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薄膜磁気記録媒体の腐食防食に関する研究

氏名 井上 陽一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第28号
学位授与の日付 平成5年3月25日
学位論文の題目 薄膜磁気記録媒体の腐食防食に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 田中 紘一
 副査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 教授 弘津 禎彦
 副査 助教授 柳 和久
 副査 東京大学 教授 辻川 茂男

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目次
第1章 緒言
1.1 コンピューター用磁気ディスク装置の変遷と技術動向 p.1
1.2 薄膜磁気記録媒体の開発動向とその課題 p.3
1.3 薄膜磁気記録媒体の腐食信頼性に関する研究課題 p.4
1.4 まとめ p.8
1.5 参考文献 p.9
第2章 付着塵埃による薄膜媒体の腐食
2.1 序論 p.18
2.2 大気塵埃による影響 p.19
2.2.1 実験方法
2.2.2 実験結果
2.3 模擬塵埃による腐食実験 p.21
2.3.1 実験方法
2.3.2 実験結果
2.4 薄膜の腐食メカニズムについての考察 p.22
2.5 標準粒子を用いた新腐食評価法の提案 p.24
2.6 まとめ p.25
2.7 参考文献 p.26
第3章 腐食性ガスによる薄膜媒体の腐食
3.1 序論 p.32
3.2 腐食性ガス環境下における腐食 p.34
3.2.1 実験方法
3.2.2 実験結果
3.3 新評価法の提案 p.39
3.4 表面抵抗法の特徴 p.42
3.5 まとめ p.43
3.6 参考文献 p.43
第4章 電気化学的手法による評価
4.1 序論 p.52
4.2 電気化学測定装置の試作 p.53
4.2.1 実験方法
4.2.2 試作測定装置の精度試験結果
4.3 薄膜媒体の分極測定 p.57
4.3.1 実験方法
4.3.2 実験結果
4.4 腐食形態の計測 p.60
4.4.1 オージェ電子分光による内部分析
4.4.2 電気化学トンネル顕微鏡による表面計測
4.5 考察 p.63
4.6 まとめ p.64
4.7 参考文献 p.65
第5章 耐腐食環境向上化の検討
5.1 序論 p.75
5.2 静電容量センサによるディスク表面水分量の計測 p.76
5.2.1 実験方法
5.2.2 実験結果
5.2.3 考察
5.3 磁気ディスク装置内の湿度制御の検討 p.84
5.3.1 湿度制御原理とその設計法
5.3.2 磁気ディスク装置の適用化実験
5.4 まとめ p.96
5.5 参考文献 p.96
第6章 記録媒体保護膜の防食性向上(イオン注入による保護膜の改質)
6.1 序論 p.110
6.2 実験方法 p.111
6.2.1 イオン注入実験装置
6.2.2 試料と試験方法
6.3 実験結果 p.113
6.3.1 注入層の深さ分析
6.3.2 注入部の組成状態分析
6.3.3 走査型プローブ顕微鏡による表面計測
6.3.4 改質ディスクの耐食性評価
6.3.5 記録媒体性能の評価
6.4 考察 p.120
6.4.1 注入条件の検討
6.4.2 防食性向上メカニズム
6.5 まとめ p.124
6.6 参考文献 p.125
第7章 結言
7.1 環境と材料とから見た薄膜磁気ディスクの腐食現象 p.134
7.2 薄膜磁気記録媒体の腐食評価法の提案 p.137
7.3 防食性向上化技術の提案 p.138
7.4 磁気ディスク装置の変遷と今後の課題 p.139
謝辞 p.142

 高記録密度化を目的に磁気記録媒体はその薄膜化の要求が著しく、その信頼性を確保することが一層難しくなってきている。磁性膜は非酸化金属膜を使用しているため、特に耐食信頼性を確保するための研究開発が必要不可欠の課題となっている。
 本研究では、厚さ数10ナノメータの薄膜の腐食現象について明らかにすると共に、材料因子、環境因子の立場から検討を行った。この磁気記録媒体の主要な環境要因としては、温度、湿度、腐食性ガス、付着塵埃があることを明らかにし、これら薄膜組織を考慮した腐食モデルの提案を行うと共に、適切な腐食評価法を開発した。さらに、この薄膜媒体の防食機能を向上する手法として、イオン注入法を考案しこれによる高信頼化の可能性を示したものである。
 第1章では、本研究の背景と目的について説明した。薄膜磁気記録媒体において腐食が発生するとデータエラーあるいはコンタミ要因となり、ディスク装置にとって大きな障害を引き起こすため、腐食現象の解明と信頼性の向上を目的として本研究を開始した。厚さ数10ナノメーターの多層薄膜の腐食現象は今まで系統だった研究はなされておらず、現象解明と同時にその評価法の開発、及び防食性向上の研究が急務の課題であった。
 第2章では、環境要因のうち記録媒体表面に付着した微細な塵埃が腐食発生に影響し、特に粒径の大きいほど腐食を素子するという現象を初めて見山し、これについて述べた。この腐食形態を分析すると、毛管凝縮による結露水が保護膜内に発生しかつその水分浸透域内に溶存酸素の差が発生することを明らかにし、通気差電池の形成による薄膜媒体の腐食モデルを提案した。
 第3章では、別の環境因子である腐食性ガスの影響について検討した。薄膜記録媒体に対する反応性としては、硫黄系ガスと塩素ガスの影響が大きく、腐食が発生すると表面に生成物を形成することを明らかにした。この腐食損傷の評価法としては、保護膜の表面導電性に着目し、その電気抵抗を走査しながら計測する評価手法を提案した。
 第4章では、電気化学的立場から多層薄膜の反応性について検討考察した。測定精度向上を目的に、電解液中の限界拡散層厚さの低減、物質移動の促進を目的に電解液を流しながら分極測定を行う測定装置を試作した。これを用いて多層薄膜のアノード分極特性を検討した結果、下地膜の影響が表面にも現われること、その影響が面粗さに依存すること、さらに保護膜はアノード電流の抑制には若干の効果があることを明らかにした。この時の腐食過程を電気化学STMによりin‐situ観察すると、コラム形状のカーボン材料組織の溝間から内部の磁性膜を構成しているCoイオンの析出を計測することができた。このように、薄膜金属の腐食現象は組織の不均一性に強く支配される傾向がある。
 第5章では、大気環境下において存在する吸着水分を静電容量形の結露センサを試作し計測した。特に、ヘッド・ディスク間に発生する水分量を測定すると湿度依存性が顕著であることを実証し、また発生凝縮水の形状と大きさについても推察した。次に、この環境測定結果に基づき、記録媒体のある磁気ディスク装置内の湿度を適正にできる新しい湿度制御方式を考察し、その有効性を実験的に確認して信頼性向上に寄与できることを明らかにした。
 第6章では、記録媒体の保護膜に防食機能を付与できる手法としてイオン注入による手法を考案した。窒素イオンを用いカーボン保護膜中に注入すると、アノード分極測定、塩素ガス試験、付着粒子試験において顕著な効果があることが判明した。このイオン注入による防食機能の向上化理由は、保護膜組織の不均一さを改善する効果、すなわちイオン注入により溝部の欠陥部を補償しかつ緻密にすること、さらに注入窒素原子の反応生成物により表面エネルギーを低減し、吸着水分量の低減に効果があることによる。
 第7章では、以上の研究結果をミクロ領域の腐食要因とナノメータ領域の要因とに類別し、薄膜多層媒体の腐食の特徴についてまとめた。

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