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3種の不純物を同時添加した気相エピタキシャル成長硫化亜鉛の発光と電気的特性の同時制御

氏名 岸本 誠一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第234号
学位授与の日付 平成13年12月31日
学位論文題目 3種の不純物を同時添加した気相エピタキシャル成長硫化亜鉛の発光と電気的特性の同時制御
論文審査委員
 主査 教授 打木 久雄
 副査 教授 上林 利夫
 副査 助教授 内富 直隆
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 石黒 孝

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第1章 序論 p.1
1.1 本研究の背景 p.1
1.2 硫化亜鉛(ZnS)について p.3
1.3 本論文の目的 p.9
1.4 本論文の構成および各章の概要 p.11
参考文献 p.13
第2章 試料の成長と不純物の添加 p.16
2.1 気相エピタキシャル成長法による結晶成長 p.16
2.1.1 成長系 p.16
2.1.2 原料 p.18
2.1.3 成長手順 p.20
2.2 成長層のX線回折、表面観察、および不純物分析 p.22
2.3 結論 p.29
参考文献 p.31
第3章 電気的特性の評価 p.32
3.1 はじめに p.32
3.2 Hall測定の実験結果と不純物濃度の解析 p.32
3.3 検討 p.38
3.3.1 Hall測定結果の検討 p.38
3.3.2 イオン・ペアリングの理論からの検討 p.40
3.3.3 ZnSへの不純物codopingのエネルギー計算との比較と検討 p.43
3.4 結論 p.45
参考文献 p.47
第4章 光学的特性の評価 p.49
4.1 はじめに p.49
4.2 実験結果 p.49
4.2.1 フォトルミネッセンス特性と光伝導度の励起スペクトル p.49
4.2.2 Ramanスペクトル p.55
4.3 光学的特性の検討 p.58
4.4 発光特性とp型伝導性の総合検討 p.60
4.5 結論 p.61
参考文献 p.63
第5章 pnホモ接合形成の試み p.64
5.1 はじめに p.64
5.2 pnホモ接合素子の作製と実験結果 p.64
5.3 検討 p.68
5.4 結論 p.70
参考文献 p.72
第6章 総合検討と今後の課題 p.73
6.1 実験結果の総合検討 p.73
6.2 多色発光素子実現に向けての検討 p.75
6.3 今後の課題 p.79
参考文献 p.81
第7章 総括 p.82
7.1 はじめに p.82
7.2 第6章までの研究 p.82
7.3 本研究の成果 p.84
謝辞
本研究に関する発表

 可視域発光素子へ適用を念頭に,バンドギャップが3.7[ev](室温)と大きい硫化亜鉛(ZnS)を用いて不純物添加による伝導性と発光色の同時制御を目的とした研究を行った.このような発光素子を得るためにはpn接合の形成が必要であり,ZnS中での電子と正孔の拡散長の差を考慮すると,発光は主にp領域で生じると考えられる.したがって,p型の伝導性と発光色を同時に制御するための検討が重要と考えられる.
本研究では,p型の伝導性を得るための窒素(N)と,青色発光を得るための銀(Ag),およびインジウム(In)または塩素(C1)を同時に添加したZnS層を開管気相エピタキシャル成長(VPE)法によりGaAs基板上に成長し,その制御性を検討した.
 第1章では,研究の背景と論文の目的を述べた.第2章では,結晶成長方法および成長層の結晶性および不純物の分析結果について記述した.X線回折の結果は,n型層,p型層共にzincblende構造でエピタキシャル成長していることを示した.SIMS分析から,成長層のIn添加量はその添加温度に対応して(O.5-2.O)×1017[cm-3]の範囲で変化していること,またNおよびAgについては~1018[cm-3]程度添加されていることが明らかになった.
 第3章では,Hall測定から電気的特性について検討した.ZnS:In,Ag,N層は室温において~1019[cm-3]程度の高い正孔濃度と10~30[cm2/Vs]の移動度を持ち,また正孔濃度はほとんど温度依存性を示さないことから、不純物バンドが形成されていると考えられる.また,移動度の温度依存性から,ドナー濃度,アクセプタ濃度は共に~1019「cm-3]台で,中性不純物濃度は1017~1018[cm-3]程度と見積もられた.この中性不純物中心濃度は,イオンペアリングの理論より推定されるN原子とIn原子のペアを考えて矛盾がない.ドナー、アクセプタ不純物を同時添加した場合についての第一原理計算に基づく理論的検討結果によれば,1)アクセプタ不純物濃度の増加,2)アクセプタ・レベルが単独添加の場合に比べ浅くなることなどが指摘されている.上記のような高いアクセプタ濃度や不純物バンドの形成は,これらの効果に対応している可能性があることを指摘した.
 第4章では,光学的特性について述べ,さらに発光色と伝導性の同時制御について検討した.フォトルミネッセンス測定の結果は,p型層中にAgが添加されていると考えられるドナー・アクセプタ対型の青色発光を示した.また,p型層のRamanスペクトルの測定からZn-N結合の形成に対応することを示すRamanピークが得られた.以上のことから,成長層中には目的どおり不純物が添加されており,ZnS:In,Ag,N層においてDAペア型の青色発光と低抵抗のp型の伝導性が両立することが明らかになった.ZnS:Cl,Ag,N層の場合もp型の伝導性と青色発光を同時に制御できているが,ZnS:In,Ag,N層に比べ~1017[cm-3]の低いキャリア濃度であった.この原因として,Sサイトを置換するNとClが競合し,それらの添加が互いに抑制されている可能性が考えられる.
 第5章では前章の結果に基づいて,ZnSでのホモpn接合の形成を(1)n-ZnS:In/p-ZnS:In,Ag,N/p-GaAs構造および(2)p-ZnS:In,Ag,N/n-ZnS:In/n-GaAs構造で試みた結果について記述した.これらの試料の室温の電流-電圧特性は,共に整流性を示し,順方向バイアスでの電流の立ち上がりはZnSの室温のバンドギャップに相当する3.7[V]であった.これからZnS中にpn接合が形成されていると考えている.逆バイアスにおいては、(2)p-ZnS:In,Ag,N/n-ZnS:In/n-GaAs構造の試料のいくつかはbackward diodeのような特性を示した.これについては,p領域がHall測定から判明した不純物バンドの形成に対応している可能性がある.0.1[A/cm2]以上の順方向電流では素子の破壊が生じ,現在までのところ発光を確認するには至っていない.
 第6章では5章で述べた問題を解決するための方策について考察を加え、また発光素子化を考える際に材料の特長をどう生かすべきかについて検討した。発光素子化の際にはモノシリックな多色LEDや高輝度白色LEDとしての利用を図れば従来品にないこの材料の特長が発揮できる可能性が高いことを指摘した。

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