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共鳴振動現象による固体触媒の反応選択性の制御

氏名 湯川 泰之
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第308号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 共鳴振動現象による固体触媒の反応選択性の制御
論文審査委員
 主査 教授 井上 泰宣
 副査 助教授 松原 浩
 副査 教授 山田 昭文
 副査 助教授 丸山 一典
 副査 助教授 藤原 巧

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 触媒研究の歴史 p.1
1.2 触媒機能の高機能化の手法の問題点 p.2
1.3 本研究の構成 p.4
1.4 本論文の構成 p.7
1章 参考文献 p.10

第2章 強誘導電体素子の作製および特性評価 p.13
2.1 はじめに p.13
2.2 実験 p.14
 2.2.1 触媒素子の作製 p.14
 2.2.2 共鳴振動特性の測定 p.19
2.3 結果 p.19
 2.3.1 強誘導体素子の共鳴振動特性 p.19
2.4 考察 p.23
 2.4.1 強誘導体の共鳴振動現象と振動モード p.23
2.5 まとめ p.26
2章 参考文献 p.27

第3章 反応選択性に及ぼす振動モードの効果 p.28
3.1 はじめに p.28
3.2 実験 p.28
 3.2.1 Pd触媒素子の作製 p.28
 3.2.2 触媒のキャラクタリゼーション p.30
 3.2.3 触媒反応装置 p.30
 3.2.4 高周波電力印加システム p.34
 3.2.5 (+)Pd/z-LNおよびPd/x-LN上のエタノール分解反応 p.36
 3.2.6 表面物性の測定 p.37
 3.2.6.1 格子変位量の測定 p.37
 3.2.6.1(a) 測定装置 p.38
 3.2.6.1(b) 測定試料と測定条件 p.39
 3.2.6.2 仕事関数の測定 p.39
 3.2.6.2(a) 測定装置 p.39
 3.2.6.2(b) 測定試料と測定条件 p.41
3.3 結果 p.42
 3.3.1 Pd薄膜のキャラクタリゼーション p.42
 3.3.2 (+)Pd/z-LN上のエタノール分解反応 p.42
 3.3.3 Pd/x-LN上のエタノール分解反応 p.45
 3.3.4 共鳴振動による触媒表面の物性変化 p.45
 3.3.4.1 格子変位量 p.45
 3.3.4.2 仕事関数 p.49
3.4 考察 p.53
 3.4.1 Pd触媒上のエタノール分解反応の挙動 p.53
 3.4.2 共鳴振動が反応温度に及ぼす影響 p.53
 3.4.3 振動モードによる表面物性変化の違い p.54
3.5 まとめ p.55
3章 参考文献 p.57

第4章 強誘電体の分極場の効果 p.58
4.1 はじめに p.58
4.2 実験 p.58
 4.2.1 触媒素子の作製 p.58
 4.2.2 エタノール分解反応 p.60
 4.2.3 表面物性の測定 p.60
 4.2.3.1 格子変位量の測定 p.60
 4.2.3.2 仕事関数の測定 p.61
 4.2.3.3 触媒表面の原子間力顕微鏡(AFM)観察 p.61
 4.2.3.4 表面電位の測定 p.61
 4.2.3.4(a) 測定装置 p.61
 4.2.3.4(b) 測定試料と測定条件 p.61
4.3 結果 p.64
 4.3.1 共鳴振動による触媒活性の変化 p.64
 4.3.2 共鳴振動による活性化エネルギーの変化 p.64
 4.3.3 触媒活性と反応選択率の印加電力依存性 p.67
 4.3.4 エタノール分解反応の圧力依存性 p.72
 4.3.5 表面物性の測定結果 p.76
 4.3.5.1 格子変位量の測定結果 p.76
 4.3.5.2 仕事関数の測定結果 p.83
 4.3.5.3 AFM観察の結果 p.83
 4.3.5.4 表面電位の測定結果 p.88
4.4 考察 p.92
 4.4.1 共鳴振動による反応選択性の制御 p.92
 4.4.2 Pd触媒上のエタノール分解反応 p.92
 4.4.3 エタノールの反応次数の解析 p.94
 4.4.4 共鳴振動がエタノール分解反応に及ぼす効果 p.97
 4.4.5 オキソニウムイオン経由のエチレン生成反応 p.100
 4.4.6 共鳴振動による表明特性の変化 p.102
 4.4.6.1 格子変位量 p.102
 4.4.6.2 表面電位発生の機構 p.102
 4.4.6.3 仕事関数の変化 p.103
 4.4.7 仕事関数変化がエタノール吸着種に及ぼす効果 p.106
 4.4.8 (+)Pd/z-LNおよび(-)Pd/z-LN上の非共鳴振動状態での触媒活性 p.108
4.5 まとめ p.110
4章 参考文献 p.112

