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柱状物体の断面形状がカルマン渦励振に与える影響

氏名 小出 瑞康
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第192号
学位授与の日付 平成14年6月19日
学位論文題目 柱状物体の断面形状がカルマン渦励振に与える影響
論文審査委員
 主査 教授 白樫 正高
 副査 教授 増田 渉
 副査 教授 金子 覚
 副査 助教授 門脇 敏
 副査 助教授 高橋 勉

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第1章 序論 p.1
 1.1 緒言 p.1
 1.2 従来の研究 p.6
 1.2.1 流れの中に置かれた柱状物体から流出するカルマン渦 p.6
 1.2.2 柱状物体のカルマン渦励振と同期現象 p.16
 1.3 本研究の目的 p.29
 1.4 本論文の概要 p.29

第2章 実験装置およびデータ解析 p.31
 2.1 柱状物体および座標系 p.31
 2.2 風洞 p.33
 2.2.1 風洞・測定部 p.34
 2.2.2 加振装置 p.37
 2.2.3 弾性支持装置 p.39
 2.2.4 熱線流速計 p.45
 2.2.5 レーザー変位センサ p.47
 2.2.6 ピトー管とマノメータ、リング流速計 p.47
 2.2.7 変動揚力の測定 p.51
 2.3 ウォータートンネル p.53
 2.3.1 ウォータートンネル・測定部 p.53
 2.3.2 電磁流量計 p.53
 2.3.3 ホットフィルム p.53
 2.4 回流水槽 p.56
 2.4.1 回流水槽 p.56
 2.4.2 加振装置 p.56
 2.4.3 電磁流速計 p.56
 2.5 データ解析 p.59
 2.5.1 過流出周波数 p.60
 2.5.2 振動振幅 p.62
 2.5.3 相互相関係数 p.64
 2.5.4 位相差 p.64
 2.6 計測機器および信号処理機器 p.64

第3章 風洞実験における低流速測定を目的としたリング流速計の検定 p.66
 3.1 緒言 p.66
 3.2 実験装置および実験方法 p.69
 3.3 実験結果および考察 p.72
 3.3.1 標準リングの実験結果 p.72
 3.3.2 標準リングの流速換算式の導出 p.78
 3.3.3 相似則と流速換算式の改良 p.81
 3.3.4 リング流速計の精度 p.87
 3.3.5 過流出に対する設置角度とLeading-Edgeの面取りの影響 p.89
 3.4 第3章結論 p.91

第4章 カルマン渦流出の同期現象に対する断面形状の影響 p.92
 4.1 緒言 p.92
 4.2 実験装置および実験方法 p.93
 4.3 実験結果および考察 p.94
 4.3.1 剥離点の可視化 p.94
 4.3.2 正弦振動する柱状物体から流出するカルマン渦の同期現象 p.105
 4.3.3 カルマン渦流出に対する振動振幅の影響 p.118
 4.3.4 柱状物体長手方向のカルマン渦流出 p.124
 4.3.5 柱状物体の振動振幅と振動周波数による同期領域 p.131
 4.4 第4章結論 p.134

第5章 カルマン渦励振に対する断面形状の影響 p.137
 5.1 緒言 p.137
 5.2 実験装置および実験方法 p.138
 5.3 実験結果および考察 p.140
 5.3.1 断面形状の異なる柱状物体のカルマン渦励振 p.140
 5.3.2 同期領域内でのカルマン渦流出と柱状物体の振動数 p.154
 5.3.3 柱状物体に働く揚力および柱状物体変位と揚力の位相差 p.157
 5.3.4 カルマン渦励振のヒステリシス現象 p.166
 5.3.5 カルマン渦励振の発生条件 p.170
 5.3.6 柱状物体の支持方法がカルマン渦励振に与える影響 p.175
 5.4 第5章結論 p.184

