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励起酸素をエネルギー供与体とした塩化銅の化学発光に関する研究

氏名 徳田 俊彦
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第45号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文題目 励起酸素をエネルギー供与体とした塩化銅の化学発光に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 藤井 信行
 副査 教授 朽津 耕三
 副査 教授 青山 安宏
 副査 助教授 益田 渉
 副査 助教授 伊藤 義郎
 副査 助教授 野坂 芳雄

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究の概要 p.1
1.2 本研究と短波長化学レーザーの関わり p.5
1.3 短波長化学レーザーの理論解析 p.8
1.4 短波長化学レーザーの研究の歴史 p.12
1.5 化学的に生成された励起酸素 p.14
文献 p.16
第2章 化学的に生成された励起酸素流れの特性 p.18
(励起酸素に対する水蒸気の影響)
2.1 序 p.18
2.2 実験 p.20
2.3 真空フローシステムの理論 p.23
2.4 結果及び考察 p.25
2.4.1 SOGおよびWVT出口での水蒸気 p.25
2.4.2 WVT出口での励起酸素量 p.30
2.4.3 光学的な手法による水の見積り p.39
2.5 結論 p.43
文献 p.14
第3章 励起酸素流れ中における赤い発光現象 p.45
3.1 序 p.45
3.2 銅パイプを用いた発光実験 p.45
3.2.1 実験 p.45
3.2.2 結果および考察 p.47
3.3 種々の金属を用いた発光実験 p.50
3.3.1 実験 p.50
3.3.2 結果および考察 p.51
3.4 種々の金属化合物の粉末による発光実験 p.54
3.4.1 実験 p.54
3.4.2 結果および考察 p.55
3.5 塩化銅蒸気を用いた発光実験 p.57
3.5.1 実験 p.58
3.5.2 結果および考察 p.58
3.6 赤い発光のスペクトル測定 p.61
3.6.1 実験 p.61
3.6.2 可視領域の分光結果および考察 p.62
3.6.3 近赤外領域の分光結果および考察 p.68
3.7 可視発光と近赤外発光の関係 p.72
3.7.1 実験 p.72
3.7.2 結果および考察 p.72
3.8 結論 p.76
文献 p.76
第4章 赤い発光スペクトル解析 p.79
4.1 序 p.79
4.2 蒸気注入器の改良 p.80
4.2.1 真鋳整蒸気注入器 p.80
4.2.2 ガラス製蒸気注入器 p.81
4.3 SMAによる発光スペクトルの測定 p.84
4.3.1 実験 p.84
4.3.2 低分解能スペクトル測定の結果および考察 p.84
(1)低分解能スペクトルのバンドの部類分け p.84
(2)バンド原点とスペクトル形状 p.88
4.3.3 高分解能スペクトル測定の結果および考察 p.90
4.4 CuCl2の発光遷移とバンド強度の計算 p.93
4.4.1 CuCl2の電子構造と分光学定数 p.93
4.4.2 バンド強度分布の計算のための分光定数の補足 p.97
4.4.3 力の定数と基準座標 p.99
4.5 バンド強度の計算結果と考察 p.101
4.5.1 2IIU→2IIgj=1/2遷移による発光と1ST.シリーズ p.101
4.5.2 発光スペクトルの2nd.シリーズ p.106
4.5.3 2IIU2IIgJ3/2遷移による発光 p.109
4.5.4 2IIU→2Σg+遷移による発光 p.112
4.5.5 近赤外の発光 p.115
4.6 結論 p.119
文献 p.120
第5章 赤い発光の反応機構 p.121
5.1 序 p.121
5.2 実験 p.123
5.3 結果および考察 p.127
5.3.1 金属塩化物蒸気を用いた赤い発光 p.127
5.3.2 発光強度と塩化銅蒸気圧の関係 p.128
5.3.3 赤い発光の励起酸素依存性 p.133
5.3.4 赤い発光の失活効果 p.142
5.3.5 塩素添加による赤い発光の増大効果 p.151
5.3.6 マイクロ波放電酸素の実験 p.158
5.5 結論 p.163
文献 p.165
第6章 総括 p.166
謝辞 p.169
付録 p.170
A.バンド強度の計算に関する理論 p.170
(1)ボルンオッペンハイマー近似 p.170
(2)スペクトル強度 p.170
(3)フランク-コンドン因子 p.173
(4)振動波動関数 p.174
(5)多原子分子の基準振動 p.177
(6)WilsonのGF行列法の応用 p.178
(7)次元および単位について p.182
B.O2(1Σ)の発光スペクトル p.183