第5章 共鳴振動周波数の効果 p.114
5.1 はじめに p.114
5.2 実験 p.114
 5.2.1 触媒素子の作製 p.114
 5.2.2 共鳴振動特性の測定 p.115
 5.2.3 エタノール分解反応 p.115
 5.2.4 格子変位量の測定 p.115
5.3 結果 p.116
 5.3.1 共鳴振動特性の測定結果 p.116
 5.3.2 エタノール分解反応の経時変化 p.116
 5.3.3 エタノール分解反応の印加電力依存性 p.121
 5.3.4 エタノール分解反応の反応温度依存性 p.124
 5.3.5 格子変位量の測定結果 p.127
5.4 考察 p.133
 5.4.1 z-LNの厚みが異なる場合の共鳴振動周波数 p.133
 5.4.2 Ag薄膜触媒上のエタノール分解反応に及ぼす共鳴振動の効果 p.133
 5.4.3 表面物性に及ぼす共鳴振動周波数の効果 p.135
 5.4.4 エタノール分解反応の及ぼす共鳴振動周波数の効果 p.137
5.5 まとめ p.137
5章 参考文献 p.139

第6章 パルス化共鳴振動による触媒の高活性化 p.140
6.1 はじめに p.140
6.2 実験 p.140
 6.2.1 強誘導体素子の作製 p.140
 6.2.2 パルス化高周波電力印加装置 p.141
 6.2.3 エタノール分解反応 p.144
 6.2.4 格子変位量の測定 p.144
6.3 結果 p.146
 6.3.1 パルス化共鳴振動がエタノール分解反応に及ぼす効果 p.146
 6.3.2 パルス化共鳴振動によるエタノール分解反応の印加電力依存性 p.148
 6.3.3 パルス化共鳴振動における格子変位 p.148
6.4 考察 p.153
 6.4.1 パルス化共鳴振動による触媒の高活性化 p.153
 6.4.2 パルス化共鳴振動による格子変位 p.156
6.5 まとめ p.161
6章 参考文献 p.162

第7章 共鳴振動効果の種々の反応への展開 p.163
7.1 はじめに p.163
7.2 実験 p.164
 7.2.1 メタノール酸化反応 p.164
 7.2.1.1 触媒素子の作製 p.164
 7.2.1.2 反応装置 p.164
 7.2.1.3 エタノール酸化反応 p.166
 7.2.1.4 格子変位量の測定 p.167
 7.2.2 エタノール分解反応 p.167
 7.2.2.1 触媒素子の作製 p.167
 7.2.2.2 反応装置 p.167
7.3 結果 p.169
 7.3.1 エタノール酸化反応 p.169
 7.3.1.1 エタノール酸化反応の反応選択率の変化 p.169
 7.3.1.2 格子変位量の測定結果 p.172
 7.3.2 エタノール分解反応 p.172
7.4 考察 p.177
 7.4.1 エタノール酸化反応に及ぼす共鳴振動の効果 p.177
 7.4.1.1 エタノール酸化反応の機構 p.177
 7.4.1.2 エタノール酸化反応に及ぼす共鳴振動の効果 p.178
 7.4.2 エタノール分解反応に及ぼす共鳴振動の効果 p.180
 7.4.2.1 エタノール分解反応の機構 p.180
 7.4.2.2 エタノール分解反応に及ぼす共鳴振動の効果 p.181
 7.4.2.3 共鳴振動の応用の可能性 p.182
7.5 まとめ p.183
7章 参考文献 p.184

