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電極還元反応による高選択的炭素-炭素結合形成反応の開発に関する研究

氏名 合田 哲史
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第267号
学位授与の日付 平成15年3月25日
学位論文題目 電極還元反応による高選択的炭素-炭素結合形成反応の開発に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 西口 郁三
 副査 教授 塩見 知雄
 副査 教授 五十野 善信
 副査 助教授 竹中 克彦
 副査 助教授 河原 成元

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目次

総合序論 p.1

第一章 電極還元法を用いたgem-トリクロロ化合物とアルデヒド類のクロスカップリング反応 p.15
第一節 電極還元法を用いたgem-トリクロロ化合物と芳香族アルデヒド類のクロスカップリング反応 p.15
1. 緒言 p.15
2. 実験結果および考察 p.19
3. 実験操作および解析 p.32
4. 参考文献 p.39

第二節 電極還元法を用いたgem-トリクロロ化合物と脂肪族アルデヒド類のクロスカップリング反応 p.40
1. 緒言 p.40
2. 実験結果および考察 p.44
3. 実験操作および解析 p.49
4. 参考文献 p.54

第三節 α-クロロエポキシエステル類の有機合成への応用 p.55
1. 緒言 p.55
2. 実験結果および考察 p.57
3. 実験操作および解析 p.64
4. 参考文献 p.70

第四節 電極還元法を用いた非共益不飽和ケトン類の分子内環化反応におけるヘテロ原子の効果 p.71
1. 緒言 p.71
2. 実験結果および考察 p.75
3. 実験操作および解析 p.98
4. 参考文献 p.116

総括 p.117

謝辞 p.119

有機合成化学において官能基変換や、目的とする炭素原子への置換基導入と同様に最も重要な反応として位置付けられているものに炭素骨格形成が挙げられる。特に、炭素-炭素結合形成反応は有機合成化学の中核を担う反応として必要不可欠なものである。ところで、近年、人類の社会活動が自然環境に及ぼす影響が顕著になるに従い、有機合成化学の分野においても目的物をいかに無害にかつ短いプロセスで効率的に得るかということが重要な課題として広く認識されるようになりつつある。このような環境保全型の有機合成手法として、温和な反応条件のもと簡便な操作で目的物を得ることができる有機電極反応がある。
 有機電極反応は近年における活発な研究開発の成果や関連技術の進歩により目覚しい発展を遂げており、現在、有機合成および有機工業化学の新手法として確かな評価を受けつつある。この電子移動型反応は"電子"という清浄な反応試剤により開始される本質的には無公害のプロセスであり、しかも、反応活性種の生成はほとんど全ての場合において、常温・常圧の反応条件下での電子移動により行われる。また、酸化・還元反応もこの電子移動により可能となるため、従来の合成手法において必要とされてきた高温・高圧などの過激な反応条件や、有害かつ取扱いに格別の注意を要する重金属酸化剤や金属水素化合物のような還元剤などを必要としない。また、大量合成にも適していることなどから環境保全の問題においても従来の反応より優位である。
 そこで本論文では、有機電極反応の一種である電極還元反応により生成させたアニオン性反応活性種を利用した炭素-炭素結合形成反応について研究を行った。その結果、従来の手法には見られなかった新規の有機化学反応を見出すと共に、この反応手法を有用な有機合成反応へ応用・展開した。具体的には、簡便な無隔膜電解セル内で行う電極還元反応を利用した環化反応またはクロスカップリング反応により、有用性や付加価値が高い多官能性化合物である含ヘテロ原子シクロアルカノール類、α-クロロケトン類、α-クロロエポキシエステル類の選択的合成法を見出した。
 第1章では、gem-トリクロロ化合物と種々のアルデヒド類とのクロスカップリング反応についての研究を行った。本反応は反応性金属陽極を用いた簡便な無隔膜電解セル中にて行われ、陰極からの二度にわたる一電子移動と協奏的に起こる塩化物イオンの脱離により発生させたジクロロカルバニオンが共存する種々のアルデヒド類に求核攻撃することによりクロスカップリング反応が進行した。まず第一章第一節では、gem-トリクロロ化合物と種々の芳香族アルデヒド類からクロスカップリング反応を行うことで、対応するα-クロロケトン類を良好な収率で得ることに成功した。
 また第一章第二節では、gem-トリクロロ化合物としてトリクロロ酢酸メチルを基質に用いて種々の脂肪族アルデヒド類とのクロスカップリング反応を行うことにより、対応するα-クロロエポキシエステル類を立体選択的に合成することに成功した。本反応ではアルデヒドの置換基を芳香族から脂肪族へ変化させたことにより反応中間体の安定性が変化し、異なる生成物が得られたと考えられる。またこのような一分子内に塩素原子、エポキシ基およびエステル基という三つの異なる官能基を有する化合物を一度の反応で合成することは非常に興味深い反応であると考えられる。
 最後に、第一章第三節では前節において合成に成功したα-クロロエポキシエステル類の有機合成への応用を検討した。具体的には一分子内に異なる反応性の三つの官能基を持つα-クロロエポキシエステル類に種々の還元剤、有機金属試薬およびo-フェニレンジアミンなどを反応させることにより、この特異な化合物が有する反応性に関する考察を行った。
 第二章では、直接電解還元反応の報告例が極めて少ないヘテロ原子を結合鎖中に有する非共役反不飽和ケトン類の立体選択的分子内環化反応についての研究を行った。本反応は反応性金属陽極を用いた簡便な無隔膜電解セル中にて行われ、陰極からの一電子移動により発生させたケチルラジカルが分子内の炭素-炭素二重結合あるいは三重結合の内部炭素原子を位置選択的に攻撃することにより、ラジカル的に分子内環化反応が進行した。このようにして得られた3-ピペリジノール、4-ピロリジノール及び4-チアシクロアルカノール誘導体はいずれも医農薬中間体に多く見られる基本骨格であるため、用途の広い有機合成反応としての期待が持たれる。しかも、非共役エノン類から得られた環化生成物上に形成される二つのアルキル基の立体化学がcis配置優勢に得られたことは非常に興味深い結果であると考えられる。本章ではまた、結合鎖中に導入したヘテロ原子が反応の立体選択性に及ぼした影響について考察することで、このような高度な立体選択性を発現させる反応機構に関して以前に行った提案を実験的に証明する事に成功した。

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