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機能性ニューガラスの特異構造と機械的性質

氏名 渡辺 理生
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第211号
学位授与の日付 平成12年3月24日
学位論文題目 機能性ニューガラスの特異構造と機械的性質
論文審査委員
 主査 教授 小松 高行
 副査 教授 松下 和正
 副査 助教授 植松 敬三
 副査 助教授 内田 希
 副査 助教授 斉藤 秀俊

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第1章 緒論
1-1 機能性ニューガラス p.2
1-2 Bi-Sr-Ca-Cu-O系ガラス p.2
1-3 銅リン酸塩ガラス p.4
1-4 テルライト系およびビスマス系ガラス p.5
1-5 ガラスの硬度と脆性 p.6
1-6 ガラスのヤング率の算出 p.8
1-7 本研究の目的 p.14
1-8 本論文の構成 p.15
1-9 参考文献 p.16

第2章 ビスマス系超伝導前駆体ガラスの特異な網目構造
2-1 はじめに p.20
2-2 実験
2-2-1 ガラスの作製 p.21
2-2-2 結晶の析出およびアモルファス状態の確認 p.21
2-2-3 熱分析 p.22
2-2-4 密度 p.22
2-2-5 メスバウアー分光 p.22
2-3 結果
2-3-1 ガラス形成能 p.24
2-3-2 熱物性 p.28
2-3-3 密度 p.29
2-3-4 ガラス中の鉄イオンの状態 p.30
2-4 考察
2-4-1 添加物がガラス形成能に及ぼす影響 p.33
2-4-2 ガラス構造モデル p.33
2-5 まとめ p.37
2-6 参考文献 p.38

第3章 銅リン酸塩ガラスの特異構造と機械的性質
3-1 はじめに p.42
3-2 実験
3-2-1 ガラス試料の作製 p.42
3-2-2 価数分析 p.42
3-2-3 熱分析 p.43
3-2-4 密度 p.43
3-2-5 弾性率 p.43
3-2-6 硬度 p.44
3-3 結果
3-3-1 銅イオンの価数状態 p.45
3-3-2 熱物性 p.46
3-3-3 密度変化 p.47
3-3-4 弾性率変化 p.48
3-3-5 硬度変化 p.50
3-3-6 脆性変化 p.50
3-4 考察
3-4-1 硬度とガラス網目構造との関係 p.53
3-4-2 脆性とガラス網目構造との関係 p.54
3-5 まとめ p.56
3-6 参考文献 p.57

第4章 ビスマス系超伝導前駆体ガラスの機械的性質
4-1 はじめに p.60
4-2 実験
4-2-1 ガラス試料の作製 p.60
4-2-2 価数分析 p.60
4-2-3 熱分析 p.60
4-2-4 密度 p.61
4-2-5 弾性率 p.61
4-2-6 硬度 p.61
4-3 結果
4-3-1 銅イオンの価数状態 p.62
4-3-2 熱物性 p.63
4-3-3 密度変化 p.64
4-3-4 弾性率変化 p.65
4-3-5 硬度変化 p.66
4-3-6 脆性変化 p.67
4-4 考察
4-4-1 銅イオンの価数割合と硬度との関係 p.69
4-4-2 銅イオンの価数割合と脆性との関係 p.69
4-5 まとめ p.71
4-6 参考文献 p.71

第5章 光機能性テルライト系およびビスマス系ガラスの機械的性質
5-1 はじめに p.74
5-2 実験
5-2-1 ガラス試料の作製 p.74
5-2-2 熱分析 p.75
5-2-3 密度 p.75
5-2-4 ヤング率 p.75
5-2-5 硬度 p.85
5-3 結果
5-3-1 KWTeガラス
5-3-1-1 熱物性・密度・弾性率・硬度 p.76
5-3-1-2 脆性 p.76
5-3-2 PbBiBガラス
5-3-2-1 熱物性 p.79
5-3-2-2 密度変化 p.79
5-3-2-3 弾性率変化 p.79
5-3-2-4 硬度変化 p.81
5-3-2-5 脆性変化 p.82
5-4 考察
5-4-1 KWTeガラス p.85
5-4-2 PbBiBガラスの硬度変化 p.85
5-4-3 PbBiBガラスの脆性変化 p.87
5-5 まとめ p.90
5-6 参考文献 p.91

第6章 ガラスにおける硬度の温度依存性
6-1 はじめに p.94
6-2 実験
6-2-1 ガラス試料の作製 p.94
6-2-2 価数分析 p.95
6-2-3 熱分析 p.95
6-2-4 密度 p.95
6-2-5 熱膨張係数 p.95
6-2-6 高温硬度 p.96
6-3 結果 p.97
6-4 考察
6-4-1 硬度の温度依存性に影響を及ぼす因子 p.101
6-4-2 脆性の温度依存性 p.105
6-5 まとめ p.106
6-6 参考文献 p.107

