本文ここから

MOCVD法により作製したヘテロエピタキシャルZnTe層及びZnS-ZnTe超格子構造の光学的特性

氏名 呂 有明
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第203号
学位授与の日付 平成12年3月24日
学位論文の題目 MOCVD法により作製したヘテロエピタキシャルZnTe層及びZnS-ZnTe超格子構造の光学的特性
論文審査委員
 主査 教授 上林 利生
 副査 教授 打木 久雄
 副査 助教授 内富 直隆
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 石黒 孝

平成11(1999)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第1章 序論
1.1 本研究の背景 p.1
1.2 半導体超格子の基礎
 1.2.1 半導体低次元構造の発展概説 p.3
 1.2.2 半導体超格子のバンド構造
 a. 半導体バンド構造の特徴と超格子のタイプ p.5
 b. ヘテロ構造のバンド不連続性 p.8
 c. 格子不整合による歪の計算 p.9
 d. 量子サイズ効果及び量子準位と超格子内のサブバンドの計算 p.13
1.3 ZnTeヘテロエピタキシャル層およびZnS-ZnTe超格子構造の研究の現状
 1.3.1 ZnTeヘテロエピタキシャル層の研究の進展 p.15
 1.3.2 ZnS-ZnTe超格子構造の研究の進展 p.16
1.4 本論文の目的 p.18
1.5 本論文の構造および各章の概要 p.19
参考文献 p.19

第2章 ZnTeエピタキシャル層及びZnS-ZnTe超格子構造からの発光に関する予備的検討
2.1 はじめに p.23
2.2 常圧MOCVD成長法による試料作製
 2.2.1 常圧MOCVD装置 p.24
 2.2.2 試料の作製
 a. 原料 p.25
 b. 成長手順 p.26
 c. 成長条件 p.26
2.3 X線回折の測定
 2.3.1 X線回折装置 p.26
 a. ヘテロエピタキシャル成長層の評価 p.27
 b. 超格子構造の判明 p.27
 2.3.2 実験結果
 a. ZnTe/GaAsエピタキシャル成長層 p.28
 b. GaAs基盤上のZnS-ZnTe超格子構造 p.29
2.4 N2レーザー励起によるZnTeエピタキシャル層からの発光の起源の検討
 2.4.1 実験装置 p.30
 2.4.2 実験結果
 a. 透過スペクトルとPLスペクトル p.30
 b. PLの励起強度依存性 p.33
 2.4.3 議論
 a. 励起強度依存性による発光起源の検討 p.33
 b. 強励起下での励起子領域の発光 p.35
2.5 ZnS-ZnTe超格子構造からの発光の予備的検討
 2.5.1 実験装置 p.37
 2.5.2 実験結果 p.37
 a. 量子井戸幅依存性 p.37
 b. 励起強度依存性 p.37
 c. 時間減衰特性と時間分解スペクトル p.37
 2.5.3 検討
 a. 量子準位に関する発光 p.40
 b. 方形ポテンシャルモデル及び量子準位の理論計算 p.40
 c. type-II構造からの発光の特徴 p.41
2.6 結論 p.42
参考論文 p.43

第3章 ZnS-ZnTe超格子構造からの発光の起源
3.1 はじめに p.45
3.2 実験装置
 3.2.1 定常状態のフォトルミネセンス(PL)スペクトルの測定 p.46
 3.2.2 フォトルミネセンス励起(PLE)スペクトルの測定 p.47
 3.2.3 減衰特性及び時間分解PLスペクトルの測定 p.47
3.3 実験結果
 3.3.1 PLスペクトルとPLEスペクトル p.48
 3.3.2 PL励起強度依存性と時間分解スペクトル p.49
 3.3.3 時間減衰特性と時間分解スペクトル p.51
3.4 解析と議論
 3.4.1 一次元調和振動子モデル p.52
 3.4.2 ZnS/ZnTe構造のバンドdiagram
 a. 方形ポテンシャルモデルと放物線形状ポテンシャルモデル p.53
 b. ZnS-ZnTe超格子構造の量子準位及び電子の分布 p.55
 3.4.2 一次元調和振動子モデルによる検討
 a. 異なる量子準位から発光強度の見積り p.56
 b. 励起強度依存性と温度依存性検討 p.59
 c. 減衰特性の検討 p.60
3.5 結論 p.62
参考論文 p.62

第4章 ZnS-ZnTe超格子構造の光学非線形性と光双安定性
4.1 はじめに p.64
4.2 飽和吸収による光双安定性
 4.2.1 実験装置 p.66
 4.2.2 実験結果 p.68
 a. ns反応時間の光双安定特性
 b. 吸収スペクトル
 c. 励起強度変化スペクトル
 d. 減衰特性の励起強度依存性
 4.2.3 解析と議論 p.70
4.3 吸収増加と光双安定性
 4.3.1 実験装置 p.72
 4.3.2 実験結果と議論 p.73
4.4 結論 p.76
参考文献 p.77

第5章 総括
5.1 今までに研究のまとめ p.79
5.2 本研究における光デバイス応用の展望
 5.2.1 ヘテロpn接合光デバイス p.80
 5.2.2 光学的スイッチのデバイス p.81
5.3 今後の課題 p.81
参考文献 p.82

