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SiC繊維強化チタン基複合材料の製造と高温強度に関する研究

氏名 中谷 浩
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第264号
学位授与の日付 平成15年3月25日
学位論文題目 SiC繊維強化チタン基複合材料の製造と高温強度に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 小島 陽
 副査 教授 田中 紘一
 副査 教授 武藤 睦治
 副査 助教授 鎌土 重晴
 副査 東京大学 助教授 岡崎 正和

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目次

第1章 序論 p.1
1.1 はじめに p.1
1.2 連続繊維強化型チタン基複合材料 p.2
 1.2.1 チタン基複合材料の製造方法 p.2
 1.2.2 チタン基複合材料の力学的特性 p.4
1.3 航空機用エンジンへのチタン基複合材料 の適用について p.12
1.4 チタン基複合材料 の技術課題 p.16
 1.4.1 複合化条件 p.16
 1.4.2 疲労特性に影響を及ぼす因子と特性の改善 p.18
 1.4.3 熱リサイクル負荷耐久性 p.21
 1.4.4 部品製造プロセス p.21
1.5 論文の目的と構成 p.25
参考文献 p.28

第2章 チタン基複合材料の複合化条件の検討と力学的特性 p.33
2.1 緒言 p.33
2.2 実験方法 p.35
 2.2.1 供試材 p.35
 2.2.2 複合化実験方法 p.39
 2.2.3 評価項目 p.41
2.3 SiC/Ti-45Al-5Cr系TMCを用いた構造温度条件の検討 p.45
 2.3.1 製造温度条件と断面マクロ組織の関係 p.45
 2.3.2 製造温度条件と引張強度の関係 p.50
 2.3.3 製造温度条件と界面せん断強度の関係 p.50
2.4 強度特性に優れたTMCのためにマトリックス材の検討 p.55
 2.4.1 SP-700合金およびBeta21S合金をマトリックスとした検討 p.55
 2.4.2 Ti-24Al-11Nb合金をマトリックスした検討 p.59
 2.4.3 マトリックス材の異なるTMCの界面反応層の比較 p.64
2.5 緒言 p.69
参考文献 p.71

第3章 チタン基複合材料の高温環境下における疲労破壊の特徴と影響因子の抽出 p.75
3.1 緒言 p.75
3.2 実験方法 p.76
 3.2.1 供試材 p.76
 3.2.2 高温疲労試験 p.77
 3.2.3 Push-out試験 p.83
3.3 実験結果及び考察 p.85
 3.3.1 高温疲労試験結果 p.85
 3.3.2 マトリックス合金組成と界面せん断強度の関係 p.92
 3.3.3 TMCの疲労破壊機構とマトリックスの影響 p.96
 3.3.4 TMCの疲労特性に影響を及ぼす因子と制御性の検討 p.102
3.4 結言 p.104
参考文献 p.106

第4章 SCS-6/SP-700系TMCの疲労特性に及ぼすマトリックス組織の影響 p.109
4.1 緒言 p.109
4.2 実験方法 p.110
 4.2.1 供試材 p.110
 4.2.2 熱処理条件および微視組織観察 p.110
 4.2.3 評価した項目と実施方法 p.111
4.3 実験結果および考察 p.115
 4.3.1 SP-700 マトリックス材の微視組織と引張強度と疲労強度 p.115
 4.3.2 複合材料の疲労強度と微視組織 p.118
 4.3.3 考察 p.126
4.4 結言 p.128
参考文献 p.130

第5章 SiC/Ti-24Al-11Nb系 TMCの熱疲労損傷機構 p.131
5.1 緒言 p.131
5.2 実験方法 p.131
 5.2.1 供試材 p.131
 5.2.2 熱サイクル負荷(熱疲労試験)と恒温長時間曝露 p.132
 5.2.3 評価項目 p.132
5.3 実験結果 p.138
 5.3.1 熱サイクル負荷による材料表面の裂形態および界面変化 p.138
 5.3.2 熱サイクル負荷による安定き裂成長に対する抵抗の変化 p.141
 5.3.3 熱サイクル負荷に伴う弾性的特性の変化 p.145
5.4 考察 p.147
5.5 緒言 p.154
参考文献 p.156

