
 4-1 培養と精製 p.37
 4-2 結晶化条件の初期スクリーニングと最適化 p.38
 4-3 重原子置換体結晶(FormI)の調製と回折強度データの収集 p.38
 4-4 FormI結晶を用いた多重重原子同形置換法による位相決定 p.39
 4-5 分子モデルの構築および精密化(FormI結晶) p.39
 4-6 FormI結晶からの高分解能回折強度データ収集と分子モデルの構造精密化 p.39
 4-7 FormII結晶からの回折強度データの収集 p.41
 4-8 分子置換法による構造解析と分子モデルの構造精密化(FormII結晶) p.41
 4-9 溶液散乱強度データの収集とデータ処理(X線溶液散乱法) p.41
 4-10 溶液構造の構築 p.43
 4-11 MDシミュレーションの初期モデルの作製と平衡化 p.44
 4-12 トラジェクトリの解析 p.46

第5章 ChiCの立体構造解析 p.48
 5-1 ChiCの結晶化 p.48
 5-2 FormI結晶を用いたChiCのX線結晶構造解析 p.49
 5-3 FormI 結晶のSDS-PAGE p.54
 5-4 FormII結晶を用いたChiCのX線結晶構造解析 p.55
 5-5 X線溶液散乱から得られるパラメータ p.57
 5-6 シェイプモデリング p.58
 5-7 ChBDChiC/キトトリオースのMDシミュレーション p.61

第6章 ChiCの立体構造に関する考察 p.65
 6-1 FormI結晶中のChiCの全長構造 p.65
 6-2 FormIおよびII結晶中でのドメインの配置 p.66
 6-3 活性ドメイン(CatDChiC) p.67
 6-4 活性ドメイン表面のループの有無 p.68
 6-5 ChiCの触媒残基 p.71
 6-6 基質結合サブサイト p.72
 6-7 キチン吸着ドメイン(ChBDChiC) p.77
 6-8 CBMファミリー5に属するドメインとの比較 p.78
 6-9 スタッキングのジオメトリ p.80
 6-10 MDシミュレーションに基づくキチン吸着機構の提唱 p.81
 6-11 CBMファミリー5における芳香族アミノ酸の保存性 p.83
 6-12 Trp60の役割 p.85
 6-13 αキチンおよびβキチンに対する吸着機構 p.87
 6-13-1 αキチン p.88
 6-13-2 βキチン p.89
 6-13-3 αキチンとβキチンに対する吸着の比較 p.91
 6-14 ChiCの立体構造に関するまとめ p.91

第7章 Cht2の構造解析に関する実験と方法 p.94
 7-1 培養と精製 p.94
 7-2 結晶化条件の初期スクリーニングと最適化 p.95
 7-3 シュウ化ナトリウム置換体結晶(FormI結晶)の調製と回折強度データの収集 p.95
 7-4 FormI結晶を用いた単波長異常分散法による位相決定と改良 p.96
 7-5 FormI結晶からの高分解能回折強度データの収集 p.96
 7-6 分子モデルの構築および構造精密化 p.97
 7-7 FormII結晶からの回折強度データの収集 p.98
 7-8 分子置換法による構造解析と分子モデルの構造精密化(FormII結晶) p.98

第8章 Cht2の立体構造解析 p.99
 8-1 Cht2の結晶化 p.99
 8-2 FormI結晶を用いたCht2のX線結晶構造解析 p.100
 8-3 FormII結晶を用いたCht2のX線結晶構造解析 p.105
 8-4 FormIおよびFII結晶のSDS-PAGE p.106

第9章 Cht2の立体構造に関する考察 p.108
 9-1 FormI結晶中のCht2の全長構造 p.108
 9-2 リンカーの構造とドメインの配置 p.110
 9-3 各結晶化条件から得た全長構造の比較 p.111
 9-4 FormIおよびII結晶中のドメインの配置 p.113
 9-5 活性ドメイン(CatDCht2) p.115
 9-6 キチン吸着ドメイン(CatDCht2) p.118
 9-7 ChBDCht2/キトテトラオース複合体モデルの作製 p.119
 9-8 αキチンに対するキチン吸着機構 p.121
 9-9 αキチンとキトテトラオースに対するキチン吸着機構の相違 p.122
 9-10 Cht2の立体構造に関するまとめ p.124

