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短時間信号データの高分解能周波数推定に関する研究

氏名 阿部 林治
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第201号
学位授与の日付 平成15年6月18日
学位論文題目 短時間信号データの高分解能周波数推定に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 神林 紀嘉
 副査 教授 島田 正治
 副査 助教授 吉川 敏則
 副査 助教授 張 熙
 副査 助教授 岩崎 政宏

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目次

第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景と目的 p.1
1.2 研究の概要 p.6

第2章 従来の調和性・非調和性信号解析手法とその問題点 p.11
2.1 まえがき p.11
2.2 従来の周波数推定法とその問題点 p.13
 2.2.1 調和性信号の解析 p.13
 2.2.1.1 周波数測定法の原理 p.13
 2.2.1.2 従来法の問題点 p.17
 2.2.2 非調和性信号解析 p.18
 2.2.2.1 周波数測定法の原理 p.18
 2.2.2.2 従来法の問題点 p.22
2.3 まとめ p.24

第3章 サイドローブ除去によるメインローブの強調 p.25
3.1 まえがき p.25
3.2 理論的考察 p.26
 3.2.1 メインローブの抽出 p.26
 3.2.1.1 解析窓の周波数特性 p.26
 3.2.1.2 メインローブの抽出手順(z@) p.32
 3.2.2 入力周波数の推定手順(zA) p.33
3.3 実験的考察 p.35
 3.3.1 解析条件 p.35
 3.3.2 実験z@) p.36
 3.3.2.1 case1 の場合 p.37
 3.3.2.2 case2 の場合 p.39
 3.3.3 実験zA) p.40
3.4 むすび p.43

第4章 不要ピークの除去による基本周波数の高精度推定 p.44
4.1 まえがき p.44
4.2 理論的考察 p.44
 4.2.1 問題の設定 p.44
 4.2.1.1 従来法の周波数推定 p.44
 4.2.1.2 従来手法の問題 p.48
 4.2.1.3 本手法の目的 p.51
 4.2.2 出力特性(図4.3(b))の考察 p.51
 4.2.2.1 メインローブのモデル化 p.51
 4.2.2.2 単一調和性信号に対するモデル化スペクトラム p.52
 4.2.2.3 複数調和性信号のモデル化スペクトラム p.54
4.3 本手法の概要 p.57
4.4 手法の具体化 p.59
 4.4.1 手順zD) ~~~入力周波数の推定手順~~~ p.59
 4.4.2 手順zE) ~~~基本周波数の推定手順~~~ p.59
4.5 実験的考察 p.62
 4.5.1 シュミレーション条件の設定 p.62
 4.5.2 シュミレーション p.62
 4.5.3 実音響信号への適用 p.64
4.6 むすび p.66

第5章 スペクトラムレベルの時間変動に着目した近接周波数の推定 p.67
5.1 まえがき p.67
5.2 非調和性信号の定義 p.68
5.3 短時間信号の周波数推定 p.69
 5.3.1 短時間スペクトラムの時間的変動 p.69
 5.3.2 解析窓の推移量 p.75
 5.3.3 周波数推定手順 p.76
5.4 実験的考察 p.78
 5.4.1 シュミレーション p.78
 5.4.2 実音響信号への適用 p.81
5.5 むすび p.83

第6章 スペクトラムの位相特性に着目した近接周波数の推定 p.84
6.1 まえがき p.84
6.2 入力信号の位相特性 p.85
 6.2.1 単一正弦波信号の位相特性 p.85
 6.2.2 近接する2つの周波数成分で構成される信号の位相特性 p.88
6.3 周波数推定手順 p.91
6.4 シュミレーション p.93
6.5 結果に対する考察 p.96
 6.5.1 A1/A2<0.2における位相特性Ψ1(f) p.96
 6.5.2 Δφ>5π/6における位相特性Ψ2(f) p.97
 6.5.3 Δf≦0.1/Tにおける誤差対策 p.98
 6.5.3 Δf≧0.3/Tにおける誤差対策 p.99
6.6 むすび p.101

第7章 結論 p.103
謝辞
参考文献
付録 p.113
付録1 ~メインローブと周波数分解能~ p.113
付録2A ~高調波周波数の量子化方法~ p.114
付録2B ~非調和性楽音(ピアノ音)に対する本手法の有効性について~ p.114

 パーソナルコンピュータを用いた信号処理技術の進歩はめざましく、長時間に渡り連続的に分布する実音響信号は高精度に解析されるまでに至っている。しかし従来の処理技術では、短時間信号に対する周波数分解能が乏しいため、時々刻々と変化する周波数成分を高精度に推定することが困難となる。
従来から高い周波数分解能を得るため、スペクトラム曲線の調和性に着目した周波数推定法がいくつか報告されている。調和性のあるスペクトラムの周波数軸をr(整数)分の1に縮尺すると、第r高調波成分は基本周波数に移動する。従って、縮尺処理前後のスペクトラム同士を掛け合わせれば(あるいは、足し合わせれば)、基本周波数におけるスペクトラムが他の帯域よりも強調される。このように強調されたスペクトラムを観察することによって、基本周波数など入力信号の周波数成分(入力周波数)が従来から推定されている。しかしながら、複数の音響信号から成る混合信号に従来法を適用すると、入力周波数以外のスペクトラムも強調されてしまい、入力周波数におけるスペクトラムピーク(必要なピーク)とそれ以外のピーク(不要なピーク)との識別が困難となる。そこでこれら両ピークを識別するため、最初に短時間の調和性信号を高分解能で解析することを目的として、不要ピークの除去手法を従来法に追加した入力周波数推定法を3,4章に示す。3章ではサイドローブ帯域、4章ではメインローブ帯域内に分布する不要ピークを除去する。
また実音響環境には、スペクトラム曲線が調和性を示さない信号(非調和性信号)も含まれている。そこで次に、短時間の非調和性信号を高い分解能で解析することを目的として、スペクトラムを形成する関数(Sinc関数: sin x /x)の周波数特性に着目した周波数推定法を示す。5章では同関数の零交差周波数を推定し、この推定された周波数とSinc関数の周波数特性との関係から入力周波数を高い精度で推定する方法を示す。そして6章では、5章の手法よりも少ない演算量で高精度に推定できる手法を示す。
以下に本論文の構成を示す。

