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Rhodococcus sp. RHA1のPCB分解系酵素遺伝子群の発現誘導メカニズムの解明

氏名 武田 尚
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第225号
学位授与の日付 平成16年6月16日
学位論文題目 Rhodococcus sp. RHA1のPCB分解系酵素遺伝子群の発現誘導メカニズムの解明
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 森川 康
 副査 助教授 解良 芳夫
 副査 助教授 岡田 宏文
 副査 助教授 政井 英司

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目次
略号一覧
序章 p.1

第1章 転写制御遺伝子bphS,bphTの解析 p.6
 1.1 緒言 p.6
 1.2 材料と方法 p.8
 1.2.1 培地・培養条件・使用菌株 p.8
 1.2.2 DNA操作 p.9
 1.2.3 エレクトロポレーション p.9
 1.2.4 ルシフェラーゼ活性測定 p.10
 1.2.5 塩基配列の決定 p.10
 1.2.6 in vitroでの発現 p.11
 1.2.7 RNAの単離 p.11
 1.2.8 RT-PCR p.11
 1.2.9 破壊株の作製 p.12
 1.2.10 Rhodococcus属からのtotal DNAの単離 p.12
 1.2.11 サザンハイブリダイゼーション p.12
 1.2.12 生育曲線 p.12
 1.3 結果 p.13
 1.3.1 bphB1下流Hind3断片の塩基配列の解析 p.13
 1.3.2 BphS,BphTの発現 p.13
 1.3.3 欠失クローンによるbphAlプロモーターの転写活性化 p.18
 1.3.4 誘導基質特異性 p.18
 1.3.5 bphSのプロモーターと転写 p.21
 1.3.6 bphS破壊株の作製 p.21
 1.3.7 bphS破壊株の生育 p.25
 1.4 考察 p.27

第2章 制御遺伝子の多様性 p.31
 2.1 緒言 p.31
 2.2 材料と方法 p.32
 2.2.1 使用した菌株 p.32
 2.2.2 使用したプラスミド p.32
 2.2.3 bphSホモログの単離 p.34
 2.2.4 欠失クローンの作製 p.34
 2.2.5 部位特異的変異導入 p.35
 2.2.6  Rhodococcusにおける融合タンパクとしての発現 p.36
 2.2.7 ウエスタンブロット p.37
 2.2.8 RT-PCR p.38
 2.2.9 破壊株の作製 p.38
 2.2.10 RCA1のBPH生育と制御遺伝子 p.38
 2.3 結果 p.39
 2.3.1 bphSホモログのクローニング p.39
 2.3.2 bphSホモログによるPbphalの転写誘導活性 p.39
 2.3.3 欠失クローンによる制御遺伝子の領域限定 p.39
 2.3.4 7.3kb ApaLI断片の塩基配列の解析 p.42
 2.3.5 bphS2のプロモーターと転写 p.42
 2.3.6 誘導基質特異性 p.48
 2.3.7 bphS2破壊株の作製 p.48
 2.3.8 bphS1,bphS2二重破壊株の作製 p.48
 2.3.9 破壊株の解析 p.52
 2.3.10 部位特異的変異導入によるBphSのアミノ酸置換 p.52
 2.3.11 部位特異的変異体の解析 p.56
 2.3.12 BphT1とBphT2のクロストーク p.56
 2.3.13 RCA1のBPH生育と制御遺伝子 p.60
 2.3.14 BphS1のBPH誘導に関与する領域 p.63
 2.4 考察 p.69

第3章 PCB分解系酵素遺伝子群の制御 p.71
 3.1 緒言 p.71
 3.2 材料と方法 p.72
 3.2.1 使用した菌株 p.72
 3.2.2 使用したプラスミド p.72
 3.2.3 プライマー伸長法による転写開始点の決定 p.73
 3.2.4 PbphAl領域のPCR p.73
 3.3 結果 p.75
 3.3.1 etbA4プロモーター領域の単離 p.75
 3.3.2 BPH/PCB分解系酵素遺伝子群の転写誘導 p.75
 3.3.3 etbAl,ebdAlの転写開始点 p.75
 3.3.4 PbphAlのコンセンサス配列 p.78
 3.4 考察 p.82
終章 p.83
謝辞 p.86
参考文献 p.87

