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異種金属元素を固溶したα-オキシ水酸化鉄による重金属イオンの吸着・分離

氏名 楠山 貴広
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第299号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 異種金属元素を固溶したα-オキシ水酸化鉄による重金属イオンの吸着・分離
論文審査委員
 主査 助教授 佐藤 一則
 副査 教授 松下 和正
 副査 助教授 小松 俊哉
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 教授 野坂 芳雄

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目次
1章 緒言
 1.1 重金属排出の現状 p.2
 1.2 重金属類による健康に対する影響 p.8
 1.3 重金属の回収と再利用 p.9
 1.4 従来の重金属処理法 p.10
 1.4.1 水酸化物沈殿法 p.10
 1.4.2 フェライト生成-磁気分離 p.11
 1.4.3 硫化物沈殿 p.11
 1.4.4 磁性体法(鉄粉法) p.12
 1.5 吸着反応とイオン交換 p.12
 1.6 α-オキシ水酸化鉄(α-FeOOH)の結晶構造 p.13
 1.7 α-FeOOHの吸着特性 p.16
 1.8 異種金属元素を添加したα-FeOOH p.17
 1.9 本研究の目的 p.17
 References p.18

2章 硫化鉄からのAl3+固溶α-FeOOH粒子の作製と吸着挙動の検討
 2.1 はじめに p.21
 2.2 試料作製(Bernal,Taylorらの方法による作製) p.21
 2.3 作成試料のキャラクタリゼーション p.23
 2.3.1 X線回折(XRD)による作製試料の結晶相同定 p.23
 2.3.2 赤外分光測定 p.23
 2.3.3 熱分析 p.23
 2.3.4 透過電子顕微鏡を用いた結晶粒子形態の観察とエネルギー分散型X線分光法による元素分析 p.23
 2.4 キャラクタリゼーション結果 p.24
 2.4.1 X線回折による生成相の同定 p.24
 2.4.2 作製粒子の観察結果 p.26
 2.4.3 赤外吸収スペクトルによる結果 p.26
 2.4.4 熱分析による比較 p.32
 2.5 キャラクタリゼーション結果の考察 p.34
 2.5.1 α-FeOOHへのAl3+置換固溶の確認 p.34
 2.6 吸着特性の評価 p.35
 2.6.1 はじめに p.35
 2.6.2 実験操作 p.35
 (1)10mMPb2,Cu2,Zn2標準溶液の作製 p.35
 (2)緩衝溶液の調製 p.36
 (3)吸着試験溶液(Pb2,Cu2,Zn2共存溶液)の調製 p.36
 (4)吸着実験操作 p.36
 (5)濃度測定 p.37
 2.7 フレーム原子吸光高度法 p.38
 2.7.1 実験条件 p.38
 2.7.2 標準溶液の調製 p.38
 2.8 吸着実験結果 p.40
 2.8.1 Pb2,Cu2,Zn23成分混合系でのα-(Fe,Al)OOH吸着特性 p.40
 2.9 吸着実験結果の考察 p.42
 2.9.1 Al3+添加による吸着特性に対する影響 p.42
 2.9.2 吸着実験の再現性について p.42
 2.10 結論 p.42
 References p.43

3章 硝酸鉄からの異種金属イオン固溶α-FeOOH粒子の作製と吸着に対する第二相粒子の影響
 3.1 はじめに p.45
 3.2 試料作製 p.45
 3.2.1 Bohm法による試料の作製 p.45
 3.2.2 磁気分離を用いた試料の精製 p.46
 3.3 試料のキャラクタリゼーション p.48
 3.3.1 異種金属イオン含有量の測定 p.48
 3.3.1.1 はじめに p.48
 3.3.1.2 実験方法 p.48
 3.3.2 X線回折法による結晶相の同定 p.48
 3.3.3 レーザー回折散乱法による試料の粒度分布測定 p.48
 3.3.4 赤外分光法 p.49
 3.3.5 透過電子顕微鏡を用いた結晶粒子形態の観察とエネルギー分散型X線分光法による元素分析 p.49
 3.4 Mn3+含有量測定結果 p.49
 3.4.1 Mn3+含有量測定結果 p.49
 3.4.2 XRDによる結晶相の同定結果 p.50
 3.4.3 レーザー回折散乱法による粒度分布測定結果 p.50
 3.4.4 赤外分光法 p.50
 3.4.5 TEMによる試料観察とEDXによる元素分析 p.56
 3.5 La3+添α-FeOOH試料のキャラクタリゼーション結果 p.57
 3.5.1 XRDによる結晶相の同定 p.57
 3.5.2 赤外分光法 p.57
 3.6 Al3+添加α-FeOOH試料のキャラクタリゼーション結果 p.59
 3.6.1 XRDによる結晶相の同定 p.59
 3.7 作製試料のキャラクタリゼーションの考察 p.60
 3.7.1 Mn3+固溶α-FeOOH表面フェライトについて p.60
 3.7.2 赤外分光測定結果について p.60
 3.7.3 Mn3+添加試料の粒度分布測定結果について p.61
 3.8 吸着実験 p.63
 3.8.1 吸着試験溶液Pb2,Cu2,Zn2共存溶液の調整 p.63
 3.8.2 吸着実験操作 p.63
 3.8.3 濃度測定 p.63
 3.8.4 吸着実験前後の溶液pHの測定 p.64
 3.8.5 吸着実験結果 p.64
 3.8.5.1 第二相粒子の吸着実験結果 p.64
 3.8.5.2 磁気分離処理したα-(Fe,Mn)OOHの三成分混合系溶液における吸着実験結果 p.64
 3.8.5.3 α-(Fe,M)OOH(M=Al3+,Mn3+,La3+)のPb2吸着量の比較 p.65
 3.8.5.4 吸着実験前後の溶液pH測定の結果 p.65
 3.9 吸着実験結果の考察 p.68
 3.9.1 第二相粒子の吸着挙動 p.68
 3.9.2 磁気洗浄後α-(Fe,Mn)OOHの吸着挙動 p.69
 3.9.3 La3+添加α-FeOOHの吸着挙動 p.71
 3.10 結論 p.71
 References p.71

