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アルツハイマー型痴呆画像診断システムの基礎研究

氏名 児玉 直樹
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第289号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 アルツハイマー型痴呆画像診断システムの基礎研究
論文審査委員 
 主査 教授 福本 一朗
 副査 教授 山元 皓二
 副査 教授 渡邉 和忠
 副査 助教授 高原 美規
 副査 新潟大学 医学部 助教授 岡本 浩一郎

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章目次

第1章 序論 p.1
1.1 高齢者人口の推移とアルツハイマー型痴呆 p.1
1.2 アルツハイマー型痴呆の症状 p.1
1.3 アルツハイマー型痴呆の病理学的特徴 p.2
1.4 神経原線維変化とアルツハイマー型痴呆の発症機序 p.3
1.5 アルツハイマー型痴呆の診断基準 p.4
1.6 アルツハイマー型痴呆の画像診断 p.7
1.7 本研究の目的 p.8
1.8 本論文の構成 p.9

第2章 海馬と脳室の面積計測によるアルツハイマー型痴呆の画像診断 p.11
2.1 はじめに p.11
2.2 対象 p.12
2.3 撮像条件 p.13
2.4 海馬と脳室の面積計測 p.17
2.5 統計学的検討 p.21
2.6 結果 p.21
2.7 考察 p.26
2.8 まとめ p.28

第3章 テクスチャ特徴量によるアルツハイマー型痴呆の画像診断 p.29
3.1 はじめに p.29
3.2 テクスチャ特徴量 p.30
 3.2.1 フラクタル次元
 3.2.2 ランレングス行列から得られる特徴量
 3.2.3 同時生起行列から得られる特徴量
3.3 対象 p.34
3.4 方法 p.35
3.5 統計学的検討 p.37
3.6 結果 p.37
3.7 考察 p.40
3.8 まとめ p.43

第4章 アルツハイマー型痴呆における脳の形態的変化とテクスチャ p.44
 特徴量との相関 p.44
4.1 はじめに p.45
4.2 対象 p.46
4.3 方法
 4.3.1 海馬面積指数と海馬傍回面積指数の算出
 4.3.2 ランレングス行列から得られる特徴量
 4.3.3 同時生起行列から得られる特徴量
 4.3.4 平均変化率の算出
4.4 結果 p.49
4.5 考察 p.56
4.6 まとめ p.58

第5章 ROC解析を用いたアルツハイマー型痴呆の診断能評価 p.60
5.1 はじめに p.60
5.2 ROC解析 p.60
5.3 方法 p.63
5.4 結果 p.64
5.5 考察 p.68
5.6 まとめ p.69

第6章 テクスチャ特徴量による軽度認知障害の画像診断への応用 p.71
6.1 はじめに p.71
6.2 軽度認知障害 p.72
 6.2.1 軽度認知障害の臨床的特徴
 6.2.2 軽度認知障害の有病率
 6.2.3 軽度認知障害のMRIによる形態学的検討
 6.2.4 軽度認知障害の脳機能検査
 6.2.5 軽度認知障害の神経病理学的検討
6.3 対象 p.75
6.4 方法 p.76
 6.4.1 フラクタル次元
 6.4.2 ランレングス行列から得られる特徴量
 6.4.3 同時生起行列から得られる特徴量
6.5 統計学的検討 p.78
6.6 結果 p.78
6.7 考察 p.79
6.8 まとめ p.80

