本文ここから

反射偏光解析を用いた液晶界面配向に関する研究

氏名 奥谷 聡
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第218号
学位授与の日付 平成13年3月26日
学位論文題目 反射偏光解析を用いた液晶界面配向に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 高田 雅介
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 河合 晃
 副査 助教授 小野 浩司

平成12(2000)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第1章 序論 p.1
1.1 本研究の背景 p.2
1.2 本研究の目的 p.3
1.3 本研究の独創性 p.3
1.4 本論文の構成 p.4

第2章 液晶 p.5
2.1 液晶相 p.6
2.1.1 液晶相の分類 p.6
2.1.2 ネマティック液晶相とスメクティック液晶相 p.7
2.1.3 ダイレクタと配向秩序 p.7
2.1.4 スメクティックC*相 p.8
2.2 液晶の物性 p.9
2.2.1 誘電率の異方性 p.9
2.2.2 屈折率の異方性 p.10
2.2.3 粘性の異方性 p.10
2.2.4 その他の異方性 p.10
2.3 ネマティック液晶の連続体理論 p.10
2.3.1 Oseen-Frankの弾性体理論 p.10
2.3.2 誘電自由エネルギー密度 p.11
2.3.3 アンカリングエネルギーとアンカリング強度 p.12
2.3.4 単位面積当たりの全自由エネルギー p.13
2.3.5 Ericksen-Leslieの粘弾性理論 p.13
2.4 結言 p.15

第3章 偏光解析法 p.17
3.1 ジョーンズマトリクス法 p.18
3.1.1 ジョーンズマトリクス法とは p.18
3.1.2 ジョーンズマトリクス法による異方性試料の一般表記 p.20
3.2 偏光解析法の原理 p.21
3.2.1 ジョーンズベクトルによる反射偏光の表記 p.21
3.2.2 標準エリプソメトリ p.24
3.2.3 繰り込みエリプソメトリ p.26
3.3 サンドイッチ型液晶セルの偏光解析 p.28
3.3.1 サンドイッチ構造液晶セルにおける光の伝搬 p.28
3.3.2 色素添加法 p.30
3.3.3 全反射法 p.33
3.3.4 液晶ダイレクタの電場応答評価 p.36
3.4 結言 p.36

第4章 屈折率の波長分散評価 p.37
4.1 電極膜、配向膜の屈折率と厚さの評価 p.38
4.1.1 評価法 p.38
4.1.2 結果 p.40
4.2 液晶の屈折率評価 p.44
4.2.1 屈折率波長分散の解析法 p.44
4.2.2 実験と結果 p.49
4.3 結言 p.53

第5章 動的電場応答の解析 p.55
5.1 ECB液晶セルの電場応答解析 p.56
5.1.1 理論解析 p.57
5.1.2 色素添加反射エリプソメトリによる解析結果 p.58
5.1.3 全反射エリプソメトリによる解析結果 p.64
5.2 IPS液晶セルの電場応答解析 p.72
5.2.1 測定 p.73
5.2.2 理論解析 p.73
5.2.3 結果 p.77
5.3 SSFLCセルの電場応答解析 p.81
5.3.1 測定 p.82
5.3.2 結果 p.83
5.4 結言 p.84

第6章 静的電場応答の解析 p.87
6.1 アンカリング強度 p.88
6.1.1 外挿長によるアンカリング強度評価 p.89
6.1.2 配向膜と極角アンカリング強度 p.90
6.2 全反射エリプソメトリによる極角アンカリング評価 p.91
6.2.1 測定 p.91
6.2.2 理論解析 p.92
6.2.3 結果 p.95
6.2.4 全反射エリプソメトリを用いた極角アンカリング強度の評価の特徴と精度 p.100
6.3 結言 p.102

