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LysRファミリーに属する転写調節因子CbnRのX線結晶構造解析

氏名 村岡 真
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第270号
学位授与の日付 平成15年3月25日
学位論文題目 LysRファミリーに属する転写調節因子CbnRのX線結晶構造解析
論文審査委員
主査 助教授 野中 孝昌
副査 教授 山田 良平
副査 教授 福田 雅夫
副査 助教授 城所 俊一
副査 独立行政法人産業技術総合研究所生物情報解析研究センター主任研究員 千田 俊哉

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目次

1. 緒論
1.1 LysR family について p.2
1.2 LysR family たんぱく質の特徴 p.2
 1.2.1 LysR family たんぱく質の機能 p.2
 1.2.2 LysR family たんぱく質の構造 p.2
 1.2.3 LysR family たんぱく質の結晶構造 p.5
1.3 LysR family たんぱく質の機能するメカニズムについて p.9
 1.3.1 LysR family たんぱく質が認識するDNA配列 p.11
 1.3.3 何量体でDNAと結合するのか? p.11
 1.3.4 RNAポリメラーゼとの相互作用とそれが転写活性化に及ぼす影響 p.11
1.4 CbnRについて p.12
1.5 研究の目的 p.16

2.実験方法
2.1 Native CbnRの精製 p.18
 2.1.1 培養 p.19
 2.1.2 超音波破砕 p.21
 2.1.3 25%飽和硫安沈殿と55%飽和硫安沈殿 p.22
 2.1.4 Heparin-agarose アフィ二ティーククロマトグラフィー p.24
 2.1.5 Ni2+chelate アフィ二ティーククロマトグラフィー p.26
 2.1.6 限外ろ過による濃縮 p.29
2.2 セレノメチオニン置換体CbnR(Se-CbnR)の精製 p.30
 2.2.1 形質転換からグリセロールストックまで p.30
 2.2.2 培養 p.31
2.3 Native CbnRの結晶化 p.34
2.4 Se-CbnRの結晶化 p.36
2.5 Native CbnRの回折強度測定 p.37
2.6 Se-CbnRの回折強度測定 p.38
2.7 電子密度図の解釈とモデルの構築 p.39
2.8 結晶学的精密化 p.39
2.9 各残基のsolvent accessibilityの計算方法 p.39
2.10 CbnRのアミノ酸配列のアライメント p.39

3.結果 p.41
3.1 Native CbnRの精製 p.41
 3.1.1 培養 p.41
 3.1.2 超音波破砕 p.41
 3.1.3 55%飽和硫安沈殿 p.41
 3.1.4 Heparin-agarose アフィ二ティーククロマトグラフィー p.41
 3.1.5 Ni2+chelate アフィ二ティーククロマトグラフィー p.41
 3.1.6 限外ろ過による濃縮 p.42
3.2 Se-CbnRの精製 p.43
 3.2.1 培養 p.43
 3.2.2 超音波破砕 p.43
 3.2.3 55%飽和硫安沈殿 p.43
 3.2.4 Heparin-agarose アフィ二ティーククロマトグラフィー p.43
 3.2.5 Ni2+chelate アフィ二ティーククロマトグラフィー p.43
 3.2.6 濃縮 p.43
3.3 Native CbnRの結晶化 p.47
3.4 Se-CbnRの結晶化 p.47
3.5 Native CbnRの回折強度測定 p.51
3.6 Se-CbnRの回折強度測定 p.54
3.7 多波長異常分散によるfrom I CbnR の初期位相の決定 p.58
3.8 分子置換法によるfrom I,II,III CbnR の構造決定 p.64
3.9 CbnRのモデル構築と結晶学的精密化 p.69
3.10 CbnRの結晶構造 p.77
 3.10.1 CbnRの全体構造 p.77
 3.10.1.1 四量体について p.77
 3.10.1.2 DNA結合ドメインの配置について p.77
 3.10.1.3 四量体中の二量体について p.78

 3.10.2 CbnRのサブユニット構造 p.83
 3.10.3 DNA結合ドメイン p.87
 3.10.4 調節ドメイン p.91
 3.10.5 サブユニットにある各ドメイン間の相互作用 p.97
 3.10.5.1 DNA結合ドメインとlinker helixの間 p.97
 3.10.5.2 linker helixと調節ドメインの間 p.102
 3.10.5.3 調節ドメインIとIIの間 p.106
 3.10.6 サブユニット間の相互作用 p.111
 3.10.6.1 サブユニットA(P)と B(Q)との間 p.113
 3.10.6.2 サブユニットAと Bとの間 p.118
 3.10.6.3 サブユニットA(P)と B(Q)との間 p.123
 3.10.7 四量体中にある各残基の温度因子 p.128
 3.10.8 From I,II,III間のleast squares fittingによる比較 p.130
 3.10.8.1 各ドメインについて p.130
 3.10.8.2 四量体について p.130
3.11 CbnRのアミノ酸配列のアライメント p.137

