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超長寿命フレッティング疲労特性に関する研究

氏名 白井 聡
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第245号
学位授与の日付 平成14年3月25日
学位論文題目 超長寿命フレッティング疲労特性に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 武藤 睦治
 副査 教授 古口 日出男
 副査 助教授 井原 郁夫
 副査 助教授 許 金泉
 副査 沼津工業高等専門学校助教授 西田 友久

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第1章 序論 p.1
第2章 電磁加振式疲労試験機の試作
2.1 緒言 p.17
2.2 電磁加振式疲労試験機の試作
2.2.1 設計目標 p.19
2.2.2 試験機の概要 p.20
2.3 試験機の機能 p.25
2.4 試験機の試作結果
2.4.1 性能確認方法 p.26
2.4.2 試験機の性能 p.29
2.5 結論 p.37
第3章 フレッティング疲労特性におよぼす繰返し速度の影響
3.1 緒言 p.38
3.2 実験方法
3.2.1 供試材 p.40
3.2.2 フレッティング疲労試験 p.43
3.2.3 押付け力負荷方法 p.44
3.2.4 実験条件 p.46
3.3 実験結果
3.3.1 Ti-6Al-4V合金 p.47
3.3.2 Al6061-T6合金 p.48
3.4 結論 p.50
参考文献 p.51
第4章 超長寿命領域における溶接構造用圧延鋼のフレッティング疲労特性
4.1 緒言 p.52
4.2 実験方法
4.2.1 供試材 p.54
4.2.2 フレッティング疲労試験 p.56
4.2.3 接線力振幅測定方法 p.57
4.2.4 相対すべり振幅測定方法 p.59
4.2.5 実験条件 p.61
4.3 有限要素解析方法 p.62
4.4 フレッティング疲労試験結果 p.64
4.5 フレッティング疲労き裂の発生 p.68
4.6 フレッティング疲労き裂の伝ぱと停留 p.74
4.7 超長寿命域におけるき裂伝ぱの評価 p.79
4.8 結論 p.81
参考文献 p.82
第5章 超長寿命領域におけるTi-6Al-4V合金のフレッティング疲労特性
5.1 緒言 p.84
5.2 実験方法
5.2.1 供試材 p.86
5.2.2 フレッティング疲労試験 p.88
5.2.3 押付け力負荷方法 p.88
5.2.4 接線力振幅測定方法 p.89
5.2.5 相対すべり振幅測定方法 p.89
5.2.6 実験装置 p.91
5.3 実験結果
5.3.1 S-N曲線 p.92
5.3.2 接線力および相対すべり振幅 p.94
5.3.3 フレッティング損傷部表面および試験片縦割り断面の観察 p.95
5.4 考察
5.4.1 超長寿命領域におけるフレッティング疲労挙動 p.99
5.4.2 S-N曲線の形状 p.101
5.5 結論 p.102
参考文献 p.103
第6章 超長寿命領域におけるアルミニウム合金A6061-T6のフレッティング疲労特性
6.1 緒言 p.106
6.2 実験方法
6.2.1 供試材 p.108
6.2.2 WPC処理による残留応力 p.111
6.2.3 フレッティング疲労試験 p.112
6.2.4 実験装置 p.113
6.2.5 フレッティング疲労き裂の観察 p.113
6.3 フレッティング疲労試験結果
6.3.1 S-N曲線 p.114
6.3.2 接線力係数 p.116
6.3.3 フレッティング損傷部のSEM観察 p.117
6.3.4 フレッティング疲労き裂の縦割り断面観察 p.119
6.4 フレッティング疲労き裂伝ぱ
6.4.1 フレッティング疲労き裂伝ぱ試験結果 p.121
6.4.2 フレッティング疲労き裂伝ぱにおよぼす残留応力の影響の簡易評価 p.125
6.4.3 初期き裂長さ p.126
6.4.4 有効応力拡大係数に対する残留応力の影響 p.128
6.4.5 FEMによるき裂進展シミュレーション p.131
6.5 結論 p.134
参考文献 p.136
第7章 結言 p.139

