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複素係数アナログフィルタの構成に関する研究

氏名 武藤 浩二
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第86号
学位授与の日付 平成6年3月25日
学位論文の題目 複素係数アナログフィルタの構成に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 神林 紀嘉
 副査 教授 袖山 忠一
 副査 教授 萩原 春生
 副査 教授 吉川 敏則
 副査 助教授 中川 健治
 副査 助教授 中川 匡弘

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究と背景と目的 p.1
1.1.1 従来の研究と問題点 p.2
1.1.2 本研究の目的 p.4
1.2 研究の概要 p.5
第2章 複素記号で励振される回路の振舞い p.8
2.1 まえがき p.8
2.2 定常複素正弦波励振 p.9
2.2.1 定義 p.9
2.2.2 受動素子に供給される瞬時電力及び瞬時蓄積エネルギー p.11
2.2.3 複素フェーザ、平均電力及び平均蓄積エネルギー p.13
2.3 抵抗終端された無損失複素2ポートの素子感度 p.15
2.3.1 両終端された無損失複素2ポート p.15
2.3.2 片終端された無損失複素2ポート p.20
2.4 数値計算例 p.22
2.5 むすび p.27
第3章 複素伝達関数の設計 p.28
3.1 まえがき p.28
3.2 周波数シフトに基づく複素伝達関数の設計 p.29
3.3 周波数変換に基づく複素伝達関数の設計 p.31
3.3.1 拡張周波数変換 p.32
3.3.2 上下の阻止域端で同一の阻止減衰量を与える場合 p.33
3.3.3 上下の阻止域端で異なる阻止減衰量を与える場合 p.35
3.4 設計例 p.41
3.5 むすび p.47
付録 拡張双1次S-Z変換 p.48
第4章 複素共振器を用いた複素極の実現 p.50
4.1 まえがき p.50
4.2 複素共振器 p.51
4.2.1 複素信号に対する基本演算ブロック p.52
4.2.2 演算増幅器を用いた複素共振器 p.53
4.2.3 有限利得差動増幅器を用いた複素共振器 p.57
4.2.4 素子感度解析 p.58
4.3 双1次複素共振器 p.60
4.4 演算増幅器の有限GB積の影響とその補償 p.61
4.4.1 前補償に基づく非理想成分の補償 p.63
4.4.2 受動補償に基づく非理想成分の補償 p.65
4.4.3 計算機シミュレーション p.68
4.5 トランジスタ複素共振器の補償 p.72
4.6 むすび p.75
第5章 複素係数フィルタの構成 p.76
5.1 まえがき p.76
5.2 複素共振器の継続接続による構成 p.77
5.3 受動複素係数フィルタのリープフログ構成 p.78
5.3.1 LCRRiフィルタの枝イミタンス p.78
5.3.2 複素リープフログ p.80
5.4 虚数抵抗の能動シミュレーション p.82
5.4.1 虚数抵抗の実等価回路モデル p.82
5.4.2 LCRRiフィルタの直接シミュレーション p.86
5.5 構成例 p.89
5.6 むすび p.99
第6章 複素係数アナログフィルタの応用 p.100
6.1 まえがき p.100
6.2 複素共振器を用いた実係数アナログフィルタの構成 p.101
6.2.1 間接型構成 p.101
6.2.2 直接型構成 p.105
6.3 高周波能動フィルタの構成 p.105
6.3.1 複素共振器を用いた高周波能動LPF p.105
6.3.2 有限利得の差動増幅器を用いた新しいジャイレータ p.109
6.3.3 虚数抵抗シミュレーションに基づく高周波能動BPF p.111
6.4 複素信号処理を用いたSSB変復調 p.114
6.5 むすび p.120
第7章 結論 p.122
謝辞 p.124
参考文献 p.125
付録 本研究に関する発表論文 p.132