4章 α-FeOOHの重金属イオン吸着特性に及ぼす異種金属イオン固溶効果
 4.1 はじめに p.74
 4.2 試料作製 p.74
 4.2.1 Bohm法による試料の作製 p.74
 4.2.2 硫酸洗浄による試料の作製 p.75
 4.3 試料のキャラクタリゼーション p.77
 4.3.1 異種金属イオン含有量の測定 p.77
 4.3.2 XRDによる結晶相の同定、格子定数精密化 p.77
 4.3.3 TEMによる粒子形態の観察 p.77
 4.3.4 赤外分光法 p.77
 4.3.5 表面積測定 p.77
 4.3.6 昇温脱離法(TPD)による表面サイトの観察 p.77
 4.4 キャラクタリゼーション結果 p.78
 4.4.1 Mn含有量の測定 p.78
 4.4.2 XRDによる結晶相の同定結果 p.79
 4.4.3 異種金属元素添加α-FeOOHの格子定数精密化結果 p.79
 4.4.4 TEMによる結晶格子の観察 p.79
 4.4.5 赤外吸収スペクトル測定結果 p.79
 4.4.6 表面積測定結果 p.80
 4.4.7 NH3昇温脱離法による表面状態分析 p.80
 4.5 試料のキャラクタリゼーションの考察 p.90
 4.5.1 Mn2+添加試料のフェライト析出について p.90
 4.5.2 α-FeOOHへの異種金属元素固溶について p.90
 4.5.3 α-FeOOHに対するTPD測定の適用 p.91
 4.6 異種金属固溶α-FeOOHの重金属吸着特性の評価 p.94
 4.6.1 吸着実験方法 p.94
 4.7 異種金属固溶α-FeOOHの吸着実験結果 p.94
 4.7.1 α-FeOOHへの異種金属元素の固溶効果 p.94
 4.7.2 α-(Fe1-x,Mnx)OOHの吸着実験結果 p.94
 4.7.3 Y3+固溶α-FeOOHの吸着実験結果 p.95
 4.8 吸着実験の考察 p.102
 4.8.1 α-(Fe1-x,Mnx)OOHの吸着実験結果 p.102
 4.8.2 Y3+固溶α-FeOOHの吸着特性について p.102
 4.9 結論 p.105
 References p.105

5章 Mn3+固溶α-FeOOHの吸着サイトの評価
 5.1 はじめに p.107
 5.2 吸着実験 p.107
 5.2.1 試験溶液の作製 p.107
 5.2.2 吸着実験 p.107
 5.2.3 濃度測定 p.108
 5.3 吸着等温線の作製 p.108
 5.3.1 Langmuirモデルを用いた吸着等温線の作製 p.108
 5.3.2 二成分混合系への拡張 p.111
 5.3.3 新しい吸着サイトNへの仮定 p.114
 5.4 吸着等温線に対する考察 p.117
 5.4.1 吸着等温線からのずれについて p.117
 5.4.2 α-(Fe0.9,Mn0.1)OOHの新しい吸着サイトについて p.117
 5.5 結論 p.119
 References p.119