 構造部材が繰返し負荷を受け弾性変形を生じる。それにともない部材同士間の接触部において、剛性の相違に起因する相対すべりが生じ、接触部界面が損傷を受ける。このフレッティング損傷によりき裂が発生・進展し破壊に至る現象を、フレッティング疲労という。フレッティング疲労は、部材が組み合わされた、あるいは複数の部材から構成された構造物・機器において、すなわちほとんどの実用構造物・機器において発生可能であり、構造部材疲労強度の深刻な低下を引き起こす。近年では、環境保全、省エネルギーの観点から、機械構造物の高出力化・高効率化が求められ、使用条件の苛酷化が進んできている。これにともない、従来では現れなかったフレッティング疲労破壊の顕在化が進んできている。一方、従来は、繰返し数10^7回において、疲労限度が定義されてきたが、上述の様な要求による機械構造物の長寿命化や、半永久使用を前提とした機械構造物の増加、さらに原子炉に代表されるような高度に安全性を要求される機械構造物の増加によって、現在、10^7回を越える超長寿命域での疲労特性および破壊機構の解明が必須となってきている。
 すでに、通常疲労破壊については、疲労限度(部材が永久に破断しない最大応力振幅)以下の10^7回を越える領域においても、疲労破壊が発生する場合があり、研究例も多く存在している。しかし、超長寿命域におけるフレッティング疲労特性に関する研究は、ほとんど行われていないのが現状である。
 また、従来の試験機においては繰返し荷重の周波数が低く、10^7回を越える領域すなわち10^8,10^9回といった超長寿命域の疲労試験は、1ヶ月、1年におよぶ期間を要するため非常に困難である。
 そこで本研究では、超長寿命域におけるフレッティング疲労特性を明らかにするため、まず、超長寿命域での実験を可能とする、高繰返し速度のフレッティング疲労試験装置を試作し、続いて、三種類の代表的構造材料である鋼、チタン合金、アルミニウム合金を用い、含む超長寿命域におけるフレッティング疲労試験を行い、その特性を明らかにした。また、接触端部の特異応力場を考慮し、フレッティング疲労き裂発生および停留・伝ぱ挙動について調べた。
 本論文は全7章からなっており、以下に各章の概要を示す。
 第1章「序論」においては、フレッティング疲労に関する研究の歴史および、背景を調査し、本研究の意義と目的について述べた。
 第2章「電磁加振式疲労試験機の試作」においては、高繰り返し速度での疲労試験が可能な電磁加振式疲労試験機の試作を行った。試作した疲労試験機は、3.6kNにおいては、300Hzでの疲労試験が可能であり、また、0.6kNにおいては、600Hzにおいて疲労試験が可能であることが確認され、従来は1年近く試験期間を必要とした、10^9回の疲労試験が1ヶ月程度で完了することが可能となった。さらに、鋼、アルミ合金およびチタン合金の試験片を用い、試作した試験機の特性を検討したところ、いずれの試験片の場合においても、十分な精度で疲労試験の行えることが示された。
 第3章「フレッティング疲労特性におよぼす繰返し速度の影響」では、試作した電磁加振式疲労試験機を用い、チタン合金およびアルミ合金について周波数30Hzおよび300Hzでのフレッティング疲労試験を行い、繰返し速度がフレッティング疲労寿命に与える影響について調べた。実験結果から、本研究における条件下においては、フレッティング疲労寿命に対し、繰返し速度が与える影響は十分小さいことが分かった。
 第4章「超長寿命領域における溶接構造用圧延鋼のフレッティング疲労特性」では、溶接構造用圧延鋼を用い、フレッティング疲労試験および伝ぱ試験を行い、主として超長寿命域のフレッティング疲労き裂発生特性について調べた。実験結果から、疲労限以下の応力レベルにおいても、ある一定以上の応カレベルより高い場合、10^7回未破断試験片に、フレッティング疲労き裂の発生が確認された。また、FEM解析結果と実験結果の検討から、接触端部のフレッティング疲労き裂発生条件は、接触端部の特異応力場によって支配され、接触端部の特異応力場の特異パラメータがある臨界値よりも小さい場合、き裂が発生しないことが明らかとなった。また、き裂長さに対する最大接線応力拡大係数範囲△Kθmaxと、フレッティング条件下における混合モードを考慮したき裂進展下限界応力拡大係数範囲から、き裂の停留・伝ぱを予測できることが示唆された。
 第5章「超長寿命領域におけるTi-6Al-4V合金のフレッティング疲労特性」では、チタン合金Ti-6Al-4Vを用いて、高平均応力下における10^9回までのフレッティング疲労試験を行い、フレッティング疲労特性に対する平均応力の影響を調べた。実験結果から、Ti-6Al-4V合金は、応力比の上昇とともに疲労強度が低下すること、また、10^7回および10^8回で決定された疲労限度はほとんど変化がなく、いずれの場合においても、修正Goodman線図が有効であることが示された。さらに、応力比-1においては、10^7回の疲労限度が10^9回においても有効であることがわかった。一方、フレッティング疲労き裂については、通常疲労の場合と異なり、超長寿命域においても、き裂の発生位置の変化がみられなかったこと、鋼あるいはアルミニウム合金の場合と異なり、き裂の発生が全寿命の後期であることが明らかになった。
 第6章「超長寿命域におけるアルミニウム合金A6061-T6のフレッティング疲労特性」では、PWC処理および陽極酸化処理を施したアルミニウム合金A6061-T6のフレッティング疲労試験を行い、表面改質によるフレッティング疲労特性改善を調べた。実験結果から、WPC処理を施した試験片は、未処理材および陽極酸化処理のみを施した試験片に比べ、フレッティング疲労強度が高かったことから、WPC処理がフレッティング疲労特性改善に対して有効であることが明らかになった。また、この場合のフレッティング疲労限度は10^8回の超長寿命域においても有効であった。さらに、WPC処理によって発生する圧縮残留応カの寄与を考慮した、簡易的な有効応力拡大係数範囲の評価手法により推定した疲労限度は実験結果と良好に一致した。また、この残留応力を考慮した簡易評価手法を用い、フレッティング疲労き裂伝ぱ経路およびき裂進展速度からフレッティング疲労寿命を予測した結果、実験結果と良好な一致を示した。
 第7章「結言」では、以上の各章の主な結論を述べるとともに、今後の課題について述べ、本論文の結論とした。

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