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透過性潜堤周りの波と流れ場に関する研究

氏名 吉田 茂
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第208号
学位授与の日付 平成15年12月10日
学位論文題目 透過性潜堤周りの波と流れ場に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 早川 典生
 副査 教授 福嶋 祐介
 副査 教授 海野 隆哉
 副査 助教授 細山田 得三
 副査 助教授 陸 旻皎

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 はじめに p.1
 1.2 研究の背景 p.2
 1.3 従来の研究 p.5
 1.4 本研究の目的 p.7
 1.5 本研究の概要 p.7
 第1章の参考論文名・文献名一覧 p.11

第2章 緩勾配方程式の理論とその潜堤波動場への適用 p.15
 2.1 はじめに p.15
 2.2 非定常緩勾配方程式の理論とその波浪解析への適用 p.17
 2.2.1 はじめに p.17
 2.2.2 理論式の整理 p.18
 (1) 水平透水層存在下における波浪変形の解析 p.18
 (2) 傾斜透水層上における波浪変形解析モデル p.19
 (3) 透水層堤内における波浪変形解析モデル p.20
 (4) 基本方程式と境界条件 p.20
 2.2.3 透過性潜堤が存在する場合の非定常緩勾配方程式 p.21
 2.2.4 数値計算の方法 p.22
 (1) 透過性潜堤上の砕波条件 p.22
 (2) 砕波減衰を規定する量(fD) p.22
 (3) 透過性潜堤の存在を考慮した海底勾配(tanβ)の取り扱い p.23
 (4) 具体的な数値計算の手順(一般的な数値計算法の流れ) p.24
 2.2.5 水槽実験と数値実験の概要 p.25
 (1) 予備的な数値実験 p.25
 (2) 水槽実験 p.25
 (3) 上記の水槽実験に対応した数値計算 p.26
 2.2.6 合成海底勾配を用いた砕波減衰計算 p.27
 (1) 透過率に関する実験結果と数値計算結果との比較および考察 p.27
 (2) 透過率に関する実測結果と数値計算結果との比較および考察 p.28
 2.2.7 透過性潜堤の法面勾配を用いた砕波減衰計算 p.30
 (1) 透過率に関する実験結果と数値計算結果との比較および考察 p.31
 (2) 透過率に関する実測結果と数値計算結果との比較および考察 p.32
 (3) 実験波形と数値計算波形との比較および考察 p.33
 (4) 新潟西海岸における数値計算上の波の進行状況 p.35
 (5) 透過率に関する総合的な考察 p.38
 (6) 諸定数を変えた場合の通過率への影響 p.40
 2.2.8 本節の結論 p.41
 2.3 非定常緩勾配方程式による波動場内の流速と圧力 p.43
 2.3.1 はじめに p.43
 2.3.2 非定常緩勾配方程式による透過性潜堤内外の流速と圧力 p.43
 1) 透過性堤体外の流速 p.43
 2) 透過性堤体内の流速 p.43
 3) 透過性堤体外の圧力水頭 p.44
 4) 透過性堤体内の圧力水頭 p.44
 2.3.3 検証実験の概要 p.44
 2.3.4 数値計算と諸定数 p.45
 2.3.5 実験結果と考察 p.45
 (1) 最小水位の分布 p.46
 (2) 最大水位の分布 p.46
 (3) 波高分布 p.46
 2.3.6 流速振幅および変動圧力振幅の鉛直分布に関する数値計算値と実験値との比較 p.51
 2.3.7 本節の結論 p.53
 第2章の参考論文名・文献名一覧 p.55
 第2章の図および表 p.57