 本論文の題目は「励起酸素流れ中で新しく発見された発光」に関する研究の最終的な結論を表している。論文内容は大きく分けて、第2章と残りの章の2つに分けられる。第2章では励起酸素流れのシステムの注目し、励起酸素量の失活物質として知られているH2Oの発生、除去及び全体の励起酸素量への影響について研究した。残りの章では、励起酸素流れの中で新しく観測された赤い発光に関して、文光解析や反応解析についての研究結果を述べている。いずれの研究においても、励起酸素流れのシステムを基にしている。
 励起酸素は塩素と過酸化水素との気-液の化学反応によって作られる。そのときシステムは真空であるので、水蒸気の発生は免れず、その水蒸気は励起酸素流れとともに運ばれる。水分子は励起酸素に対して非常に強い失活物質であることが知られている。この水蒸気を除去するために一般にトラップシステムが使用される。励起酸素流れに含まれる水蒸気量およびその除去効率は、制作したシステムに依存するところが大きい。したがって、系に含まれる水蒸気量を支配する因子を明らかにし、その水蒸気量が励起酸素に及ぼす程度を明らかにすることは、励起酸素流れのシステムをしようした反応装置には重要である。
 第2章はこの様な観点に立ち、化学的に生成した励起酸素流れにおける励起酸素に対する水蒸気量の影響を取り扱った。酸素発生器における水蒸気量は反応溶液の温度に強く依存していて、投入する塩素量によらなかった。しかしながら、水蒸気トラップを出た所では、励起酸素流れに含まれる水蒸気量はその水蒸気トラップの温度によって制御され、酸素発生器側での影響がトラップ出口に現れなかった。逆にトラップ出口においては、特に低いトラップ温度において流量の影響を受けた。この章ではまた、励起酸素種の存在量を光学的に測定することによって水蒸気量を見積る方法が考え出された。
 第3章はその後の章の序論にも相当する「赤い発光」の現象について述べられている。「赤い発光」は化学励起酸素-ヨウ素レーザーの実験中に偶然発見された発光である。この赤い発光は見た目に発光強度が非常に強く、可視化学レーザーの媒体になるのではないかと期待が持たれた。しかしながら、発光体が何であるのか、またどういう反応が生じているのかはまったく解らなかった。第3章では簡単なスペクトル測定を行い、可視領域と近赤外領域の発光スペクトルを得た。このスペクトルのバンド間隔から発光種がCuCl2ではないかと予測した。また、この章では赤い発光を制御するための何種類かの実験を行い、励起酸素流れと金属銅で始まった赤い発光を励起酸素流れと塩化銅蒸気の混合による均一反応系の発光反応に発展させた。
 第4章ではスペクトルから発光種を帰属することを目的とした。ここでは、スペクトル-マルチチャンネル-アナライザーを用いて、第3章よりも精密な分光を行った。ここで、新たに細かく分解されたスペクトルが得られたが、それに体する帰属を確定するには至らなかった。また、この章では発光種がCuCl2であるという可能性をより強めるために、理論的なCuCl2に分光定数を用いて計算したバンド強度分布と測定された赤い発光のスペクトルとを比較した。それらはかなり良い一致を示し、発光種がCuCl2であることが強く示唆された。
 第5章では発光反応の反応機構を明らかにすることを目的とした。まず、CuCl2の蒸気注入器の加熱温度と赤い発光の発光強度との関係を測定し、発光強度が塩化銅の蒸気圧と同じ温度依存性を示したことから、塩化銅の蒸気量が蒸気注入器の加熱温度で制御されることを明らかにし、塩化銅蒸気濃度と発光強度が比例関係にあることを示した。次に、赤い発光の強度と励起酸素量との関係を測定したところ、赤い発光は励起酸素の約4次の関係になっていることが示された。このことと第4章で示した発光種の成分に酸素が含まれないことから、励起酸素によるCuCl2多段階励気が示唆された。また、この機構を両分子のエネルギー準位の関係から議論し、妥当であることを明らかにした。次に発光に対する失活物質の効果を測定した。この結果、赤い発光は励起酸素種よりも直接的に効果的に失活された。また逆に、添加された少量の塩素による発光の増大効果も見いだされ、その効果は添加しないときの80倍近くにもなった。化学的に生成した励起酸素流れでは、僅かではあるが未反応塩素による影響を免れないので、塩素がまったく存在しないマイクロ波放電による酸素流れによっても行った。しかしながら、マイクロ波放電による酸素流れ中の励起酸素量の測定ができなかったために、赤い発光に対する塩素の必要性を定性的に示すにとどまった。

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