6章 総括

研究目録
 論文目録
 学会発表履歴
 謝辞

自然界に鉱物として存在するα-オキシ水酸化鉄(α-FeOOH)は、イオン交換作用により水質中の重金属イオン対して高い吸着能を示すことが知られている。α-FeOOH結晶格子を形成するFe3+の一部を異種金属元素に置換した場合、この置換金属イオンの種類および置換量に応じて、粒子表面電場の強さ、格子金属イオンの価電子状態、および格子空間サイズに変化が生ずる。これらの状態変化はα-FeOOHが示す重金属イオンに対する吸着序列に影響を及ぼし、特定重金属イオンの優先吸着をもたらす効果が期待できる。さらに、異種金属元素添加により析出する副生成物とα-FeOOHとの複合体粒子形成によって、新たな重金属イオン吸着特性を生じる可能性がある。
 本研究では、異種金属元素の添加による結晶格子中のFe3+の部分置換、および複合体形成の影響による、鉛(PbII)イオンの選択的吸着を目的とした。α-FeOOHを構成するFe3+とは電気陰性度およびイオン半径が異なり、さらに酸化数も一部異なる添加金属元素に着目し、遷移金属としてLa3+、Mn3+、Y3+、Zn2+、Ni2+を、典型金属としてAl3+を、それぞれ選択した。これらの添加金属元素とFe3+との価電子状態およびイオン半径などの差異によって生ずるα-FeOOH粒子の表面化学的変化に着目し、PbII、ZnII、CuIIイオンに対する吸着量と溶液pHの関係を検討した。その結果、水溶液中における混合重金属(PbII,CuII,ZnII)イオンに対するPbIIイオン選択的吸着を支配する因子としてα-FeOOH結晶格子の表面状態、およびα-FeOOH粒子合成時に析出する第二相粒子の役割を明らかにした。
 以下に、本論文の具体的内容を示す。
 第1章「緒論」では、本研究背景として環境中の鉛汚染の現状、鉛汚染による健康への影響、および現状の重金属処理法を示し、これらの特徴からα-FeOOHを用いた吸着法の利点を述べている。
 第2章「硫酸鉄からのAl3+固溶α-FeOOH粒子の作製と吸着挙動の検討」では、硫酸鉄(FeSO4)を出発原料としたα-FeOOHの作製法検討と、Al3+をα-FeOOH格子中のFe3+と置換固溶したα-(Fe,Al)OOHの重金属イオン(CuII,PbII,ZnII)に対する吸着特性について検討した。硫酸鉄を原料とする作製法では、Al3+の格子置換固溶が作製粒子に微細化をもたらし、粒子表面積増大にともなう重金属イオン吸着量の増加が起こることを示した。さらに、本作製法の吸着量測定におよぼす問題点を明らかにした。
 第3章「硝酸鉄からの異種金属イオン固溶α-FeOOH粒子の作製と吸着に対する第二相粒子の影響」では、硝酸鉄(Fe(NO3)3)を出発原料とした異種金属元素(Al,La,Mn)添加α-FeOOHを作製し、重金属イオンに対する吸着特性について検討した。Mn2+を添加したα-(Fe,Mn)OOHでは、試料中のMn3+濃度約2 mol%以上で鉛イオン吸着量が増加することを示した。これはMn2+添加により結晶表面に析出した微細な第二相粒子(Fe3O4、MnFe2O4、Fe(OH)3)の影響によることを明らかにし、Mn2+添加によるPbIIイオン吸着選択性の向上を見いだした。この機構について、赤外分光測定、粒子表面の等電点(PZC) 測定、および透過電子顕微鏡観察のそれぞれの結果から考察を行った。
 第4章「α-FeOOHの重金属イオン吸着特性に及ぼす異種金属元素の固溶効果」では、硝酸鉄を出発原料とする作製法により、Al3+,Mn2+,Ni2+,Y3+,Zn2+を0-10 mol%添加したα-FeOOHを作製し、重金属イオンに対する吸着特性について検討した。その結果、Mn2+を10 mol%含有した試料、およびY3+を5 mol%添加した試料において、鉛イオン吸着量が増加することを見いだした。Mn2+を含有した試料に対して行った吸着アンモニア分子の表面脱離測定および赤外吸収帯シフト測定に基づき、新たな表面吸着サイトの生成を実験的に明らかにした。
 第5章「Mn3+を固溶したα-FeOOHの吸着サイト評価」では、Langmuir式を用いて吸着等温線を作成し、Mn3+固溶によるα-FeOOH粒子表面における吸着サイトの変化について考察した。吸着イオン種に対する吸着平衡定数の変化から、PbIIイオンを優先吸着できる表面サイトの生成を示した。
 第6章「総括」では、マンガンを置換固溶元素とするα-オキシ水酸化鉄がPbIIイオンの優先的吸着を示し、異種金属元素の固溶が特定イオンの優先吸着サイトを生成する固体表面化学的な役割を明らかにした。

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