本研究はBPH/PCB分解菌Rhodococcus sp. RHA1株のBPH/PCB分解系酵素遺伝子の発現誘導メカニズムの解明をおこなった。

 第1章ではPbphA1の転写制御遺伝子の構造と機能を明らかにした。RHA1の1100-kb線状プラスミド上のBPH/PCB分解系上流代謝酵素遺伝子bphA1A2A3A4C1B1下流に二成分制御系と相同性を示すbphS1とbphT1を見いだした。以前に作製されたPbphA1の転写をモニターするためにルシフェラーゼ遺伝子上流にPbphA1を持つレポータープラスミドへbphS1T1をつなぎ、BPH/PCB分解酵素遺伝子を持たないR. erythropolis IAM1399を異種宿主として用いてbphS1T1の機能解析を行った。bphS1T1はBPH, ETB, ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなど様々な芳香族化合物の存在下でPbphA1の転写を活性化することがわかった。bphS1T1を含む断片の欠失クローンの解析からPbphA1の転写誘導を担うのがbphS1で、転写を活性化するのがbphT1であることが示唆された。BPHによる転写誘導にはbphS1とbphT1の両方が必要で、それぞれSKとRRであることが強く示唆された。bphS1破壊株であるSDR1を構築してBPHでの生育を調べたところ、完全に生育能を失っていた。さらにbphS1をプラスミドで相補することで生育の回復が見られたことからbphS1はRHA1のBPHでの生育に必須な遺伝子であることがわかった。
第2章では、bphS1T1のホモログであるbphS2T2をRHA1から単離し、2つの転写制御遺伝子bphS1T1およびbphS2T2遺伝子の機能と特性について比較・解析を行った。etbA4上流に見つかったbphS2とbphT2はRHA1のbphS1, bphT1とアミノ酸レベルでそれぞれ91%, 97%の相同性を示し、bphS1T1と同様にPbphA1の転写を活性化することが明らかとなった。他のセンサーキナーゼとの相同性から自己リン酸化部位であると予想されたBphS1とBphS2それぞれの1411番目のHisを部位特異的変異導入により、Argに変更したところ、PbphA1の誘導活性を失ったことから1411番目のHisはSKの機能に重要な部位であることが示唆された。BphS1T1, BphS2T2両制御系ともに幅広い芳香族化合物に対して応答し、同様の基質特異性を示したが、興味深いことにビフェニルに対して活性を示すのはBphS1のみであることが判明した。BphS1T1とBphS2T2両制御系はRHA1株中でクロストークを起こす可能性が高いことが示された。BphS1とBphS2のBPHへの応答の違いを利用して基質認識に関与している領域を調べるためにハイブリッドセンサーキナーゼを構築した。SKは一般的にN末側にインプットドメインを持ち、基質認識や応答に関わっていることかが知られているが、BphS1-BphS2ハイブリッドセンサーキナーゼの解析によって、このBphSにおいても基質特異性の違いに関与している部位はN末から405アミノ酸中に存在することが強く示唆された。今後、この領域を改変することによってBphSの基質特異性の改変が可能になると思われる。例えば、BphSはパラクロロビフェニルに対して強い活性を示さなかったため、これに対して活性を示すように改変することによって、ビフェニルとの共代謝をしなくてもPCBを分解することの出来る菌の育種が可能になると思われる。また、基質特異性の改変によって、様々な芳香族化合物に対するバイオセンサーの構築が可能になると期待される。bphS1とbphS2の両破壊株はETBにおける生育能を失ったが、bphS2をプラスミドで相補することによりETBでの生育を回復したことからbphS2はRHA1において機能していることが示唆された。
 第三章では、bphA1A2A3A4C1B1を欠失したRHA1の変異体であるRCA1がbphS1T1も同時に失っていることを明らかにした。RCA1はbphS1T1をプラスミドで導入することにより、BPHでの生育能を示したことからbphA1A2A3A4C1B1と同様の機能を持つBPH分解系上流代謝酵素遺伝子の転写をBphS1T1が活性化している可能性が示唆された。etbA4上流からBPH, ETB誘導性のプロモーター領域としてPetbA4を単離し、さらにこれまでに芳香族化合物で誘導性を示すプロモーター領域としてRHA1から単離されたPbphA1, PetbD1, PetbA1, PebdA1を含めて5つのプロモーターをBphS1T1とBphS2T2が制御していることを明らかにした。etbA1, ebdA1の転写開始点を明らかにした結果、その上流にコンセンサス配列を見出すことに成功し、この配列はBphS1T1, BphS2T2制御下にある5つのプロモーター領域すべてにおいて見つかった。PbphA1のコンセンサス配列の欠失クローンはBPHによるBphS1T1の誘導活性とプロモーター活性を失っていた。この結果からコンセンサス配列は転写制御因子であるBphTの結合領域またはRNAポリメラーゼが結合する領域であることが示唆された。今後はゲルシフトアッセイ、フットプリントアッセイなど、in vitroでの実験を通してBphTとプロモーター配列の結合様式について詳しい研究が可能になると思われる。
 以上の様に、本研究はこれまで知見の少なかった芳香族を感知する二成分制御系タンパク質について解析を行い、RHA1株におけるビフェニル分解酵素遺伝子群の転写誘導機構に関する新たな知見を加えた。本研究の成果は、今後のBphST制御系のさらなる詳細な解析、及びbphST遺伝子の芳香族センサーとしての応用に大きな可能性を開拓した。

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