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NbNナノブリッジ形ジョセフソンミクサに関する研究

氏名 王 鎮
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第43号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文題目 NbNナノブリッジ形ジョセフィンミクサに関する研究
論文審査委員
 主査 教授 山下 努
 副査 教授 作田 共平
 副査 教授 金田 重男
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 助教授 濱崎 勝義

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目次
第1章 序論 p.1
1-1 本研究の背景 p.1
1-2 ジョセフソンミクサ素子の研究現況 p.7
1-3 本研究の意義と内容 p.12
第2章 NbNナノブリッジの作製とI-V特性 p.14
2-1 エッジ接合構造と特徴 p.14
2-2 材料の選択 p.17
2-2.1 電極材料 p.17
2-2.2 絶縁材料 p.20
2-2.3 ブリッジ材料 p.21
2-3 NbNナノブリッジ素子の作製法とNbN膜の超伝導特性 p.23
2-3.1 作製プロセス p.23
2-3.2 電極膜のX線回析特性 p.25
2-3.3 NbN膜の超伝導特性 p.26
2-4 I-V特性の解析 p.28
2-4.1 I-V特性 p.28
2-4.2 ギャップ構造 p.30
2-4.3 BTK理論によるI-V特性の解析 p.32
2-5 第2章のまとめ p.38
第3章 直流電流輸送機構と直流特性の評価 p.40
3-1 NbNナノブリッジの直流電流輸送機構 p.41
3-1.1 臨界電流の評価 p.41
3-1.2 IJとIBの2流体モデル p.46
3-1.3 非ジョセフィン電流IBのブリッジ膜厚依存性 p.47
3-2 NbN(g)/Alナノブリッジの電流輸送機構 p.49
3-2.1 Al "direct shunt" の意義 p.49
3-2.2 I-V特性と臨界電流の評価 p.52
3-2.3 2流体モデルと準粒子電流-電圧特性 p.56
3-3 ICRNの評価 p.61
3-3.1 理論モデル p.61
3-3.2 NBNナノブリッジのICRN積 p.65
3-3.3 温度依存性 p.68
3-4 素子の等価固有雑音温度の評価 p.73
3-4.1 熱雑音による臨界電流の減少効果の解析 p.73
3-4.2 等価固有雑音温度TNeffの評価 p.75
3-5 第3章のまとめ p.78
第4章 ミリ波応答特性及びヘテロダインミクシング特性 p.81
4-1 ミクサ回路構成 p.82
4-1.1ミクサチップの設計 p.82
4-1.2ミクサマウントと測定系 p.85
4-2 ミリ波(100G◆)応答特性 p.88
4-3 ミリ波誘起ステップ高さの解析 p.94
4-3.1解析モデル p.94
4-3.2雑音を考慮しない場合のミリ波誘起ステップ高さの解析 p.96
4-3.3雑音を考慮したミリ波誘起ステップの定量解析 p.104
4-4 ヘテロダインミクシング特性 p.111
4-5 第4章のまとめ p.118
第5章 総括 p.120
参考文献 p.126
記号表 p.132
謝辞 p.136
本研究に関する公表論文 p.137