第7章 結論 p.109

謝辞 p.113

本研究に関する発表論文 p.114

本研究に関する国際会議での発表 p.115

 Bi-Sr-Ca-Cu-O系超伝導体は液体窒素温度以上の臨界温度を持つために実用化が期待されている材料である。また、この超伝導体と同組成の融液は急冷によりガラスを形成し、そのガラス
(超伝導前駆体ガラス)を熱処理により結晶化させる事で超伝導結晶相が析出する事が知られている。ガラスセラミックス法と呼ばれるこの様なセラミックス作製のプロセスにおける一番の利点はガラスを経由するためにセラミックスの線材化が容易であるという事である。また、Bi2O3およびTeO2を主要構成成分とするビスマス系およびテルライト系ガラスは光学非線形性など優れた光学特性を有する事から特に情報通信分野における次世代先端材料として活発に研究されている。それらの材料をデバイス等へ応用する場合は、その機械的性質が重要となる。特に広範囲な応用を考える場合、機械的性質の重要性はさらに大きなものとなる。しかしながら、その様な機能性ニューガラスにおいては、その機能性に関する研究が注目されて多く行われる傾向にあり、機械的性質に関する報告は僅かである。また、本論文で取り扱ったガラス系はSiO2やB2O3等の様な従来の網目形成酸化物を主要構成成分としない新しいガラスであり、そのガラス網目の特異性がこれまでに報告されていることから、その様なガラスの機械的性質に関する知見はガラス科学の観点においても非常に興味深い。
 そこで、本研究ではビスマス系やテルライト系などの機能性ニューガラスの機械的性質を調査し、そのガラス構造との関係を明らかにする事を目的とした。具体的には、ビッカース硬度の室温からガラス転移温度域までの温度依存性、ナノインデンターによる弾性および塑性変形の解析とヤング率の算出、立方体共振法による弾性率やポアソン比の決定などを行った。
 超伝導前駆体ガラスは、そのガラス網目中に2配位のCu+を持つことが知られている。ガラス中の銅イオンの全量に対する1価の銅イオンの割合(R(Cu+))を変化させて機械的特性を調査したところR(Cu+)の増加に伴ってガラスの硬度および脆性が低下する傾向を示した。この挙動は同じくガラス網目中のCu+が直線2配位である銅リン酸塩ガラスにおいてより明瞭に観察された。このことから、2配位のCu+が増えたことでガラス網目がより空隙の多いものへと変化し、その結果としてガラスの硬度および脆性が低下したものと考えた。光機能性ビスマス系ガラスであるPbO-Bi2O3-B2O3ガラス(PbBiBガラス)はBi2O3量の増加に伴い硬度が低下した。PbBiBガラスのガラス転移温度およびヤング率はBi2O3量の増加に伴って低下しており、このことからガラス網目の平均の結合強度の低下が推察され、そのために硬度が低下したと考えた。また、ガラスの脆性は硬度の変化挙動と異なりBi2O3量が40mol%で極大を示した。ホウ素原子はガラス中で3もしくは4配位をしておりPbO-B2O3およびBi2O3-B2O3系ガラスにおいてB2O3量が50mol%付近で4配位ホウ素の量が最大となることが報告されている。この挙動は本研究で得られた脆性の変化挙動と酷似しており、このことから、ガラスの脆性とホウ素原子の配位数変化とが密接に関係していることが明らかとなった。光機能性テルライトガラスである10K2O・20WO3・70TeO2ガラス(KWTeガラス)はその硬度が一般的なガラスであるソーダライムシリケートガラスの約2/3倍で脆性が約2倍であることから機械的に極めて脆い材料であることが明らかとなった。テルライトガラスは3次元のガラス網目を有するにもかかわらず、その結合強度が弱いことが知られており、今回得られた結果はその様なことを反映しているものと考えられる。これらのことより機械的性質の変化がガラス網目構造に起因している事が明らかとなった。また、さまざまな機能性ニューガラスについて室温からガラス転移温度域までの広い温度範囲にわたる硬度の温度依存性を初めて測定した結果、硬度の変化挙動は大きく2つの領域に分けられることが判った。ガラス転移温度より十分に低温側では温度の上昇に伴って硬度はほぼ直線的に低下し、ガラスの熱膨張係数および平均原子容がこの挙動を主に支配していることが明らかになった。ガラス転移点近傍では硬度は急激な低下挙動を示し、この挙動がガラスの粘度の低下挙動と対応していることから、”フラジリティ”という概念がこの温度領域における硬度の低下挙動からも明瞭に検討できることを初めて示した。
 この様な知見は、今後、より機械的性質に優れた機能性ニューガラスの開発にあたっての重要な指針となることを確信する。

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