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気化熱冷却を用いた切削加工

氏名 Trupng Hong Minh
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第279号
学位授与の日付 平成15年8月31日
学位論文題目 気化熱冷却を用いた切削加工
論文審査委員
 主査 助教授 田辺 郁男
 副査 教授 久我神 煌
 副査 教授 柳 和久
 副査 教授 青木 和夫
 副査 長岡工業高等専門学校 校長 高田 孝次

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目次

第1章 緒論
1.1 地球環境への切削油剤の影響と現状 p.1
1.2 従来の研究状況と本論文の目的 p.1
1.3 本論文の構成 p.2

第2章 緒論
2.1 緒言 p.4
2.2 気化熱冷却の考え方 p.4
2.3 旋削加工を用いた評価 p.10
 2.2.1 水の供給装置 p.11
 2.2.2 工具寿命への影響 p.15
 2.2.3 加工精度への影響 p.17
 2.2.4 切削条件の影響 p.22
 2.2.5 工作物材質の気化熱冷却適合性 p.31
 2.2.6 工具材質の気化熱冷却適合性 p.33
2.4 結言 p.36

第3章 旋削加工以外の加工への気化熱冷却の適用
3.1 緒言 p.37
3.2 ドリル加工 p.37
 3.2.1 水の供給装置とNCプログラム p.37
 3.2.2 発生説量計算と最適水量推定 p.42
 3.2.3 穴あけ加工に気化熱冷却を用いた切削の効果 p.45
3.3 正面フライス加工 p.48
 3.3.1 水の供給装置とNCプログラム p.48
 3.3.2 発生説量計算と最適水量推定 p.51
 3.3.3 正面フライスに気化熱冷却を用いた切削の効果 p.54
3.4 切断加工 p.57
 3.4.1 水の供給方法・予備実験 p.57
 3.4.2 最適な水供給方法の決定 p.60
 3.4.3 切断加工による気化熱冷却削の効果 p.64
3.5 結言 p.65

第4章 自動化のための気化熱モデルの構築とその評価
4.1 緒言 p.66
4.2 最適供給水量計算のための気化熱冷却モデルの確立 p.66
 4.2.1 切削発熱の工具流入熱量の計算 p.66
 4.2.2 水蒸気モデルを用いた見かけ上の熱伝達率の計算 p.67
 4.2.3 有限要素法解析を用いた最適供給水量の計算 p.72
4.3 最適供給水量の評価実験 p.75
 4.3.1 最適供給水量計算のための気化熱冷却モデルの評価 p.75
 4.3.2 さまざまなパラメータに対する気化熱冷却モデルの評価 p.78
4.4 結言 p.81

第5章 気化熱冷却を用いた加工の環境へのやさしさの評価
5.1 緒言 p.82
5.2 コストへの影響 p.82
 5.2.1 コストの計算式 p.82
 5.2.2 コストの計算結果 p.83
5.3 地球環境への影響 p.84
 5.3.1 排出ガス計算式 p.84
 5.3.2 排出ガス計算のまとめ p.85
5.4 環境のための新気化熱冷却の提案 p.87
 5.4.1 新気化熱冷却の概要 p.87
 5.4.2 有限要素法を用いた強度的・機能的評価 p.87
 5.4.3 新しい水供給による気化熱冷却の評価 p.91
5.5 結言 p.99

