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嫌気性廃水処理系に生息する分離培養の困難なプロピオン酢酸化共生細菌群集

氏名 井町 寛之
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第274号
学位授与の日付 平成15年3月25日
学位論文題目 嫌気性廃水処理系に生息する分離培養の困難なプロピオン酢酸化共生細菌群集
論文審査委員
 主査 助教授 大橋 晶良
 副査 教授 原田 秀樹
 副査 教授 福田 雅夫
 副査 助教授 小松 俊哉
 副査 静岡大学 教授 加藤 憲二

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目次

第1章 序論 p.1
 第1節 研究の目的 p.2
 第2節 研究の背景 p.3
 1.嫌気環境下での有機物分解過程 p.3
 2.嫌気プロピオン酢酸化共生細菌 p.6
 3.現在の環境微生物の解析(rRNAアプローチを中止とした微生物生体解析について) p.8
 第3節 研究の構成 p.11
 参考文献 p.13

第2章 高温性絶対嫌気プロピオン酢酸化共生細菌の分離と嫌気グラニュール汚泥内での空間分布 p.17
 第1節 はじめに p.18
 第2節 実験方法 p.19
 1.サンプルを採取したUASB反応槽 p.19
 2.培地および培養方法 p.19
 3.DNA抽出、PCR、クローニングおよびRFLP解析 p.19
 4.塩基配列の決定と分子系統解析 p.20
 5.In situ hybridizationおよびSlot-blot hybridization p.20
 6.グラニュール汚泥の固定、切片片 p.21
 7.グラニュール汚泥内の各微生物の存在率 p.21
 8.顕微鏡と分析機器 p.22
 第3節 実験結果 p.22
 1.プロピオン酸分解を担う微生物の選択的培養の試み p.22
 2.rRNAアプローチによるプロピオン酸分解集積系内細菌群の解析 p.23
 3.高温性絶対嫌気プロピオン酢酸化共生細菌SI株の分離 p.25
 4.FISH法によるグラニュール汚泥内の高温性プロピオン酢酸化共生細菌の存在と空間分布の解明 p.27
 第4節 考察 p.27
 1.SI株の分離と生育 p.27
 2.既知の硫酸還元細菌とSI株の比較 p.29
 3.SI株のグラニュール汚泥内での空間分布 p.29
 4.まとめ p.30
 参考文献 p.32

第3章 高温性絶対嫌気プロピオン酢酸化共生細菌SI株の菌学的特徴の決定 p.35
 第1節 はじめに p.36
 第2節 実験方法 p.36
 1.使用した微生物 p.36
 2.培地および培養方法 p.36
 3.至適生育pH、温度、塩要求性の測定 p.36
 4.抗生物質耐性試験 p.36
 5.DNAのG+C含量の決定 p.36
 6.キノンと菌体脂肪酸組成(fatty acid methyl ester{FAME})の決定 p.37
 7.顕微鏡と分析機器 p.37
 8.分子系統解析 p.37
 第3節 実験結果と考察 p.37
 1.SI株の形態と生理学的特徴 p.37
 2.SI株単独(pure culture)生育時の特徴 p.38
 3.メタン生成古細菌と共生時の生育 p.38
 4.抗生物質耐性 p.42
 5.キノン、G+C含量および菌株脂肪酸組成 p.42
 6.分子系統解析 p.42
 7.まとめ p.42
 参考文献 p.45

第4章 嫌気性環境下に広く存在する非硫酸還元・共生細菌群Desulfotomaculum subcluter Ihの多叢解析 p.47
 第1節 はじめに p.48
 第2節 実験方法 p.50
 1.実験に使用した微生物と培地 p.50
 2.嫌気環境サンプル p.50
 3.環境サンプルからの16SrDNAクローンライブラリの作成 p.50
 4.集積培地系からの16SrDNAクローンライブラリの作成 p.51
 5.新規分離株MGP株の16SrDNA配列の決定と純粋性の確認 p.51
 6.dsrABおよびapsA遺伝子のPCR増幅と塩基配列の決定 p.51
 7.塩基配列の決定と分子系統解析 p.52
 8.プローブ作成とin situ hybridization p.52
 9.Real-time PCRによる定量 p.52
 10.顕微鏡と分析機器 p.53
 第3節 実験結果 p.53
 1.Desulfotomaculum属の16S rRNAに基づいたクローン解析 p.53
 2.subcluter Ih細菌グループを特異的に検出するプローブの作成 p.55
 3.subcluter Ih細菌グループの分離・培養の試み p.56
 4.subcluter Ih細菌からのdsrABおよびapsA遺伝子のPCR増幅の試み p.59
 5.subcluter Ih細菌群の定量 p.61
 第4節 考察 p.63
 1.培養法と非培養法から見たsubcluter Ih細菌の多様性 p.63
 2.subcluter Ih細菌の硫酸還元をコードしている機能遺伝子 p.64
 3.環境中におけるsubcluter Ih細菌の数量 p.64
 4.まとめ p.65
 参考文献 p.67