第3章 SOLA-SURF法による潜堤存在下の波動場解析法 p.91
 3.1 はじめに p.91
 3.2 SOLA-SURF法による二次元波動数値シミュレーション p.94
 3.2.1 水部の取り扱い p.94
 (1) 流速差分 p.95
 (2) 正規圧力の計算 p.96
 (3) 境界条件 p.100
 a) 不透過壁面部 p.100
 b) 自由水表面部 p.100
 3.2.2 潜堤透過層内部の取り扱い p.103
 (1) caseAによる潜堤透過層内部の数値計算法 p.103
 (2) caseBによる潜堤透過層内部の数値計算法 p.105
 3.2.3 水部と透過性潜堤内部のフラッギング及び全体のアルゴリズム p.109
 3.2.4 二次元潜堤波動場の計算例 p.110
 (1) 境界条件 p.110
 (2) 波動場計算に対するSOLA-SURF法の適用性 p.111
 (1)数値計算波形と微小振幅波の波形 p.111
 (2)数値計算における波速 p.112
 (3) 計算例に対する計算条件及び水理条件 p.113
 (4) 数値計算結果と考察 p.114
 a) case1での数値計算結果 p.114
 b) case2での数値計算結果 p.115
 c) case3の数値計算結果 p.116
3.2.5 本節のまとめ p.117
 3.3 SOLA-SURF法による三次元波動数値シミュレーション p.119
 3.3.1 水部の取り扱い p.119
 (1) 流速差分 p.120
 (2) 正規圧力の計算 p.121
 (3) 境界条件 p.123
 3.3.2 潜堤透過層内部の取り扱い p.125
 (1) caseAによる潜堤透過層内部の数値計算法 p.125
 (2) caseBによる潜堤透過層内部の数値計算法 p.127
 3.3.3 三次元潜堤波動場の波の特性 p.131
 3.3.4 拡張された領域での水表面変動 p.134
 3.3.5 本節のまとめ p.135
 第3章の参考論文名・文献名一覧 p.136
 第3章の図および表 p.138
第4章 透過性潜堤内外の波の場の測定と解析 p.170
 4.1 はじめに p.170
 4.2 透過性潜堤周りの波動場実験の概要 p.171
 4.2.1 実験装置および潜堤模型の設置位置 p.171
 4.2.2 計測点の配置及び実験方法 p.171
 4.2.3 実験条件 p.173
 4.3 透過性潜堤周りの波動場実験による現象把握と考察 p.175
 4.3.1 微小振幅波理論に基づく水位の空間分布と内部流速ベクトルの空間分布特性 p.175
 (1) 一定水深を進む進行波 p.175
 (2) 部分重複波 p.175
 (3) 完全重複波 p.176
 4.3.2 実験による各位相での流速ベクトルの空間分布とその特性 p.176
 (1) 法面勾配1:1の場合 p.176
 (2) 法面勾配1:2の場合 p.178
 4.3.3 潜堤上での流速変動の振幅分布とその特性 p.178
 4.3.4 潜堤周りの過度の空間分布とその特性 p.179
 (1) Exp1(法面勾配1:1)の場合 p.180
 (2) Exp2(法面勾配1:2)の場合 p.182
 4.3.5 水位上昇と戻り流れ p.184
 4.3.6 最小水位・最大水位・波高分布・水面変動のrms値 p.184
 (1) 最小水位の分布 p.185
 (2) 最大水位の分布 p.185
 (3) 波高分布 p.186
 (4) 水面変動のrms値の岸沖分布 p.186
 4.3.7 流体要素の変形と回転 p.187
 (1) X方向の伸縮変形速さ(εx) p.187
 (2) せん断変形の速さ(γ) p.188
 4.3.8 純粋な粘性によるエネルギー消耗量 p.189
 4.3.9 波動場内の各水理量のパワースペクトルと位相差スペクトル p.190
 4.3.10 波動内の主要点における位相差 p.192
 4.4 SOLA-SURF法による潜場波動場の数値計算結果および実験結果との比較考察 p.193
 4.4.1 流速ベクトルの空間分布(数値計算結果) p.193
 4.4.2 過度の空間分布(数値計算結果) p.197
 4.4.3 水位上昇・戻り流れと波高分布(数値計算結果) p.198
 (1) 定常水位分布と定常流速場 p.198
 (2) 最小水位の分布・最大水位の分布・波高分布 p.198
 4.4.4 流れ場の特性に関する実験結果と数値計算結果の比較 p.199
 4.5 本章の結論 p.201
 第4章の参考論文名・文献名一覧 p.204
 第4章の図および表 p.206