第6章 SCS-6/Ti-24Al-11Nb系 TMCの熱疲労損傷における環境依存と界面せん断強度の関係 p.157
6.1 緒言 p.157
6.2 実験方法 p.158
 6.2.1 供試材 p.158
 6.2.2 熱サイクル負試験 p.158
 6.2.3 評価試験項目 p.161
6.3 実験結果 p.163
 6.3.1 熱疲労損傷とき裂 p.163
 6.3.2 熱疲労損傷による界面の変化 p.167
 6.3.3 熱疲労損傷と界面せん断強度 p.174
6.4 考察 p.183
6.5 結言 p.185
参考文献

第7章 チタン基複合材料を適用した航空機用エンジン部材の製造および設計技術に関する研究 p.187
7.1 緒言 p.187
7.2 ディスク模擬部品試作試験方法 p.188
 7.2.1 供試材 p.188
 7.2.2 試作ディスク形状 p.188
 7.2.3 製造プロセス p.190
 7.2.4 評価試験項目 p.194
7.3 ディスク模擬部品試作試験結果 p.194
 7.3.1 外観検査 p.194
 7.3.2 超音波探傷検査 p.197
 7.3.3 ディスク模擬部品の外観,及び断面組織 p.200
7.4 TMC製ディスクの試設計 p.203
 7.4.1 応力解析モデル p.203
 7.4.2 対象材 p.205
 7.4.3 材料物性値 p.205
 7.4.4 解析条件 p.205
 7.4.5 評価項目 p.208
7.5 TMC製ディスク試設計結果 p.209
 7.5.1 既存Inconel 718製ディスクの応力解析結果 p.209
 7.5.2 TMC製ディスクの応力解析結果 p.211
 7.5.3 TMC製ディスク形状の検討 p.217
7.6 TMC製ディスクの成立性および効果に関する検討 p.222
7.7 結言 p.231
参考文献 p.233

