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鍛造加工の変形シュミレーションと材質予測法に関する研究

氏名 李 明哲
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第18号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 鍛造加工の変形シミュレーションと材質予測法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 小林 勝
 副査 教授 吉谷 豊
 副査 教授 矢田 敏夫
 副査 助教授 宮田 保教
 副査 東京大学 助教授 鈴木 俊夫

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目次
緒論 p.1
1 研究の背景 p.1
2 従来の研究 p.3
3 本研究の目的及び内容 p.5
参考文献 p.7
第1部 鍛造加工の変形シミュレーションに関する研究 p.13
第1章 変形シミュレーションの基本理論及び方法 p.14
1.1 緒言 p.14
1.2 弾塑性力学の基本理論 p.15
1.2.1 基礎方程式 p.15
1.2.2 仮想仕事の原理 p.18
1.2.3 弾塑性マトリックス p.19
1.3 大変形弾塑性理論 p.20
1.3.1 基礎方程式 p.20
1.3.2 仮想仕事の原理 p.22
1.4 シミュレーションの基本方法 p.23
1.5 結言 p.25
参考文献 p.27
第2章 据込み鍛造加工の変形シミュレーション p.28
2.1 緒言 p.28
2.2 シミュレーションの方法及び条件 p.29
2.3 要素分割方法の効果 p.33
2.4 加工硬貨率の影響 p.39
2.5 摩擦係数の影響 p.43
2.6 H/D依存性 p.53
2.7 結言 p.53
参考文献 p.57
第3章 回転鍛造加工の接触領域 p.59
3.1 緒言 p.59
3.2 接触領域のシミュレーション p.60
3.2.1 モデル化及び基礎的仮定 p.60
3.2.2 シミュレーション方法 p.61
3.2.3 シミュレーション結果 p.63
3.3 接触領域の理論式 p.67
3.3.1 幾何学的関係 p.67
3.3.2 理論式 p.69
3.3.3 計算結果 p.70
3.4 結果と考察 p.71
3.4.1 三つの方法の比較 p.71
3.4.2 据込み量が変化する場合の接触領域 p.71
3.4.3 弾性変形を考慮する場合の接触領域 p.74
3.4.4 実験結果との比較 p.76
3.5 結言 p.79
参考文献 p.79
第4章 回転鍛造加工の3次元変形シミュレーション p.82
4.1 緒言 p.82
4.2 シミュレーション方法 p.83
4.2.1 モデル化及び基礎的仮定 p.83
4.2.2 解析方法 p.83
4.2.3 解析条件 p.85
4.3 シミュレーション結果及び考察 p.85
4.3.1 変位の解析結果 p.85
4.3.2 相当塑性ひずみ分布 p.86
4.3.3 通常鍛造との比較 p.92
4.4 結言 p.96
参考文献 p.96
第2部 鍛造加工の材質変化及び材質予測法に関する研究 p.99
第5章 冷間据込み鍛造における材質変化の研究 p.100
5.1 緒言 p.100
5.2 冷間鍛造の材質変化に関する実験方法 p.103
5.2.1 実験用材料 p.103
5.2.2 実験方法 p.103
5.2.3 硬度測定及び組織観察 p.106
5.3 冷間鍛造の材質変化に関する実験結果 p.108
5.3.1 硬度分布 p.108
5.3.2 組織状態 p.108
5.4 変形シミュレーションによる相当塑性ひずみ分布 p.115
5.5 相当塑性ひずみ分布と材質の対応関係 p.115
5.5.1 相当塑性ひずみと硬度の関係 p.115
