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交互イオン吸着・堆積法によるCdS薄膜の原子層堆積に関する研究

氏名 平川 麻里子
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第275号
学位授与の日付 平成15年3月25日
学位論文題目 交互イオン吸着・堆積法によるCdS薄膜の原子層堆積に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 藤井 信行
 副査 教授 山田 昭文
 副査 教授 小松 高行
 副査 助教授 松原 浩

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目次

1章 序論 p.1
 1.1 緒言 p.1
 1.2 目的 p.4
 1.3 本論文の構成 p.4
 1.4 参考文献 p.6

2章 CdS薄膜の堆積方法と評価方法 p.8
 2.1 SILAR法によるCds堆積とその評価 p.8
 2.1.1 SILAR法 p.8
 2.1.2 SILAR法によるCds薄膜堆積を行うための標準条件の設定 p.9
 標準条件の設定
 (1)基板の選択 p.9
 (1-1)Au基板 p.10
 (1-2)Ni基板 p.10
 (1-3)ガラス基板 p.10
 (1-4)結果 p.11
 (2)基板の前処理 p.11
 (2-1)アセトンおよび50%エタノール水による超音波洗浄 p.11
 (2-2)(2-1)の後に電解処理 p.11
 (2-3)(2-1)の後に1MSnCl2/HCl水溶液に浸漬 p.12
 (2-4)(2-1)の後に1MKOH/エタノールに浸漬 p.12
 (2-5)結果 p.13
 (3)原料イオン濃度 p.13
 (3-1)実験 p.13
 (3-2)結果 p.13
 (4)洗浄方法と洗浄時間の最適化 p.14
 (4-1)イオン交換水(流水)と超純水(ため水)による2段階洗浄 p.14
 (4-2)イオン交換水による流水洗浄 p.15
 (4-3)結果 p.16
 (5)標準条件 p.16
 2.1.3 SILAR法によって堆積したCdS膜の評価 p.17
 (1)膜厚 p.17
 (2)結晶性・結晶子径 p.17
 (3)表面形態・表面粗さ p.18
 (4)組成 p.18
 (5)原子層レベルでの堆積量とその評価 p.18
 2.2 ECALE法によるCdS堆積とその評価 p.19
 2.2.1 ECALE法 p.19
 2.2.2 ストリッピングボルタンメトリーによる堆積量評価 p.22
 2.2.3 サイクリックボルタンメトリー p.23
 2.3 SILAR法およびECALE法において考慮すべき事柄 p.24
 2.3.1 吸着平衡 p.24
 2.3.2 生成定数 p.25
 2.3.3 HSAB理論 p.25
 2.4 参考文献 p.27

3章 SILAR法によるCdS薄膜堆積におけるCdイオン源と錯化剤の効果 p.30
 3.1 緒言 p.30
 3.2 実験方法 p.30
 3.2.1 基板 p.30
 3.2.2 溶液 p.31
 3.2.3 堆積方法 p.32
 3.2.4 評価方法 p.32
 3.3 結果と考察 p.33
 3.3.1 膜厚と結晶子径 p.33
 3.3.2 対イオンの影響 p.35
 3.3.3 錯化剤の効果 p.39
 3.3.4 Cd溶液のpHの影響 p.44
 3.4 まとめ p.46
 3.5 参考文献 p.47

4章 SILAR法におけるCdS表面へのCdイオン吸着への錯化剤の影響の電気化学的評価 p.49
 4.1 緒言 p.49
 4.2 実験 p.50
 4.2.1 電極 p.50
 4.2.2 溶液 p.50
 4.2.3 堆積方法 p.50
 4.2.4 堆積量の評価 p.51
 4.3 結果と考察 p.51
 4.4 まとめ p.54
 4.5 参考文献 p.56

5章 無電解法および電解法によるCdSの原子層堆積における錯化剤の影響 p.57
 5.1 緒言 p.57
 5.2 実験 p.58
 5.2.1 電極 p.58
 5.2.2 溶液 p.59
 5.2.3 SILAR法とECALE法によるS,Cd,CdSの堆積 p.59
 5.2.4 堆積量の評価 p.60
 5.3 結果と考察 p.60
 5.3.1 UPD法によるSおよびCdの堆積 p.62
 5.3.2 ディッピング法によるSとCd,錯化剤の堆積 p.63
 5.3.3 堆積層数とCdS量の関係 p.66
 5.4 まとめ p.67
 5.5 参考文献 p.68

6章 SILAR法によるCdS薄膜およびひも状CdS形成における錯化剤とpHの影響 p.68
 6.1 緒言 p.69
 6.2 実験 p.69
 6.2.1 UPD-Cdのサイクリックボルタンメトリー p.70
 6.2.2 SILAR法によるCdS薄膜の堆積 p.71
 6.2.3 CdS薄膜の評価方法 p.71
 6.2.4 バルク溶液中のイオン濃度の計算 p.72
 6.3 結果と考察 p.72
 6.3.1 サイクリックボルタンメトリー p.77
 6.3.2 SILAR法によるCdS薄膜堆積におけるTEOAの影響 p.78
 6.3.3 SILAR法によるCdS薄膜におけるCysの影響 p.80
 6.4 まとめ p.83
 6.5 参考文献 p.85

