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インポータンスサンプリングを適用したトレリス符号化変調系の特性評価法に関する研究

氏名 酒井 孝和
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第131号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 インポータンスサンプリングを適用したトレリス符号化変調系の特性評価法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 萩原 春生
 副査 教授 島田 正治
 副査 教授 吉川 敏則
 副査 助教授 太刀川 信一
 副査 助教授 中川 健治

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目次
要旨 p.i
第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 TCM方式の誤り率評価における従来の問題点 p.3
1.3 本論文の目的 p.4
1.4 概要 p.5
第2章 計算機シミュレーション p.8
2.1 モンテカルロシミュレーション法 p.9
2.2 インポータンスサンプリング p.11
2.2.1 最適シミュレーション用確率密度関数 p.12
2.2.2 CIS法 p.13
2.2.3 IIS法 p.14
2.2.4 Twistedシミュレーション法 p.15
2.3 Correlated Sampling法 p.16
2.4 Stratified Sampling法 p.18
第3章 トレリス符号化変調 p.20
3.1 TCM方式 p.20
3.2 畳み込み符号 p.21
3.2.1 ボーゼンクラフト型畳み込み符号器 p.22
3.2.2 マッシイ型畳み込み符号器 p.22
3.3 トレリス線図 p.23
3.4 信号点配置と写像器 p.23
3.5 誤り状態遷移図 p.25
3.6 誤りベクトルと誤り距離 p.26
3.7 最尤系列推定 p.29
3.7.1 ビタビ復号 p.31
第4章 エラーイベントシミュレーション法 p.32
4.1 TCM方式の誤り率 p.32
4.2 エラーイベントシミュレーション法 p.33
第5章 バタチャリアバウンドに関連したシミュレーション確率密度関数の設計方法 p.35
5.1 バタチャリアバウンド p.36
5.2 バタチャリアバウンドに関連したシミュレーション確率密度関数の設計方法 p.37
5.2.1 AWGNにおけるシミュレーション確率密度関数 p.38
5.2.2 提案方法とTwistedシミュレーション法との関係 p.39
5.3 計算機シミュレーション p.40
5.3.1 非ガウス性雑音モデル p.40
5.3.2 シミュレーション確率密度関数の近似 p.42
5.3.3 シミュレーション条件 p.45
5.3.4 シミュレーション結果 p.46
第6章 雑音の確率密度関数にデルタ関数が含まれている場合のシミュレーション確率密度関数の設計方法 p.56
6.1 バタチャリアバウンドに関連したシミュレーション確率密度関数の説計方法の問題点 p.56
6.2 雑音の確率密度関数にデルタ関数が含まれている場合のシミュレーション確率密度関数の設計方法 p.59
6.3 計算機シミュレーション p.60
6.3.1 雑音モデル p.60
6.3.2 シミュレーション条件 p.61
6.3.3 シミュレーション結果 p.63
第7章 打ち切り誤差を生じない誤り率評価方法 p.69
7.1 最適シミュレーション確率密度関数と最適シミュレーション確率 p.70
7.1.1 最適シミュレーション条件とStratified Sampling法との関連 p.72
7.2 打ち切り誤差を生じない誤り率推定法 p.73
7.2.1 打ち切り誤差を生じないシミュレーション方法 p.73
7.2.2 シミュレーション条件付き確率密度関数設計方法I p.75
7.2.3 シミュレーション条件付き確率密度関数設計方法II p.76
7.3 計算機シミュレーション p.76
7.3.1 AWGNの場合 p.76
シミュレーション条件 p.76
シミュレーション結果 p.78
7.3.2 非ガウス性雑音の場合 p.86
シミュレーション条件 p.86
シミュレーション結果 p.87
第8章 結論 p.95
謝辞 p.99
参考文献 p.100
付録A 最適シミュレーション条件付き確定密度関数の導出 p.105
付録B 各誤りイベントの発生確率の推定値が上界値となる理由 p.107
付録C TCM方式における最適シミュレーション条件付き確率密度関数と最適シミュレーション確率の導出 p.109
付録D 最適シミュレーション条件付き確率密度関数と最適シミュレーション確率を用いた誤り確率の分散 p.111
本研究に関する発表論文一覧 p.113

