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太陽光・熱エネルギー変換膜におけるメゾスコピック構造制御

氏名 西村 正人
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第314号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 太陽光・熱エネルギー変換膜におけるメゾスコピック構造制御
論文審査委員
 主査 助教授 石黒 孝
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 小松 高行
 副査 教授 濱崎 勝義
 副査 助教授 末松 久幸

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目次
第1章 序論
1.1 エネルギー問題と環境問題 p.1
1.2 太陽光・熱エネルギー変換 p.2
1.3 太陽光選択吸収膜と従来の高効率化要素 p.4
1.4 金属ナノスケール構造の光吸収特性 p.6
1.5 本研究の目的 p.7
1.6 本論文の構成 p.8
1.7 参考文献 p.10

第2章 薄膜作製と構造および光学特性の評価方法
2.1 薄膜作製装置 p.14
2.2 薄膜評価方法 p.14
2.2.1 膜厚評価 p.16
2.2.2 結晶構造評価 p.16
2.2.3 表面構造とナノ構造の評価 1p.6
2.2.4 光学特性評価 p.17
2.3 参考文献 p.21

第3章 表面凹凸を有するAl-N太陽光選択吸収膜における太陽光吸収特性の発現
3.1 緒言 p.22
3.2 Al-N薄膜の作製 p.23
3.3 Al-N薄膜の構造評価 p.24
3.4 Al-N薄膜の表面構造と光学特性の窒素濃度依存性評価 p.27
3.5 Al-N薄膜の表面構造と光学特性の膜厚依存性評価 p.36
3.6 結言 p.52
3.7 参考文献 p.54

第4章 AlN/Al-N/凹凸Al太陽光選択吸収膜の高性能化
4.1 緒言 p.56
4.2 AlN、Al-Nと凹凸Al薄膜の作製 p.59
4.3 凹凸Al薄膜の評価 p.60
4.3.1 凹凸Al薄膜の表面構造と光学特性の基板温度依存性評価 p.60
4.3.2 二段階成膜凹凸Al薄膜の表面構造と光学特性の評価 p.70
4.4 Al-N/凹凸Al積層膜の評価 p.74
4.4.1 Al-N/凹凸Al積層膜の表面構造評価 p.74
4.4.2 Al-N/凹凸Al積層膜の光学特性評価 p.77
4.5 AlN/Al-N凹凸Al積層膜の光学特性評価 p.86
4.6 結言 p.90
4.7 参考文献 p.91

第5章 凹凸表面の利用による構造色発現
5.1 緒言 p.93
5.2 凹凸Al薄膜の表面構造と光学特性の評価 p.95
5.3 Al/凹凸Al積層膜の表面構造と光学特性の評価 p.95
5.4 結言 p.103
5.5 参考文献 p.104

第6章 Agナノ構造制御による太陽光選択吸収特性発現
6.1 緒言 p.105
6.2 MgO/Ag/MgO積層膜の作製 p.106
6.3 MgO/Ag/MgO積層膜の不連続形態評価 p.107
6.4 MgO/Ag/MgO積層膜の光学特性評価 p.110
6.5 MgO/(Ag/MgO)N積層膜の作製と光学特性評価 p.116
6.6 結言 p.125
6.7 参考文献 p.126

第7章 Ptナノ構造膜の局所構造と光学特性
7.1 緒言 p.128
7.2 MgO/Pt/MgO積層膜の作製 p.130
7.3 MgO/Pt/MgO積層膜の不連続形態評価 p.131
7.4 Pt不連続膜の光学特性の形態依存性 p.134
7.5 Pt不連続膜の低反射特性評価 p.138
7.6 膜形態分割光学モデルを用いた光学特性の局所構造依存性解析 p.143
7.7 結言 p.162
7.8 参考文献 p.163

