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Al2O3 - Cr2O3系セラミックスの溶融スラグ中での腐食挙動に関する基礎的研究

氏名 平田 武彦
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第257号
学位授与の日付 平成14年8月31日
学位論文題目 Al2O3 - Cr2O3系セラミックスの溶融スラグ中での腐食挙動に関する基礎的研究
論文審査委員
 主査 助教授 内田 希
 審査委員 教授 山田 明文
 審査委員 教授 松下 和正
 審査委員 教授 小松 高行
 審査委員 教授 植松 敬三

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第1章 緒論 p.1
 1.1 研究の背景 p.1
 1.1.1 はじめに p.1
 1.1.2 廃棄物処理プラント及び発電プラント用耐火材 p.2
 1.2 酸化物系高耐食性材料質 p.4
 1.2.1 製鉄用耐火材質 p.4
 1.2.2 ガラス溶解炉用耐火材質 p.4
 1.2.3 セメントロータリーキルン用耐火材質 p.6
 1.3 溶融酸化物に対する腐食メカニズム p.7
 1.4 これまでの腐食挙動を表現する指標のまとめとその問題点 p.10
 1.5 本研究の目的及び内容 p.10
 1.6 参考文献 p.12

 図・表 p.15~

第2章 Al2O3 - Cr2O3セラミックスの焼結挙動 p.17
 2.1 緒言 p.17
 2.2 実験方法 p.18
 2.2.1 原料粉末 p.18
 2.2.2 混合方法及び成形方法 p.19
 2.2.3 焼結方法 p.19
 2.2.4 焼結挙動評価方法 p.19
 2.3 実験結果及び考察 p.20
 2.4 結論 p.23
 2.5 参考文献 p.23
 図・表 p.26~

第3章 Al2O3 - Cr2O3セラミックスの耐食性の溶融スラグ塩基度及び粘度依存性 p.36
 3.1 緒言 p.36
 3.1.1 本研究の目的 p.36
 3.1.2 酸化物の塩基度 p.37
 3.1.3 溶融スラグの粘度 p.39
 3.2 実験方法 p.39
 3.2.1 セラミックス材料 p.39
 3.2.2 溶融スラグ系 p.40
 3.2.3 B パラメータ p.40
 3.2.4 溶融スラグの粘度測定 p.41
 3.2.5 腐食試験 p.41
 3.3 実験結果 p.42
 3.4 考察 p.44
 3.5 結論 p.45
 3.6 参考文献 p.46
 図・表 p.48~

第4章 Al2O3 - Cr2O3セラミックスの腐食速度予測 p.60
 4.1 緒言 p.60
 4.2 実験方法 p.60
 4.2.1 セラミックス材料及びモデルスラグ系 p.61
 4.2.2 モデルスラグ中での腐食試験、塩基度表示法及び粘度測定方法 p.61
 4.2.3 モデルスラグ中での腐食速度予測 p.61
 4.2.4 実スラグ中での腐食速度予測 p.62
 4.3 実験結果 p.62
 4.4 考察 p.66
 4.5 結論 p.67
 4.6 参考文献 p.68
 図・表 p.70~

第5章 Al2O3 - Cr2O3セラミックスの耐食性向上 p.80
 5.1 緒言 p.80
 5.2 実験方法 p.81
 5.2.1 Cr2O3配合量適正化によるAl2O3 - Cr2O3セラミックスの耐食性向上 p.81
 5.2.2 MgO添加によるAl2O3 - Cr2O3セラミックスの耐食性向上 p.83
 5.3 実験結果 p.84
 5.3.1 Cr2O3配合量適正化によるAl2O3 - Cr2O3セラミックスの耐食性向上 p.85
 5.3.2 MgO添加によるAl2O3 - Cr2O3セラミックスの耐食性向上 p.86
 5.4 考察 p.87
 5.4.1 Cr2O3配合量適正化によるAl2O3 - Cr2O3セラミックスの耐食性向上 p.87
 5.4.2 MgO添加によるAl2O3 - Cr2O3セラミックスの耐食性向上 p.89
 5.5 結論 p.90
 5.6 参考文献 p.91
 図・表 p.93~