第6章 結論 p.100

参考文献 p.102

謝辞 p.103

21世紀において生産活動を行う場合,地球環境の保全に十分な配慮をしながら製品の設計や加工を行うことが必要である.また,地球環境に大きな負荷を与えるような生産に対しては,生産者が大きなリスクを負うことや制裁を受けることが当然となりつつある.しかし,加工現場では切削油剤を使用した加工が,工具寿命の向上,工作面性状の向上などの目的でよく用いられる.そして,この切削油剤を多量に用いた湿式加工が作業者の健康を害することや地球環境へCO2・NOx・SOxを排出し,悪影響があることが指摘されている.
 本研究では,環境負荷の大きな切削油剤を使用せず,しかも工具寿命,工作物性状,加工精度を向上させることのできる切削加工の提案を目的とし,水の蒸発による気化熱冷却現象を用いた切削を考案した.この切削は加工終了後に工作物と工作機械に水を残さないことが前提である.本論文の内容に関して,各章ごとに以下に説明する.
第1章「緒論」では,本研究の背景,目的,従来研究との関連を説明し,気化熱冷却を用いた切削加工の必要性,その新規性について述べている.
第2章「気化熱冷却の考え方と旋削加工を用いた評価」では,気化熱冷却の考え方,その効果について有限要素法解析の結果を用いて説明し,さらに,気化熱冷却を用いた旋削加工で,工具寿命・加工精度・切削条件・工作物材質・工具材質について評価実験を行った.その結果として,(1)気化熱冷却で水の供給パルス数を大きくすれば、構成刃先の成長が抑制され、その表面粗さは乾式切削程度まで改善できること,(2)超硬を用いた工具寿命試験の結果,乾式切削に比べて重切削では5倍,中・仕上げ切削では2~3倍に工具寿命が伸びること,(3)加工条件,工作物材質,工具材質の種類にかかわらず,気化熱切削によって円筒度と寸法精度が改善されること,(3)サーメット工具では靭性が低いため気化熱冷却の熱衝撃によって工具寿命がむしろ短かったことをそれぞれ明らかにした.
第3章「旋削加工以外の加工への気化熱冷却の適用」では,旋削以外の工具としてドリル加工,正面フライス加工,切断加工について,それぞれの工具に適した水供給方法とそれを制御するNCプログラムを検討し,評価した.その結果として,(1)穴あけ加工では,ドリルのスルーホールが利用でき,しかも加工部が穴先端であるために水の飛散が少ないことから,効果的な水供給が可能であり,工具寿命が乾式加工に比べて2倍伸びること,(2)正面フライスによるフライス加工は,チップに水を貯めておく器具を取り付けたものの,遠心力が影響し供給可能な水量が少量となったため,工具寿命は乾式加工の50%しか伸びなかったこと,(3)丸鋸刃による切断加工では,カバーを設けそこへ直接水ミストを供給する方法で,工具寿命が乾式切断の8倍に伸びたこと,(4)気化熱冷却を用いた切削加工のための水供給NCプログラムは有効に利用できることをそれぞれ明らかにした.
第4章「自動化のための気化熱モデルの構築とその評価」では,複数切削条件の連続加工に対してこの気化熱冷却切削を適応することを目的として,最適供給水量を計算するためのモデルを構築し,その有効性を実験によって評価した.その結果として,(1)計算モデルは精度よく工具温度上昇を模擬できたこと,(2)構築した計算モデルは最適供給水量を把握するための目安となり,複数切削条件の連続加工の際の供給水量を計算するために有効に利用できることをそれぞれ明らかにした.
第5章「気化熱冷却の環境に対するやさしさの評価」では,本手法を用いた場合のコスト計算と地球への物理的汚染状況の計算を行った.さらに,この気化熱冷却を用いた切削を地球環境に対して完全にやさしい加工にするために,旋削の場合に関して新して気化熱冷却方法も提案した.その結果として,(1)気化熱冷却を用いた切削は,湿式切削に比べてコストが1/15以下であり,経済的な冷却方法であること,(2)気化熱冷却を用いた切削は,湿式切削に比べてCO2排出量1/3以下,SOx排出量1/65以下,NOx排出量2/3以下であり,地球環境にやさしい冷却方法であること,(3)重力と大気圧を利用して水を供給する新しい方法は,オイルミスト装置を流用した気化熱切削と同程度の冷却効果を有しており,電気エネルギーを使用しない点を考慮すれば,地球環境に対してきわめてやさしい加工であることをそれぞれ明らかにした.
第6章「結論」では,本研究で得られた結果をまとめた.その中で,本手法は切削油剤を使用することなく,しかも加工特性と工作物性状の向上に寄与できることを明らかにし,総合評価として工業的に有効性であることを確認した.

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