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パルスイオンビームアブレーションプラズマによる表面改質

氏名 樫根 健史
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第218号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 パルスイオンビームアブレーションプラズマによる表面改質
論文審査委員
 主査 教授 八井 浄
 副査 助教授 末松 久幸
 副査 助教授 小松 高行
 副査 助教授 内富 直隆
 副査 同志社大学ITEC研究センターCOEフェロー 湯之上 隆

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 はじめに p.1
1.2 本研究の背景 p.1
 1.2.1 表面処理技術 p.1
 1.2.2 パルスイオンビーム照射によるアブレーションプラズマ p.4
 1.2.3 パルスイオンビーム照射によるアブレーションプラズマの材料表面改質への利用 p.6
1.3 本研究の目的 p.8
1.4 本論文の構成 p.10
 参考文献 p.11

第2章 アブレーションプラズマによる表面改質 p.12
2.1 はじめに p.12
2.2 大強度パルスイオンビーム発生装置 p.13
 2.2.1 パルスパワー装置 p.13
 2.2.2 磁場絶縁型ダイオード(MID) p.15
 2.2.3 LIBエネルギー密度計測 p.17
2.3 イオンビーム照射前後のターゲット表面の構造分析 p.19
 2.3.1 グラファイトターゲットへのLIB照射実験 p.19
 2.3.2 LIB照射とグラファイトターゲット飛程 p.20
 2.3.3 グラファイト表面のSEM観察 p.22
 2.3.4 表面状態のLIBエネルギー密度依存 p.25
 2.3.5 グラファイト表面のラマン分光計測とその評価 p.28
 2.3.6 グラファイトウィスカーの成長過程の予測 p.32
2.4 まとめ p.36
 参考文献 p.37

第3章 アブレーションプラズマによる表面改質の原理解明 p.39
3.1 はじめに p.39
3.2 グラファイトターゲットの飛翔体加速 p.41
 3.2.1 飛行時間検出プローブ法による飛行速度計測 p.41
 3.2.2 グラファイトターゲットの飛翔体加速実験 p.43
3.3 アブレーション圧力の算出 p.46
 3.3.1 イオンビーム飛程の計算 p.46
 3.3.2 アブレーション圧力の検討 p.48
3.4 アブレーションプラズマによるターゲット表面温度変化の検討 p.50
 3.4.1 ターゲットへの付与エネルギーの計測実験 p.50
 3.4.2 グラファイト表面でのプラズマ影響時間の検討 p.53
 3.4.3 ターゲット表面の温度変化の検討 p.54
3.5 グラファイトターゲットへのアブレーションプラズマの影響評価 p.60
3.6 まとめ p.64
 参考文献 p.66

第4章 アブレーションプラズマによる圧力効果の応用 p.68
4.1 はじめに p.68
4.2 アブレーション加速モデル p.69
4.3 高エネルギー密度イオンビーム発生 p.70
 4.3.1 自己磁場絶縁型ダイオード(SPFD) p.70
 4.3.2 SPFDのエネルギー密度計測 p.73
4.4 アブレーション加速モデルの実証 p.74
 4.4.1 飛翔体速度のLIBエネルギー密度依存性 p.74
 4.4.2 飛翔体の速度変遷の検証 p.76
 4.4.3 高速度カメラ撮影による飛翔体の飛行観測 p.77
 4.4.4 アブレーション圧力の算出 p.82
4.5 アブレーション加速の高効率化 p.84
 4.5.1 2層構造ターゲットの飛行速度計測 p.86
 4.5.2 2層構造ターゲットのイオンビーム飛程の計算と評価 p.87
 4.5.3 エネルギー変換効率の算出と評価 p.88
4.6 まとめ p.90
 参考文献 p.91