第6章 総括 p.109

謝辞

 耐火材はこれまで主として、高炉を始めとする製鉄プラントの発展とともに開発が進められ、製鉄プラントにおいては様々な特性を有する耐火材質が使用されてきている。特に、製銑・製鋼プロセスの殆どが還元雰囲気であるため、非酸化物系耐火材質が使われるようになってきている。
 廃棄物処理プラントや火力発電プラントでも耐火材が用いられているが、使用環境の苛酷化が進み、耐火材の損傷が著しく、その寿命がプラントの寿命をきめるようになって来ている。このため、高耐食性耐火材質の開発が必要となって来ている。これらのプラントでは、雰囲気が酸化性であることや起動・停止回数が多いことから、従来の非酸化物系耐火物の適用が難しく、新規な高耐食性酸化物耐火材質の開発が必要となって来ている。これまでの耐火材の開発においては、融点が高いものや化学的に安定であると言った経験的な理由で材質が選定され、耐火材と接する溶融スラグなどとの反応を基に腐食機構を検討し、材質選定が行われてきたことが殆ど無い状態にある。本研究は、酸化物耐火材質の腐食機構を検討して腐食速度に影響する因子を明確にし、影響因子から腐食速度を推定する式を導出し、この式を基に高耐食性耐火材質の開発を行うこととした。基本となる材質としては、大量に入手でき、安価で比較的耐食性に優れるAl2O3と、難焼結材であるガスタービン用コーティング材として耐食性に優れることが明らかとなっているCr2O3を用いた。
 本研究ではまず、Al2O3 - Cr2O3セラミックスの焼結機構について検討を行い、緻密な焼結体を得ることとした。耐食性には、気孔率が影響するためである。その結果、低酸素分圧雰囲気中で焼結することによりCr2O3の蒸発を抑え、焼結速度を支配するAlイオンの拡散を促進するTiO2を添加することによって、何れのCr2O3配合量においても緻密な焼結体を得ることが出来た。
 本研究では、この焼結体を供試材料として、CaO-B2O3-SiO2系モデルスラグ中で腐食試験を行った。腐食は、酸化物中の陽イオンM2+と陰イオンO2-の結合が切れてスラグ中に溶解することにより進むものと考え、スラグ塩基度と粘度が腐食速度を支配するものと仮定した。腐食試験は、この塩基度と粘度が変化する様、成分配合量を変化させたスラグ中で行った。塩基度表示法としては、実用的なBパラメータを用いた。その結果、腐食速度はスラグと試験片の塩基度差及びスラグ粘度に依存することが立証された。また、モデルスラグ中では、腐食速度デルタDは、塩基度差デルタB及び粘度ηから、
 logデルタD=0.18*logデルタB - 0.55*logη+c
但し、(デルタD:腐食速度(μm/H),デルタB:試験片とスラグの塩基度差(Bパラメータ表示の塩基度)、η:スラグ粘度(Poise)、c:スラグ系、温度、スラグ流速及び保持時間が一定の時に一定となる値で、CaO-SiO2-B2O3系スラグ中、温度:1300℃、保持時間:1時間、スラグ流速:5.2cm・s-1の場合は2.7となる)なる予測式で腐食速度が予想可能であることを明らかとした。また、この式はCaO-Al2O3-SiO2実スラグ系においても成り立つことが明らかとし、実用的な式であることを明らかにした。
 塩基度と粘度が腐食速度に影響することが明らかとなったので、試験片塩基度をスラグ塩基度に近づけること及び試験片表面の粘度を増大させる物質の添加により高い耐食性を示す耐火材質を得ることとした。試験片粘度を増大させる物質としてAl2O3 - Cr2O3の成分の一つであるCr2O3を選択し、この配合量と耐食性の関係について検討を行った。また、スラグ塩基度と試験片塩基度を近づける材質としてMgOを選択して、腐食速度に対するMgO添加量の影響について検討を行った。実験の結果、Cr2O3配合量は81.6mol%が最も高い耐食性を示す結果となった。Cr2O3の塩基度は0.266であり、Al2O3の塩基度0.198よりも大きく、実験に用いたスラグ塩基度の0.46に近い値である。従って、Cr2O3を添加することにより耐食性が向上したものと考えられた。また、Cr2O3を添加することによりスラグの粘度が増大するとされており、粘度増大による拡散速度低減も耐食性向上に寄与しているものと考えられる。MgO添加も同様に、Al2O3 - Cr2O3セラミックスの耐食性向上に有効であることが明らかとなった。また、腐食速度予測式による予測値と実測値は良く一致することが確かめられた。
 本研究では、酸化物系セラミックスの溶融スラグ中での腐食機構について検討し、スラグ塩基度及び粘度をパラメータとする実用的な腐食速度予測式を提案することが出来た。また、この式に基づいてより耐食性の高いセラミックス材料の開発を行い、Cr2O3配合量適正化およびMgO添加が有効であることを初めて見出した。尚、この材料は現在実機適用検討中であり、本研究がセラミックスに関する基礎的な研究であるばかりでなく、実用上も非常に重要な研究であること示している。

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