第5章 結論 p.243
謝辞 p.246

数多い波浪制御構造物の中にあって,透過性潜堤は海水交換性が高く,景観を損ねない構造物であることから,海岸環境の保全や海岸の利用を旗印に掲げた新海岸法の下で,にわかに重大な使命を負うものとなっている.
しかしながら潜堤とその周辺の波動場及び内部流速場には,従来,未解明の問題が多く残されており,潜堤の設計法の確立を困難なものとしている.そこで本論文では,透過性潜堤の機能を把握する手法を確立するため,透過性潜堤の周りの波や流れの場を実験的に明らかにすること,および数値計算法の確立の2つの観点から研究を行い,それぞれ章を構成し,その成果を取りまとめたものである.以下に本論文における各章の概要を述べる.
第1章においては,本研究の背景,潜堤に関わる問題点を対象とした従来の研究について述べた後,本研究の目的を明らかにし,それを達成するための研究の進め方について述べた.
第2章においては,数値計算法として,最初にSomchai・磯部・渡辺(1989) の定常緩勾配方程式を拡張参照して,透過性潜堤の設置されている波動場に適用可能な,非定常緩勾配方程式を定式化した.同方程式には砕波減衰係数が含まれており,砕波計算を行う場合の砕波減衰係数 dは,実験値及び実測値と比較することにより, d=0.029と決定された.そしてこの得られた砕波減衰係数を用いて数値計算を行い,波動場内の固定点における水位の時系列波形を得て,同じ水理的条件で実施された水槽実験結果と比較し良好な一致を得た.次に内部流速等を把握するために,非定常緩勾配方程式の解より,波動場内部の流速および圧力を算出する式を導いた.また,透過性潜堤のある波動場内の流速振幅及び圧力振幅の空間変動特性について実験的に調べ,考察を行うとともに,非定常緩勾配方程式の解を用いて算出された流速振幅及び圧力振幅と比較した.両者は透過層内も含めて良い一致を示した.しかし潜堤天端上の一部では,実験値との差も見られ,これは実験では岸側の水位上昇による戻り流れの影響が大きいからであると考えた.以上のことから非定常緩勾配方程式に基づく解析手法の有効性が示された.
第3章では,高度な値計算手法としてSOLA-SURF法による潜堤波動場の二次元数値計算手法をとりあげ,SOLA-SURF法が波の基礎的現象を説明できる解析法であることを確認するために,波動場内の任意地点において,微小振幅波理論における水位波形・水平流速・鉛直流速・圧力と比較した.また,波速についても周期および水深を変えて微小振幅波理論と比較した.その結果,いずれの量についても良く一致した.そこでSOLA-SURF法で,不透過性及び透過性潜堤に対する数値計算例を示し考察した.さらに,SOLA-SURF法による潜堤波動場の三次元数値計算手法について述べた後,実海域規模への計算の可能性を見い出す目的で,三次元の拡張された領域での潜堤波動場の数値計算例を示し,考察を行った.
近年においては,波動場のより詳細で分解能の高い把握が要求されつつあることから,これに適用できるような数値計算手法の確立が急がれており,そのため,透過性潜堤内外の波動場を実験的に詳細に把握することは,極めて重要な課題となっている.そこで第4章では,透過性潜堤周りの波動場を把握するための,ついて述べた.法面勾配1:1および1:2の砂利を用いた透過性潜堤の内部および外部の流速場・圧力場について,水槽実験により詳しく計測し,諸現象の徹底的解明を試みた.
そして,水位の空間波形の進行に伴う,波動場内の位相ごとの流速ベクトル・渦度・せん断変形速さ・エネルギ-消散量の各空間分布などを得て,波動場内の非定常的な現象把握とともに,さらに,一周期間流速ベクトル・定常流速ベクトル場から現象の把握を行った.
従来,潜堤岸側の法肩部での渦の存在は確認されてはいたが,その渦の挙動に関しては明らかにされていなかった.そこでこの研究では,位相を追って一周期間の渦の動きを追跡することにより,沖側法先での渦の発生,法面での渦の発生・上昇・合体,そして沖側法肩での渦の集中や分裂,天端上での移動,岸側法肩での渦の再集中や衝突,岸側法面での渦の降下・減衰・消滅,法尻での渦の消滅など,渦に関する一連の生成・消滅過程について明らかにした.またこれと関連して,潜堤沖側法先で半周期ごとに,+渦,-渦が交互に発生することも確認された.さらに潜堤周りのエネルギ-消散量は,波の峰が天端上にある時に最大となり,この時,せん断変形速さの寄与が大きいことなどについて明らかにした.また実験より得られた水位,変動圧力水頭,水平流速,鉛直流速の各時系列波形に対して,位相スペクトル解析を実施し,時系列の水位波形と変動圧力水頭波形および内部流速波形の間の位相差について考究した.その結果,時系列の水位波形を基準として見た位相差は,変動圧力水頭波形については,空間位置にかかわらず,進み・遅れは小さいが,水平流速波形は一般的に大きく遅れ,一方,鉛直流速波形は逆に進んでいるという結果を得た.
次に,この実験のように法面勾配が急な場合,渦度の存在が無視できないため,数値計算法として,Navier-Stokes 方程式に基づくSOLA-SURF法の潜堤波動場への適用性について検討した.そしてこれらの実験と同じ条件でSOLA-SURF法による数値計算を実施し,位相ごとの水位・流速ベクトル・渦度・一周期間の流速ベクトルなどの各空間分布・および上に述べた位相差などを得て,実験結果と比較した.その結果,数値計算における位相差は,実験とは異ったが,流速ベクトルの空間分布,渦度の空間分布の数値計算値は,すべての位相に対して,実験値と全体的に良く一致した.これより波動場内の現象の振幅の大きさは,SOLA-SURF法によればかなり高い精度で一致し,この数値計算による予測が可能であるということが示された.
以上のように,透過性潜堤について,特に詳しく調べ,従来ほとんど明らかにされていなかった,潜堤内外の非定常的な波動場の内部構造に関する特徴ある現象や特異な現象について実験的に明らかにすると共に,ここで得られた検証データは,同時にSOLA-SURF法による数値計算手法の妥当性をも裏付けており,従って水槽実験を繰り返すことなく,SOLA-SURF法により種々の条件の下で,詳しい情報が取得可能であることが示された.また,水槽実験では困難な三次元波動場の数値計算も可能となった.
第5章においては,第2章から第4章において得られた知見をとりまとめて本研究の結論とした.

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