第7章 結論 p.82
7.1 本論文の総括 p.82
7.2 今後の展望 p.86

謝辞 p.87

参考文献 p.89

本研究に関する業績 p.97

これまでに報告されているアルツハイマー型痴呆の画像診断手法のほとんどは海馬領域の体積測定である.現在のところ,海馬領域を自動的に抽出することは困難であり,海馬領域の体積測定は一枚一枚手作業で行っているため,莫大な時間を費やすだけでなく,患者への負担も多くなっている.さらには医師の作業負担も大きくなっており,臨床的に容易に用いることは困難であるといわざるを得ない.
 本研究では,医師による手作業を行うことなく,全て計算機により処理することができるテクスチャ特徴量を導入し,テクスチャ特徴量によるアルツハイマー型痴呆の客観的診断について検討することにした.それにより,アルツハイマー型痴呆の画像診断システム構築の可能性について検討を行い,テクスチャ特徴量を用いたアルツハイマー型痴呆画像診断システムがアルツハイマー型痴呆の前段階であると考えられている軽度認知障害ついても診断が可能であるか検討を行った.
 まず,海馬および脳室の面積計測を行うことにより,アルツハイマー型痴呆の画像診断を行えるかどうか検討した.海馬および脳室の面積を指標として診断を行った理由は,体積測定よりも処理が容易で,短時間で測定が終わること,また,視覚的評価や長さ,厚さの測定よりもより客観性が高くなるためである.脳室および海馬の面積による診断感度は90.2%,特異度は81.8%であった.従来,診断感度,特異度が高いといわれている海馬の体積測定には及ばないものの,高い正判別率が得られた.しかし,冠状断画像と水平断画像という2枚の画像を用いなければならず,海馬の体積測定よりは手間はかからないものの,海馬面積の抽出に医師の手作業が入ってしまうことなどにより,臨床で実用可能な手法であるとは考えられないため,アルツハイマー型痴呆の形態的変化を的確に捉え,濃淡分布の変化についても的確に捉えることのできる特徴量の提案が必要であると考えられた.
 そこで,アルツハイマー型痴呆の形態的変化を的確に捉え,濃淡分布の変化も的確に捉えることのできる特徴量としてテクスチャ特徴量を提案し,様々なテクスチャ特徴量を算出し,アルツハイマー型痴呆の診断にどのテクスチャ特徴量が有効であるか検討した.テクスチャ特徴量として,フラクタル次元,ランレングス行列から得られる5種類の特徴量,同時生起行列から得られる5種類の特徴量,合計11種類の特徴量を提案した.アルツハイマー型痴呆と健常高齢者との間で有意な差が認められたのは8種類のテクスチャ特徴量であり,8種類のテクスチャ特徴量を用いた診断感度は91.2%,特異度は86.4%であり,海馬体積測定と同程度の診断感度と特異度を得ることができた.これらのことから,テクスチャ特徴量を用いたアルツハイマー型痴呆の画像診断の有用性が示された.しかし,同時生起行列,ランレングス行列から得られる特徴量とアルツハイマー型痴呆における脳の形態学的変化との関連についてはっきりと分かっていないため,同一対象者における脳の経時的変化を観察し,同時生起行列およびランレングス行列から得られる特徴量とアルツハイマー型痴呆における脳の形態的変化との関連について調査する必要があると考えられた.
 テクスチャ特徴量とアルツハイマー型痴呆における脳の形態的変化との関連について調査するため,アルツハイマー型痴呆における脳の経時的変化をテクスチャ特徴量で数値化するとともに,従来からアルツハイマー型痴呆の診断に有効であるといわれている海馬面積,および海馬傍回面積と比較し,海馬面積,および海馬傍回面積とテクスチャ特徴量との関連について調査した.どのテクスチャ特徴量も海馬面積と海馬傍回面積と高い相関を示し,さらに認知機能検査であるMMSEとも高い相関を示した.このことから,テクスチャ特徴量はアルツハイマー型痴呆におけるびまん的萎縮,特に海馬や海馬傍回を中心とした灰白質の萎縮に伴った形態的変化と局所的な濃淡分布の変化を捉えていると考えられた.
 さらに,テクスチャ特徴量を用いたアルツハイマー型痴呆画像診断における診断能を評価するため,放射線画像診断における診断能を評価する最良の方法として確立しているROC解析を用いて評価した.テクスチャ特徴量を用いてROC解析を行ったところ,神経内科医によるROC曲線下面積であるAz値は0.960であり,他の報告と比較しても同程度の値であると考えられ,テクスチャ特徴量によるアルツハイマー型痴呆画像診断の診断能は高いと考えられた.
 近年,軽度認知障害はアルツハイマー型痴呆の前段階であると考えられ,軽度認知障害の早期発見,早期診断が可能となれば,アルツハイマー型痴呆の予防や薬物療法などで大きな成果が得られると考えられ,軽度認知障害の客観的診断は非常に重要である.そこで,アルツハイマー型痴呆の診断に有用であったテクスチャ特徴量を軽度認知障害に適用することにより,軽度認知障害の診断への応用が可能であるか検討した.健常高齢者と軽度認知障害との間で有意な差が認められた7種類のテクスチャ特徴量を用いた診断感度は87.5%,特異度は90.9%と非常に高い値であった.軽度認知障害の海馬領域の萎縮は軽度であり,体積指標を用いた診断は限界であるといえが,テクスチャ特徴量は脳の形態的変化が軽微であっても的確に捉えることができ,軽度認知障害の診断にも有効であると考えられた.
 以上のことから,テクスチャ特徴量はアルツハイマー型痴呆の診断に有用であり,テクスチャ特徴量を用いたアルツハイマー型痴呆画像診断システムの構築は可能であると示唆された.また,アルツハイマー型痴呆の前段階であると考えられている軽度認知障害においてもテクスチャ特徴量を用いることにより診断が可能であると示唆された.

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