第6章 結論 p.186

参考文献 p.190

付録(過電流式ダンパー) p.195

謝辞 p.199

 カルマン渦励振は, 流れ場に対する柱状物体の運動の干渉と, 流れ場から柱状物体へ作用する流体力から構成されるフィードバックループにより生じる非線形的自励振動である.柱状物体表面の剥離点の移転は, このフィードバックループにおいて重要な役割を果たすと考えられる. 本研究では柱状物体の断面形状を変えることで柱状物体表面の剥離点の移動を制御し, 剥離点の移動がこのフィードバックループおいてどのように作用するかを明らかにするために, 加振実験と弾性支持実験を行った. これらの実験によって, 柱状物体の断面形状がカルマン渦励振に与える影響を明らかにするとともに, カルマン渦励振の発生機構について新たな知見を得た. 以下に, 本研究で得られた主な結果を要約する.
 第1章では, 本研究の背景と本研究に関連する従来の研究をまとめ, 本研究の目的と本論文の概要を述べた.
 第2章では, 本研究で用いた三つの柱状物体と実験装置を示した. 各章の実験に使用されたウォータートンネル, 風洞, 回流水槽と柱状物体の支持方法をまとめて説明し, カルマン渦の流出周波数などの測定方法とデータ処理について詳細に述べた.
 カルマン渦励振は, そのヒステリシス現象に見られるように, 流速の変化に強く依存した現象である. したがって, カルマン渦励振を詳細に調べるためには, 流速を信頼性の高い方法, とりわけ流速再現性の高い方法で測定する必要がある. 第3章では, カルマン渦励振の実験を行うにあたり, 風洞において信頼性の高い流速測定を行うことを目的として,リング流速計を製作し検定を行った. リング流速計はカルマン渦の流出周波数が流速にほぼ比例することを利用したカルマン渦流速計の一つであり, より安定した渦流出を得るために渦発生体として円環状の渦発生体を用いたものである. リング流速計の検定を風洞とウォータートンネルで行うことで, レイノズル数 180~15000 の非常に広い範囲で渦が安定して流出することを示した. 特にウォータートンネルを用いることで, 低レイノルズ数で信頼性の高い検定を行った. また, 幾何学的にほぼ相似で, 大きさの異なるリングを用いて検定の妥当性を検証し, リング流速計が極めて高い流速再現性を有していることを示した. これらの結果から, リング流速計はきわめて単純・小型でありながら広範囲な流速測定が可能であり, 特に低流速での測定の信頼性が高いことを示した.
 先に述べたように, カルマン渦励振は, 流れ場に対する柱状物体の運動の干渉と, 流れ場から柱状物体へ作用する流体力の二つの相互作用に分けて議論することができる. 第4章では流れ場に対する柱状物体の運動の干渉に主眼を置いた. 剥離点の移動状態が異なる円柱, 半円柱, 正三角柱の三つの柱状物体に機械的な加振装置を用いて振動を与え, 流れ場から柱状物体へ作用する流体力の影響を排除し, 柱状物体の断面形状がロックイン現象に与える影響を調べた. 断面形状の違いによって剥離点の移動状態が大きく異なる柱状物体では, 同期現象の発生によるカルマン渦の2次元性と渦の強さの増加には大きな違いが見られる. しかしながら, 何らかの方法でこれらの柱状物体に振動を与えれば, ほぼ同程度の同期現象が発生し, その発生条件はほとんど同じであることを示した. これらの結果から, 剥離点の移動が同期現象発生のための重要な要因ではなく, 同期現象の発生によって引き起こされる一つの結果であることを明らかにした.
 第5章では, カルマン渦励振のフィールドバックループを構成する周期的な渦流出に起因する物体に作用する流体力に主眼を置いて実験を行った. 加振実験で使用したものと同じ円柱, 半円柱, 正三角柱を片持ち梁の板ばねで弾性支持し, 固有振動数, 対数減衰率などの実験条件をほぼ等しくして実験を行い, その振動挙動を調べた. 弾性支持実験では, その結果, 弾性支持された円柱, 半円柱, 三角柱のすべてでカルマン渦励振が発生した. しかしながら, カルマン渦励振時の最大振幅は半円柱が円柱の1/3, 三角柱が1/10以下である. カルマン渦励振が発生する流速の範囲は円柱, 半円柱, 三角柱の順に狭くなり, 円柱の場合, カルマン渦励振は固定支持された円柱から流出するカルマン渦の流出周波数と固有振動数が一致する流速U0よりも高い流速範囲であるのに対し, 半円柱ではカルマン渦励振はU0の前後で発生し, 三角柱の場合, U0よりも低い流速でカルマン渦励振が発生することを示し, 実験条件がほぼ同じであるのにもかかわらず, これらの物体の振動挙動が大きく異なることを明らかにした. また, カルマン渦励振発生時の最大揚力係数は柱状物体ごとに大きく異なることを明らかにした. これは, その断面形状により揚力係数の増加作用が異なるためであり, 剥離点移動の小さい半円柱, 三角柱では変動揚力が大きくならないことを示している.
第6章「結論」では, 本論文の各章で得られた主な結論を総括した.

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