5.5.2 相当塑性ひずみと結晶粒変形状態の関係 p.119
6.6 結言 p.124
参考文献 p.124
第6章 熱間、温間鍛造加工における材質変化の研究 p.127
6.1 緒言 p.127
6.2 熱間、温間鍛造の材質変化に関する実験方法 p.128
6.3 熱間、温間鍛造の材質変化に関する実験結果 p.130
6.3.1 硬度分布 p.130
6.3.2 組織変化 p.130
6.4 変形シミュレーションによる相当塑性ひずみ分布 p.136
6.5 加工温度、ひずみ分布と材質変化の対応関係 p.139
6.6 温度とひずみ制御による材質制御の構想 p.142
6.7 結言 p.144
参考文献 p.145
第7章 鍛造加工における材質のシミュレーション p.147
7.1 緒言 p.147
7.2 基礎実験 p.148
7.3 材質変化の定式化 p.149
7.4 材質のシミュレーション及び検討 p.157
7.5 結言 p.161
参考文献 p.164
総括 p.166
1 研究のまとめ p.166
2 今後の展望 p.170
謝辞 p.172
発表論文の一覧 p.173

 本論文では、鍛造加工の変形シミュレーションを行って、加工プロセスにおける変形挙動を明らかにし、さらに鍛造加工中に生じる材質の変化について調べ、シミュレーション手法を用いて材質を予測する方法を検討した。
 「緒論」では、研究の背景と従来の研究に対する概説を通じて、変形シミュレーションと材質シミュレーションの問題点を明らかにし、本研究の意義と目的を叙述した。
 第1部「鍛造加工の変形シミュレーションに関する研究」では、大変形弾塑性有限要素解析を基本手法として、鍛造加工プロセスの変形シミュレーションに関する検討を行い、被加工材が塑性変形中に示す挙動を調べた。
 第1部第1章では、変形シミュレーションの基本手法である弾塑性有限要素法で取り扱う基礎理論及び基本方法について記述した。微小変形弾塑性理論の基礎方程式であるつりあい条件式、ひずみと変位の関係式、応力とひずみの関係式などをまとめており、仮想仕事の原理と弾塑性マトリックスを記述し、つづいて大変形弾塑性理論に関して述べた。そして、本研究で用いたシミュレーションの基本方法について記述した。
 第1部第2章においては、円柱の軸方向据込み鍛造における変形シミュレーションを行って、要素分割方法、被加工材の加工硬化率、工具と被加工材の間の摩擦条件、高さ対直径の比が変形挙動に及ぼす影響を検討した。まず、接触/摩擦要素を使って摩擦条件を考慮し、変形が著しい要素についてはメッシュ細分化を行った要素分割方法の妥当性が確認できた。そして、円柱中心部に近い要素ほど、異なる加工硬化率による変位と相当塑性ひずみの差異が大きいことを明らかにした。加工硬化が激しい材料は加工硬化が少ない材料に比べて、変形が均一となる傾向があることも解明した。また円柱据込み鍛造において、変形挙動に一番大きい影響を与える要因は、工具と被加工材の間の摩擦条件であり、μ=0で変位とひずみ分布は均一であるが、接触摩擦が大きくなるにつれて変形は不均一なものとなり、圧縮と共に膨らみを生じ、円柱の中心部と端面角部で最も大きい変位とひずみの差異が見られることを明らかにした。そのほか、同じ圧下率で高さ対直径の比が1の時円柱R軸上のひずみ分布は最も著しい不均一性を見せることを明らかにした。
 第1部第3章では、回転鍛造加工の理論的展開に最も基礎的な被加工材と工具の接触領域について検討を行った。まず、シミュレーション手法を用いて回転鍛造における接触領域を正しく求める方法を提案し、被加工材と工具の幾何学的関係から接触領域を求める理論式を導出した。次に、実際の接触領域は被加工材と工具の弾性変形に大きく依存することを示しており、弾性変形量を考慮した理論式を導出し、計算結果が実験結果とよく一致することを確認した。また、据込み量が変化するとき、接触領域の曲線は上型の進行方向では回転の始めの据込み量で計算した結果とほぼ等しく、反対側では回転終わりの据込み量で計算した結果と一致することを解明した。さらに、被加工材と工具の弾性変形が接触領域に及ぼす影響は上型揺動軸の傾斜角が小さい場合に大きいことを明らかにした。