第5章 新規中温性絶対嫌気プロピオン酢酸化共生細菌MGP株の菌学的特徴の決定特徴の決定 p.71
 第1節 はじめに p.72
 第2節 実験方法 p.72
 1.使用した微生物 p.72
 2.培地および培養方法 p.72
 3.至適生育pH、温度、塩要求性の測定 p.73
 4.顕微鏡と分析機器 p.73
 5.分子系統解析 p.73
 第3節 実験結果と考察 p.73
 1.MGP株の形態と生理学的特徴 p.75
 2.分子系統解析 p.75
 3.まとめ p.77

第6章 総括 p.78

本論文の基礎となる学術論文&参考論文

謝辞

本研究は嫌気性処理プロセスにおいてしばしば問題となるプロピオン酸の蓄積に焦点を あて、この問題を解決するための基盤情報となる嫌気環境下でプロピオン酸を分解する微生物を分離し、その詳細な生理学的な情報を収集した。本研究では特に、次世代型の省エネルギー・創エネルギー型有機性廃水技術として現在注目を集めている55℃付近で運転する高温嫌気性処理プロセスに着目した。その理由は、高温プロセスはその運転が不安定になった際、中温プロセスに比べてプロピオン酸がプロセス内に著しく蓄積してしまうことに加え、高温嫌気環境下でプロピオン酸の分解を担う微生物の情報は皆無だからである。嫌気環境下においてプロピオン酸の分解を担う微生物は、メタン生成古細菌などと強固な共生関係を保つことによってのみプロピオン酸の酸化分解が可能な細菌(絶対共生細菌)であることが知られている。この嫌気共生細菌は、他の微生物との強固な共生関係を要求するために、単独で分離することは極めて困難であるとされ、高温嫌気環境下での分離成功例は未だに報告がなされていないのが現状であった。そこで、私は高温域においてプロピオン酸の分解を担う微生物を分離すべく、高温嫌気グラニュール汚泥を植種源とし、プロピオン酸による集積培養によりプロピオン酸の酸化分解を担う微生物の選択的な培養を試みた。しかしながら、この集積系内から共生細菌を分離することは非常に困難を極めた。そこで、本共生細菌を分離する糸口をつかむため、16S rRNA遺伝子に着目した分子生物学的手法を活用し、集積系内に存在する微生物を分子系統学的に同定した。また、その遺伝子情報を基に、特定の微生物を特異的に検出できるDNAプローブを開発した。その分子系統解析の結果と新たに開発したDNAプローブを開発、採用し、最終的に高温嫌気環境下でプロピオン酸を分解しうる共生細菌を世界で初めて分離することに成功した。さらに、分離したSI株のグラニュール汚泥内での生態およびその機能を推定するためFluorescence in situ hybridization(FISH)法と共焦点レーザー走査顕微鏡を組み合わせた手法を用いることにより分離したSI株が実際に生息する環境すなわちグラニュール汚泥内においてもメタン生成古細菌と極めて強固な共生関係を保持しながら生育していることを立証した。続いて、分離した高温性プロピオン酸酸化共生細菌SI株の菌学的特徴の決定を行った。SI株の16S rDNAを決定したところ、硫酸還元細菌であるDesulfotomaculum属に属することを明らかにした。しかしながら、SI株は硫酸還元能を欠いていることなど、De sulfotomaculum属の特徴とは異なることから、SI株を新属新種Pelotomaculum thermopropionicumとして提案した。
 上記の解析により、SI株はDesulfotomaculumに属する細菌であるが、硫酸還元能は無いことを明らかにした。現在までDesulfotomaculum属はいくつかのsubclusterに分類されているが、SI株は既知のsubclusterとは異なるsubcluster(Ih)に属することを分子系統解析より明らかにした。このsubcluster Ihは、SI株以外はすべて様々な環境から採られたクローンにより構成されているクローンクラスターである。これらのことから、subcluster Ihに属する細菌群は分離困難な細菌グループであり、それらは硫酸還元能を持たない嫌気共生細菌群で構成されている可能性があるという仮説を立てた。この仮説に基づき様々な環境中のDesulfotomaculum subcluster Ihに属する細菌の多様性解析および分離培養等を行った。その結果、嫌気メタン生成環境下では、Desulfotomaculum属の中でも特にsubcluster Ihに属する細菌が多く存在していることを明らかにし、subcluster Ihに属する新規のプロピオン酸酸化共生細菌を高温性で2株、中温性で3株を培養することに成功している。これらの多様性解析と培養等の結果から、Desulfotomaculum subcluster Ihは嫌気共生細菌で構成され、かつメタン発酵系で極めて重要な微生物群であることを明らかにしつつある。 さらには、Desulfotomaculum subcluster Ih細菌群の亜硫酸還元酵素をコードしている遺伝子(dissimilatory sulfite reductase gene:dsrAB)をPCRにより調査したところ、フレームシフト変異を起こしていることが明らかとなり、Desulfotomaculum subcluster Ihは新規のプロピオン酸酸化共生細菌グループであることを明らかにし、このグループの細菌は硫酸還元による単独での生育を捨て、他者との共生に依存して生育する道を選んだ極めてユニークな細菌群であることも明らかにした。

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