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対光縮瞳反射を利用した新しい痴呆評価システムの実験的研究

氏名 史 学敏
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第237号
学位授与の日付 平成14年3月25日
学位論文題目 対光縮瞳反射を利用した新しい痴呆評価システムの実験的研究
論文審査委員
 主査 教授 福本 一朗
 副査 教授 山元 皓二
 副査 教授 渡邊 和忠
 副査 助教授 高原 美規
 副査 岡崎国立共同研究機構生理学研究所 教授 伊佐 正

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第1章 緒言 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 研究の目的 p.3
1.3 論文の構成 p.4
第2章 痴呆評価システムの構築 p.5
2.1 はじめに p.5
2.2 痴呆評価システムの考案 p.5
2.3 予備実験 p.10
2.4 臨床実験 p.12
2.3.1 被験者 p.12
2.3.2 対光反射の比較結果 p.14
2.3.3 対光縮瞳反射と痴呆重症度との相関 p.20
2.5 考察 p.20
2.6 まとめ p.21
第3章 DHAの痴呆改善・予防効果の評価 p.23
3.1 はじめに p.23
3.2 実験 p.24
3.2.1 DHAの投与方法 p.24
3.2.2 評価方法 p.25
3.3 結果 p.25
3.3.1 知的機能における結果 p.25
3.3.2 生理的機能における結果 p.25
3.4 考察 p.33
3.5 まとめ p.33
第4章 痴呆評価システムの改良 p.35
4.1 はじめに p.35
4.2 改良型実験装置 p.35
4.3 実験方法 p.42
4.3.1 被験者 p.42
4.3.2 計測手順 p.42
4.3.3 解析指標 p.44
4.4 結果 p.45
4.5 考察 p.50
4.6 重判別分析 p.50
4.6.1 痴呆群とNCの2群における判別結果 p.50
4.6.2 DAT,CVDとNCの3群におげる判別結果 p.51
4.6.3 考察 p.51
4.7 まとめ p.52
第5章 光刺激による痴呆リハビリ訓練効果 p.53
5.1 はじめに p.53
5.2 訓練実験 p.54
5.2.1 訓練方法 p.54
5.2.2 訓練対象 p.56
5.2.3 評価方法 p.56
5.3 結果 p.57
5.3.1 HDS-Rにおける結果 p.57
5.3.2 対光縮瞳反射における結果 p.61
5.4 考察 p.66
5.5 まとめ p.67
第6章 眼球運動による痴呆の評価 p.69
6.1 はじめに p.69
6.2 眼球迫跡運動計測システム p.69
6.3 予備実験 p.70
6.3.1 被験者 p.70
6.3.2 解析パラメータ p.71
6.3.3 予備実験の結果 p.71
6.4 まとめ p.76
第7章 結論 p.77
7.1 本研究のまとめ p.77
7.2 今後の課題 p.79
謝辞 p.81
参考文献 p.83
本研究に関わる研究業績一覧 p.91

