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水プロトン化学シフトを利用した生体内温度計測法に関する研究

氏名 石原 康利
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第184号
学位授与の日付 平成14年3月25日
学位論文題目 水プロトン化学シフトを利用した生体内温度計測法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 松田 甚一
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 教授 中川 匡弘
 副査 助教授 和田 安弘
 副査 助教授 加藤 和夫
 副査 新潟大学 工学部教授 宮川 道夫

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本論文で使用した主な記号・略号の説明 p.VII
第1章 緒論 p.1
1.1 研究の背景および従来の研究概要 p.1
1.2 本研究の目的と概要 p.5
第2章 水プロトン化学シフトを利用した温度計測法の原理 p.8
2.1 まえがき p.8
2.2 従来法の計測原理 p.8
2.3 位相法の原理 p.12
2.4 計測パルスシーケンス p.15
2.4.1 スピンエコーパルスシーケンス p.15
2.4.2 フィールドエコーパルスシーケンス p.17
2.5 温度エンコード時間の最適化 p.19
2.6 まとめ p.23
第3章 位相法による温度分布計測法の検討 p.24
3.1 まえがき p.24
3.2 実験方法 p.24
3.2.1 システムの安定性の評価 p.24
3.2.2 温度依存性の評価 p.28
3.2.3 生体内温度計測精度の評価 p.29
3.3 実験結果 p.29
3.3.1 安定性の評価結果 p.29
3.3.2 温度依存性の評価結果 p.32
3.3.3 生体内温度計測精度の評価 p.39
3.4 考察 p.43
3.4.1 温度計測精度に影響を及ぼす要因 p.43
3.4.2 システムに起因した計測誤差が温度計測精度に及ぼす影響 p.44
3.4.3 方法に起因した誤差が計測精度に及ぼす影響 p.50
3.4.4 生体に起因した誤差が計測精度に及ぼす影響 p.53
3.4.5 計測誤差の評価法に起因する温度計測誤差 p.55
3.4.6 計測時間 p.55
3.5 まとめ p.57
第4章 位相法によるリアルタイム温度分布計測法の検討:1次元位相法 p.58
4.1 まえがき p.58
4.2 高周波電磁波による生体内の発熱 p.59
4.3 13C-MRSにおける1Hデカップリングパルスによる発熱 p.60
4.4 1次元位相法のパルスシーケンス p.61
4.5 実験方法 p.63
4.5.1 1次元位相法の評価 p.63
4.5.2 13Cスペクトルデータ収集中の温度変化計測 p.64
4.6 実験結果 p.65
4.6.1 1次元位相法の評価 p.65
4.6.2 13Cスペクトルデータ収集中の温度変化計測 p.71
4.7 考察 p.73
4.7.1 システムに起因した誤差が計測精度に及ぼす影響 p.73
4.7.2 方法に起因した誤差が計測精度に及ぼす影響 p.75
4.7.3 生体に起因した誤差が温度計測精度に及ぼす影響 p.79
4.7.4 2次元計測法の可能性 p.81
4.7.5 生体内温度上昇と安全性 p.82
4.8 まとめ p.84
第5章 FSEパルスシーケンスにおける発熱の計測:1次元位相法の応用 p.85
5.1 まえがき p.85
5.2 MRIにおける生体内の発熱と高周波電力の印加制限 p.85
5.3 FSEパルスシーケンスへの位相法の適用 p.87
5.3.1 FSEパルスシーケンスの概要 p.87
5.3.2 FSEパルスシーケンスへの1次元位相法の適用 p.88
5.4 実験方法 p.89
5.5 実験結果 p.92
5.6 考察 p.95
5.6.1 温度計測精度 p.95
5.6.2 SARと温度変化 p.96
5.7 まとめ p.99
第6章 結論 p.100
謝辞 p.102
参考文献 p.103
本研究に関する主な発表論文および研究業績 p.112
1. 主要論文 p.112
2. 参考論文・研究業績 p.112
付録 p.116
A.1 磁気共鳴現象 p.116
A.2 主なMRIパラメータ p.120
A.2.1 磁気緩和現象 p.120
A.2.2 化学シフト p.121
A.3 MRI装置の概要 p.123
A.3.1 装置構成 p.123
A.3.2 磁石系 p.123
A.3.3 高周波系 p.124
A.3.4 傾斜磁場系 p.126
A.3.5 収集系 p.127
A.4 MRIによる画像再構成の原理 p.128
A.5 回帰の区間推定 p.130
A.6 MRI信号のSNRと空間分解能 p.133

