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Rhodococcus属PCB分解菌の分解系プラスミドの構造と機能

氏名 清水 悟
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第231号
学位授与の日付 平成13年6月30日
学位論文題目 Rhodococcus属PCB分解菌の分解系プラスミドの構造と機能
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 山元 皓二
 副査 教授 森川 康
 副査 助教授 岡田 宏文
 副査 助教授 政井 英治

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序章 p.1
第1章 Rhodococcus sp.RHA1のゲノム構成と分解遺伝子の局在性
1-1 緒言 p.8
1-2 分解遺伝子の分布
1) 材料及び方法 p.8
2) 結果 p.13
1-3 線状プラスミドの制限酵素地図
1) 材料及び方法 p.15
2) 結果 p.20
1-4 変異株RCD1の線状プラスミドの解析
1) 材料及び方法 p.43
2) 結果 p.43
1-5 考察 p.48
第2章 RHA1の線状プラスミドの構造
2-1 緒言 p.49
2-2 末端の構造
1) 材料及び方法 p.49
2) 結果 p.49
2-3 末端結合蛋白質
1) 材料及び方法 p.59
2) 結果 p.61
2-4 考察 p.63
第3章 pRHL2プラスミドの伝達
3-1 緒言 p.67
3-2 pRHL2の接合伝達
1) 材料及び方法 p.67
2) 結果 p.67
3-3 考察 p.72
第4章 線状プラスミドの複製
4-1 緒言 p.73
4-2 RHA1の線状プラスミドの複製領域の単離
1) 材料及び方法 p.77
2) 結果 p.79
4-3 考察 p.100
第5章 RHA1と類縁の芳香族化合物分解菌の線状プラスミドと分解遺伝子
5-1 緒言 p.102
5-2 類縁芳香族化合物分解菌の線状プラスミドと分解遺伝子
1) 結果 p.102
5-3 考察 p.121
終章 p.125
参考文献
謝辞

 ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、不燃性、電気絶縁性、高脂溶性、低揮発性などの特徴を持つことから幅広い用途に利用されてきたが深刻な環境汚染を引き起こし、製造および使用が禁止されている。しかし、極めて安定なため現在も環境汚染は解消していない。近年、環境汚染物質を分解できる微生物を利用した環境修復が注目を集め、特に広範囲の汚染に唯一有効な処理法として、その応用が期待されている。
 グラム陽性のRhodococcus sp. RHA1は極めて強力なPCB分解性を示し、PCB汚染環境の修復への本菌の利用が考えられている。RHA1は非常に多様なビフェニル/PCB分解遺伝子を持ち、その多くが巨大な線状プラスミドにコードされていることが明らかにされている。本論文では、新たな分解能の開発や分解能の安定化に役立てることを目標として、RHA1に見られる分解遺伝子の多様性と線状プラスミドとの関係ならびに線状プラスミドの分子構造を明らかにした。
 第1章では、まずRHA1の線状プラスミドの正確なサイズを調べ、1,100kb(pRHL1)、450kb(pRHL2)そして330kb(pRHL3)であることを明らかにした。RHA1のビフェニル/PCB分解に関連する分解遺伝子のプラスミドへの分布について調べ、分解経路の上流酵素系遺伝子群はpRHL1に、下流の酵素系遺伝子群や上流酵素系の類縁遺伝子群はpRHL2に局在することを明らかにした。このことから、RHA1における分解遺伝子の多様性に線状プラスミドが関与している可能性が示唆された。
 次に、pRHL2の制限酵素地図を作製した。作製した制限酵素地図から、pRHL2に存在する分解遺伝子の配置を決定したところ、大半の分解遺伝子はpRHL2の5'末端から100~150kbの範囲に分布し、分解遺伝子がある程度まとまって局在していることが明らかになった。
 第2章では、RHA1の3種の線状プラスミドの線状DNA分子としての特徴を調べるために、末端配列の解析を行った。RHA1の3種の線状プラスミドが平滑末端を有し、末端結合蛋白質が存在することが示唆された。pRHL2の右末端はpRHL1およびpRHL3と相同性を示した。
 以上の結果から、RHA1の線状プラスミド特にpRHL2は典型的なインバートロン型の線状プラスミドであることが示唆された。しかしながら、pRHL2は両末端配列どうしの相同性が極めて低く、ユニークな特徴も見られた。
 第3章では、pRHL2の自己伝達能を調べた。pRHL2を欠失し、染色体上にカナマイシン耐性遺伝子が組み込まれた変異体RDO5を受容菌として用いて、RHA1株およびpRHL1に変異を持つRCA1株からRDO5にpRHL2が接合伝達することを明らかにした。グラム陰性菌の分解系プラスミドで指摘されているように、環境中での分解能力の伝播と進化に線状プラスミドが関わっていることが示唆された。
 第4章では、RHA1の線状プラスミドの複製起点を利用した有用なベクターの構築を期待し、RHA1の線状プラスミドの複製領域の解析を行った。RHA1で複製しないベクターを用いて作製したライブラリーをRHA1に導入し、pRHL3の複製領域を含むクローンを取得した。この結果よりpRHL3では内部に複製起点があることが示唆され、内部の複製起点と末端特異的プライミングの組み合わせによる複製が行われると推測された。
 第5章では、分解遺伝子と線状プラスミドの構造についてRHA1と類縁分解菌との関連を調べた。その結果、RHA1が目立った分解遺伝子の多様性を持つことが明らかになった。類縁分解菌でも分解遺伝子の多くは線状プラスミドに存在しており、線状プラスミドが分解遺伝子の多様性に関与している可能性が示唆された。また、RHA1と類縁分解菌の線状プラスミドがかなり高い類縁性を持つことが明らかになった。
 以上の結果から、線状プラスミドは優れた分解遺伝子を他の菌株から取り込んでRHA1の分解能力の進化に少なからず寄与したと想像される。また、遺伝子重複や重複した遺伝子の同時平行進化を容易にし、新たな分解能力の進化や既存の分解能力の向上に寄与した可能性も考えられる。
 以上本研究では、RHA1の線状プラスミドの分子構造と接合伝達能ならびに複製メカニズムを明らかにした。この研究成果を発展させることにより分解遺伝子を安定化させ、さらにはコピー数を増やしてRHA1の分解能力を大きく向上させることができると期待される。

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