第8章 総括(まとめ) p.235

本研究に関する論文,および発表 p.241

謝辞 p.243

SiC繊維強化チタン基複合材料(TMC:Titanium Matrix Composites)は、高い比強度、比剛性と優れた耐熱性を兼ね備えた材料であることから、従来のニッケル基合金や鉄基合金の代替材として、航空機エンジン部材への適用が期待されている。
 そこで、本研究では、はじめに、TMCを実機適用するために不可欠な材料の信頼性を確保することを目的に、Ti-45Al-5Cr合金やSP-700合金など種々のチタン合金をマトリックスとして、SiC連続繊維との組み合わせで製造温度などの条件を変化させて、静的な強度特性に及ぼす影響を調べた。その結果、Ti-45Al-5Cr合金系のTMCでは、製造温度条件によって引張強度や界面せん断強度が著しく変化し、1000~1050℃の温度で製造したTMCがもっとも優れた特性を示すことを明らかにした。これは、1000℃未満の温度条件では、マトリックスの拡散接合が不十分で、応力伝達に必要な界面が形成されず、また、1050℃を越えた温度では、繊維/マトリックス界面の化学反応が著しく進行し、厚く脆い化合物が形成され、これが破壊の起点となって強度が低下するためであることを見出した。また、この製造温度の力学特性に及ぼす影響は、マトリックスの違いによって異なり、SP-700合金系では、その影響は小さいことも明らかにした。これは、SP-700合金の優れた変形能によって、Ti-45Al-5Cr合金系よりも200℃も低い温度条件で複合化が達成でき、界面反応層を極めて薄く抑制することができたことによると考察した。つぎに、航空機エンジン材料に求められる高温環境下での疲労特性を把握することを目的にマトリックスの違いによって界面の性質が異なるSCS-6/Beta21S系、SCS-6/SP-700系、およびSCS-6/Ti-45Al-5Cr系の3種類のTMC対象として、500℃、大気中の環境下で疲労試験を行い、疲労破壊の特徴を調べながら、マトリックスや界面の性質の相違がTMCの疲労特性に及ぼす影響について検討した。その結果、高温における疲労特性は、SP-700系がもっとも優れ、次いでBeta21S系の順で、これら2種類のTMCはモノリシックチタン合金よりも優れた特性を示すことを実験により明らかにした。一方、界面反応層の厚いTi-45Al-5Cr系では、モノリシックチタン合金より疲労特性が劣ることを確認した。これら3種類のTMCの界面強度は、反応層の極めて薄いSP-700系でもっとも高く、疲労強度の優劣とも定性的に対応することを示した。また、界面反応層の性質(厚さ、生成物など)の相違は、疲労破壊メカニズムに影響を及ぼすと考察した。すなわち、界面反応層が過度に成長し、脆弱なシリサイド相が形成されると、たとえ界面強度が強くても、反応層そのものがき裂発生の起点となり、また、マトリックス中を進展してきたき裂に対しても、脆い反応層はき裂を停留させる能力に欠け、容易に繊維破断を誘発するなど、いずれも疲労強度を低下させる方向に作用すると考察した。これらのことから、マトリックスや界面反応層の性質は、TMCの疲労特性に影響を及ぼす因子の一つであり、これらを巧く制御できれば、TMCの疲労強度を向上させる可能性のあることを明らかにした。そこで、SCS-6/SP-700系のTMCを対象に、さらなる疲労特性の向上を目的として、熱処理によるマトリックスの微視組織の制御に着目し、TMCにβ変態点近傍の温度域で様々に熱履歴を与え、マトリックスの微視組織を変化させることによって、TMCの疲労特性に及ぼす影響を調査した。その結果、製造ままの微細α+β組織のTMCよりも、熱履歴を付与し微視組織を変化させたTMCの室温疲労強度が、高寿命側の領域において大幅に向上することを実験により示した。これは、SP-700マトリックス材の静強度特性 や疲労特性の向上によるものではなく、疲労き裂進展抵抗による効果であることを明らかにした。
 さらに、TMCの高温環境下における耐久性を確認するため、熱サイクル負荷によって生じる損傷のメカニズムやそれらがTMCの特性に及ぼす影響などについて、Ti-24Al-11Nb合金をマトリックスとした複合材料を対象に調査を行った。その結果、真空中、大気中のいずれの環境下においても、熱サイクルの付与によって複合材には各種形態のき裂が繰り返しの初期から発生し、密度増加を伴いながら熱疲労損傷が進行することを確認した。また、これらの熱疲労損傷の発生や恒温曝露負荷により、TMCの安定き裂成長に対する抵抗は著しく低下し、弾性係数およびポアソン比などの弾性的特性も変化することを確認した。これら熱疲労損傷の進行を定量的に評価するため、Push-out試験による繊維/マトリックス界面のせん断強度を調べた結果、本複合材の恒温曝露、あるいは熱サイクル付与による主な損傷のメカニズムは、恒温曝露が界面酸化であるのに対して、熱サイクル付与が熱膨張率の差によって発生する熱応力によるものであり、それぞれ損傷の形態も異なることを明らかにした。また、損傷メカニズムによって環境依存性が異なることも明らかにした。
 最後に、TMCの航空機エンジン部材への適用性を把握するため、実機の低圧タービンディスクを模擬した部品の製造プロセスを検討した。その結果、実機を模擬したTMC製ディスクの試作では、キャニングHIPプロセスによって製造した複雑形状のTMC製ディスクの健全性を確認し、本研究で採用したキャニングHIPプロセスが、複雑なTMC製ディスクの製造に適した手法であることを示した。また、TMC製ディスクの試設計においては、ディスクの回転によって発生する応力を有限要素法により解析的に求め、既存の金属製ディスクと比較することによって、TMC製ディスクの成立性や適用効果を検討した。その結果、既存ディスク形状に対しては、TMCを単純に適用することが困難であることを確認した。そのため、TMCに適した断面積変化の少ない新形状のTMC製ディスクを考案し、回転による遠心力荷重と温度分布による熱荷重を考慮した応力解析を行った結果、新形状のTMC製ディスクは、強度的にも、また重量軽減的観点からみても、ニッケル基合金製ディスクよりも十分に有効であり、本研究で明らかにしたTMCの高温疲労強度や熱サイクル損傷の観点からも、TMC製ディスクが成立する可能性のあることを考察した。

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