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弾性表面波を用いた制御機能を持つ個体触媒の研究

氏名 渡邊 幸久
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第124号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 弾性表面波を用いた制御機能を持つ固体触媒の研究
論文審査委員
 主査 教授 井上 泰宣
 副査 助教授 佐藤 一則
 副査 教授 藤井 信行
 副査 教授 山田 明文
 副査 助教授 野坂 芳雄

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目次
第1章 序論 p.1
第1節 触媒の歴史 p.1
第2節 従来の触媒の機能制御 p.2
第3節 本研究の主旨 p.4
第4節 SAWの発生法 p.6
第5節 強誘電体結晶 p.8
第6節 本論文の構成 p.12
参考文献 p.14
第2章 SAW素子の作製とその評価 p.16
第1節 緒言 p.16
第2節 IDTの理論と設計 p.19
第3節 SAW素子の作製 p.25
第4節 SAW伝送特性とその評価 p.30
2.4.1 測定回路 p.30
2.4.2 結果 p.30
2.4.3 SAW素子の評価 p.33
第5節 結言 p.42
参考文献 p.43
第3章 弾性表面波による触媒活性化に及ぼす諸因子 p.44
第1節 緒言 p.44
第2節 実験 p.46
3.2.1 強誘電体結晶基板 p.46
3.2.2 触媒調製 p.46
3.2.3 反応管 p.48
3.2.4 反応装置 p.50
3.2.5 SAW印加回路 p.50
3.2.6 エタノール酸化反応 p.54
3.2.6.1 反応気体 p.54
3.2.6.2 反応操作 p.54
3.2.7 X線光電子分光法(XPS)による触媒の深さ方向分析 p.56
第3節 結果 p.57
3.3.1 エタノール酸化反応におけるSWAによる触媒活性変化 p.57
3.3.2 SAWの振動モードと電気機械結合定数の効果 p.57
3.3.3 印加電力依存性に及ぼす電気機械結合定数の効果 p.61
3.3.4 強誘電体結晶表面の自発分極方向の効果 p.61
3.3.5 印加電力依存性に及ぼす膜厚の効果 p.64
3.3.6 反応の温度依存性 p.66
3.3.7 X線光電子分光法(XPS)による触媒薄膜の深さ方向分析 p.68
第4節 考察 p.73
3.4.1 Ag触媒上のエタノール酸化反応に及ぼすSWA効果 p.73
3.4.2 SAW振動モードおよび電気機械結合定数の効果 p.73
3.4.3 XPSによる深さ方向分析 p.74
3.4.4 触媒膜厚依存性 p.76
3.4.5 自発分極の効果 p.77
第5節 結言 p.79
参考文献 p.80
第4章 触媒の表面状態と弾性表面波効果 p.81
第1節 緒言 p.81
第2節 実験 p.82
4.2.1 触媒調整 p.82
4.2.1.1 Pd触媒 p.82
4.2.1.2 Ni触媒 p.83
4.2.1.3 Pt触媒 p.84
4.2.2 エタノール酸化反応 p.85
4.2.3 X線光電子分光法(XPS)による触媒の表面状態の測定 p.85
4.2.4 CO酸化反応 p.87
4.2.4.1 反応気体 p.87
4.2.4.2 反応操作 p.87
第3節 結果 p.88
4.3.1 エタノール酸化反応におけるSWA効果に及ぼす触媒表面状態の影響 p.88
4.3.1.1 Pd触媒上のエタノール酸化反応におけるSAWによる触媒活変化 p.88
4.3.1.2 SAW活性増加効果に対する触媒の酸化処理温度依存性 p.90
4.3.1.3 反応の温度依存性 p.90