 第1部第4章においては、3次元弾塑性有限要素解析法を用いて、複雑な回転鍛造加工における変形シミュレーションを行い、回転鍛造と通常鍛造の結果について比較検討を行った。その結果、回転鍛造加工における被加工材の変位と相当塑性ひずみ分布は通常の据込み鍛造と著しく異なり、非軸対象となることを明らかにした。被加工材のX軸とY軸に沿う切断面上の相当塑性ひずみの分布は明らかに異なっているが、上表面と下表面の分布には大きい差異が見られない。一方、回転鍛造における被加工材の相当塑性ひずみ分布は通常の鍛造より最大値と最小値の差異が少なくなり、均一変形により近い結果を表す。また、回転鍛造加工では異なった値の上型傾斜角と1回転当りの据込み量を取る方法によって、かなり異なった変形挙動と相当塑性ひずみの分布が得られることを明らかにした。
 第2部「鍛造加工の材質変化及び材質予測法に関する研究」では、鍛造加工における材質の変化を実験的に求め、材質の加工条件の対応関係を調べており、材質シミュレーションの方法を検討した。
 第2部第5章においては、冷間鍛造プロセスに対する材質の変化を調べる実験を行って、鍛造加工における試料の硬度分布、結晶粒の変形状態を求め、シミュレーションにより得られた相当塑性ひずみとの関係を調べ、加工による材質の変化を評価する方法を検討した。この研究を通して、冷間鍛造の場合被加工材内部の硬度分布と相当塑性ひずみには一定の対応関係があることを明らかにした。そして、冷間鍛造加工では被加工材内部の結晶粒度は相当塑性ひずみが大きくなってもほとんど影響を受けないが、結晶粒の変形度と相当塑性ひずみはよく対応することを明らかにした。また、冷間鍛造加工において被加工材内部の塑性ひずみと硬度の関係は、円柱の中心部周辺で負の相関を持つことが分かった。
 第2部第6章では、異なる鍛造加工温度において塑性変形後の被加工材内部硬度分布とミクロ組織の変化を実験的に求め、実験結果と加工温度、相当塑性ひずみ分布との関係を調べ、材質変化の予測を検討した。その結果、被加工材内部の硬度変化は温間鍛造では相当塑性ひずみに大きく依存するが、熱間鍛造ではほとんど依存しないことを明らかにした。そして、温間鍛造では一定の温度に対してはひずみが大きくなるにつれて硬度値も上昇するが、一定のひずみに対しては温度が高くなるにつれて硬度値は下がることを解明した。また、鍛造加工時の動的再結晶はひずみの増大につれて発生し易くなり、ひずみが大きいほど再結晶粒を発生するに必要な加工温度は低下すると言う結果から、鍛造加工後のミクロ組織変化はひずみと加工温度に大きく依存することを明らかにした。さらに、硬度分布と加工温度、ひずみの間には一定の関係があり、シミュレーションによる相当塑性ひずみの解析を用いて材料内部の硬度予測は可能であり、素材の形状設計による塑性ひずみの段取りと温度履歴に制御によって被加工材の材質制御も可能であることを明らかにした。
 第2部第7章においては、冷間加工で被加工材の硬度を変化させ、その後の熱処理でミクロ組織を変化させる方法を用いて材質変化の基本データを求める基礎実験を行い、材質変化と加工条件の対応関係を定式化し、このような定式化をもとに材質シミュレーションを行った。シミュレーションで得られた材質の予測結果は実験結果とほぼ一致する傾向を示し、シミュレーションによる材質予測法の妥当性が確認できた。また、塑性加工における材質の変化は相当塑性ひずみと温度履歴に強く依存するが、加工方法にはほとんど関係しないことを解明した。
 「総括」では、各章のまとめと主な結論及び今後の展望について叙述した。

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