第7章 結論 p.103

付録A 4×4マトリクス法 p.115
A.1 4×4マトリクス法 p.115
A.2 液晶セルの伝搬マトリクス p.121

 大きな産業として成長した液晶産業がさらなる成長を遂げるためには、表示方式などの応用的研究だけでなく、配向機構やプロセス技術などの基礎的研究が重要である。特に、未だ完全には明らかでない基板と液晶との相互作用や、液晶分子の配向機構に関する研究は非常に興味深い。
 そこで、本研究では液晶デバイスの一般的な構造であるサンドイッチ構造液晶セルを用い、基板/液晶界面近傍の液晶分子の電場応答を選択的に観測する新規な偏光解析法を提案し、その有用性を調べることを目的とする。また、この手法を用い、駆動方式の異なる液晶セルにおけるバルク部分と基板/液晶界面近傍の液晶分子の電場応答の違いを明らかにする。
 はじめに、繰り込み反射係数を新たに定義することで、光学的に等方性を示す試料のみを評価対象とする偏光変調方式のエリプソメトリを、装置の拡張、実験の複雑化を伴うことなく光学異方性試料である液晶セルの配向研究にも適用できる繰り込みエリプソメトリに拡張した。この繰り込みエリプソメトリによる透過光、反射光の解析から、液晶の光学異方性によって引き起こされる偏光状態の変化を詳細に評価できることが分かった。また、繰り込みエリプソメトリに基づく透過偏光解析より、液晶の複屈折率の波長分散特性が評価できた。
(第3章、第4章)
 基板/液晶界面が二つ存在するサンドイッチ構造液晶セルにおいて片側の基板/液晶界面近傍の液晶分子の配向変化を選択的に観測するための手法として色素添加法と全反射法を提案し、これらの手法に繰り込みエリプソメトリを適用した色素添加反射エリプソメトリと全反射エリプソメトリを用いてサンドイッチ構造液晶セルを評価した。電圧印加によりて基板法線方向のみに液晶分子が回転するという、比較的シンプルな配向変化を示すECBセルの測定結果より、(i)バルク部分の液晶分子の動的電場応答を反映する透過エリプソメトリの△と比較して、色素添加反射エリプソメトリによって測定された△の動的電場応答は基板/液晶界面近傍の液晶分子の電場応答のみを反映していることが連続体理論に基づく配向計算結果との比較により分かった。(ii)全反射エリプソメトリによるΨの動的電場応答測定から、臨界角以上の入射角でΨは液晶の配向変化によらず45°一定となり、入射偏光が液晶セル内で全反射されていることが確認された。また、このとき、△の動的電場応答が基板/液晶界面近傍の液晶分子の電場応答のみを反映していることが分かった。(i)(ii)より、本研究で提案した色素添加反射エリプソメトリ及び全反射エリプソメトリを用いることで、サンドイッチ構造液晶セルの片側の基板/液晶界面近傍の液晶分子の電場応答のみを選択的に観測できる有効な手法であることが確かめられた。(第5章)
 透過エリプソメトリと色素添加反射エリプソメトリ、全反射エリプソメトリを用いてECBセルでの液晶分子の動的な電場応答を観測した。その結果、電界除去直後、バルク部分では液晶の流体的性質による流れ効果による液晶分子の配向変化が観測された。この時、基板/液晶界面近傍の液晶分子の回転に流れ効果による影響は見られなかった。(第5章)
 透過エリプソメトリと全反射エリプソメトリを用いてIPSセルでの液晶分子の動的な電場応答を観測した。透過エリプソメトリによりバルク部分における液晶分子の応答が、全反射エリプソメトリにより基板/液晶界面近傍の液晶分子の電場応答が観測された。特に、全反射エリプソメトリにおけるΨの動的電場応答は液晶分子の基板面内方向の回転を強く反映していることが分かった。また、方位角アンカリング強度の異なる配向剤を用いた結果、方位角アンカリング強度による液晶分子の応答の違いが観測された。(第5章)
 透過エリプソメトリと全反射エリプソメトリを用いてSSFLCセルでの液晶分子の動的な電場応答を観測した。基板と基板に接する液晶との相互作用が液晶分子の初期配向、及ぴ電場応答と密接に関係しているSSFLCセルは厚さが2μm以下の非常に薄い液晶セルであるため、これまで基板/液晶界面近傍の液晶分子の応答を観測することができなかったが、全反射エリプソメトリの適用によりバルク部分と界面近傍の液晶分子との応答の違いが初めて観測された。(第5章)
 全反射エリプソメトリによる静的電場応答の観測より、液晶ディスプレイの表示、応答特性を決める重要なパラメータの一つである極角アンカリング強度を評価した。その結果、バルク部分の配向変化を手掛かりとしてきた従来の評価法では十分評価できない比較的強い極角アンカリング強度(lO×10-4J/m2以上)に関して、配向膜によるアンカリング強度の違いを評価した。
 以上より、本研究で提案した繰り込みエリプソメトリ、色素添加反射エリプソメトリ、全反射エリプソメトリが液晶分子の配向研究に非常に有効であることを示した。特に、全反射エリプソメトリはサンドイッチ構造液晶セルの片側の基板/液晶界面近傍の液晶分子の電場応答のみを選択的に観測できるだけでなく、様々な駆動方式の液晶セルにも適用でき、汎用性の観点からも非常に優れた手法であることを示した。また、各駆動方式におけるバルク部分と基板/液晶界面近傍の液晶分子の電場応答の違いを明らかにした。

非公開論文

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る