 生体内の温度は多くの生理機能を反映しているため,生体内の温度を計測することで,血行障害・炎症性疾患.腫瘍等の診断が可能であると言われている.また,癌を初めとした腫瘍の温熱治療における治療成績の良否は,腫瘍内外の温度管理に左右されるため,加熱分布を計測する加温モニタの実現が渇望されている.加えて,脳に障害を受けた場合に脳温を32℃前後に制御しながら治療を施す"脳低体温療法",あるいは,心臓外科領域における開心術では術中・術後の体温計測が血管作動薬物・治療効果を判定する上で欠くことのできない技術となっている.さらに,近年のMRI・電磁調理器・携帯電話等の電磁波を用いた機器では,高周波によって誘起される生体内の発熱が懸念されており,生体内の温度を計測する手法の確立が望まれている.このように,生体内温度計測法は,(1) 診断,(2) 治療,(3) 発熱モニタの広い分野で切望されている.
 しかし,サーミスタ・熱電対等の温度センサプローブを被検体に刺入する方法では,温度を計測誤差0.1℃以下で計測できるものの生体への侵襲性が問題であり,他方,画像診断装置(X線CT,超音波診断装置等)を利用した非侵襲な方法では,正確,かつ,高速に温度情報を収集するには至っていなかった.
 本研究では,水プロトン化学シフトが組織に因らずほぼ一定の温度依存性(-0.01ppm/℃)を示す性質に注目し,化学シフトの温度依存性から温度変化が検出できる物理特性を利用し,かつ,計測の高速化を図るために,温度変化に伴う化学シフトの変化を磁化の位相角を基に画像再構成する新しい方法“位相法による温度計測法”を提案した.この際,温度変化を磁化の位相変化にエンコードするために設定する”温度エンコード時間”を観測される信号減衰の時定数T2*と同程度に設定することで画像S/Nに対して最適な温度計測精度が得られることを理論的に示した.
 本手法の計測精度をファントム実験,ならびに,動物実験によって評価した結果,ファントム実験では誤差0.5℃以下で温度変化を計測できることを確認した.一方,生体内の温度変化を計測する際には,生体の動きが本手法に大きな計測誤差を及ぼすものの,計測誤差1℃以下で温度変化を計測できることを明らかにした.また,本手法の計測精度に影響を及ぼす因子として,(1) 磁場の不均一性が計測期間中に変動し,温度変化前後の位相差算出処理によっても相殺されなかったために発生する誤差成分TBerr,(2) 位相画像から化学シフトを算出する際の誤差成分Tθerr,(3) 温度変化をエンコードするために設定した時間間隔の誤差が引き起こす誤差成分Tτerr,(4) 水プロトン化学シフトの温度依存性(-0.01ppm/℃)が対象となる物質の真の温度依存性と異なることによって生じる誤差成分Tαerr,に大別し,誤差伝播式から予想される誤差と実験結果から得られた誤差との比較を行い両者がほぼ一致することを示した.
 水プロトン化学シフトを利用した温度分布計測法の応用として,13C-MRSにおいて,S/N改善の目的で使用されるデカップリングパルスによる生体内の発熱を計測するための1次元温度計測法を新たに提案した.また,提案したパルスシーケンスを評価するために行ったファントム実験,ならびに,動物実験の結果,本手法によって,デカップリングパルス印加に伴う温度上昇を誤差1℃以下で計測できることを示した.
 水プロトン化学シフトを利用した温度分布計測法の別の応用として,本手法によって,臨床にて頻繁に使用されているFSEパルスシーケンスにおける被検体の温度上昇を計測できる可能性を指摘した.また,FSEパルスシーケンスのように,傾斜磁場を高速にスイッチングする場合には,渦電流の影響によって温度計測値に誤差が重畳することを示し,この誤差を補正することで1℃以下の誤差で発熱をモニタできることを示した.
 これらの温度計測パルスシーケンスの提案によって,高周波電力の印加に伴う生体内の発熱を高精度に計測できることを示し,これまで高周波電力の印加基準として用いられてきたSARに代わり,被検体へのダメージを直接反映した温度上昇で評価できる可能性を示した.
 今後,本手法を生体に適用した場合に発生する種々の誤差要因,(1) 組織帯磁率の変化,(2) 組織血流量の変化,(3) 組織電導率の変化,(4) 生体の動きに伴う磁場不均一の変化,が計測精度に及ぼす影響,ならびに,その対策を考案する必要があるが,本手法の信頼性を明らかにすることで広く臨床応用に供せられる可能性があることを示した.

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