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γ型CMDの合成と応用

氏名 永浦 亨
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第7号
学位授与の日付 平成元年3月25日
学位論文の題目 γ型CMDの合成と応用
論文審査委員
 主査 教授 田邊 伊佐雄
 副査 教授 松下 和正
 副査 助教授 山田 明文
 副査 助教授 植松 敬三
 副査 助教授 鎌田 喜一郎
 副査 東京工業大学 教授 斎藤 安俊

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第1章 緒論 p.1
〔付属資料〕二酸化マンガンの結晶構造 p.7
文献 p.9
第2章 γ型CMD合成時の物理化学特性の調整 p.10
第1節 緒言 p.10
第2節 実験方法 p.10
1.重質MnCO3の粒度調整と供試MnCO3 p.10
2.MnCO3の水酸化 p.14
3.Mn(OH)2の空気酸化 p.14
4.空気酸化物のCl2ガス含有空気による追加酸化 p.14
5.追加酸化物の酸処理ならびに重質化処理 p.14
6.合成品の組成、物性およびX線回折 p.15
第3節 結果ならびに考察 p.16
1.MnCO3の粒度調整 p.16
2.MnCO3の水酸化、酸化ならびに重質化 p.18
3.合成品のX線の回折パターン p.23
第4節 本章の要約 p.25
文献 p.26
第3章 γ型CMDのZnCl2型電池における放電特性 p.27
第1節 緒言 p.27
第2節 実験方法 p.27
1.試料 p.27
2.湿電池での放電試験 p.28
3.単一型乾電池での放電試験 p.30
第3節 結果ならびに考察 p.30
1.湿電池中での放電特性および放電生成物 p.30
2.単一型乾電池での放電特性 p.33
3.乾電池での放電生成物の検討 p.36
4.γ型CMDのZnCl2型乾電池での放電反応の特徴 p.39
第4節 本章の要約 p.39
文献 p.40
第4章 Li-MnO2電池用正極活物質としての特性 p.42
第1節 緒言 p.42
第2節 実験方法 p.43
1.供試試料 p.43
2.脱水処理(熱処理) p.43
3.正極試験電池による放電試験 p.43
第3節 結果ならびに考察 p.47
1.γ型CMDの脱水特性 p.47
2.γ型CMD脱水物のLi-MnO2電池正極活物質特性 p.51
第4節 本章の要約 p.57
文献 p.58
第5章 重負荷放電用Li-MnO2一次電池への応用 p.60
第1節 緒言 p.60
第2節 実験方法 p.61
1.供試試料 p.61
2.放電試験 p.65
3.実用電池による放電試験 p.65
第3節 結果ならびに考察 p.66
1.乾式酸化CMDの特性 p.66
2.平均粒径8μmCMDの適正重質化 p.72
3.MnO2含有率とMnO2中のLi+イオンの拡散係数 p.74
4.重負荷放電用CR2032型電池での検討 p.76
第4節 本章の要約 p.77
文献 p.78
第6章 結論 p.79
本研究に関する論文発表 p.83
謝辞 p.84