謝辞 p.83
本研究に関する発表 p.84

 II-VI族化合物半導体のZnS-ZnTe系はtypeIIの超格子で、可視波長域の発光素子材料として注目される。ZnSとZnTeはそれぞれn型、p型の伝導性を有し、この組み合わせはヘテロp-n接合LEDとしても興味がある。しかしながら、この系は格子不整合が12%と大きく、ヘテロ界面から転位や積層欠陥が発生することから、良質の結晶を得ることが困難である。さらに、実空間で分離した電子と正孔の状態についても不明な点が多い。本論文では、ZnS-ZnTe超格子構造について発光特性からバンド変調モデルを提案した。このモデルを用いて、ヘテロ接合のバンド構造及び電子状態を解明し、ヘテロpn接合光デバイスと光双安定性光デバイスの実現の可能性を検討することを目的とした。
 常圧MOCVD法で成長したGaAs上のZnTeヘテロエピタキシャル層とZnS-ZnTe超格子構造から新たに観測されたフォトルミネッセンス(PL)についてその起源を検討し、以下の結果を得た。
(1) 常圧MOCVD法でGaAs基板上へ成長したZnTeエピタキシャル層についてN2レーザーによる強励起下で77KのPL発光スペクトルを測定した。不純物によると思われる発光の他、励起子のやや低エネルギー側に観測されたバンド(E')の起源について検討した。励起強度の増加に対しこの発光の強度はsuperlinearに増加し、発光スペクトルのピークは低エネルギー側にシフトした。このシフトの程度は強励起下でのバント収縮効果に比べて小さく、この発光の特徴から強励起下で励起子一電子(正孔)散乱と励起子一励起子散乱の重なった発光であり、励起子一励起子散乱による発光が支配的な過程と考えられる。
(2) 常圧MOCVD法でGaAs基板(100)上へZnS(10nm)-ZnTe(2nm)超格子構造を作製した。試料のPL発光スペクトルに、ほぼ等エネルギー間隔(90meV)のピークをはじめて観測した。励起強度が強くなると短波長側の構造が強調されるのが認められた。この発光の温度依存性では130K以上になると全てのピーク強度が約200meVの温度消光エネルギーでquenchする。またこれらの構造のピーク波長で観測した発光のdecayの様子は短波長ほど速く、長波長ほど遅いことが確認された。
(3) 等間隔構造のPL発光スペクトルを解析するために、バンド変調モデルを提案した。n型ZnSとp型ZnTe周期構造においては、pn接合の空間電荷による空乏層が形成されるので、バンドポテンシャルに変調が生ずると考えられる。これを1次元調和振動子モデルで近似すると、薄いZnTe層にはn=0の準位のみが、比較的厚いZnS層には幾つかの準位が生ずると考えられる。このようなモデルでPL発光スペクトルの等間隔構造はZnS層のn=0,1,2…の電子準位からZnTe層のn=O正孔準位への遷移による発光として説明できる。
(4) 上記バンド変調モデルを用いてZnTe層のn=0状態とZnSのn=0,1,2…状態との間で、波動関数の重なり積分を計算した。さらにZnSの電子状態分布をBoltzmann分布と仮定し、等間隔構造ピークの相対発光強度分布を見積もった。その相対発光強度分布を観測結果と合わせてZnS層中の電子温度を推定した。励起強度が増加するとPL発光スペクトルの短波長側の構造が強調され、これは電子温度の上昇に対応していると考えられる。しかし、このようにして決定した電子温度は液体窒素中の試料に対しても400K以上の高温になり、今後更に検討の余地がある。(2)で述べた温度消光はZnTe層中の正孔が量子準位から解離するプロセスに対応していると思われる。常圧MOCVD法で透明BaF2基板上への成長したZnS(10nm)-ZnTe(2nm)超格子構造の光双安定性をはじめて観測し、上記バンド変調モデルを用いてその光学非線形性の起源について検討した。
(5) N2レーザー励起した約10ナノ秒dyeレーザー(535nm)光に対し77Kで飽和吸収による光双安定性を観測した。この非線形吸収については共鳴吸収下でのZnS中のn=2(または3)サブバンドの充填効果か、あるいは励起によって生じたポテンシャル中の電子と正孔による空間電荷分布変化によるバンド変調による可能性が考えられる。
(6) Nd:YAGレーザーの数百ピコ秒の2倍波(532nm)光に対して室温で強度の増加に対して吸収が増加する光双安定性を観測した。このような非線形性吸収を生じる可能性は強励起下での多体効果もしくは温度上昇の効果によるZnTe層のバンドギャップの収縮によると考えられる。(5)の効果と合わせて詳細についてはポンプ-プローブ実験などにより更に検討の必要がある。
以上のように、ZnS-ZnTe超格子構造の発光デバイスヘの適用性と光双安定デバイスの可能性を検討し、従来報告のない新しい知見を得たが、前者については高温少なくとも室温動作の可能性の検討、後者については双安定性のメカニズム解明が今後必要である。

非公開論文

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る