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芳香族化合物代謝酵素遺伝子の多様性

氏名 坂井 斉之
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第260号
学位授与の日付 平成14年12月31日
学位論文題目 芳香族化合物代謝酵素遺伝子の多様性
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 山田 良平
 副査 教授 山元 皓二
 副査 助教授 城所 俊一
 副査 助教授 政井 英司

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緒言 p.1

第1章 bphCの多様性 p.9
1.1 序 p.9
1.2 材料と方法 p.10
1.3 結果 p.26
1.4 考察 p.42

第2章 2-hydroxypenta-2,4-dienoate(HPDA)の代謝に関与する遺伝子郡の単離と機能解析 p.48
2.1 序 p.48
2.2 材料と方法 p.48
2.3 結果 p.57
2.4 考察 p.74

第3章 bphGF1E1遺伝子の転写制御 p.76
3.1 序 p.76
3.2 材料と方法 p.76
3.3 結果 p.79
3.4 考察 p.86

総括 p.88

謝辞 p.92

参考文献 p.93

 ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、生態系に悪影響を及ぼす代表的な環境汚染物質である。PCBは化学的安定性、絶縁性、熱伝導性等に優れた性質を有していることから、トランスの絶縁油、インク溶剤や食品工業などの加熱、冷却用の熱媒体として使用されてきた。しかし、環境汚染のよる野生生物への被害やカネミ油症事件によりその有毒性が認識され、現在では製造並びに使用、廃棄が禁止されている。これまでに物理・化学的にPCBを処理する方法が研究され、保管されていたPCBやその溶液の処理が実用化されつつある。しかし、環境中のPCB汚染の浄化には適応できないものである。このような背景の中で環境汚染の浄化に微生物分解を利用したバイオレメディエーションが注目されている。
 グラム陽性のRhodococcus sp. RHA1は殺虫剤のリンデン(γ-BHCまたはγ-HCH)汚染土壌から単離された強力なPCB分解菌であり、グラム陰性のPCB分解菌が分解不能な5~8塩素置換のPCBも分解する能力を持つ。RHA1は非常に多様なビフェニル/PCB分解酵素遺伝子(bph遺伝子)を持ち、このようなbph遺伝子のコードする多様なアイソザイムがRHA1の幅広い基質特異性と強い分解性をもたらしていると想像される。本論文ではRHA1の分解酵素系の詳細を明らかにしてより強力なPCB分解菌の育種改良に活用することを目的とし、特に多様性が著しいbphC遺伝子の分解能への関与および本菌を含むグラム陽性菌で明らかにされていない下流経路遺伝子の単離および解析を行った。
 第1章では、RHA1で見い出されている6種類のbphC遺伝子(bphC1,etbC,bphC2,bphC3,bphC4,bphC5)の機能およびRHA1における役割について解析を行った。bphC遺伝子はビフェニル/PCB分解の3番目のステップを触媒する2,3-ジヒドロキシビフェニル(23DHBP)ジオキシゲナーゼをコードする。6つのbphCのうち、bphC1産物(BphC1)とetbC産物(EtbC)は23DHBP以外にカテコールおよび3-メチルカテコールに対しても活性を示すことが明らかにされている。しかしながら大腸菌で発現されたbphC2~bphC5産物(BphC2,BphC3,BphC4,BphC5)は23DHBPのみに活性を示した。6種類のbphC遺伝子の転写誘導を種々の基質を用いてRNAハイブリダイゼーションにより調べたところ、ビフェニルで転写が誘導されたのは、bphC1,etbC,bphC5のみであった。またbphC1,etbCの転写誘導のパターンは調べた基質の範囲で同一であったことから、これらの遺伝子は同じ制御因子による制御を受けていることが示唆された。一方、bphC5は異なる制御を受けていると推定された。さらに各bphC遺伝子周辺の解析からbphC5の直上流に新たにbphD2を見出した。大腸菌で発現させたbphD2産物(BphD2)は23DHBP由来のメタ開裂物質のみに活性を示した。これによりbphC5はbphD2とともに、ビフェニル分解に関与することが示唆された。また、bphC2,bphC3,bphC4は転写誘導されなかったことから、ビフェニル分解に関与しないと結論した。
 第2章ではビフェニル/PCB分解系下流を構成し代謝中間体の2-ヒドロキシペンタ-2,4-ジエノエイト(HPDA)の代謝に関与すると予想されるbphG-F1-E1遺伝子を単離し、その塩基配列を決定した。これらの遺伝子の産物はHPDAをアセチルCoAに代謝する一連の酵素をコードしていることを明らかにした。さらに、それぞれの遺伝子破壊株においてビフェニルでの生育が抑えられ、野生型遺伝子を補った各相補株において生育が回復したことから、これらの遺伝子がRHA1のHPDA以降の代謝に関与することが明らかになった。すでにRHA1ではbphE2-F2遺伝子が線状プラスミド上に見い出されており、下流酵素系での多様性を想像させるが、以上の結果から、bphE2-F2はビフェニル代謝に直接関与しないと考えられる。また、これら遺伝子が染色体上に存在することをパルスフィールドゲル電気泳動により明らかにした。
 第3章では、bphG-F1-E1遺伝子の転写制御解析を行い、RT-PCRによりこれら遺伝子がオペロンを構成していることを明らかにした。そして、プライマー伸長法によりプロモ―タ―領域を推定し、上流に新奇の転写抑制遺伝子に相同性を持つbphR遺伝子を見い出した。bphR遺伝子の破壊株を作成し、bphG遺伝子の転写レベルを調べたところ、誘導を失って構成的になっていた。これより、bphRはbphG-F1-E1遺伝子群の転写抑制遺伝子であると考えられた。
 以上、本研究ではRHA1のビフェニル/PCB分解系上流で働く23DHBPジオキシゲナーゼの多様性を明らかにするとともに、分解系下流のHPDA代謝系酵素には多様性がないことを示唆した。分解系上流が多様な物質に対応する必要があるのに対し、分解系下流は一定の中間体に集約された以降の代謝を担当することを反映した結果と考えられている。HPDA代謝系酵素の遺伝子と機能の解明はグラム陽性菌において世界で初めての成果であり、PCBを効率的に完全分解する微生物の育成改良において、大いに貢献できると期待される。

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