 情報化社会の発展に伴い、音声、データ、及び、画像を始めとする様々なディジタル情報を一元的に取り扱うマルチメディア通信が我々の生活の一部となりつつある。このマルチメディア通信を支えるディジタル通信技術において、ディジタル情報の増大化、また、ディジタル情報通信システムの利便化を考えると、更なる高い信頼性と高い効率を持つようにディジタル情報通信技術を向上させる必要がある。その解決方法として、符号化と変調とを一体化した符号化変調の1つであるトレリス符号化変調(TCM)方式が注目されている。このTCM方式の最も魅力的な点は、伝送帯域と情報伝送速度を変化させることなく送信電力一定の条件の下で受信側の誤り率を低減させることができ、これにより、資源の有効利用が行えるところにある。このような利点からTCM方式は、既に、電話線を介した通信モデムに使用されている。
 TCM方式の誤り率は、その特性を理論的に解析する方法が知られていないため、理論的な誤り率の上界値による評価を行うか、モンテカルロシミュレーション法により誤り率の推定値を求めることで評価される。しかし、誤り率の上界値による評価の場合には、伝送路の雑音が加法的白色ガウス雑音(AWGN)のような特定の場合を除いて緩い評価となる。また、モンテカルロシミュレーション法による評価の場合でも、評価する誤り率が小さくなると一定の信頼度を持つ推定値を得るために必要なシミュレーションラン数の増加から、計算機シミュレーションに必要な時間が増大し、誤り率が10-6から10-7を境として評価が困難となる。また、評価する誤り率が非常に小さくなると乱数系列の周期や相関など、半導体技術の向上だけでは避けられない影響も考慮しなければならない。
 そのような場合、推定値の分散を低減させることで一定の信頼度を持つ推定値を少ない試行回数で評価することができるインポータンスサンプリングを適用することにより、非常に低い誤り率の評価が可能となることが期待される。この技術のTCM方式への適用による誤り率評価の方法としては、Sadowskyが提案したエラーイベントシミュレーション法がある。これは、発生しやすいと思われる一部の誤りイベントのみに着目し、各系列の発生確率をインポータンスサンプリングを適用した計算機シミュレーションにより推定することで全体の誤り確率を評価する方法である。しかし、Sadowskyは、AWGNの場合のシミュレーション確率密度関数の設計方法以外には言及していない。そのため、都市部における雑音モデルである非ガウス性雑音の場合にそのまま適用しても、シミュレーション時間の短縮化が望めない。また、エラーイベントシミュレーション法で得られる誤り確率は、有限個の誤り系列の発生確率による下界からの近似であるので、打ち切り誤差という原理的に避けられない問題も残されている。そこで、本論文は、これらの問題を解決することを目的としている。
 第2章では、確率推定に一般的に使用されているモンテカルロシミュレーション法の基本的な特徴について簡単なモデルを用いて説明する。更に、その推定値の分散を低減させることで、高い信頼性を有する評価が可能であるインポータンスサンプリング等のシミュレーション方法について述べる。
 第3章では、TCM方式の基本的なシステムの構成を示し、各構成部分毎に説明する。また、畳み込み符号がGF(q)上の加算における線形性を利用して畳み込み符号の誤りを一元的に取り扱う方法を述べ、畳み込み符号が全零入力に対する誤りの発生のみを評価すれば全入力に対する誤りを評価できることを説明する。また、畳み込み符号から伝送路信号に変換される際に非線形を有することを述べ、TCM方式の誤りの発生確率が情報系列に依存していることを説明する。
 第4章では、Sadowskyによって提案されたエラーイベントシミュレーション法について示す。TCM方式の誤りイベント呼ばれる時間的に依存性のある一連の誤りの発生の仕方に着目し、その観点から誤り率を導出し、インポータンスサンプリングと組み合わせる方法について述べる。
 第5章では、バタチャリアバウンドに関連したシミュレーション条件付き確率密度関数の設計方法を提案する。また、提案するシミュレーション確率密度関数の設計方法が、平均値移動法を特別の場合として含んでいることを示す。更に、計算機シミュレーションを行い、提案方法の有効性を示す。
 第6章では、雑音の確率密度関数にデルタ関数が含まれている場合のシミュレーション確率密度関数の設計方法を提案する。また、デルタ関数の存在により、従来用いられてきた上界値評価法が使用できないことを示す。更に、実際に計算機シミュレーションを行うことで提案方法の有効性を示す。
 第7章では、インポータンスサンプリングを適用したTCM方式の誤り率の推定値の分散を0とする最適なシミュレーション条件を導出する。また、ある固定された時間から始まる全ての誤りイベントの発生確率を考慮することにより、打ち切り誤差を持たないシミュレーション方法を提案し、最適シミュレーション確率密度関数を理論的に得られる上界値等を利用して近似することで、2つのシミュレーション条件付き確率密度関数の設計方法を提案する。更に、その有効性を計算機シミュレーションによって実証する。

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