第8章 総括 p.187

本研究に関する発表論文 p.191
本研究に関する学会発表 p.192
謝辞 p.198

高度な機能をもつ新しい固体触媒は、化学工業プロセスの発展のみらならず、環境浄化、省エネルギーなどの観点からも、現代社会にとって必要不可欠な材料であり、活性および反応選択性などの高機能化が望まれている。
 固体表面の触媒作用は、触媒表面の原子配列などの幾何学的因子および電子状態などの電子的因子により支配され、これらの因子を緻密にコントロールすることは高機能な固体触媒の開発につながる。本研究では従来用いられてきた触媒調製法に基づく固体触媒の開発ではなく、外部信号による固体表面の触媒作用の制御が可能な固体触媒の開発を目的とし、強誘電体結晶への高周波電力の印加により発生する共鳴振動現象を用いた。本研究では、LiNbO3強誘電体単結晶に発生できる共鳴振動現象がPdおよびAgなどの金属薄膜触媒上のエタノール分解反応の反応選択性に及ぼす効果についての詳細な検討を行い、さらにメタノールの部分酸化反応やメタノール分解による水素生成反応などの種々の化学反応に及ぼす共鳴振動の効果および触媒表面の物性に及ぼす効果を明らかにする研究を行った。
 エタノール分解反応において、共鳴振動がアセトアルデヒド生成にはほとんど影響を与えないのに対し、エチレン生成を顕著に促進し、エチレン選択率を増加させること、およびその効果は共鳴振動の周波数、振動モードおよび分極場に依存することを明らかにした。エタノール分解反応の動力学的解析から、共鳴振動状態ではエチレン生成の活性化エネルギーが顕著に減少すること、および触媒表面のエタノール分子の吸着が弱くなることを示し、共鳴振動がエタノール分解反応の反応選択性を変化させる機構を明らかにした。レーザードップラー法による格子変位量測定および光電子放出スペクトルによる仕事関数の測定により共鳴振動状態における触媒表面の物性を解析し、共鳴振動により発生する垂直方向の格子変位が触媒金属の仕事関数を増加させることを示し、仕事関数変化に基づき表面吸着種の吸着が弱められるモデルを提唱した。
 パルス化した高周波電力の印加法を用い、パルス化共鳴振動において、従来の電力印加方法では不可能であった高電力の印加が可能となり、エチレン生成に対する高い活性化効果が得られることを示した。格子変位量の測定に基づき、高電力のパルス化共鳴振動状態では触媒表面の一部に特異的に大きい格子変位が生じること、および触媒の高活性化がこの特異的に大きな格子変位に基づくことを明らかにし、パルス化共鳴振動が固体触媒の高活性化に極めて有用であることを示した。
 Pt薄膜触媒上のメタノール酸化反応において、共鳴振動が特定の印加電力領域で、部分酸化反応生成物であるHCHOの選択率を顕著に増加させ、逆に完全酸化反応生成物であるCO2への反応選択率を減少させることを見出した。一方、Pd薄膜触媒上では反応選択率に印加電力の顕著な効果が生じないことから、共鳴振動におけるPtとPd間の反応選択率変化の挙動の違いが金属表面上の吸着種の相互作用の違いに基づくことを明らかにした。またPt触媒上のメタノール分解による水素生成反応においては共鳴振動がPt薄膜触媒のCOの被毒による失活を抑制することを示し、メタノール分解反応が促進される機構を明らかにした。
 以上に基づき、強誘電体に発生できる共鳴振動現象が種々の化学反応に対しても応用でき、固体触媒の活性のみならず、反応選択性および失活の抑制に対しても有効であり、人為的に固体触媒作用を制御できる高度な機能を有する固体触媒の開発に極めて有用な手法となることを結論した。

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