 ジョセフソンミクサは、その強い非線形性から、電磁波が照射されたとき、数百倍にも及ぶ高周波が発生し、自己局発形の高調波ミクサとして動作しうる。このため、ミリ波ないしサブミリ波帯での高変換効率、低雑音、低消費電力の電磁波受信機のミクサとして期待されている。ジョセフソンミクサとして、従来、点接触形素子が主として使用されて来たが、この形の素子は機械的強度や集積化などが問題であった。これらの問題を解決するために、薄膜技術を用いてナノブリッジ形ジョセフソンミクサを実現しようとする試みが種々なされてきたが、素子作製(ナノメートル加工技術が必要)が困難なため、まだ実用化には至っていない。
 従来のジョセフソンミクサの実験は、素子の基礎特性(IC=IJsinφ)を十分解明した上で行ったものではなく、得られたミクサ雑音温度も正弦関数な電流-位相(超伝導波動関数の位相)関係に基づいて計算した理論値よりかなり大きなものとなっている。本研究では、ミリ波ないしサブミリ波帯での高速、高感度、低雑音の超伝導電磁波受信機の開発を目指し、NbNナノブリッジ形ミクサ素子を作製すると共に、ミクサの設計や動作解析上重要となる直流電流輸送機構の解明、並びに臨界電流の中の非ジョセフソン電流IBやミクサの遮断周波数fCを決定するパラメータであるIJRN積などの定量的評価を行っている。また、従来のブリッジ形素子で問題となった自己加熱効果(自己電流によるホットスポットの発生)の軽減や磁束のゆらぎに対する動的安定化のために、ブリッジ部のNbN薄膜上に常伝導薄膜(A1)を直接成膜する新しいブリッジ作製法を提案し、これにより素子の等価固有雑音温度を4.2Kの液体ヘリウム浴温と同程度の値までに低減することができた。更に、100GHZ帯でのミリ波照射及びミクシング実験を行い、ミリ波誘起ステップ高さのミリ波電流依存性の定量解析やジョセフソンミクサとしての性能評価の基礎的検討を加えた。
 本研究で得られた結果は、次のとおりである。
1.高インピーダンス(RN:数十~数百Ω)、低接合容量(CJ14~40fF)、かつIJsinφの電流-位相関係をもつNbNナノブリッジ形ミクサ素子の作製技術を確立した。
2.ミクサ設計・動作解析を困難にする非ジョセフソン電流IBの値を臨界電流の磁場依存性の測定から定量的に評価する方法を確立した。このIBは、ブリッジ部の膜厚がNbNの超伝導コヒーレンス長(ξNbN~40Å)の7倍と厚いために生じた3次元効果によるものであることを見出し、これを記述するために2流体モデルを提唱した。
3.微細寸法のブリッジ形素子で問題となる自己加熱効果や磁束量子(Φ0=2.07×10-15Wb)の運動に伴う動的ゆらぎの軽減のため、ブリッジ部をNbN膜とA1膜との2層膜としたナノブリッジ構造(A1"direct shunt")を新しく提案した。このA1"direct shunt"によって、ヒステリシスのない、正弦関数な電流-位相関係をもつナノブリッジ素子を再現性良く得ることができた。
4.ミクサ素子の遮断周波数fcを決定する1つの重要なパラメータであるIJRN積(fc∝IJRN/Φ0)を定量的に評価した。ジョセフソン電流のみをもつNbNナノブリッジ素子の真のIJRN積は、3.2mVと従来のブリッジ形素子に比べてかなり大きい値をもち、これより評価したNbNナノブリッジの遮断周波数、1.5THZ程度となった。
5."Transition-state"モデルを用いたIJRN積の解析から素子の等価固有雑音温度TNeffの定量評価を行った結果、NbN/A1ナノブリッジ素子のTNeffは、ほぼ液体ヘリウム浴温(4.K)と同程度であった。この値はバークレー大のグループがサブミクロン面積のトンネル形素子で評価した値(1.9Kの浴温で、TNeff≒9K)よりかなり低いものである。この結果から、A1"direct shunt"を用いたNbNナノブリッジ素子は、素子の熱雑音やそれに伴う磁束の動的ゆらぎなどが軽減され、サブミリ波帯での低雑音ミクサ素子として有用と期待される。
6.100GHZ帯のミリ波照射実験において、I-V特性上には明瞭なミリ波誘起ステップが観測され、また、照射したミリ波電力が大きくても、従来のブリッジ形素子で良く見られた高電圧領域での自己加熱効果がほとんど観測されなかった。RSCJモデルを用いたミリ波誘起ステップ高さのミリ波電流依存性の解析結果は、実験結果との良い一致を示した。また、熱雑音及びミリ波照射電力の吸収による等価雑音温度の増大を考慮したミリ波誘起ステップ高さの定量解析を行い、実験上観測されたミリ波電流の増大によるステップ高さの減少は、照射電力の増大による等価雑音温度TNeffの変化によるものであることを示した。これらの雑音評価結果から、例えば基本波ミクシング動作を考えた場合、NbN/A1ナノブリッジ素子単体の等価固有雑音温度は約15Kであり、点接触形素子に比べて1桁程度低雑音であるという見通しを得た。
7.100GHZ帯のヘテロダインミクシング実験では、約1.4mV(~700GHZ)と従来のブリッジ形素子よりかなり大きな電圧位置まで大きな中間周波出力をもつ良好なジョセフソンミクシング特性を得た。ミクシングにおけるミクサの性能などを概略見積もった結果、等価雑音電力NEPは約3×10-20W/HZ、変換効率ηは、約0.20、ミクサ雑音温度TMは21K~75Kであり、Likharevの理論による予想値(~20K)と同程度となり、従来のジョセフソンミクサより約1桁小さいという評価結果を得た。
 以上の結果より、本研究で開発したNbNナノブリッジ形ジョセフソンミクサ素子は、ミリ波ないしサブミリ波帯でのジョセフソンミクサとして有望であることが結論づけられ、本研究で行ったナノブリッジ素子の直流電流輸送機構の解明、及びそれに基づいたミリ波応答特性の定量的評価結果は、今後のミリ波ないしサブミリ派帯のジョセフソンミクサの開発に対して、基礎的かつ有益な指針を与えるものと期待される。

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