本論文では新しい痴呆評価システムの開発を目的として,対光縮瞳反射を用いる方法を構築し,また一連の臨床実験を行い同手法の痴呆評価有効性を確認した。
 第1章では,研究の背景と論文の目的を述べた。
 第2章では,対光縮瞳反射を用いた痴呆簡易評価システムを試作し,その有効性を検討する臨床実験を行った。同システムでは無害な可視光を利用し,その光を被験者の目に照射し,赤外線カメラで被験者の瞳孔の様子を観察しながらコンピュータに取り込み解析した。痴呆患者は健常高齢者より,縮瞳率が有意に小さく,縮瞳時間が有意に長いという違いが示された結果から,対光縮瞳反射を用いた本システムは痴呆の客観的評価に有効であるといえた。一方,まだ開発最初の段階にある同システムには,刺激光の定量化が困難であることや,全ての解析が手作業でありその自動化を実現することなどが課題に残った。
 第3章では,提案された痴呆評価システムの臨床応用として,最近注目されている機能性食品の一種であるDHAの痴呆予防・改善効果を評価する臨床実験を行った。健常高齢者または痴呆患者はDHA添加豆乳を6ヶ月間摂取した結果,知的機能のHDS,HDS-R,MMS得点と生理的機能の対光縮瞳反射ともに改善がみられた。これらの結果からD冊には痴呆の予防及び改善効果があると示唆される一方,今回開発した対光縮瞳反射を利用した痴呆評価システムが臨床現場における試験方法としても有用であることをも証明した。
 第4章では,これまでに開発してきた痴呆評価システムの改良を行い,新システムの痴呆評価有効性を検証する臨床実験を行った。より精密な眼球撮像のために,対光反射誘発用の光源として白色フラッシュLED,暗黒条件でも撮像可能な眼球を照らす赤外線LED,および赤外線に感度をもつCCDカメラとから構成される眼鏡型の計測装置を試作したシステムを構築した。CCDカメラで得られた眼球画像は画像処理計算機において白黒二値画像に変換され,瞳孔径を計算した。得られた瞳孔径変動データはパーソナルコンピュータ内に保存可能であり,計測後表計算ソフトExce1などを用いてオフライン分析を行った。改良したシステムでは刺激光を定量化でき,解析の自動化をも実現できた。100msのフラッシュ照射光を用いた対光縮瞳反射において,主に初期瞳孔径,潜時,縮瞳量,縮瞳速度および散瞳速度の五つのパラメータが特に有効であることが確認できた。さらに判別分析の結果,痴呆の正判別率は87.9%,健常高齢者の正判別率は96.9%となり,全体の正判別率は90.5%と非常に高い値を得られた。改良したシステムにより自動解析が可能になり,より正確かつ迅速に縮瞳反射を評価することが可能になった。以上のことから,対光縮瞳反射を用いたシステムの高い信頼性が証明されたともに,実用的な痴呆評価手法となることが示され,その実用化も期待できると考えられる。
 第5章では,痴呆のリハビリを目指し,光刺激の痴呆リハビリ可能性について検討を行った。光刺激を与えることによって脱落した神経細胞自体が再生することは期待できないものの,新たなシナプスの産生を促して,残された神経細胞の活性化による脳機能の回復が期待できると考えられるため,リハビリの視点からその意義を考察した。無害な光刺激を用いた訓練を行った結果,HDS-R得点の下降した者が皆無であり,変動なしの患者が12名で,3点以上上昇した患者が8名であった。対光縮瞳反射においても平均瞳孔径,潜時,縮瞳量,縮瞳時間,縮瞳速度及び散瞳速度全てのパラメータにおいて改善の傾向がみられた。特に痴呆患者の対光縮瞳反射の潜時は訓練前の0.263±0.048秒から,訓練後の0.239±0.054秒に短縮し,正常の場合の0.200秒には至らないものの,有意な減少が得られたことは興味深いといえよう。以上の実験結果から,光刺激は痴呆のリハビリに有効であると考えた。
 第6章では,異なる痴呆疾患間の鑑別診断を最終目的とした眼球追跡運動生理的指標の有用性に対する予備実験が行われた。眼球追跡運動計測システムは,第4章に述べた対光縮瞳反射計測システムの眼鏡型計測器内に小型ディスプレイが新たに装着され,パソコンによりプログラムされた指標の映像がこのディスプレイ上にも表示される。アルツハイマー型痴呆患者では追跡指標速度が速くなるにつれて潜時が短縮すると同時に平均追跡速度も速くなった。しかし健常高齢者または健常学生に比較すれば,潜時も有意に長く,また平均追跡速度も有意に遅いことが判明した。このことから,眼球追跡運動から得られた諸パラメータはアルツハイマー型痴呆患者の特徴を記述できる有用な生理的指標であることが示唆された。
 客観的な対光縮瞳反射が,従来主観的にのみ評価されていた痴呆と強く関連した事実は注目に値する。そのため対光縮瞳反射を用いた本システムは痴呆のリハビリテーションや,さらに広く脳の高次精神機能効果の評価などにも応用することが期待できる。対光縮瞳反射という純生理学的指標を用いた新しい痴呆評価手法の提案は将来性に富むものといえよう。

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