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解剖学的構造を援用した胸部X線画像CADの研究

氏名 島田 哲雄
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第290号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 解剖学的構造を援用した胸部X線画像CADの研究
論文審査委員
 主査 教授 福本 一朗
 副査 教授 山元 皓二
 副査 教授 渡邉 和忠
 副査 助教授 高原 美規
 副査 新潟労災病院 院長 酒井 郁夫

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目次

第1章 諸言 p.1
1.1 本邦における肺がんの現状 p.1
 1.1.1 肺がんの患者推移 p.1
 1.1.2 肺がんの予後 p.1
 1.1.3 肺がん検診 p.2
 1.1.4 早期発見の重要性 p.3
 1.1.5 最近の肺がん検診の動向 p.4
 1.1.6 読影医師の負担 p.5
1.2 コンピュータ診断支援とは p.6
 1.2.1 ディジタル画像解析への期待 p.6
 1.2.2 CAD p.6
 1.2.3 CADの目標 p.7
 1.2.4 CADの現状 p.7
1.3 本研究の目的 p.8
 1.3.1 解剖学的知見の活用 p.8
 1.3.2 本研究で取り扱う範囲 p.9
 1.3.3 対象とする病変 p.9

第2章 データベース p.11
2.1 胸部腫瘤陰影像データベース p.11

第3章 従来法による検出 p.17
3.1 差分Filterの構成 p.17
 3.1.1 差分Filterについて p.17
 3.1.2 Matched Filterについて p.17
 3.1.3 Ring Filterについて p.18
 3.1.4 差分Filterの出力 p.19
 3.1.5 腫瘤陰影候補の検出 p.21
 3.1.6 差分Filterの結果 p.25
 3.1.7 差分Filterの問題点 p.31

第4章 解剖学的構造への対応 p.33
4.1 Eye Shaped Filter p.33
 4.1.1 楕円Filter p.33
 4.1.2 ESFと肋骨陰影との関係 p.35
 4.1.3 ESFの結果 p.36
 4.1.4 考察 p.40
4.2 Direction ESF p.41
 4.2.1 非線形Filterの必要性 p.41
 4.2.2 周辺画像の濃度勾配ベクトル p.41
 4.2.3 ESFの回転 p.42
 4.2.4 DESF結果 p.43
 4.2.5 考察 p.45
4.3 Improved Directional Eye Shaped Filter p.47
 4.3.1 周辺が祖の解剖学的方向の検索 p.47
 4.3.2 IDESFの結果 p.49
 4.3.3 考察 p.53
4.4 Directional Eye Shaped Filter with Hough Transformation p.54
 4.4.1 胸部全体の把握 p.54
 4.4.2 直線検出用Hough変換 p.54
 4.4.3 Hough変換の結果とESFの回転 p.57
 4.4.4 DESF-Hの結果 p.59
 4.4.5 考察 p.63

第5章 医師の読影手法の模倣 p.66
5.1 Nodule Elimication Filter p.66
 5.1.1 周辺部位からの正常構造の予測 p.66
 5.1.2 腫瘤除去画像の作成 p.68
 5.1.3 NEFRの結果 p.70
 5.1.4 考察 p.79
 5.1.5 NEFRの乳がん検診がん検診画像への応用 p.81
5.2 Jackknife-Filter p.86
 5.2.1 線成分の除去 p.86
 5.2.2 直線線分のみの画像の作成 p.86
 5.2.3 Line Filterの拡張 p.88
 5.2.4 パラメータの決定 p.89
 5.2.5 Jackknife-Filterの結果 p.89
 5.2.6 考察 p.96
 5.2.7 Jackknife-Filterの間質性肺炎への応用 p.96

第6章 結論 p.102
6.1 本研究のまとめ p.102
 6.1.1 解剖学的構造への対応 p.102
 6.1.2 医師の読影手法の模倣 p.104
6.2 今後の課題 p.105
謝辞 p.107
参考文献 p.109
本研究に関する業績の一覧 p.119
原著論文 p.119
研究報告 p.119
国際会議 p.120
国内会議 p.121

