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加工用原料米育種における効率的な特性評価法の開発と実用育種への適用

氏名 小林 和幸
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第209号
学位授与の日付 平成15年12月10日
学位論文題目 加工用原料米育種における効率的な特性評価法の開発と実用育種への適用
論文審査委員
 主査 教授 山元 皓二
 副査 教授 松野 孝一郎
 副査 教授 福本 一朗
 副査 助教授 高原 美規
 副査 新潟大学農学部 教授 福山 利範

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目次

第1章 序論 p.1

第2章 水稲糯米育種における効率的な特性評価法の開発 p.25
第1節 餅硬化性に関係する選抜指標の検索と適正性 p.26
第2節 水溶性糖類含有率とアルカリ糊化澱粉の最大吸収波長による餅硬化性の評価法 p.37
第3節 微量核酸化熱変性測定システム(MTAS法)のよる餅硬化性評価法 p.47
第4節 餅硬化性の簡易・迅速な測定法の開発とそれを用いた特性評価 p.56
第5節 切り餅の食味官能試験法の開発 p.74
第6節 新たな糯米プログラムの提案 p.89

第3章 水稲糯米の実用育種における加工特性評価法の適用と効果 p.92
第1節 水稲糯米の実用育種における餅硬化性評価の適用とその特徴 p.93
第2節 餅硬化性極良系統「新潟糯61号」の育成 p.104
第3節 優れた加工特性といもち耐病性を有する水稲糯米品種を早期に育成するための選抜方法と系統育成 p.116
第4節 人為誘発糯突然異変系統における餅加工特性の実用性評価 p.133

第4章 酒造用原料米育種における効率的な特性評価法の開発 p.150
第1節 簡易・迅速精米法の開発 p.151
第2節 簡易・迅速精米法によって精白した米粒の精米特性および吸収特性 p.161
第3節 簡易・迅速精米法による精白米の酒造特性評価の有効性 p.169
第4節 新たな酒造特性評価プログラムの提案 p.180

第5章 酒造用原料米および実用育種における酒造特性評価手法の適用と効果 p.184
第1節 固体選抜および系統選抜における精米特性,吸収特性評価の適用とその効果 p.185
第2節 アミロース含有率および澱粉の熱糊化特性評価を加えた複合特性選抜法の適用と効果 p.206
第3節 生産力検定試験における特定検定への適用と効果 p.214
第4節 有望酒造好適米系統「新潟酒72号」の栽培試験における酒造特性評価への適用と効果 p.232

第6章 総合考察 p.243
謝辞 p.259
引用文献 p.261

新潟県は米加工食品の主産地として、加工用原料米育種の中心地として、またその加工利用技術研究の先進地として、全国からその実力が認められている。しかし、1999年度に「コシヒカリ」の作付比率が80%を超え、加工用原料米の生産が停滞し、高品質な加工用原料米の安定供給を求める県内メーカーのニーズに充分応えられない状態が続いている。
新潟県が米加工食品産業において、将来ともその地位を堅持し、確固たるものにして行くためには、加工用原料米の主力品種である「こがねもち」や「五百万石」の更なる高品質化と安定生産、および社会情勢・農業情勢の変化や消費者・実需者ニーズに的確に対応した優良な加工用原料米品種の早期開発が重要である。しかし、加工用原料米の育種では、いまだに玄米の外観品質や成分分析などが初期段階における特性検定の中心となっており、一般食用米に比べ、初期選抜における加工特性の有効な検定方法の研究や開発が著しく遅れている。そこで本研究では、加工用原料米育種における効率的な特性評価法を開発し、それを実用育種へ適用して、その有効性を実証した。

水稲糯米育種における効率的な特性評価法の開発と実用育種への適用
餅生地硬化の遅速は、裁断に至るまでの時間の長短を左右し、切り餅製造時のコストに関わる加工上最も重要な特性のひとつであるが、検定には大量の試料が必要であることから、育種の後期段階でしか調査されてこなかった。また、餅の食味官能試験にも公定法がなく、官能試験の方法や精度、再現性などについては全く明らかになっていなかった。そこで、少量の試料で、簡易かつ迅速に餅の硬化性を検定する方法と精度の高い切り餅の食味官能試験法を確立し、実用育種への適用効果を検証した。
餅硬化性に優れる「こがねもち」を直接の母本とする交配組合せの後代に個体選抜時から餅硬化性選抜を適用した結果、餅硬化性に優れる系統の比率が顕著に高まり、交配から7年で、「こがねもち」に匹敵する餅硬化性をもつ早生系統「新潟糯61号」を育成することができた。さらに、「こがねもち」と早生種でイネいもち病圃場抵抗性が極強の「東北糯161号」の組合せを選抜対象として、微量核酸熱変性測定システム(MTAS)による加工特性の1次スクリーニング、いもち耐病性検定、およびテンシプレッサーによる餅硬化性評価とを組み合わせた複合特性選抜法を実施し、「優れた加工特性といもち耐病性を有する良食味の水稲糯米早生品種」の早期育成を試みた。その結果、MTAS法を導入した複合特性選抜法の適用によって、目的の特性を有する個体および系統が効率的に選抜され、個体選抜の翌々年に生産力検定予備試験および特性検定を実施することができ、この間の開発期間が従来の1/2に短縮された。また、多様な変異が期待される人為誘発糯突然変異系統の餅加工特性を調査した結果、これまでわが国の水稲糯米品種では全く認められていなかった特徴的な餅加工特性を見出すことに成功し、新たな餅加工食品開発のための有用な遺伝子源であることを示した。
本研究により、新潟県での栽培に適した優良な糯米品種の開発および新たな餅加工食品開発のための多種多様な加工特性を有する糯米品種の開発が加速化され、実需者が求める高品質な糯米の安定生産、および地場産業の振興に大きく寄与することができた。

酒造用原料米育種における効率的な特性評価法の開発と実用育種への適用
新潟県における酒造好適米の育種はこれまで、粒大や心白などの玄米の外観品質調査とタンパク質含有率の分析が主で、精米特性や吸水特性等の酒造特性に関わる項目についての検討は、育種の初期段階では全く行われてこなかった。そこで、育種の初期段階における個体レベルでの酒造特性評価を行うための簡便かつ迅速な精米法を新たに開発し、その有効性を実証した。そして、この精米法を利用した酒造特性評価プログラムを構築し、実用育種に適用して、その効果を検証した。
新たな酒造特性評価プログラムを酒造用原料米育種における個体選抜および系統選抜に適用した結果、特性選抜を繰り返すことによって、酒造特性に優れる系統が効率的に育成できることがわかった。精米特性に優れる「山田錦」タイプの系統を的確に選抜するには、アミロース含有率と澱粉の熱糊化特性評価を加えた「複合的な酒造特性による選抜」が極めて有効であった。酒造特性選抜の適用以前と以降に育成された系統の生産力検定試験における酒造特性を主成分分析により解析した結果、特性選抜によって育成された系統の多くが、「山田錦」タイプの酒造特性に近づいていることが示され、系統育成における酒造特性評価プログラムの適用効果が確認された。
本研究により、「山田錦」に極めて近い酒造特性を有する系統が効率的に選抜され、育成されて、大吟醸酒用の酒造好適米の早期育成を求める実需者ニーズに対応した酒造用原料米育種を大きく前進させることができた。また本法は、「酒造用原料米全国統一分析法」と同様な酒造特性評価を簡易に、かつ迅速に行うことができ、各地域で生産された酒造用原料米の品質チェックにも適用することが容易なことから、県内産の酒造用原料米の高位平準化を図るための極めて有効な手法になることが期待される。

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