第1章:序論
本章では、スペクトラム構造の相違から、短時間の音響信号を調和性信号と非調和性信号とに分類し、これらの信号に対する周波数推定に向けた本研究の背景、目的を示し、本論文の概要を述べている。
音響的性質が時々刻々と変化する入力信号を高精度に解析するためには、短い時間長に着目しなければならない。しかし、短時間の信号を高い周波数分解能で解析することは従来から困難とされている。そこで、本論文では短時間の入力信号を高分解能で解析できる手法の開発を目的としている。

第2章:従来の調和性・非調和性信号解析手法とその問題点
従来の周波数推定法の原理を示し、その問題点を明確にする。
複数の調和性信号から成る混合信号を、スペクトラムの調和性構造に着目した従来法で解析すると、推定に不要なピークがスペクトラムのサイドローブ帯域やメインローブ帯域内に多数発生する。そのため、入力周波数におけるピークのみを抽出することができなくなり、周波数推定が困難となる。
次に非調和性信号を対象とした従来の周波数解析法を示す。この従来法を実音響環境へ適用した場合、信号のデータ数や計算に用いる次数などの解析条件が適切に設定されないと、正確な結果が得られないという欠点があるため、得られた推定結果に対する信頼性は低い。
以降の章では、これらの問題を解決することを目的とした手法を述べている。

第3章:サイドローブ除去によるメインローブの強調
本章では、従来法によって発生するサイドローブ帯域内の不要ピークを除去して、入力周波数を推定する方法を示す。最初に、メインローブ幅やサイドローブレベルが異なる2種類の解析窓関数を用いてスペクトラムをそれぞれ算出し、両スペクトラム間に見られる曲線形状の相違から、メインローブとサイドローブとを区別する。そしてサイドローブを除去し、除去後のスペクトラムに従来法を適用することによって、不要ピークが減少し、メインローブが強調されることを示す。単一の調和性信号で形成される実音響信号に本手法を適用し、その有効性を確認する。

第4章:不要ピークの除去による基本周波数の高精度推定
前章の手法は、サイドローブ帯域内における不要ピークは除去できるが、メインローブ帯域内における不要成分の除去は困難である。
本章では、まずメインローブ帯域内に発生する不要ピークのレベルが、入力周波数上に位置するピークレベルよりも低い点に着目する。そしてこれら両ピークをレベル的に区別できるように、入力信号のスペクトラムをモデル化し、モデル化されたスペクトラムに従来法を適用した周波数推定法を述べる。
ここで適用後に得られた出力スペクトラムにしきい値処理を施すことによって、メインローブ帯域内の不要ピークが除去され、基本周波数が推定できる。基本周波数が異なる複数の調和性信号で形成される実音響信号に本手法を適用して、不要ピーク数の減少や基本周波数の高精度解析の実現を確認する。

第5章:スペクトラムレベルの変動パターンに着目した近接周波数の推定
前章までの推定法は、スペクトラムの調和性構造に着目することによって、調和性信号の周波数成分を高精度に推定できるが、非調和性信号を解析することは困難である。そこで本章では、入力周波数付近の帯域におけるSinc関数の位相依存性に着目して、非調和性信号の周波数を推定する。ここで位相依存性とは、入力信号の位相変化によってSinc関数の合成値(スペクトラムレベル)が変動し、この変動パターンはSinc関数の零交差周波数の前後で対称的となることである。信号の取込み位置(解析窓の位置)を変えることによって入力信号の位相は変化するため、本章では窓の位置を変えながらスペクトラムを算出し、スペクトラムレベルの変動パターンを観察することで、零交差周波数や入力周波数の推定方法を述べる。この推定法が非調和性信号の周波数を高精度に推定できることをシミュレーションで示し、さらに同手法を実音響信号に適用して、その有効性を確認する。

第6章:近接周波数の推定手法に要する演算量の削減
5章の方法は、スペクトラムレベルの変動パターンを解析して、Sinc関数の零交差周波数を推定している。しかしながら変動パターンを得るのに、複数のスペクトラムを算出しなければならず、推定結果を導くまでに多くの演算量を必要とする。そこで本章では、少ない演算量で零交差周波数が推定できる手法を示す。
零交差周波数において、スペクトラムの位相がπだけ変化するため、位相の変化量にしきい値処理を施すことによって、零交差周波数や入力周波数が推定できる。様々な条件を持つ疑似信号に本手法を適用して、前章の推定法と同程度の分解能がより少ない演算量で得られることを確認する。

第7章:結論
本論文で得られた結果を要約するとともに、今後検討すべき課題を述べる。
以下の場合1),2)において、従来から用いられている周波数推定手法によって、本来入力信号に含まれていない周波数スペクトラムピークが多数発生し、周波数推定が困難となることが確認された。
1)複数の調和性信号で形成される混合信号に適用した場合。
2)スペクトラムを算出するための式の次数やデータサンプル数などを変えて、音響信号を解析した場合。
3,4章では1)に対処するため、誤推定対策を施した周波数推定法を述べた。また5,6章では2)に対処するため、Sinc関数の零交差周波数から入力周波数を推定する手法を述べ、高精度解析の実現を確認した。今後は、解析対象信号の拡大や演算時間の短縮が課題である。

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