肺がんの検診において胸部X線写真は重要な役割を担っており、ヘリカルCT等の新しい検査法が開発された今日でも最も利用されている検査法である。しかし読影にたずさわる医師の負担はかなりのものであり、さらにその疲労から見落としが発生することも予測される。それを防ぐための二重読影などの手法はさらに医師の負担を増加させるという矛盾も抱えている。そのためいくつかの研究機関で読影の負担軽減、見落とし防止のためのCAD(Computer Aided Diagnosis)システムの開発が行われている。しかし、現行のCADシステムは未だ医師の読影技術に対抗するレベルにない。本研究では、他の研究機関の開発結果を参考にしながらも、現行のものに解剖学的知見を加え、医師の読影手法を取り入れることで検出能を向上させることを目的に検討を行った。
今研究では腫瘤性陰影検出に用いる腫瘤性陰影強調Filterの検討を行った。全体を通して線形Filter、非線形Filterそれぞれの長所を生かせるようなFilterの提案を目標にした。
最初に提案したのは肋骨や横隔膜の形状に対応したESFで、横方向に走行する構造の多い胸部の特徴にあわせ、肋骨や横隔膜などの横方向に走る解剖学的構造からの障害を抑える構造になっている。
今研究での検出能の評価では、胸部画像データベースで81.8%の検出率であった。最も一般的に使用されている差分Filterの検出率76.0%を上回った。線形Filterでもその設計を工夫すればさらに検出率の向上が望めることが実証できた。線形Filterは一定の操作を単調に繰り返すことが基本で、その出力は安定し、急激な濃度変化が少なく、その濃度情報から腫瘤性陰影候補を抽出するのに適している。しかし一定の操作を繰り返すために腫瘤性候補の濃度を強調する能力はどちらかといえば抑え目になる傾向がある。そのためその後の擬陽性候補削減等で影響を受けることが予想される。また、その構造から縦方向の濃度変化の影響は受けにくいものの、横方向での濃度変化には非常に敏感で、左右の胸壁付近では検出率が低下する傾向があった。
次に提案したのが局所的な濃度勾配ベクトルについて関心画素を中心に4分割した領域の平均値を用いて算出する非線形FilterのDESFである。このベクトルを求める手法は画像工学の中では多用される一般的な手法であったが、ベクトル検出する範囲が一般的に使用するものより大きめであったことと、胸部X線画像の多くの解剖学的構造に追従できずに急激なベクトルの方向変化を繰り返し、処理後の画像はベクトル検出不足による高濃度域の白い帯が無数にあるものであった。これは非線形Filterの設計自体に問題があり、もう少しなだらかに解剖学的構造に追従する手法が必要であった。このような経緯を踏まえ、DESFを改良したIDESFを提案した。このIDESFは局所的な解剖学的構造をスリット上のFilterを通して検出するもので、濃度勾配を検出しているというより画像内にある解剖学的構造の方向を検出している。この結果はESFと同程度の検出結果であったが、腫瘤性陰影はESFより増強されていることが確認できた。しかしそれと同時に擬陽性候補の濃度も増強してしまい、結果的にFROCでその後の判別に支障が出ることが確認された。
最後に処理の当初に胸部X線画像から胸部の大まかな構造を把握し、その構造にあわせて一律に処理を行っていくDESF-Hを提案した。これは半非線形Filterとでも呼べるもので、左右の胸壁付近では楕円形のFilterの長軸を縦方向に、その後徐々に水平となり、また反対側で縦方向になるという肋骨の走行を模擬したものである。結果は良好で検出率はESFと同等で、FROCの結果から擬陽性候補削減にも有効であった。
続いて医師の視点による読影を取り入れるためにいくつかの処理を考案し検討を行った。周辺画素から最も近似した情報を代入するNEFでは病変の形状を良好に検出することができ、肉眼での認識に近い画像を作成することができた。さらにこのFilterを乳房画像の腫瘤性陰影検出に応用した。次に胸部画像は微細な構造が多いが、その構造は肋骨、肺紋理ともに孤立して存在することはなく、必ず連結していることに着目してJackknife-Filterを考案した。さらにFilterの特性を利用し微細な孤立陰影が多く存在する間質性肺疾患へ検出に応用した。
医師の読影手法を模倣する手法ではそのFilterの特性が腫瘤性陰影の特徴に適応した際には非常に良好な検出結果を示した。しかし、単一のFilterでは最終的に検出率は低下した。いくつかのFilterを組み合わせることでお互いに補いながらさらに検出率を向上させることができることが示唆された。

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