第5章 総括 p.92

謝辞

研究業績

固体ターゲットへのパルスレーザーやパルスイオンビーム照射により生成されたアブレーションプラズマを利用して、薄膜形成、超微粒子作製や材料表面改質など様々な材料開発が行われている。この中で、パルスレーザー照射によって生成される高密度アブレーションプラズマは、その放出圧力反作用や熱ひずみ波などの影響により、アブレーションされた材料表面を短時間に加圧・加熱できるので、これを用いた表面改質が盛んに行われている。しかしこのレーザーアブレーションのためには高エネルギー密度のレーザーが必要であるため、レーザー光を小面積に集光させる必要がある。このため広域表面の改質ができず、産業応用が困難であった。これに対し高出力を得やすいパルスイオンビーム(LIB)を用いれば、レーザーアブレーションと同等の密度を持つアブレーションプラズマを材料表面の広面積に生成することによって、大面積照射が可能である。このパルスイオンビームアブレーションプラズマは、ターゲット材料とビーム粒子との古典的衝突過程で生成される高密度プラズマであり、レーザーのようにターゲット材料の導電率に依存する反射など母材の影響をほとんど考慮する必要がない。このため様々な材料表面での高効率な表面改質が可能で、新たな表面処理技術として、新素材の開発や表面加工デバイスなどへの工業利用が大いに期待される。一方、アブレーション過程での圧力や温度の測定は行われた例がなかった。そこで本研究では、グラファイトなどのバルク材料にLIBを照射し、照射後の材料表面観察・分析の結果から、アブレーションプラズマによる加圧の有無を調べた。さらに、このアブレーションプラズマの材料表面への圧力を、飛翔体加速実験結果より算出した。これにより、材料表面改質の有用性検証を本研究の目的とした。以下に本論文の各章の概要を示す。
第1章「序論」では、現在までに行われている表面処理技術を概説し、各技術との比較から、パルスイオンビームアブレーションプラズマを用いた表面改質手法の新規性を明確にするとともに、本研究の目的、意義および構成を述べた。
第2章「アブレーションプラズマによる表面改質」では、ターゲット材料として、アルミニウムとグラファイトを用いたLIB照射実験を行い、LIB照射前後の材料表面を観察して、形態や相変化を明らかにした。LIB照射後のグラファイトターゲット表面には、数多くのグラファイトひげ結晶の存在が確認された。このグラファイトひげ結晶の生成メカニズムについて、様々な文献との比較検討を行い、本手法によるひげ結晶の成長要因が、アブレーションプラズマによるパルス敵な高圧力・急加熱の効果であることを示唆した。
第3章「アブレーションプラズマによる表面改質原理の解明」では、パルスイオンビームアブレーションプラズマがターゲットに与える圧力・温度変化について調査した。アルミニウムおよびグラファイトターゲットにLIBを照射したときに生成されるアブレーションプラズマ圧力の計測を、各ターゲットを用いた飛翔体加速実験により行った。その結果、アルミニウムターゲットの場合、LIBエネルギー密度~100 J/cm2においてアブレーション圧力値が~130 MPa(最小値)であり、グラファイトターゲットの場合、同エネルギー密度のLIB照射により~113 MPa(最小値)と見積もられた。またこのとき、LIBエネルギー密度の増加により、発生するアブレーション圧力が増大することも明らかにした。さらに、アブレーションプラズマがグラファイトターゲットに与えるエネルギーを、サーミスタを用いたエネルギー付与計測実験を行い明らかにした。その結果、LIBエネルギー密度~100 J/cm2においてアブレーションプラズマがターゲットに与えるエネルギーは~0.8 Jと見積もられた。さらにこのアブレーションプラズマによる付与エネルギー計測結果と1次元の熱伝導方程式を用いて、アブレーションプラズマ発生時のターゲット表面の温度変化を数値計算により求めた。その結果、グラファイトターゲット表面は5000℃以上までの高温状態となり、さらにその後急冷することが判明した。以上の結果および、前章におけるグラファイトひげ結晶の存在から、パルスイオンビームアブレーションプラズマによるターゲット表面への圧力発生および熱的影響が実証された。
第4章「アブレーション圧力の応用」では、アブレーション圧力の応用として、アルミニウムターゲットを用いた飛翔体加速実験を行った。その結果、高エネルギー密度~2000 J/cm2のLIBを厚さ50 mのアルミニウムターゲットに照射した場合、平均速度~7.7 km/sの結果が得られた。また、このアブレーションプラズマを用いた飛翔体加速の高効率化を目的として、アルミニウムターゲット表面に金を蒸着した2層構造ターゲットの飛翔体加速実験を行った。その結果、蒸着した金の厚さを変えることにより飛翔体速度が変化すること、さらに、ある適度な蒸着金厚さの条件においては、LIBエネルギーと飛翔体運動エネルギーとのエネルギー変換効率が最大となる最適条件があることが判明し、その有用性を実証した。
第5章「結言」では、本研究を通して明らかになったパルスイオンビームアブレーションプラズマの表面改質に関する有用性を述べ、研究成果を総括した。

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