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チクソキャスティングプロセスの応用による鋳造用アルミニウム合金の高性能化

氏名 岩澤 秀
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第211号
学位授与の日付 平成15年12月10日
学位論文題目 チクソキャスティングプロセスの応用による鋳造用アルミニウム合金の高性能化
論文審査委員
 主査 助教授 鎌土 重晴
 副査 教授 宮田 保教
 副査 教授 福澤 康
 副査 助教授 岡崎 正和
 副査 東京工業大学 教授 里 達雄

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目次
第1章 緒論 p.1
1.1 背景 p.1
1.2 アルミニウム合金の分類 p.5
1.3 本論文の目的 p.6
1.4 本論文の構成 p.8
第2章 Al-7massSi-0.5mass%Mg(A357)合金へのチクソキャスティングプロセスによる高品質化 p.14
2.1 緒言 p.14
2.2 実験方法 p.14
 2.2.1 高周波誘導加熱装置 p.14
 2.2.2 成形装置 p.15
 2.2.3 チクソキャスティング品の製造 p.15
 2.2.4 金型鋳造品の製造 p.17
 2.2.5 組織観察および機械的性質の調査 p.17
2.3 組織および機械的性質 p.23
 2.3.1 ミクロ組織 p.24
 2.3.2 硬さおよび引張特性 p.24
 2.3.3 衝撃特性 p.25
 2.3.4 疲労特性 p.25
2.4 破面組織および晶出相 p.31
 2.4.1 破面組織 p.31
 2.4.2 共晶Si相 p.31
 2.4.3 Al-Fe系化合物相 p.32
2.5 小括 p.36

第3章 A357合金チクソキャスティング材の引張特性改善へのミクロ組織因子の寄与 p.38
3.1 緒言 p.38
3.2 実験方法 p.39
 3.2.1 チクソキャスティング品および金型鋳造品の製造 p.39
 3.2.2 組織観察および引張特性調査 p.39
3.3 組織および引張特性 p.40
 3.3.1 as-cast材およびT6材のミクロ組織 p.41
 3.3.2 共晶Si粒子の形状因子 p.46
 3.3.3 引張特性に及ぼす共晶Si相の影響 p.46
 3.3.4 Al-Fe系化合物相 p.48
 3.3.5 析出相 p.56
3.4 小括 p.64

第4章 A357合金大型部材へのチクソキャスティングプロセスの適用 p.66
4.1 緒言 p.66
4.2 実験方法 p.66
 4.2.1 加熱および成形装置 p.67
 4.2.2 チクソキャスティング品の製造 p.67
 4.2.3 組織および引張特性調査 p.70
4.3 ミクロ組織および引張特性 p.71
 4.3.1 組織観察 p.72
 4.3.2 引張特性 p.76
 4.3.3 引張特性および晶出相 p.76
4.4 小括 p.80

第5章 一般用向けAl-Si-Cu-Mg系(AC2B)合金の高品質化 p.81
5.1 緒言 p.81
5.2 実験方法 p.82
 5.2.1 チクソキャスティング品および機械的性質の評価 p.83
 5.2.2 組織観察および機械的性質の評価 p.83
5.3 組織および引張特性 p.86
 5.3.1 as-cast材のミクロ組織 p.86
 5.3.2 溶体化処理後のミクロ組織 p.87
 5.3.3 時効硬化特性 p.88
 5.3.4 引張特性 p.93
5.4 破面および組織因子 p.93
 5.4.1 引張破面組織 p.93
 5.4.2 共晶Si粒子 p.94
 5.4.3 Al-Fe系化合物相 p.94
 5.4.4 初晶α-Al相の硬さ p.96
5.5 小括 p.103

第6章 耐磨耗過共晶Al-Si合金へのトクソキャスティングプロセスによるニアネットシェイプ加工とその特性 p.104
6.1 緒言 p.104
6.2 実験方法 p.105
 6.2.1 チクソキャスティング品および金型鋳造品の製造 p.105
 6.2.2 組織観察および機械的性質の評価 p.106
6.3 組織観察 p.109
 6.3.1 ミクロ組織 p.109
 6.3.2 初晶Si相粒子 p.110
 6.3.3 溶体化処理後のミクロ組織 p.111
6.4 時効硬化および引張特性 p.111
 6.4.1 時効硬化および引張特性 p.111
 6.4.2 引張特性 p.118
6.5 磨耗特性 p.119
 6.5.1 磨耗試験結果 p.119
 6.5.2 磨耗面組織 p.120
6.6 小括 p.127

