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水素化酸化シリコン膜の多層膜光学素子への応用に関する研究

氏名 高橋 裕樹
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第224号
学位授与の日付 平成13年3月26日
学位論文題目 水素化酸化シリコン膜の多層膜光学素子への応用に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 井上 泰宣
 副査 助教 授佐 藤一則
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 助教授 安井 寛治

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第一章 緒言 p.1
1-1節 研究背景と目的 p.1
1-2節 論文の構成 p.5
1章参考文献 p.7

第二章 水素化酸化シリコン膜の機械的及び光学的特性の検討 p.9
はじめに p.9
2-1節 実験 p.10
2-1-1 装置 p.10
2-1-2 膜作成条件 p.10
2-1-3 膜特性評価方法 p.12
2-2節 実験結果 p.19
2-2-1 水素化酸化シリコン膜の堆積速度測定結果 p.19
2-2-2 水素化酸化シリコン膜の内部応力測定結果 p.22
2-2-3 水素化酸化シリコン膜の屈折率測定結果 p.25
2-2-4 水素化酸化シリコン膜の光学特性測定結果 p.29
2-2-5 水素化酸化シリコン膜のX線回折測定結果 p.31
2-2-6 水素化酸化シリコン膜の赤外線吸収およびラマンスペクトル測定結果 p.31
2-2-7 水素化酸化シリコン膜中のAr量の測定結果 p.42
2-2-8 水素化酸化シリコン膜の密度ならびに組成測定結果 p.45
2-3節 考察 p.47
2-3-1 水素化酸化シリコン膜の基本構造 p.48
2-3-2 水素化酸化シリコン膜中に形成されたSiH結合種の同定およびSiH量と成膜条件の関係 p.51
2-3-3 水素化酸化シリコン膜の光学特性と構造の関係 p.59
2-3-3(a) 屈折率測定結果から考察されるSiOx:H膜構造 p.60
2-3-3(b) 波長700nm以下の光吸収から考察されるSiOx:H膜構造 p.69
2-3-4 SiOx:H膜中のSiH結合量と構造変化の関係 p.72
2-3-5 SiOx:H膜の構造モデル p.79
2-3-6 SiOx:H膜の真応力の見積 p.82
2-3-7 SiOx:H膜の内部応力低減メカニズム p.83
2-4節 小括 p.90
2章参考文献 p.91