4.3.1.4 SAW周波数依存性 p.93
4.3.1.5 X線光電子分光法(XPS)による触媒の状態分析 p.94
4.3.1.6 その他の触媒活性に及ぼすSAW効果 p.94
4.3.1.7 Ni薄膜触媒のXPSによる深さ方向分析 p.97
4.3.2 CO酸化反応におけるSAW効果に及ぼす触媒の表面状態の影響 p.101
4.3.2.1 Pd触媒上のCO酸化反応におけるSAWによる触媒活性変化 p.101
4.3.2.2 反応の温度依存性 p.103
4.3.2.3 反応の分圧依存性 p.105
第4節 考察 p.109
4.4.1 XPSによる触媒の状態分析 p.109
4.4.2 Pd触媒上のエタノール酸化反応に及ぼす弾性表面波効果 p.110
4.4.2.1 SAWの効果に及ぼす触媒表面状態の影響 p.110
4.4.2.2 反応機構に及ぼすSAWの効果 p.111
4.4.2.3 SAWの効果の周波数依存性 p.113
4.4.3 Pd触媒上のCO酸化反応に及ぼす弾性表面波効果 p.113
第5節 結言 p.119
参考文献 p.120
第5章 触媒の物性に及ぼす弾性表面波効果 p.122
第2節 レーザードップラー法による触媒表面の格子変位測定 p.124
5.2.1 実験 p.124
5.2.1.1 格子変位モデル p.124
5.2.1.2 測定原理 p.124
5.2.1.3 格子変位測定システム p.127
5.2.2 結果 p.129
5.2.2.1 SAWの格子変位 p.129
5.2.2.2 格子変位の温度依存性 p.132
5.2.2.3 触媒膜上の格子変位 p.132
5.2.2.4 5MHz-SAW素子の格子変位 p.132
5.2.2.5 SAW周波数と格子変位 p.138
第3節 音波-キャリヤ相互作用(電気伝導度測定) p.141
5.3.1 実験 p.141
5.3.1.1 測定用電極の作製 p.141
5.3.1.2 測定法 p.141
5.3.2 結果 p.145
5.3.2.1 膜抵抗とSAW伝搬減衰 p.145
5.3.2.2 SAWによる触媒膜の電気伝導度の変化 p.147
5.3.2.3 酸素の吸着・脱離による電気伝導度変化 p.147
5.3.2.4 エタノールの吸着・脱離による表面電気伝導度変化 p.150
5.3.2.5 COの吸着・脱離による表面電気伝導度変化 p.150
第4節 考察 p.155
5.4.1 SAW格子変位 p.155
5.4.1.1 SAW印加電力依存性 p.155
5.4.1.2 温度依存性 p.156
5.4.1.3 触媒表面の格子変位 p.158
5.4.1.4 周波数依存性 p.161
5.4.2 電界の発生 p.162
5.4.3 音波-キャリヤ相互作用 p.163
5.4.3.1 SAWによる電気伝導度変化 p.163
5.4.3.2 吸着に及ぼす動的格子変位の効果 p.167
5.4.4 SAWによる触媒の活性化機構 p.169
第5節 結言 p.171
参考文献 p.172
第6章 総括 p.174
謝辞 p.178
本研究に関する発表論文 p.179

 化学反応を促進する固体触媒の作用を制御することはきわめて重要な問題であり、従来から異種元素添加、複合化あるいは高分散化などが行われてきたが、既存の方法は触媒調整の段階で機能化を図る方法であるため、触媒反応の条件下で触媒作用の制御を行うことはできない。本論文は、外部からの信号により固体触媒の触媒作用の精緻な人工制御(in-situ制御)が行える新しい型の固体触媒の開発を目的として、強誘電体結晶表面に発生できる弾性表面波(Surface Acoustic Wave;SAW)を応用した固体触媒の研究について述べる。
 第1章では、固体触媒作用の制御の歴史的な背景と従来の方法の問題を挙げ、本研究の目的と意義および本研究で用いるSAWの特徴を述べている。