4.考察
4.1 CbnRのDNA結合ドメインについて p.140
4.2 CbnRとLysR familyたんぱく質CysBとOxyR の調節ドメインの二量体構造との比較 p.142
4.3 四量体CbnRのDNA bending について p.143
4.4 LysR familyに属するOxyR, CysB,OccRのconstitutive mutationと四量体 CbnRの立体構造の関係について p.146
4.5 DNAのrelaxationの機構について p.149
4.6 LysR familyたんぱく質と類縁たんぱく質の比較 p.153

参考文献 p.155
謝辞 p.159

LTTR (LysR-type transcriptional regulator) はDNA結合タンパク質であり、原核生物で数多く同定されている転写調節因子である。一般に、LTTRはプロモーター領域の約60塩基対という長いDNAを認識して、DNAを屈曲させて転写を抑制し、誘導物質が結合して生じる構造変化によりDNAの屈曲を緩和して転写を活性化すると考えられている。現在すでに明らかになっているLTTRの立体構造は、システイン生合成の調節因子であるCysBと酸化ストレス反応の調節因子であるOxyRの調節ドメインだけである。本来CysBとOxyR は四量体であるにもかかわらず、これらの結晶構造にはDNA結合ドメインが含まれていないため、結晶中では二量体を形成していた。このため、CysBとOxyRの立体構造に基づいてLTTRの転写開始調節機構を解明することができなかった。
【目的】
 LTTRの1つであるCbnRの全長構造の立体構造をX線結晶構造解析の手法で決定し、現在まで不明であったDNA結合ドメインを含むLTTRの立体構造を明らかにすることが本研究の目的である。得られたCbnRの結晶構造に基づいて、LTTRの転写開始調節機構を解明できると期待される。
【結果と考察】
 多波長異常分散法によりCbnRの構造解析を行うため、大腸菌を用いてセレノメチオニン置換体のCbnRを大量発現させ、精製を行った。ハンギングドロップ蒸気拡散法を用いて、セレノメチオニン置換体のCbnRの結晶を得た。その結晶の空間群はP21212で、格子定数はa = 71.22 A, b = 100.87 A, c = 87.73 Aであった(form I)。また、空間群P212121、格子定数a = 65.27 A, b = 124.47 A, c = 166.81 A(form II)と空間群P21212、格子定数a = 64.51 A, b = 149.14 A, c = 60.52 A(form III)の結晶も得られた。多波長異常分散法によりform I 結晶からCbnRの位相を決定し、その後得られた2.2 Aの高分解能回折データを用いて結晶学的精密化を行った。最終的にR = 0.22, Rfree = 0.25の結晶構造を得た。そして、form I CbnRの調節ドメインの原子座標を用いて、分子置換法によりform IIとIIIのCbnRの結晶構造を決定した。
 CbnRの結晶構造は、LTTRで初めて明らかにされた全長構造の立体構造である。その立体構造は、N末端側のDNA結合ドメインとC末端側の調節ドメインが29残基のアミノ酸からなる長い -helix(linker helix)でつながれていた。CbnRのDNA結合motifは、winged helix-turn-helix motifに分類されることがわかった。CbnRの調節ドメインの立体構造はCysBとOxyRのものと類似しており、α/β 構造を持つサブドメイン2つで構成されていた。
 結晶中でCbnRはform I, II, IIIいずれにおいても四量体を形成していた。この結果は溶液中でCbnRが四量体を形成しているというゲルろ過クロマトグラフィーの結果と一致した。結晶中の四量体CbnRには2つの異なるコンフォメーションを持つサブユニットが含まれていた。そのサブユニットの1つは、linker helixに対する調節ドメインの傾きが鋭角であり(compact form)、もう1つはその傾きが鈍角であった(extended form)。四量体CbnR中にはcompact formとextended formのサブユニットが2つずつ含まれており、compact formとextended formからなる二量体2つが2回対称で関係づけられていた。
 四量体CbnRの4つのDNA結合ドメインはV字型に配列していた。コンピュータグラフィックスを用いたモデリングの結果、CbnRのV字に配列した4つのDNA結合ドメインは、約60塩基対のB型DNAと相互作用できることがわかった。この60塩基対という長さは、DNase Iフットプリントの結果から得られたCbnRの認識配列の長さとほぼ同じであり、V字型に配列した4つのDNA結合ドメインが、実際にDNAを屈曲すると考えられた。
 3つの CbnRの結晶構造を重ね合わせた結果、DNA結合ドメインとlinker helix間、linker helixと調節ドメイン間、そして調節ドメインのサブドメイン間の領域に、ある程度の自由度があることがわかった。おそらく誘導物質がCbnRに結合すると上記の領域を起点とする四次構造変化が起こり、プロモーター領域のDNAの屈曲が緩和すると予想される。

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