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定常流および非定常流環境に放流される密度噴流の解析

氏名 楊 宏選
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第219号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 定常流および非定常流環境に放流される密度噴流の解析
論文審査委員
 主査 教授 早川 典生
 副査 教授 白樫 正高
 副査 教授 福嶋 祐介
 副査 助教授 陸 旻皎
 副査 助教授 細山田 得三

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目次

第1章 序論 p.3
1.1 密度噴流とは p.3
1.2 既往の研究 p.9
1.2.1 積分モデル p.9
1.2.1.1 一次元密度噴流 p.9
1.2.1.2 二次元密度噴流 p.14
1.2.1.3 三次元密度噴流 p.19
1.2.2 その他 p.23
1.3 本研究の課題と構成 p.29

第2章 密度噴流の数値実験 p.31
2.1 バックグラウンド p.31
2.2 数値実験の概要 p.33
2.3 計算結果 p.38
2.4 まとめ p.55

第3章 解析モデル p.57
3.1 一般仮定 p.58
3.2 軸対称環境 p.59
3.3 非軸対称密度噴流の軸対称化 p.63

第4章 定常流環境の数値解析 p.69
4.1 自然座標(s,r,φ) p.70
4.2 基礎方程式 p.74
4.3 レイノルズ平均操作 p.76
4.4 横断面にわたる積分 p.79
4.5 自己相似仮定に基づく積分 p.83
4.6 モデル係数の仮定 p.86
4.7 計算結果 p.95
4.8 まとめ p.108

第5章 非定常流環境の数値解析 p.109
5.1 はじめに p.109
5.2 ラグランジュモデル p.111
5.3 モデルの評価 p.115
5.3.1 静止環境 p.115
5.3.2 波環境 p.115
5.4 モデルの応用 p.120
5.5 まとめ p.122

第6章 結論 p.123
参考文献 p.127

密度噴流とは周囲流体と異なる密度を有する流体が運動量を有して排出される時の流れのことを言う。密度差のない場合は噴流と呼ばれ,運動量を有せず密度差のみを有する場合はプルームと呼ばれる。プルームも噴流も密度噴流の特別なケースと考えられる。これらのうち,我々の日常生活に密接な関係があるのは密度噴流である。発電所の冷却水いわゆる温排水の放出,工場廃水や下水処理場処理水の放流,河川水の海域への流出,貯水池への濁水の流入,煙突から大気中への排煙等は,典型的な密度噴流である。
密度噴流が環境流体へ放流される際,乱流混合で周りの流体を取り込みながら進み,その進入距離の増加につれ,密度噴流流体の温度,またはそれに含まれる物質(塩分,またはその他の有害物質)の濃度は,稀釈されていく。水域への廃水の放流,大気への排煙は,適切でなければ,重大な環境問題を引き起こしかねない。環境基準を満たす放流システムを効率よく機能させる需要から,または環境保全と環境アセスメントの視点から,密度噴流の特性を知る必要がある。工学問題としての密度噴流の研究は長い歴史があるが,その重要性は依然として高いものがある。
本研究は一様流れ場に鉛直に侵入する密度噴流の乱流モデルによる数値実験を行った。密度噴流の数値実験は,計算機資源の制限上,大きな領域を扱えず,また,その結果も定量的に評価できる段階にまで達していない。しかし,数値実験は,密度噴流の流動機構を定性的に理解するのに役立つことができ,特に実験では計測が難しいデータを容易に得られる長所を持つ。本研究の数値実験は三次元軸対称噴流に適した乱流モデルを用いて,計算領域を放流口付近に限定し計算を行った。実験データと比較して,計算結果は良好である。数値実験を通して,次のような知見が得られた:圧力勾配は放流口から短い距離の区間で大きく,距離が進むにつれ,急激に減少する。抗力の密度噴流を下流へ曲げる効果は,放流口で連行効果と同じぐらいのレベルから,短い距離を経て,無視できるほどに減衰する。周囲流体の連行は,出口から,下流へ大きく曲がるポイントまで,自由噴流に比べて,非常に大きい。距離が増加するにつれ,連行率は減少し,次第に自由噴流のレベルかそれ以下に減少していく。計算領域の制約で,その後の連行特性は確認できないでいる。密度噴流断面は円形から腎臓形,馬蹄形へと変化する過程は計算で再現できた。横断面にある渦対(CVP)を流速ベクトルを以って確認した。
 流れの基本方程式を自然座標系に変換して,密度,流速が一様分布でない定常流環境に放出される三次元密度噴流の積分型モデルを構築した。その手法は,噴流横断面に渡って質量フラックス,運動量フラックス,受動スカラー(塩分,またはその他の保存性汚染物質)およびエネルギーフラックスを積分して,噴流中心軸に関する連立常微分方程式を得るアプローチである。方程式系を閉じるのに,連行というコンセプトが用いられている。解析結果として,密度噴流の幅,中心軸位置,中心軸流速および中心軸物質濃度などの特性値が求められる。解析モデルに含まれる係数は典型的な放流条件から決められる。この係数を用いて,広い範囲にわたる放流条件で密度噴流を計算し,実験データと良好な一致が得られた。レイノルズ応力,スカラーの乱流流束は計算時無視されたが,その形を明確に示せたことは,将来のモデル改良に含みを残した。計測技術またはCFDの進歩により,無視された乱流項の特性を知ることは,遠い先のものではない。大気と海水は風,波,潮汐等の影響で流れは絶えず変動している。大気や海中の密度噴流の拡散は実際に,変動流れ場の影響を受けることは,避けられない。波または潮流を想定した変動流れ場に放出する密度噴流の実験的研究から,変動する流速成分は結果的に密度噴流の広がり速度,濃度減衰を加速させる効果を持つことが確認されている。流れの変動による希釈効果を考慮すれば,より緩い放流設計条件で環境基準を満たすことができ,放流施設コスト減と環境アセスメントに寄与することが期待できる。これを達成するのに,変動流の効果を定性的に考慮するだけでは不十分で,定量的に評価することが要求される。本研究は空間と時間に依存する流れ場は既知として,密度噴流の切片を追跡するラングランジュ的な方法で,非定常流環境における密度噴流の解析モデルを構築した。基本方程式は定常流環境における解析モデルと同様,質量,運動量,スカラーおよびエネルギーの保存式から得られる。波環境に放出される密度噴流の実験から,モデルの有効性を確認できた。この解析モデルを用いて,波環境または流れ場がわかる環境における密度噴流の計算ができる。変動流れ場は一般的に密度噴流の稀釈性能を高める効果があり,その稀釈効果を定量的に評価することで,環境基準を満たす放流システムの建設コスト減が期待される。

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