 第2章では、SAW素子の設計と作製した素子の特性を検討している。電気機械結合定数K2の異なる強誘電体結晶としてRayleigh-SAWを伝搬する128°Y-X LiNbO3,SH-SAWを伝搬する36°Y-XLiTaO3,および41°Y-X LiNbO3の3種類の単結晶の両端にすだれ状電極(IDT)をフォトリソグラフ法により取り付け、5,10,および20MHzの周波数をもつRayleigh-あるいはSH-SAW発生用のSAW素子を作製した。これらのSAW素子の伝送特性を調べ、その帯域特性がIDTに基づく特性値と一致することを示した。
 第3章では、Rayleigh-SAWおよびSH-SAW伝搬路上に1.5~50umの膜厚でAg、触媒を薄膜で接合して触媒とし、SAWによる触媒活性化の効果を調べている。エタノール酸化反応に対するこれらの触媒の活性がSAW伝搬により増加することを示した。強誘電体結晶のもつ因子として電気機械結合定数、SAWの振動モード、自発分極方向を検討し、また薄膜触媒の因子として反応の印加電力および触媒膜厚を調べ、活性増加は印加電力に対し2次関数的に増加し、SAW伝搬モードおよび強誘電体結晶面の自発分極方向にはよらず、電気機械結合定数の高い強誘電体結晶基板ほど高い活性化を起こすことを示した。SAWによる触媒活性増加は熱的効果ではなく、触媒の結晶格子の歪みが活性増加と関係することを明らかにした。
 第4章では、触媒の表面状態とSAWの活性化効果の関係、および反応機構に及ぼすSAWの効果を述べている。SAW伝搬路上に担持したPdおよびNi薄膜に、酸化および還元の異なる処理を施した表面においてエタノール酸化反応とCO酸化反応に及ぼすSAWによる活性増加の効果は触媒表面状態により変化し、酸化物触媒表面が金属表面よりも数倍も高いこと、また、SAWの周波数依存性より低周波のSAW程高い活性化効果をもつことを見出した。SAW伝搬および無伝搬時の触媒反応の反応温度依存性および反応分圧依存性を比較し、SAWは反応の活性化エネルギーを約70%も低下させること、表面と弱い結合をもつ反応種よりも強吸着した反応種に強い影響を与えることを示し、SAWが触媒反応の反応機構に顕著な効果をもつことを明らかにした。
 第5章では、SAWによる触媒活性化機構を明らかにするために、SAWが触媒の物性に及ぼす効果を検討している。レーザードップラー法によりSAW伝搬に伴う格子変位を反応条件下で測定し、さらに触媒の表面電気伝導度とSAW伝搬減衰の測定から音波-キャリヤ相互作用を調べ、SAW伝搬により発生する電界を計算で求めた。SAWによって生じる格子変位は周波数依存性をもち、周波数が低いほど大きく(5MHzで28nm)、SAW伝搬路に金属膜よりも酸化物膜が存在する場合に格子変位の顕著な減少が生じることを示した。SAWの伝搬は、触媒中のキャリヤとの相互作用によって減衰するが、その量は酸化物触媒の場合に金属に比べ著しく大きいことを示し、その解析を行った。また、触媒の表面電気伝導度の測定結果から、SAWは反応気体の吸着および脱離の両方を促進するダイナミックな効果をもつことを明らかにした。以上の結果に基づき、SAWによる活性化は金属表面では格子変位、酸化物表面ではさらに音波-キャリヤ相互作用により触媒表面の電子密度が変化し、強吸着した反応中間種の電荷状態に影響を与え、触媒活性を増加させる機構を明らかにした。
 第6章では、弾性表面波が固体触媒の触媒活性に及ぼす効果およびその活性化機構を総括して述べ、高周波電力の印加により強誘電体結晶基板上に発生できる弾性表面波は、固体触媒、特に酸化物触媒の活性を高める効果をもち、制御機能をもつ固体触媒の開発にきわめて有用であると結論した。

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