第7章 結論 p.128

参考文献 p.134
謝辞 p.136

近年、地球環境問題がクローズアップされる中、自動車産業分野においては、CO2ガスの排出の低減につながる車両の燃費向上が課題となっている。燃費向上にはエンジンや駆動系の効率化に加え、自動車構成部品の軽量化は重要な要素であり、従来の鉄鋼材料から軽量金属材料であるアルミニウム合金への転換が多くなされてきた。一方、これまで足廻りやシャシー部品への適用が困難とされてきたアルミニウム鋳物において高品質化の要求が高まり、既存製法の改良および新しい製造プロセスの開発が行われてきた。本論文は、高品質アルミニウム合金鋳物の製法プロセスとして期待されるチクソキャスティングプロセスにより製造した鋳物の組織と機械的性質を詳細に調べ、一般の重力金型鋳造品と比較・検討するとともに、チクソキャスティング材の高強度・高延性化に寄与するミクロ組織因子を明らかにした。
第1章「緒論」では、チクソキャスティングプロセスの従来の研究の概要と、本研究の背景および目的を述べた。
第2章「Al-7mass%Si-0.5mass%Mg(A357)合金へのチクソキャスティングプロセスの応用およびそれによる高性能化」では、鋳造用アルミニウム合金中において中強度、高じん性および耐食性に優れる亜共晶A357合金を用いたチクソキャスティング鋳物の組織および機械的性質を調べるとともに同組成の重力金型鋳造品と比較・検討した。その結果、チクソキャスティング品では均一分布した直径約60μmの初晶α-Al相と微細なシリコン相が晶出した共晶部分から構成された健全な鋳物組織が得られた。チクソキャスティング品のT6材の引張強さ、0.2%耐力および伸びはそれぞれ363MPa、313MPaおよび12%と、金型鋳造品の335MPa、276MPaおよび6.1%に比べ、大幅に向上する。さらに、チクソキャスティング品のT6材の衝撃値および繰返し回数107回における疲れ強さは金型鋳造品の約1.4倍となり、チクソキャスティングプロセスの応用により、引張、衝撃および疲労特性とも飛躍的に改善されることが明らかとなった。
第3章「A357合金チクソキャスティング材の引張特性改善へのミクロ組織因子の寄与」では、第2章の結果を踏まえ、ミクロ組織因子の寄与を明確にするため、種々の冷却速度で製造したチクソキャスティング鋳物の引張特性に及ぼす初晶α-Al相、共晶Si相、Al-Fe系化合物相および析出相の大きさ、形状および量について調べるとともに、金型鋳造品と比較・検討した。その結果、凝固時の冷却速度が遅く、共晶Si相が粗大になるとともに引張特性は低下し、製法による差異は認められなかった。このことから本系合金の引張強さは主に共晶Si粒子径および形状に大きく依存し、α-Al相粒子の形状および大きさにはほとんど影響されないことが明らかとなった。一方では、チクソキャスティング品および金型鋳造品のT6処理材中で観察されるAl-Fe系化合物相の存在状態、析出物の種類、量および大きさに大きな違いは認められず、引張特性に及ぼすこれらのミクロ組織因子の影響はほとんど同等であると考えられた。
第4章「A357合金大型部材へのチクソキャスティングプロセスの適用」では、直径約152mmの電磁攪拌ビレットを用いて製造した重量約6kgの大型部材の組織および引張特性を調べた。その結果、金型鋳造品に比べてチクソキャスティング品の引張特性は良好な値が得られ、大型部材への本プロセスの適用も充分可能であることを見出した。
第5章「一般用途向けAl-Si-Cu-Mg系(AC2B)合金の高性能化」では、比較的良好な鋳造性を有し、かつCuおよびMgを含有するため熱処理により高い強度特性が期待できるAl-6mass%Si-3mass%Cu-0.3mass%Mg合金を用いて実部品形状に製造したチクソキャスティング品の組織および引張特性を調べた。チクソキャスティング品の組織は、均一に分布した直径約65μmの初晶α-Al相粒子と微細な共晶シリコン相、Al-Fe系化合物、非平衡晶出相からなる共晶領域で構成される。これらの微細な化合物は溶体化処理により容易に消失するため、433K、453Kおよび473Kの時効処理では、いずれの時効温度においても金型鋳造品に比べてチクソキャスティング品の方がピーク硬さ値は高くなる。T6処理を施したチクソキャスティング品の引張強さ、0.2%耐力および伸びはそれぞれ394MPa、331MPaおよび7.5%と、金型鋳造品に比べて引張強さおよび0.2%耐力はそれぞれ約1.2倍、伸びは2.7倍となり、一般の重力金型鋳造品に比べて引張特性が優れることを明らかにした。
第6章「耐摩耗過共晶Al-Si合金へのチクソキャスティングプロセスの適用によるニアネットシェイプ加工とその特性」では、初晶Si相の晶出により耐摩耗性に優れた過共晶組成のAl-17mass%Si-4.5mass%Cu-0.5mass%Mg(A390)合金にチクソキャスティングプロセスを適用して得られた実部品形状鋳物の組織、引張特性および摩耗特性を調べた。その結果、本系合金にチクソキャスティングプロセスを適用することで、平均約30μmの初晶Si相が均一に分散した鋳物組織が得られた。チクソキャスティング品の引張特性は、金型鋳造品とほとんど同等で、優位性は認められないものの、α-Al相の硬さが高いことに加えて、初晶Si相が多く、かつ均一に分布することにより、その摩耗特性は金型鋳造品に比べて幾分改善されることを明らかにした。
 第7章「総括」では、本研究の結果をまとめ、研究内容を総括した。

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