 近年の情報通信社会の急速な発展に伴い、信号処理はマルチメディア通信の基盤技術として非常に重要な役割を担っている。音声、データ及び画像を一元的に取り扱うマルチメディアシステムにおいては、信号のレートやスペクトル等の諸性質が多種多様となるため、複雑な仕様を満たす伝達関数の設計とその実現が要求される。さらに、半導体集積回路技術の進歩に伴い、ディジタル信号処理とのインターフェイスを担うアナログ信号処理技術も年々高品質、広帯域なものが要求されるようになってきている。
 このような高品位信号処理の一手法として、ディジタル信号処理の分野で、信号及び伝達関数の係数に複素数値を許容する複素信号処理が用いられている。複素ディジタル信号処理は極及び零点の配置に複素共役という制約を受けないので、正周波数と負周波数での周波数応答の対称性が存在しない。従って、複素信号処理は実信号処理の場合に比べてシステム設計の自由度を大きくできる利点を有している。
 アナログ信号処理においても、ディジタル信号処理の場合と同様の効果が得られることから、複素アナログ信号処理を考えることができる。しかしながら
(1)複素信号を取り扱う回路理論が確立していない
(2)複素係数フィルタの素子感度が解析的に検討されていない
(3)複素伝達関数の設計法が体系化されていない
(4)複素信号を入出力とするフィルタの構成法が知られていない
(5)複素係数フィルタの応用について検討されていない
といった問題が未解決である。
 本論文は、これらの問題を解決するため、回路理論の拡張、複素係数フィルタの設計及び構成、並びにその応用について検討したものである。
 まず、実信号のみを取り扱う従来の回路理論の拡張及び無損失複素2ポートの素子感度特性について検討した。定常複素正弦波信号で励振された受動素子の瞬時電力及び瞬時蓄積エネルギーから複素フェーザを定義し、これを用いることで従来の回路理論を複素信号に拡張できることを示す。拡張した回路理論を用い、受動複素係数フィルタの素子感度を導出する。具体的な複素係数フィルタについての素子感度を計算した結果、実抵抗で両終端された受動複素係数フィルタは通過域内で低感度特性を有することを明らかにした。
 次に、与えられた仕様を満たす複素伝達関数を、参照用の実係数フィルタからの周波数変換により求める方法を示した。本手法は、基準LPFからHPFやBPF等、他の形式の実係数フィルタに変換する従来の周波数変換を、複素係数フィルタの場合に拡張したものである。複素伝達関数は、連立方程式を解くことで容易に求めることができる。また、阻止域端減衰量を任意に与えたフィルタ仕様に対して、逐次2分法を適用したアルゴリズムを示している。
 任意の複素伝達関数を実現するための機能ブロックとして、虚軸を含むs平面の左半平面上で、任意の位置に1個の極を有する複素共振器を提案した。演算増幅器及び有限利得差動増幅器を用いた複素共振器の回路構成、Q感度及び自然周波数感度を示す。またs平面上で、任意の位置に1個の零点を有する双1次複素共振器の構成法を示す。さらに、演算増幅器やトランジスタ等の能動素子の周波数特性に起因する非理想要素について解析し、その補償法を示している。
 そして、複素共振器を用いた複素係数アナログフィルタの構成法を示している。まず複素共振器及び双1次複素共振器を縦続接続することで、任意の複素伝達関数の極及び零点を実現する方法を示す。複素共振器の縦続接続は、各ステージでの素子値の偏差が累積する形で、理想応答からの誤差を生じる。そこで、実抵抗で両終端された無損失複素2ポートの素子感度特性が通過域内の整合点でゼロになることを利用した、受動素子で構成された複素係数アナログフィルタを能動シミュレートする回路構成法を示す。この方法は虚数抵抗及びインダクタンスをシミュレートする方法と、複素係数アナログフィルタの節点電圧及び枝電流をシミュレートする方法に分類される。構成例を示し、実験により提案する手法の有効性を確認している。
 複素係数アナログフィルタの応用として、複素共振器及び複素係数アナログフィルタを用いた、実係数フィルタの直接型及び間接型構成を示している。特に、実信号を解析信号に変換して複素係数フィルタに入力する間接型構成は、従来の実係数フィルタでは実現することが困難であった特性を容易に得ることができる。次に、複素共振器が損失を有する積分器で構成されることを用いて、数〔MHz〕の帯域で動作可能な高周波能動フィルタの構成法を示す。さらに、通信装置への応用として、SSB信号のベースバンド成分が本質的に複素信号であることを利用した、集積化可能なSSB変複調回路を示す。これらの手法についての実験結果を示し、複素係数アナログフィルタが高度な信号処理の一手法として有効であることを示している。

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