第三章 水素化酸化シリコン膜の多層膜光学素子への応用1: Ge,Si,および酸化シリコンあるいは水素化酸化シリコン膜の交互多層膜構造から成る短波長用積層型偏光子(LAMIPOL)の作製 p.97
はじめに p.97
3-1節 Ge/SiO2-LAMIPOL多層膜の強度向上の検討 p.102
3-1-1 Ge/SiO2-LAMIPOLの作製上の問題点 p.102
3-1-2 Ge/SiO2多層膜強度向上の方策 p.106
3-1-3 Ge膜およびSiO2膜の内部応力低減によるGe/SiO2-LAMIPOL多層膜の強度向上の検討 p.109
3-1-3(a) 最小応力を示すGeおよびSiO2膜に対するガス圧条件の検討実験 p.109
3-1-3(b) 最小応力を示すGeおよびSiO2膜に対するガス圧条件の検討結果 p.109
3-1-3(c) 応力最小条件下で成膜したGeおよびSiO2膜で構成されるGe/SiO2-LAMIPOLの作製実験 p.111
3-1-3(d) 応力最小条件下で成膜したGeおよびSiO2膜で構成されるGe/SiO2-LAMIPOLの作製結果 p.111
3-1-4 Ge/SiO2界面の付着力向上によるGe/SiO2-LAMIPOL多層膜の強度向上の検討 p.112
3-1-4(a) Ge/SiO2界面およびGe/Si/SiO2界面の付着力測定の実験 p.112
3-1-4(b) Ge/SiO2界面およびGe/Si/SiO2界面の付着力測定結果 p.114
3-1-4(c) Ge/SiO2界面およびGe/Si/SiO2界面の観察実験 p.117
3-1-4(d) Ge/SiO2界面およびGe/Si/SiO2界面の観察結果 p.119
3-1-4(e) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.1)の試作 p.122
3-1-4(f) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.1)の試作結果 p.122
3-1-4(g) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.1)の特性の測定実験 p.123
3-1-4(h) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.1)の特性の測定結果 p.127
3-2節 Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL特性の高性能化の検討 p.128
3-2-1 LAMIPOL特性を記述する理論式 p.129
3-2-2 Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOLのSi/Ge/Si/SiO2層構造に対する最適化の方策 p.133
3-2-3 Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOLのSiO2膜厚の設計指針 p.134
3-2-4 Si/Ge/Si構造の最適化の検討 p.138
3-2-4(a) Ge単膜の誘電率および密度測定の実験 p.138
3-2-4(b) Ge単膜の誘電率に対する成膜条件ならびに膜厚依存性の測定結果 p.140
3-2-4(c) Ge単膜の構造の考察 p.145
3-2-4(d) Si/Ge/Si複合膜の誘電率測定の実験 p.146
3-2-4(e) Si/Ge/Si複合膜の誘電率に対するGe層の誘電率、ならびにGeおよびSi層厚依存性の測定結果 p.147
3-2-5 Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)構造の最適化検討 p.153
3-2-5(a) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)の最適SiO2層厚の決定とSi/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)特性のシミュレーション p.153
3-2-5(b) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)構造におけるGeおよびSiO2の膜厚最適化の計算結果 p.153
3-2-6 積層厚100μmのSi/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)の試作 p.157
3-2-6(a) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)構造の決定と試作 p.157
3-2-6(b) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)特性の波長依存性評価 p.158
3-2-6(c) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)特性の波長依存性評価結果 p.158
3-2-6(d) 環境試験後のSi/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)多層膜構造の安定性評価実験 p.159
3-2-6(e) Si/Ge/Si/SiO2-LAMIPOL(Ver.2)の環境試験結果 p.160
3-3節 LAMIPOL素子の大口径化(積層数 >200μm)の検討 p.161
3-3-1 大口径LAMIPOLに用いられるSiOx:H膜の検討 p.163
3-3-1(a) SiOx:H膜の成膜条件と膜応力ならびに誘電率との関係の検討 p.163
3-3-1(b) SiOx:H膜の成膜条件と膜応力ならびに誘電率との関係の検討結果 p.163
3-3-2 大口径Si/Ge/Si/SiOx:H-LAMIPOLの設計 p.164
3-3-2(a) 大口径Si/Ge/Si/SiOx:H-LAMIPOLの設計の検討 p.164
3-3-2(b) 大口径Si/Ge/Si/SiOx:H-LAMIPOLの設計の検討結果 p.165
3-3-3 大口径Si/Ge/Si/SiOx:H-LAMIPOLの試作 p.166
3-3-3(a) 大口径Si/Ge/Si/SiOx:H-LAMIPOL(積層厚250μm)の試作実験 p.166
3-3-3(b) 大口径Si/Ge/Si/SiOx:H-LAMIPOL(積層厚250μm)の試作と評価結果 p.167
3-4節 小括 p.168
3章参考文献 p.169