第8章 総括 p.165

謝辞 p.170

 本研究では、エネルギー問題と環境問題を同時に解決する太陽光エネルギーを熱エネルギーに変換する太陽光選択吸収膜に対する、サブミクロンスケールの表面凹凸(サブミクロン表面凹凸)や金属のナノメートルスケールの構造(金属ナノ構造)といったメゾスコピックスケールの構造の寄与を明らかにし、これらメゾスコピック構造を効果的に用いて太陽光選択吸収膜の高効率化を実現した。
第1章では、従来の太陽光選択吸収膜に関する研究例を概観すると共に、サブミクロン表面凹凸や金属ナノ構造といったメゾスコピック構造の太陽光選択吸収特性向上への理解が十分でないこと、及び、表面凹凸の高効率太陽光選択吸収膜応用のための設計指針となる報告がほとんどないことを述べた。
第2章では、メゾスコピック構造試料の作製方法と光学特性評価方法について述べた。
第3章では、太陽光選択吸収特性に与える表面凹凸の影響を定量的評価に基づいて明らかにした。ArとN2を用いた反応性スパッタにより透明なAlNが作製されるよりも低いN2濃度で作製されるAl-N膜が、高い太陽光吸収率を示す事実を発見し、その原因を調査した。まず、測定した光学特性からAl-N膜の複素屈折率を評価したところ、金属ほど吸収が強すぎない適度な吸収特性を有することがわかった。次に、サブミクロン表面凹凸が傾斜屈折率をもたらすと仮定することで、原子間力顕微鏡の定量的な凹凸デ-タに基づいて計算した光学特性は、表面凹凸増大と共に反射率が低減する実験結果を再現した。これらのことから、Al-N膜は適度な吸収係数を有し、かつ膜表面に凹凸を形成するために、高い太陽光吸収特性を示すことがわかった。さらにAl-N膜は膜厚による表面凹凸の制御により太陽光選択吸収特性を示した。このAl-N膜の光学的な光熱変換効率は、最も普及している太陽光選択吸収膜であるブラッククロム膜と比べて若干低かったが、故意に膜に組成勾配を与えずとも、表面凹凸を与えることで太陽光選択吸収特性が得られるという特長を明らかにした。
第4章では、高効率を得るために採用されている誘電体膜/金属-誘電体混合膜/金属膜の構成においても、表面凹凸が太陽光選択吸収膜の高効率化に有効であることを明らかにした。そこでは、安価な金属材料であるAlのみをターゲットとした反応性スパッタ法によりAlN/ Al-N/Al凹凸太陽光選択吸収膜を作製し、特性評価を行った。スパッタ法において容易な制御パラメータである基板温度と膜厚を制御することで、高い赤外反射率を保ち、かつ、可視から近赤外領域で大きな拡散反射率を示す凹凸Al膜を得た。その上に、N2濃度と膜厚を制御してAl-N光吸収膜を堆積した結果、Al膜の凹凸が大幅な太陽光選択吸収特性向上の要因であることがわかった。さらに、このAl-N/凹凸Al積層膜上に透明AlN膜を堆積させた結果、凹凸膜上でも透明膜が反射防止の効果を示すことを見出した。そして、このAlN/Al-N/凹凸Al太陽光選択吸収膜の光熱変換効率は、ブラッククロム膜を大幅に上回り、従来の高効率化手法を用いたAlN/Al-N/Al太陽光選択吸収膜に匹敵することから、サブミクロン表面凹凸の応用が太陽光選択吸収膜の高効率化のための新しい手法であることを明らかになった。

第5章では、第4章で見出した透明なAlN膜が凹凸膜上でも示す干渉効果を利用して構造色を再現した。可視光を拡散する凹凸Al膜上にAlN膜を堆積させたAlN/凹凸Alは、明確な振動スペクトルをもつ拡散反射率を示し、そのスペクトルから予想されるとおりの光沢の無い色を示した。さらに、この構造色がAlN膜厚によって制御できることを明らかにした。
第6章では、これまで十分に明確にされていなかったパーコレーション閾値付近の金属ナノ構造膜の太陽光選択吸収特性とナノ構造との関連を、Agを例として明らかにした。まず、Agがパーコレーション閾値付近の形態の時に可視から近赤外領域にわたり大きな吸収率が出現し、この特性が優れた太陽光吸収膜となる要因であることを明らかにした。さらに、パーコレーション直後の形態のAg膜が優れた太陽光吸収率に加えて、熱的安定性と高い赤外反射率も示すことを見出した。この特長を活し試作したAg/MgO積層膜太陽光選択吸収膜は、4章で述べた高効率なAlN/Al-N/Al凹凸太陽光選択吸収膜の到達上限温度を上回った。このことから、これまで光吸収層でのみ用いられていた金属のパーコレーション閾値付近の形態は、赤外反射層としても有用であることを明らかになった。
第7章では、観測した金属ナノ構造膜を局所的な微粒子分散セルの集合体とみなす光学モデルを用いて、金属ナノ構造膜中で局所的な微粒子分散セルとして振舞う領域を、従来のように膜構造から評価するのではなく、金属ナノ構造膜が示す実測された光学特性に基づいて評価することを目的とした。局所的な微粒子分散セルのサイズをフィッティングパラメータとして、Ptナノ構造膜の光学特性を最も再現するセルサイズを調べた結果、そのセルサイズは膜中に分散する媒質の代表的な大きさと一致することを見出した。すなわち、パーコレーション前では、代表的な大きさをもつPtの島が近傍のMgOと相互作用することで局所的なPt微粒子分散膜として振る舞い、パーコレーション後では、代表的な大きさをもつMgOの島が近傍のPtと相互作用することで局所的なMgO微粒子分散膜として振舞っていることがわかった。
第8章では、本論文の総括を行った。
以上のように、本論文では、サブミクロン表面凹凸や金属ナノ構造といったメゾスコピック構造が太陽光選択吸収膜の高効率化に有効であることを示した。さらに、太陽光選択吸収膜以外の応用である装飾の観点からも、メゾスコピック構造が有用なことを示した。

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