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粉体状産業副産物を用いたコンクリートの消波ブロックへの適用

氏名 木村 仁
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第280号
学位授与の日付 平成15年8月31日
学位論文題目 粉体状産業副産物を用いたコンクリートの消波ブロックへの適用
論文審査委員
 主査 教授 丸山 久一
 副査 教授 丸山 輝彦
 副査 助教授 下村 匠
 副査 助教授 高橋 修
 副査 助教授 小松 俊哉

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目次

第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
 1.1.1 環境問題の推移 p.1
 1.1.2 環境関連の法規 p.1
 1.1.3 コンクリート材料としての再資源化 p.2
 1.1.4 廃棄物再資源化システムの構築 p.3
1.2 研究の目的 p.4
1.3 本論文の構成 p.5

第2章 産業廃棄物の現状 p.6
2.1 産業廃棄物の種類と排出量 p.6
 2.1.1 産業廃棄物の種類 p.6
 2.1.2 産業廃棄物と一般廃棄物 p.8
 2.1.3 特別管理廃棄物 p.8
 2.1.4 最終処分場の分類 p.9
 2.1.5 産業廃棄物の排出及び処理状況 p.10
 2.1.6 産業廃棄物最終処分場の残存容量 p.14
 2.1.7 新潟県の産業廃棄物を取り巻く状況 p.151
2.2 コンクリートを用いた産業廃棄物の再資源化 p.17
 2.2.1 コンクリートを用いた産業廃棄物の再資源化の現状 p.17

第3章 鋳物灰と還元スラグ p.21
3.1 鋳物灰と還元スラグの現状 p.21
 3.1.1 鋳物灰の現状 p.21
 3.1.2 還元スラグの現状 p.24
3.2 研究に用いた鋳物肺及びスラグの物性 p.29
 3.2.1 鋳物灰の物性 p.29
 3.2.2 還元スラグの物性 p.32

第4章 有害物質の溶出試験 p.35
4.1 溶出試験方法に関する国内公定法 p.35
4.2 本研究で用いた鋳物灰及び還元スラグの溶出試験 p.37
 4.2.1 鋳物灰の溶出試験 p.37
 4.2.2 還元スラグの溶出試験 p.38
 4.2.3 還元スラグからのセレン溶出 p.39

第5章 使用材料と製造方法 p.41
5.1 使用材料 p.41
5.2 試験条件 p.41
5.3 供試体の製造方法 p.42

第6章 鋳物灰と還元スラグを多量に混入したコンクリート p.43
6.1 鋳物灰混入コンクリートの検討 p.43
 6.1.2 強度改善(C/Wの検討) p.43
 6.1.3 強度改善(養生条件の検討) p.43
 6.1.4 強度改善(NaCl添加の検討) p.44
6.2 還元スラグ混入コンクリートの検討 p.46
 6.2.1 実験要因 p.49
 6.2.2 還元スラグの急結反応抑制 p.49
6.3 還元スラグ鋳物灰混入コンクリートの検討 p.49
 6.3.1 実験要因 p.52
 6.3.2 鋳物灰による還元スラグの膨張抑制 p.52
6.4 還元スラグ鋳物灰混入コンクリートに対する養生温度の検討 p.53
 6.4.1 実験要因 p.54
 6.4.2 還元スラグ鋳物灰混入コンクリートにおける養生温度と強度の関係の膨張抑制 p.54
6.5 還元スラグ鋳物灰混入コンクリートに対する海水の影響 p.56
 6.5.1 実験要因 p.56
 6.5.2 還元スラグと鋳物灰の海水劣化検討 p.58
6.6 粉体状産業廃棄物を多量に混入したコンクリートの配合設計方法 p.61
 6.6.1 実験要因 p.61
 6.6.2 配合選定の流れ p.62
 6.6.3 配合選定方法 p.65
 6.6.4 配合計算例 p.67

第7章 微量成分に関する検討 p.71
7.1 還元スラグ鋳物灰混入コンクリートの溶出試験 p.71
 7.1.1 実験要因 p.71
 7.1.2 還元スラグ鋳物灰混入コンクリートの溶出試験 p.71
7.2 六価クロム溶出抑制物資の特定 p.73
 7.2.1 実験要因 p.73
 7.2.2 六価クロム溶出物質の特定 p.73
7.3 還元スラグの六価クロム溶出抑制効果 p.76
 7.3.1 実験要因 p.76
 7.3.2 還元スラグの六価クロム溶出抑制効果 p.76
7.4 還元スラグ単体での六価クロム溶出抑制効果 p.78
 7.4.1 実験要因 p.78
 7.4.2 還元スラグ単体での六価クロム溶出抑制効果 p.78
 7.4.3 還元スラグ添加量と六価クロム溶出抑制の関係 p.79
7.5 還元スラグの六価クロム溶出抑制メカニズム p.80
 7.5.1 還元スラグの六価クロム溶出抑制効果の要因についての考察 p.80
 7.5.2 還元スラグの六価クロム溶出抑制メカニズム p.82
7.6 六価クロムの分析 p.85
 7.6.1 六価クロム分析方法の現状 p.85
 7.6.2 ジフェニルカルバジド吸光光度法についての考察 p.85
 7.6.3 ICP発光分光分析法についての考察 p.86
 7.6.4 六価クロム試験及び分析方法の提案 p.87