第四章 水素化酸化シリコン膜の多層膜光学素子への応用2: 水素化アモルファスシリコン、および水素化酸化シリコン膜の交互多層膜構造から成る偏波分離素子(LPS)の作製 p.173
はじめに p.173
4-1節 積層型偏波分離素子(LPS)の構造と動作原理 p.176
4-1-1 積層型偏波分離素子(LPS)の構造 p.176
4-1-2 LPSの偏波分離角に対する最適化パラメータ p.178
4-1-3 LPSの構成材料の選定 p.181
4-1-4 Si:HおよびSiOx:H膜に対する成膜条件検討項目 p.184
4-2節 Si:H膜の成膜条件の最適化 p.187
4-2-1 膜作製条件および成膜装置 p.187
4-2-2 Si:H膜の特性評価方法 p.188
4-2-3 Si:H膜の成膜条件の最適化検討結果 p.197
4-2-3(a) Si:H膜の応力と成膜条件との関係 p.197
4-2-3(b) Si:H膜の屈折率と成膜条件との関係 p.201
4-2-3(c) Si:H膜の吸収係数、およびダングリングボンド濃度と成膜条件との関係 p.203
4-2-3(d) Si:H膜の表面平滑性と成膜条件との関係(AFM測定結果) p.205
4-2-3(e) Si:H膜のラマン分光測定結果 p.208
4-2-3(f) Si:H膜の赤外分光スペクトル測定結果、およびSiH結合量とその分布 p.210
4-2-3(f-1) Si:H膜の赤外分光スペクトルとSiH結合種 p.210
4-2-3(f-2) Si:H膜の成膜条件と結合水素量との関係 p.214
4-2-3(f-3) Si:H膜の成膜条件と(SiH2)2結合量比との関係 p.216
4-2-3(g) Si:H膜のAr量およびSi密度の測定結果 p.217
4-2-3(h) Si:H膜の光伝導度測定結果 p.220
4-2-3(i) Si:H膜の光学的バンドギャップ測定結果 p.221
4-2-4 Si:H膜の成膜条件と諸物性の関係についての考察 p.222
4-2-4(a) Si:H膜の成膜条件と諸物性の関係のまとめ p.222
4-2-4(b) Si:H膜と他の研究のSi:H膜との比較 p.224
4-2-4(c) Si:H/SiOx:H-LPSに使用するSi:H膜の成膜条件の決定 p.228
4-2-4(d) Si:H膜の構造と光学的特性との関係についての考察 p.229
4-2-4(e) Si:H膜の応力低減メカニズムについての考察 p.237
4-2-4(e-1) Si:H膜の真応力の見積 p.237
4-2-4(e-2) Si:H膜の応力とAr量ならびに密度との関係 p.238
4-2-4(e-3) Si:H膜の応力低減化に対する結合水素の役割 p.242
4-2-4(e-4) Si:H膜の応力に与える膜成長プロセスの影響 p.246
4-3節 SiOx:H膜の成膜条件の最適化 p.249
4-3-1 膜作製条件および装置 p.249
4-3-2 SiOx:H膜の特性評価方法  p. 250
4-3-3 SiOx:H膜の成膜条件最適化 p.250
4-3-3(a) SiOx:H膜の応力 p.250
4-3-3(b) SiOx:H膜の成膜速度 p.250
4-3-3(c) SiOx:H膜の光学特性 p.250
4-3-3(d) SiOx:H膜の表面平滑性(AFM測定結果) p.254
4-3-4 SiOx:H膜の考察 p.257
4-3-4(a) Si:H/SiOx:H-LPSに使用するSiOx:H膜の成膜条件の決定 p.257
4-3-4(b) SiOx:H膜の真応力の見積 p.257
4-4節 Si:H/SiOx:H-LPSの試作と特性評価 p.259
4-4-1 Si:H/SiOx:H-LPSの構造設計 p.259
4-4-2 Si:H/SiOx:H-LPS多層膜の試作と成膜装置 p.260
4-4-3 Si:H/SiOx:H-LPS加工手順 p.263
4-4-4 Si:H/SiOx:H-LPS素子の光学特性評価項目と測定方法 p.266
4-4-5 Si:H/SiOx:H-LPS多層膜の試作結果 p.267
4-4-6 Si:H/SiOx:H-LPS素子の光学特性評価結果 p.274
4-5節 小括 p.276
4章参考文献 p.278