 第1章 緒論
 1868年にLeclancheが発明したMnO2電池が、今日もなお一次電池生産数の70%以上を占め、さらに近年、高エネルギー密度の電池としてLi-MnO2電池も出現し、MnO2は電池材料として益々その重要性を増すと同時に、高性能化とコスト低減が強く望まれている。
 現在、電池用MnO2はその結晶系が放電特性に優れたγ型のEMD(Electrolytic Manganese Dioxide)が主に用いられているが、コスト低減に可能性が期待されるCMD(Chemical Manganese Dioxide)の合成法についても、古くから多くの研究があ。
 しかし、これまでのCMDは結晶形がγ-β型に属し、その放電特性についてはZnCl2型電池において、γ型MnO2であるEMDに比し重負荷放電性能が著しく劣るものであった。また、EMDに類似したγ型結晶のCMDの合成についても、これまでの方法で得られるγ型CMDは見掛け密度が著しく小さい(軽質である)ため、実用には欠けるものであった。
 ところが、田邊らによって新方式として、見掛け密度の高い(重質な)MnCO3を出発物資として、これを湿式酸化し、さらに硝酸処理により比較的重質な、γ型のMnO2とする方法をベースに、必要に応じてクロレート反応により重質化する方法で、EMDと同等以上のタップ密度でγ型結晶のよく発達したCMDの合成が、可能であることが明らかにされた。
 本研究では、この田邊らの新方式で合成可能な、γ型CMDの物理化学特性の調整可能範囲を明らかとし、合成品の物理化学特性と放電特性の関係を検討し、その応用面を明らかにしようとした。
 第2章 γ型CMD合成時の物理化学特性の調整
 MnCO3の平均粒径の調節と、重質化時のクロレート反応によるMnO2の生成比率の変更により、生成物の結晶構造並びにその物性は大幅に変化し得ることを明らかとした。MnCO3の粒径はパラレルチャージ反応温度の調節により8~80μm範囲に段階的に調整できることを確認し、さらにクロレート反応による重質化度の調節により、タップ密度、比表面積、ポアー容積、ポアーサイズ等を調節できることを確認した。また重質化処理によりEMDに比しγ型結晶が発達し、とくに粒径が小さい重質化処理品のγ型結晶の発達度合が高い傾向が認められた。
 第3章 γ型CMDのZnCl2型電池における放電特性
 本方式にて合成したγ-CMDは、塩化亜鉛型電池への適用において、在来法CMDの欠点であった重負荷放電特性が、結晶構造のγ型化により改善され、放電初期から中期にかけては、EMDの特徴をもち、また放電後期には在来CMDの特徴ともいうべきヘテロライト生成反応が起り、放電末期での電圧降下がEMDのそれより緩やかとなることを認めた。
 在来CMDのZnCl2型乾電池としての放電では、放電中期からヘテロライトを生成し、そのヘテロライトの生成と電圧回復現象(Voltage Recovery)が対応することを明らかにした。このVoltage Recoveryの解明は本研究が初めてである。
 第4章 Li-MnO2電池用正極活物質としての特性
 γ-CMD脱水物のLi-MnO2電池への適用においては、γ-CMD脱水物の重負荷特性が現在実用されているEMD脱水物のそれに比べ、非常にすぐれていることを明らかにした。その理由のひとつとして、γ-CMD脱水物の比表面積が大きいことがあげられる。
 MnO2の反応がLi+のMnO2中への拡散により律速されると仮定し、放電容量(Q)と比表面積(S)との理論関係式を(1)式として導き、γ-CMD脱水物の放電容量の実測値はこの理論式の成立をよく裏付けることを確認した。
 Q=FC*/ρ-I/2Dρ2S2 ……(1)
 ここでI:放電電流、F:ファラデー定数、C*:放電終了時のMnO2表面のLi+濃度、D:MnO2中のLi+イオンの拡散係数、p:MnO2の真密度である。(1)式により比表面積(S)の大きいMnO2が、正極活物質としての利用率が高いことが説明できる。
 第5章 重負荷放電用Li-MnO2一次電池への応用
 本章では、重負荷放電用に最適のCMD合成方法を明らかにするため、比表面積が非常に大きい乾式酸化法によるCMD、および高いMnO2含有率で合成可能な最小粒径の8μmγ-CMDについても検討し、重負荷放電特性は比表面積以外に、MnO2品位にも大きく影響されることを見い出した。QとSとの理論関係式(1)式は、比表面積のみならず拡散係数(D)の大きいMnO2が、正極活物質として利用率が高くなることを示している。
 この理論式と実測した放電容量および各試料の比表面積から、MnO2中のLi+の拡散係数(D)を求め、MnO2含有率(X)とDの間には(2)式の関係が成立することを見い出した。
 logD=0.18X-34 ……(2)
したがってMnO2含有率が高い程Li+の拡散係数が大きくなり、重負荷放電容量が大きくなると考えられる。
 平均粒径8μm、重質化度28%のγ-CMD脱水物は、MnO2含有率も本研究での検討試料中最高値を示すとともに、最大の重負荷放電容量を示した。この試料を正極活物質としたCR2032型Li-MnO2電池は、現行のEMD脱水物を使用した同型電池と比べ、300オームの連続放電において約1.7倍の放電時間を示した。
 第6章 結論
 以上のように本研究で検討したγ型CMDの合成方法では、物性の異なる種々のMnO2が合成可能であり、その合成品の塩化亜鉛型電池への適用では、従来のCMDの欠点であった重負荷放電特性が大幅に改善され、現行EMDと同等以上の性能を示し、またLi-MnO2電池への適用では、従来のEMDで達成し得ない大きな重負荷放電容量を示すことを明らかにした。

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