7章 総括 p.87

付録 p.89
 SILAR法に関する論文のリスト p.90
 CdSとITOの結晶構造 p.103
 CdS2+に対する配位子の生成定数表 p.105
 Cd塩の溶解度表 p.107
 錯化剤のpKa表 p.108
 原子・イオン半径表 p.109
 pHによるCd-TEOA錯体のイオン種濃度変化 p.111
 CdSのプールベイ図 p.112

本研究に関する発表論文 p.114

本研究に関する学会発表 p.115

謝辞 p.116

化合物半導体薄膜を溶液から合成する交互イオン堆積(SILAR)法によるCdS薄膜堆積について、溶液組成の最適化と、原子層堆積の評価を行った。200層のCdS堆積における溶液組成の最適化としては、1堆積過程(Sイオン吸着→Cdイオン吸着)で1層のCdS層を形成することを目的とし、結晶性が高く、表面粗さが小さく、化学量論比である膜を得ることを目指して検討を進めた。また、原子層レベルでの堆積量を評価するために、アノディック・ストリッピングボルタンメトリー(SV)による評価を試みた。
 はじめに、CdS薄膜の膜厚、および、結晶子径が、堆積回数に対して直線的に増加することを確認した。それから、Cdイオン源、および、錯化剤の選択を行った。6種類のCd塩(CdF2,CdCl2,CdI2,Cd(ClO4)2,Cd(CH3COO)2,Cd(HCOO)2)の中で、CdCl2がCdイオン源として適することが分かった。そこで、CdCl2溶液を用い、6種類の錯化剤を添加してCdS薄膜堆積を行なった。錯化剤としては、メルカプトエチルアミン(MEA)、システイン(Cys)、エチレンジアミン(EN)、トリエタノールアミン(TEOA)、モノエタノールアミン、ニトリロ三酢酸を用いた。その結果、SH基を持つ錯化剤(MEA、Cys)は膜厚を大幅に増加させ、理論膜厚の60%程度の膜厚が得られた。しかし、この場合には表面が粗く、結晶性の膜は得られなかった。膜厚だけでなく、平滑性および結晶性を考慮すると、今回用いた錯化剤の中では、TEOAが有用であることが分かった。この場合の膜厚は、理論膜厚の36%程度であり、表面粗さは基板と同程度であった。また、S/Cd比は0.92であった。
 次に、Cdイオン吸着に対する錯化剤の影響を調べるために、アンダーポテンシャルデポジション(UPD)法によってAu電極上にCdS層(Au/S/Cd/S)を形成し、その最表面S層に対するCd-L(L:錯化剤)の吸着量の測定を試みた。錯化剤としては、上述の結果で膜厚を増加させる効果が大きかったMEA,Cys,TEOAと、効果がなかったENとを選択して用いた。吸着量の評価はアノディックSVによって行なった。Cd吸着量が多かった順に錯化剤を並べると、Cys>(none)>MEA>TEOA>>ENとなり、SH基を持つ錯化剤はCdイオンの吸着を増加させることが分かった。また、本研究で用いた手法により、CdSの1層レベルでの吸着量の評価が可能であることが分かった。
 次に、無電解法であるSILAR法と、電解法であるECALE法によるCdS堆積量の比較を行なった。1-10層のCdSの堆積量について、TEOAまたはCysを添加した場合と、無添加の場合(none)とを比較した。堆積量は、アノディックSVによって評価した。CdS堆積量の多かった順に錯化剤を並べると、SILAR法においてはCys>TEOA>noneであり、ECALE法ではnone?TEOA>Cysであった。この結果から、錯化剤の添加はSILAR法の場合には、CdS堆積量を増す効果があることが分かった。
 さらに、SILAR法による200層のCdS堆積への錯化剤添加とpH変化の影響を調べた。錯化剤としては、TEOAまたはCysを用いた。TEOAの場合、pHが高くなると膜厚の値が大きくなった。Cysの場合は、膜厚はpHに対して単調に変化せず、ひとつのCysイオン解離種濃度と膜厚の間に相関が見られた。錯化剤を添加した場合のCdイオンのS原子面への吸着性を調べるために、Cd-UPD領域で、錯化剤を添加し、pHを変えた場合のサイクリックボルタモグラムを測定したところ、Au電極とS/Au電極では、後者を用いた場合に大幅にCd-UPD量の増加が見られたことから、基板表面に存在するS原子と溶液中のCdイオンの反応性が高いことが示された。また、CdS薄膜表面のAFM観察から、錯化剤を添加してpHを酸性に調整した溶液を用いると、ひも状の堆積物が得られることが分かった。
 以上から、室温、大気圧下で、無電解で行なうSILAR法によるCdS薄膜堆積について、適した錯化剤を用いれば理論膜厚の60%程度の堆積が可能であること、ほぼ量論比で結晶性の膜が得られること、また、溶液の組成によっては、マイクロからナノサイズレベルのひも状堆積物を形成することが可能であることが示された。
 したがって本研究は、SILAR法について、環境に負荷の少ないソフト溶液プロセスのひとつとして、2次元的な薄膜成長法としての有用性を示すだけでなく、1次元材料の創製という新たな分野への進出の可能性を示唆する重要な起点になると確信する。

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