第五章 結論 p.284

発表論文 p.287

公開特許公報 p.288

学会発表 p.288

謝辞 p.289

 1990年代の中頃に始まった光通信(使用波長:1550nm帯)は、波長多重技術(WDM: Wavelength Division Multiplexing)によって、高度情報化社会に望まれる大容量、高速、ならびに高品質での伝送を可能とし、インターネットの普及と共に目覚しい発展を遂げている。WDMシステムの構築において、利得平坦器、光分岐・合波器、光スイッチ、および光アイソレータなどの光通信用デバイスが大量に用いられるが、デバイスの小型化、高性能化、生産性の向上が望まれている。光学薄膜を用いた光機能素子は、これらの課題に対処できる光通信用デバイスのコンポーネントであり、多層膜型偏光子、多層膜型偏波分離素子、多層膜型利得平坦化フィルター、および波長分岐用フィルター(Add/Drop Multiplexer)などの光通信用多層膜光学素子が提案され、新しい応用分野を拓くものとして期待されている。しかし、これらの光通信用多層膜光学素子の積層厚は数十から数百μmと極めて厚いため、構成膜の応力蓄積により多層膜全体が破壊するという深刻な問題が生じており、薄膜の応力低減化技術の確立が急務となっている。
 本論文は、多層膜光学素子の低屈折率材料として広く用いられる酸化シリコン膜の応力低減化と、それに基づく高性能な多層膜光学素子の開発に関する研究成果を述べたものである。新規な方法として、SiO2膜の水素化効果を用いた結果から、この方法が応力低減化のみならず、優れた光学特性をもつ多層膜光学素子の設計を可能にすることを明らかにした。本論文は、第1章から第5章で構成される。
 第1章では、多層膜光学素子の歴史と背景を述べ、多層厚膜光学素子の膜応力が問題点になっている現状を示し、本研究目的と新規な膜応力低減化の方策について述べた。
 第2章では、水素ガスをアルゴンガスに添加したスパッタリングガスを用いて作製した水素化酸化シリコン(SiOx:H膜)の成膜条件と成膜速度、光学定数、ならびに膜応力との関係を検討した結果について述べた。SiOx:H膜は、多層膜光学素子として一般に用いられているSiO2膜に比べて、(1)高い成膜速度で成膜されること、(2)著しく小さい応力を示すこと、さらに、(3)光センシング用波長である850nm、および光通信用波長である1550nm領域の波長では光無損失材料となることを見だし、SiOx:H膜が優れた光学膜材料となることを示した。また、SiOx:H膜では、膜中のSiH量の制御により、広い範囲の屈折率と応力をもつ誘電体光学薄膜の作製が可能になることを示した。さらに、膜の密度、組成、赤外吸収スペクトル、およびラマン散乱スペクトルの比較から、SiOx:H膜はSiO2膜のSi-O-Siネットワーク基本構造内にSi-H、Si-H2結合、ならびにSi-Si結合を含むことを明らかにし、これらの結合構造の存在により、Si-O-Siネットワークは部分的に切断された網目構造の少ない立体構造をとるため、成膜中に混入したAr原子による構造歪みが緩和され、残留応力が低下するモデルを提唱した。
 第3章では、SiOx:H膜の応用例として、数nmの厚さのGe層と1μmの厚さのSiO2層による交互多層膜から構成される短波長用(波長 850nm)積層型偏光子(Ge-Laminated Polarizer(Ge-LAMIPOL)の開発について述べた。従来のGe-LAMIPOLは、Ge層とSiOx層間の付着強度が弱い欠点をもつが、SiOx:H膜を用いた場合には、Ge層とSiOx:H膜間に、厚さ1nmのSi層を挿入することにより機械的に安定な多層膜(積層厚250μm)が得られることを示した。また、高い消光比を示すLAMIPOL素子を得るため、導波する高次モードの減衰定数を考慮した設計により、Si/Ge/Si複合膜構造およびSiOx:H膜厚の最適値を決定し、積層厚250μmのSi(1nm)/Ge(4.5nm)/Si(1nm)/SiOx:H(800nm)-LAMIPOLは、素子化に必要な研磨工程を経た後でも破壊を起こさず、かつ、消光比54dB、挿入損失0.37dBの良好な値をもつことが示され、これにより、大口径短波長用偏光子として実用生産され、高い市場性能評価を得た。
 第4章では、300μm以上の積層厚をもつ光通信用(波長1550nm)偏光分離素子 Laminated Polarization Splitter(LPS)の開発について述べた。LPSの構成として、Si:H/SiOx:H膜の組み合わせにおいて、各膜の成膜条件と応力、光学定数、および表面平滑性の関係から、Si:H膜が、低応力(25MPa引張性)、高屈折率(n=3.16)、低吸収係数(~10^-5dB/μm)、ならびに低表面粗さ(RMS値)をもつこと、また、SiOx:H膜は、基準のSiO2膜と同等の光学係数をもち、かつ、低応力と低RMS値になることを示し、これまでのLPS作製に関する2つの課題(応力と膜表面平滑性)を同時に解釈できる低屈折率材料となることを明らかにした。最適設計により試作したLPS(Si:H/SiOx:H-LPS)は、その多層膜界面の揺らぎが損失の原因となる波長オーダーの長さ以下の周期をもち、LPSの性能基準(300μmの積層厚(積層数5000層)、>10°の偏波分離角、および<0.5dB/100μmの挿入損失)を十分に超えることが確認され、これにより、実用的な性能をもつLPSが実現できた。
 第5章では、本研究結果を総括し、酸化シリコン膜の水素化手法が高積層な多層膜光学素子の開発にきわめて有用であると結論した。

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