総括 p.126

謝辞 p.129

参考文献 p.130

 キチナーゼは、Nアセチルグルコサミンがβ-1,4結合で連結したポリマーであるキチンの分解を触媒する酵素である。微生物をはじめ、植物、昆虫、およびヒトに至るまで様々な生物がキチナーゼを発現するが、その機能は生物種により異なる。本研究では、自然界に広く分布するキチナーゼの中でも、これまでに立体構造解析がなされていないタイプの細菌および植物キチナーゼ、特にマルチドメインキチナーゼの立体構造解析を行い、構造の観点から、その機能について考察して新たな知見を得ることを目的とした。まず、第1章では、キチナーゼの概要とこの分野における構造学的研究の進展状況について述べ、本研究で対象とする3種類のキチナーゼの位置付けと構造解析の意義を明確にした。以降の章では。それぞれのキチナーゼの研究方法と成果についてまとめた。
 第2、3章ではBacillus circulansキチナーゼDの活性ドメイン(CatDChiD)のX線結晶学的研究について記述した。CatDChiDの結晶化を行い、X線解析実験適した大きさと質を併せ持った単結晶の作製に成功した。多重重原子同形置換法による位相決定のために、ガドリニウム、鉛、エルビウムおよびセリウム置換体結晶から収集したデータは、ネイティブデータと有意な強度変化を示した。差のパターソン図上に観測された強いピークは重原子の結合を意味するものであり、今後、解析を進める上で非常に有効な置換体結晶を作製することができた。
 第4~6章では、Streptomyces griseusキチナーゼC(ChiC)の立体構造解析、および結果と考察について論述した。まず、キチン吸着ドメイン(ChBDChiC)と活性ドメイン(CatDChiC)からなるChiCの全長構造をX線結晶解析の手法により明らかにした。これはChiCが分類される糖質加水分解酵素(GH)のファミリー19における最初のマルチドメインタンパク質の立体構造であると同時に、植物以外の生物に由来するタンパク質の初めての立体構造でもある。解析に用いたFormI結晶中では、2つのドメインを結ぶリンカーの電子密度は、観測されず、この領域の自由が高いことが推察された。さらに、FormII結晶とのパッキングの比較から、異なった2つの結晶中では、ドメインの相対配置に違いがあることが明らかとなった。そこで、溶液中におけるChiCの全長構造の外形をX線溶液散乱法により決定し、その外形に、各ドメインの結晶構造を当てはめることで溶液中における全体構造を構築した。得られた構造では、FormI結晶中と同様に2つのドメインは空間的に隔てられていた。
 CatDChiCには、基質都合部位と考えられる、分子を貫く大きなクレフトが存在する。構造的に共通の二次構造を持つニワトリ卵白リゾチームとの比較およびキトヘキサオースとの複合体モデルの作製により、このドメインの基質結合サブサイトがリゾチームと同様6つあることを示した。また、分子動力学的シミュレーションを用いて、ChBDChiCにおけるキチン吸着機構を予測したところ、ドメイン表面に露出し、キチン吸着部位を形成するTrp59とTrp60を主体とした吸着機構が考えられた。さらに、αおよびβキチンの結晶表面への吸着を検討し、αキチンでは、Trp59とTrp60に加えて最大でAsn44,Gln62,Asn63,Glu64とAsp70の5つアミノ酸、βキチンでは、Asn44,Gln62とGlu64の3つアミノ酸の吸着への関与が考えられた。
 GHファミリー19に属するOryza sativaキチナーゼ(Cht2)のX線結晶構造解析とその結果および考察について、第7~9章で論述した。Cht2は、ChiCと同じく、キチン吸着ドメイン(ChBDCht2)と活性ドメインからなるマルチドメインキチナーゼである。決定したCht2の全長構造は、ChiCと合わせて、このファミリーにおける最初のマルチドメインタンパク質の立体構造解析列である。Cht2の場合も、ドメイン間のリンカーの電子密度を観測することはできず、リンカーの自由度が高いことが推察された。さらに、2種類の異なるパッキングの結晶中では、ドメインの相対位置が異なることも明らかとなり、2つのドメインの相対位置は可変であると考えられた。この状況はChiCと酷似していた。Cht2の触媒残基は、大麦キチナーゼで推定されているGlu67(プロトンドナー)とGlu89(求核性触媒)に対応するGlu154とGlu176であることが推察された。また、ChBDCht2とアミノ酸配列の相同性の高い植物レクチンと、キトテトラオースとの複合体結晶構造をもとに、ChBDCht2のキトテトラオースへの吸着モデルを作製し、αキチンの結晶表面への吸着の可能性を検討した。

 本論文は「マルチドメインキチナーゼ群の立体構造解析」と題し、9章により構成されている。本研究では、自然界に広く分布するキチナーゼのうち、これまでに立体構造解析がなされていない型の細菌および植物キチナーゼ、特にマルチドメインキチナーゼの立体構造解析を行い、新たな知見を得ている。
 第1章では、キチナーゼの概要とこの分野にこける構造学的研究の進展状況について述べ、本研究で対象とする3種類のキチナーゼの位置付けと構造の意義を明確にしている。
 第2および3章では、Bacillus circulansキチナーゼDの活性ドメインのX線結晶学的研究について記述している。差のパターソン図上に観測された強いピークは重原子の結合を意味するものであり、今後、解析を進める上で有効な置換体結晶の作製に成功している。
 第4~6章では、Streptomyces griseusキチナーゼC(ChiC)の立体構造解析、結および考察について論述している。最初に、キチン吸着ドメインと活性ドメイン(CatDChiC)からなるChiCの全長構造をX線結晶構造解析により明らかにしている。これはChiCが分類される糖質加水分解酵素(GH)のファミリー19における最初のマルチドメイン蛋白質の立体構造であると同時に、植物以外の生物に由来する蛋白質の初めての立体構造でもある。一方、溶液中におけるChiCの全長構造をX線溶液散乱法により決定している。その結果、CatDChiCには、基質結合サブサイトがリゾチームと同様6あることを見いだしている。また、分子動力学シミュレーションに基づき、Trp59とTrp60を主体としたキチン吸着機構を新たに提案している。さらに、結晶性αキチンに対する吸着では、これら2つのアミノ酸に加えて、最大で5つのアミノ酸、結晶性βキチンに対しては3つのアミノ酸の吸着への関与を予測している。
 第7~9章ではGHファミリー19に属するOryza sativaキチナーゼ(Cht2)のX線結晶構造解析、結果および考察について論述している。Cht2の全長構造は、ChiCと併せて、このファミリーにおける最初のマルチドメイン蛋白質の立体構造解析例である。構造に基づき、Cht2の触媒残基がGlu54とGlu176であることを推定している「。また、ChBDCht2のキトテトラオースの吸着モデルを作製し、結晶性αキチンの表面への吸着機構を提晶している。
 以上、ことから、本論文は学術的にも工学的にも貢献するところが大きく。博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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