第8章 産業副産物混入コンクリートを用いた消波ブロックの検討 p.88
8.1 副産物混入コンクリートを用いた消波ブロックの製作 p.88
 8.1.1 実験要因 p.88
 8.1.2 消波ブロック製作における事前室内試験 p.89
 8.1.3 消波ブロックの製作 p.92
8.2 消波ブロック選定配合供試体の実海域での暴露試験 p.96
 8.2.1 実験要因 p.96
 8.2.2 消波ブロック選定配合供試体の実海域での暴露試験 p.97
8.3 消波ブロックの実海域での暴露試験 p.98
 8.3.1 実験要因 p.98
 8.3.2 消波ブロックの実海域での暴露試験 p.100

第9章 結論及び今後の課題 p.102

参考文献 p.107

謝辞 p.111

近年,産業廃棄物を取り巻く状況は急速に変化しており,循環型社会形成に向けて法の整備が進むなど,再資源化は特別なものではなくなってきているが,廃棄物の中には利材化技術の遅れから,やむを得ず埋め立て処分しなければならない物も多く存在し,処分場の残存容量は,依然として逼迫した状況におかれている。
これに対し著者は、新潟県中越地区にて現在も埋立て処分されている産業副産物である,鋳物灰と還元スラグに着目し、適用箇所を強度や耐久性をあまり必要としない,無筋コンクリート構造物である消波ブロックに限定する代わりに,これら副産物をできるだけ多量にコンクリート材料として再利用することを目的とした。
研究で使用した副産物は,細かい粉体状であるため,これを使用し作製したコンクリートは,練り混ぜ時に多量の水を必要とする。このため副産物混入コンクリートはW/Cが増加し,結果として強度の低いコンクリートになる。これに対し著者は,鋳物灰を混合したコンクリートに,適量のNaClを添加することで,流動性の改善と強度の増加が図れることを確認した。
還元スラグはセメントと混合すると,練り混ぜ時に急結反応を起こす。これは還元スラグに含まれているカルシウムアルミネート系化合物の影響により,セメント中の石膏が不足することが原因である。これに対し本研究では,この不足した石膏分を添加することで,急結反応を防止できることを確認した。
還元スラグはコンクリートに混合すると,養生中に膨張ひび割れを起こす。これは還元スラグに含まれている遊離石灰が,外部から水分を吸収し体積膨張を起こすことが原因である。これに対し本研究ではシリカ質材料として鋳物灰を混合することにより,膨張が抑えられることを確認した。
本コンクリートの対象構造物である消波ブロックは,海洋構造物であるために,海水対策が必要不可欠である。消波ブロックは無筋構造物であるため,鉄筋による腐食は問題にならないが,海水によるコンクリート自体の劣化は軽視できない。これに対し本研究では,還元スラグ鋳物灰を混合したモルタル供試体を作製し,室内試験にて真水及び海水養生におけるの経時的な強度変化を検討した。その結果,還元スラグ鋳物灰を混合した供試体は,真水で養生したものと海水で養生したもので,相違がないことを確認した。
還元スラグ及び鋳物灰は,産業副産物であるため,排出される場所や日時により物性値が大きく変化をする。このため従来使用されてきた方法では,配合を選定することが不可能であり,目標とする品質を得るためには,多くの試験練りが必要となる。これに対し本研究では,事前にペースト及びモルタルフロー試験を行なう事により,コンクリートの単位水量を予測する方法を適用した。これにより,コンクリート中の粗骨材容積が300(L/m3)程度以下、かつモルタル中の細骨材容積比s/mが0.3程度以下の場合、スランプ5cm程度のコンクリートの配合を概ね予測できることを確認した。
近年問題視されているセメントからの六価クロム溶出に関して,還元スラグを混合することで,セメントからの六価クロム溶出を抑制できることを明らかにした。研究では,セメント容積に対し半分の量の還元スラグを混合すれば,セメントからの六価クロム溶出を抑えられることを確認している。このため本コンクリートのように多量に還元スラグを混入したコンクリートからの,六価クロム溶出が極めて少ないことを示した。更にこの六価クロム抑制反応が,還元スラグ中に含まれているカルシウムアルミネート系化合物の六価クロム収着が原因であること,また還元スラグの六価クロム収着効果が,普通ポルトランドセメントや高炉セメント(B種)よりも,優れていることを明らかにした。
ここまでの試験結果をもとに,消波ブロックを想定した配合を選定し,強度等の物性値及び,コンクリートからの有害物質の溶出に関して検討を行った。選定した配合はセメント250kg/m3,還元スラグ500kg/m3,鋳物灰500kg/m3に,少量のNaClと石膏を添加したものである。その結果,消波ブロックの設計基準強度である18N/mm2以上の強度を持ち,実験海域管轄の国土交通省第一港湾局が指定した,消波ブロックの溶出基準値を満足できることを確認した。
ここまでの結果をもとに,プラントにて実寸大の消波ブロックを製作し,1年7ヶ月の間,実海域に設置して暴露試験を行った。その結果,還元スラグ鋳物灰混入コンクリートより製作した消波ブロックは,大きな破損やひび割れはなく,比較用の普通コンクリート消波ブロックと比較しても遜色が無いことを確認した。また実験の消波ブロックより,採取したコア供試体にて行った溶出試験では,本配合にて製作したコンクリートからの,有害重金属溶出が環境基準値以下であることを確認した。
以上の結果から,還元スラグ及び鋳物灰を混入したコンクリートを用いて,消波ブロックを製作できる可能性は,極めて高いという知見が得られた。

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